記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
20代の女性です。会社勤めの中で「女の子はどうせ」という空気があり、やりたい職種や役職を女性だからという理由であきらめたことが何度かありました。上司は男尊女卑が当たり前という感覚で、辞めて起業しようかと考えています。
個人で起業する場合に、女性であるデメリットはあるのでしょうか?

● 回答
会社の中で「女性だから」と評価されないことと、会社の外で価値を出せるかどうかは、まったく別の問題です。上司に気に入られるかという一つのものさしから降りた瞬間に、女性であることは外で不利になりにくくなります。まずはその切り分けから始めましょう。
つらい思いをされてきたのだと思います。やりたい職種を性別で閉ざされる職場で、自分を責める必要はまったくありません。ただ、勢いで辞めてしまう前に、いまの会社にいるあいだにできる確かめ方があります。順番に見ていきます。
会社の評価軸は、世の中の評価軸ではない
男尊女卑の会社で評価されないと、自分には市場価値がないと感じてしまいがちです。けれど、それは一つの会社の中だけで通用する、とても狭いものさしです。
その会社の評価軸は、上司に気に入られるか、長く残業できるか、性別の役割に従順かといった、その組織だけのルールでできています。会社の外のお客様は、あなたが女性かどうかではなく、あなたが何をしてくれるかだけを見ています。同じあなたでも、ものさしが変われば評価は変わります。社内で報われなかった経験は、あなたの価値が低いことの証明では決してありません。
データで見る「社内の壁」と「社外の現実」
あなたが感じている壁は、気のせいでも個人の問題でもありません。数字にもはっきり表れています。
厚生労働省の「令和6年度雇用均等基本調査」によると、課長相当職に占める女性の割合は12.3%、部長相当職では8.7%にとどまっています。前年度からの伸びはわずかで、会社の中で女性が役職に就く機会は、いまも限られているのが実情です。あなたの職場だけが特別に遅れているわけではなく、社内で昇進が見えにくいのは構造的な問題なのです。
ところが、会社の外に目を移すと景色が変わります。日本政策金融公庫が2024年11月に公表した「2024年度新規開業実態調査」では、開業者に占める女性の割合が25.5%となり、過去最高を更新しました。1991年度の調査開始時は12.4%でしたから、2倍以上に増えた計算です。
社内では役職の扉が重いのに、社外では女性が事業を始める流れが現実に強まっている。この二つの数字の差こそ、あなたが外に出口を探すのが自然だという証拠です。
女性であることは、起業の不利になるのか
では本題です。個人で起業する場合、女性であることはデメリットになるのでしょうか。
結論として、お客様と直接やり取りする小さな起業では、女性であることが不利になる場面はほとんどありません。むしろ、こまやかな気配りや、女性ならではの視点が求められる分野は数多くあります。会社の人事評価のように「女性だから役職を与えない」と判断する人は、あなたのお客様の中にはいないのです。
気をつける点があるとすれば、性別そのものではなく、出産や育児などのライフイベントと事業をどう両立させるかという設計です。これは不利というより、あらかじめ手を打てる課題です。会社員のときに受けられた産休・育休のような制度はないぶん、家族との役割分担や、無理なく続けられる仕事量を最初から組み込んでおく。不利になりやすいのは性別ではなく、無計画に大きく広げてしまうことのほうです。
起業前に切り分けておきたい3つの問い
- 評価軸の問い:
いまのつらさは「自分に力がない」からか、「会社のものさしが合わない」からか - 不利の問い:
不安なのは「女性だから」か、それとも「両立の設計が未定」だからか - 時間軸の問い:
いますぐ辞めないと試せないことか、辞めなくても確かめられることか
この3つを分けて考えると、辞めるべきかどうかではなく、いまの会社にいるあいだに何を確かめればいいかが見えてきます。
辞める前に、在職でできる最初の一歩
外でやっていけるかどうかは、想像していても答えは出ません。いちばん確かなのは、勤めているうちに、ごく小さく試してみることです。辞める決断はいったん脇に置き、まずは外で一件成立させることだけを、当面の目標にしてください。
おすすめは、知り合い1人に、あなたの得意なことを有料で1件だけ引き受けてみることです。狙うのは大きな売上ではなく、お金をいただいて成り立つという一度きりの手応えです。それを体で確かめるほうが、女性であることのデメリットを頭で心配し続けるより、はるかに早く答えをくれます。会社の評価軸の外側で、自分の力がお客様に通じる感覚を、辞める前に一度つかんでおくのです。
拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』では、上司の評価を追うのをやめると決めた会社員の話を紹介しています。営業会社で上司の機嫌を取るための残業や休日出勤をやめ、自分の基準で働くと決めたことで、起業準備に使える時間と心の余白が生まれた、という例です。会社のものさしから一歩降りることと、自分の基準で小さく動き出すことは、地続きになっています。
起業18会員の真鍋さんの場合
起業18フォーラム会員の真鍋さん(仮名・20代・事務職)も、よく似た状況にいました。営業成績を上げても「女性は補佐に回るもの」という空気の中で評価されず、何度か役職への希望を伝えても流され、辞めることばかり考えていたそうです。最初は退職してから何かを始めるつもりで、勤めているうちは何も手をつけていませんでした。
ある日、先輩会員と話すうちに、確かめるために辞める必要などないことに、真鍋さんは自分から気づいたといいます。辞めてから探すより、勤めているうちに一件だけ試すほうがずっと安全なのではないか。そう思い至った瞬間に、会社の評価とは切り離して自分の力を外で一度ためしてみよう、と腹を決められたそうです。
真鍋さんが最初にしたのは、得意だった資料作成を、知人の個人事業主に有料で一件だけ引き受けることでした。報酬は数千円ほどでしたが、「会社では誰も褒めてくれなかった作業に、お金を払って『助かった』と言ってもらえた」ことが、何より大きかったそうです。社内の評価では一度も得られなかった手応えを、外で初めて受け取れたのです。
そこから真鍋さんは、勤めを続けたまま、月に一件、二件と小さな仕事を重ねていきました。いまは退職の時期を、不安にかられてではなく、外の仕事の数を見ながら自分で選べるところまで来ています。辞めるかどうかを上司への気持ちで決めるのではなく、外でいただいた仕事の手応えで判断できるようになったことが、いちばんの変化だったと話してくれました。
今日できることは、会社を今すぐ辞める決心をすることではありません。あなたが得意なことを、信頼できる知り合い1人に、有料で一件だけ引き受けられないか、声をかけてみてください。
会社のものさしの外で一度でも「ありがとう」と言われたら、女性だからという問いは、少しずつ後ろに下がっていきます。辞めるかどうかは、そのあとで、外の手応えを見ながら自分で選べばいいのです。
よくある質問

Q.男尊女卑の会社は、すぐ辞めてしまったほうがいいですか?
つらい環境から離れたい気持ちは自然ですが、収入の土台がないまま勢いで辞めるのはおすすめしません。勤めているあいだに、外で小さく一件試して手応えを確かめてから、辞める時期を自分で選ぶほうが安全です。会社のものさしと、外の評価は別だと体で知ってから動きましょう。
Q.女性が一人で起業すると、取引で軽く見られませんか?
お客様と直接やり取りする小さな起業では、性別より「何をしてくれるか」で判断されることがほとんどです。軽く見られる不安があるなら、屋号を決めて事業として名乗り、見積もりや納期を明確に示すだけで印象は大きく変わります。性別ではなく、仕事の進め方で信頼は作れます。
Q.出産や育児を考えると、女性の起業は不利ではないですか?
会社員のような産休・育休の制度がないのは事実ですが、これは不利というより設計の問題です。最初から無理なく続けられる仕事量にし、家族と役割を分けておけば、自分のペースで休みも調整できます。むしろ働く時間を自分で決められる点は、起業の利点になります。

女性にチャンスがないと感じる会社にいると、自分の価値まで小さく見えてしまいます。けれど、ものさしを一つ変えるだけで景色は変わります。辞める前に外で一度試し、自分の手応えで進路を選んでいきましょう。
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