記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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子育てや保育の現場経験を、一対一の仕事として続けたい。そう考えてベビーシッター起業を調べはじめると、最初に出てくるのは「資格は不要」「マッチングサイトに登録すればすぐ働ける」といった入口の話ばかりです。
けれども実際に独立した方の話を聞いていると、続けられるかどうかを決めるのは、別の場所にあります。届出の出し方、単価の決め方、そして「一度依頼してくれた家庭にもう一度呼んでもらう仕組み」をどう作るかです。
この3つの順序を間違えると、登録だけして案件が増えないまま終わってしまいます。今日は、26年の起業支援現場で見てきたベビーシッター起業の現実と、続く形に整える順番をお伝えします。
保育・子育て経験がそのまま事業になる理由

ベビーシッターという言葉に「特別な人がやる仕事」という響きを感じる方は多いのですが、実際は保育士・幼稚園教諭・看護師の経験者が一番自然に入っていける領域です。集団保育で身につけた観察眼や、子の発達段階に応じた声かけは、一対一の現場でそのまま価値になります。
市場は急拡大の途中
ベビーシッター市場は2020年の320億円から、2030年には1,000億円規模に拡大すると見込まれています。株式会社ポピンズの推計では2025年時点で647億円、伸び盛りの市場という位置づけです。
内閣府の令和5年度年次経済財政報告やポピンズのIR資料でも、ベビーシッター利用は全国ではまだ低水準で、都市部・中堅所得層に偏りがあることが示されています。利用者が集まる地域では、口コミと継続利用で仕事が回りはじめる土壌があります。
背景にある共働き世帯の倍増
共働き世帯は1980年の614万世帯から2019年には1,245万世帯へと倍に増えました。保育園に入れない、急な発熱で病児対応が必要、夜の会食で短時間だけ預けたい、こうした「保育園だけでは埋まらない隙間」を埋める仕事として、シッターの位置づけが変わってきています。需要は増え続けているのに、供給側は慢性的に不足している分野です。
- 保育士・幼稚園教諭・看護師の経験はそのまま信頼の根拠
- 市場規模はポピンズ推計で2020年約320億円から2030年1,000億円規模へ
- 「保育園では対応できない時間帯・状況」が需要の中心
- 個人で参入できる数少ない対人ケア市場
「経験はあるけれど、自分にできるのか」という不安は、参入のしやすさを知ると少し軽くなります。次の章で、開業の現実的な手順を見ていきましょう。
起業準備の4ステップ(届出・補償・単価・集客)

ベビーシッター起業は「登録すればすぐ稼げる」と言われがちですが、その前にやるべきことが4つあります。届出→補償→単価設計→集客、この順序を飛ばすと後で必ず戻ることになります。
STEP 1:認可外居宅訪問型保育事業の届出(義務)
平成27年4月の児童福祉法改正で、認可を受けずに乳幼児の居宅で保育を行う場合、都道府県知事等(指定都市・中核市などでは市長)への届出が義務化されました。平成28年4月からは、法人・個人の別、預かる乳幼児の人数にかかわらず、すべての事業者に届出義務が広がっています。無届けで稼働した場合や虚偽届出の場合は、50万円以下の過料が科されます。「開業届を出せば終わり」ではないことを最初に押さえてください。
STEP 2:賠償責任保険への加入
子どもを家庭に訪問して預かる以上、けが・物損・万一の事故への備えは必須です。全国保育サービス協会の団体保険、または個人で加入できるベビーシッター向け賠償責任保険があります。マッチングプラットフォームに登録する場合も「個人で加入する保険」を別途持っておくと、プラットフォーム外の直接契約に切り替えた時に空白期間が出ません。
STEP 3:単価設計(時給ではなく「3本の柱」で考える)
プラットフォームに登録すると初期は時給1,200〜1,800円帯に並びますが、ここで止まると採算は合いません。単価は次の3本柱で組みます。
- 基本時給:
保育経験・資格を反映した最低ライン - 条件加算:
早朝・深夜・きょうだい・病児・送迎ありの上乗せ - 指名・継続割引:
3ヶ月以上の継続契約にだけ適用する固定料金
STEP 4:集客導線(プラットフォーム+直接契約の両輪)
最初の数件はキッズライン・ポピンズシッター等のプラットフォームで実績を作ります。同時並行で、自分のSNSやブログに「対応エリア・得意年齢・指名予約の取り方」を載せ、直接相談につながる窓口を持ちます。プラットフォームごとに手数料のかかり方が異なるため、一本化したままだと手取りや価格設計の自由度が下がります。
経験タイプ別・収益化アイデア6パターン

「ベビーシッター」と一括りにせず、自分の経験のどこを切り出すかで案件タイプは変わります。拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』に「ひとりの客をつかまえれば9割成功」という考え方が出てきますが、シッターでこそ当てはまります。最初の1家庭にどれだけ刺さるかで、その後の口コミ拡散が決まるからです。
- 保育士経験者:
0〜2歳の長時間継続契約(共働き層向け) - 幼稚園教諭経験者:
3〜5歳の知育・お預かり+プレ受験サポート - 看護師経験者:
病児・病後児シッター(自治体の登録制度と併用) - 学童支援員経験者:
放課後〜夕食までの送迎+宿題見守り - 子育て経験のみの方:
認定ベビーシッター資格取得後に短時間枠から - 英語・音楽など特技あり:
英会話シッター・リトミックシッター
無資格スタートでも信頼の根拠は作れる
ベビーシッターは国家資格不要で参入できますが、何の証明もないまま家庭に入るのは利用者側にも不安です。公益社団法人全国保育サービス協会の「認定ベビーシッター」資格は、研修+認定試験で取得でき、プラットフォーム内のプロフィール表示で差がつきます。保育士資格をすでに持っている方も、一対一保育の専門知識を補う形で取得する例が増えています。
起業1年目に多い3つの失敗

起業相談を受けるとき、シッター業で多いつまずきは3つに集約されます。
- プラットフォームの最低時給に張り付いたまま、半年経っても値上げできない
- 単発依頼ばかり受けて、継続契約に切り替える提案をしない
- 移動時間・キャンセル料・交通費の設計が甘く、稼働時間と収入が一致しない
「単発の連続」から「指名と継続」へ
シッターは時間で売る仕事と思われがちですが、長く続けている方は「同じ家庭に月4回入る指名契約を6〜10件持つ」モデルに切り替えています。新規開拓を毎月ゼロから繰り返すと体力がもちません。指名契約は、初回訪問の終わり際に「次回もご希望でしたら、毎週○曜日で枠を確保できます」と一言添えるだけで、半数以上の家庭が前向きに検討してくれます。
移動時間と交通費を「料金」として明示する
往復1時間かけて2時間のシッティングをして、移動分は時給に含まれず実質時給が半減する。これは起業1年目の典型的な落とし穴です。対応エリアを「自宅から30分以内」に絞る、エリア外は出張費を上乗せする、と最初に決めておけば、忙しいのに残らない状態を防げます。対応エリアと料金体系をプロフィールに明記しておくと、合わない案件は最初から問い合わせが来なくなります。
続く形にするための考え方

ベビーシッター起業の本当の壁は、開業手続きでも単価でもなく「自分のペースで続けられる構造を作れるか」にあります。集団保育で疲弊した方ほど、独立後にまた稼働時間で自分を消耗させてしまう傾向があります。

どんな業種・働き方で起業18フォーラムの会員さんが事業を継続しているのかは、上記の成功事業の業種一覧で確認できます。シッター業も、最初の1家庭の信頼を丁寧に積み上げて、月数件の指名契約を持つ形に整えれば、保育の現場感を手放さないまま生活が立ちます。
焦って数を取りに行くより、最初の半年で「もう一度呼んでもらえる関係」を3家庭作ることを目標にしてみてください。そこから先は、自然に増えていきます。
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