起業は難しい? 資金・知識・時間・失敗コストの4つに分けて確かめる

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

「やってみたい気持ちはあるのに、自分が起業なんて難しいに決まっている」。セミナーの控室で、この言葉を何度聞いたか分かりません。最初に答えからお伝えします。起業の「難しさ」は資金・知識・時間・失敗コストの4つに分けると、その多くが数字で確かめられる思い込みに変わります。

新井一セミナー評判

難しいかどうかを、ひとまとめのまま考えても答えは出ません。漠然とした壁は測れないからです。この記事では「難しい」を4つの部品に分解し、2025年から2026年にかけて公表された公的データと、起業18フォーラムの相談の現場で見てきたことを突き合わせて、一つずつ確かめていきます。

ポイント 「難しい」の正体は4つに分けられる

漠然とした難しさを4つの部品に分けて捉え直す

起業18

そもそも、世の中の人は起業の何を「難しい」と感じているのでしょうか。気持ちの問題に見えて、ここには公的な調査があります。

日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度起業と起業意識に関する調査」(2026年2月公表)では、起業に関心がありながらまだ起業していない理由の1位は「自己資金が不足している」で48.4%でした。次いで「失敗したときのリスクが大きい」が29.1%、「ビジネスのアイデアが思いつかない」が29.0%と続きます。

中小企業庁の「2025年版中小企業白書」を見ても、雇用保険のデータからみた2023年度の開業率は3.9%で横ばいのままです。関心を持つ人は多いのに、始める手前で立ち止まる人が大半という構図は、この10年で変わっていません。

相談の現場で「難しそうで」と話す方の中身を聞いていくと、お金の話と、知識の話と、時間の話と、失敗したときの話が、ひと塊になって出てきます。混ざったままの不安は、実際より大きく見えるものです。

だからこそ、最初の仕事は分解です。本記事では次の4つに分けます。

「起業は難しい」を構成する4つの思い込み

  • 資金:
    開業にはまとまった大金が要るはずだ
  • 知識:
    経営の知識や特別な経験がないと無理だ
  • 時間:
    準備に専念できる時間がないと始められない
  • 失敗コスト:
    失敗したら取り返しがつかない

それでは順番に、最新の数字と突き合わせていきます。

ポイント 資金の壁|開業費用は思っているより小さくなっている

開業費用の中央値と少額化の流れを数字で見る

考えるビジネスマン

4つのうち最も多くの人を止めていたのが、48.4%の「自己資金が不足している」でした。では実際のところ、開業には今いくらかかっているのでしょうか。

日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月公表)では、開業費用は平均975万円、中央値600万円で、「250万円未満」が20.1%、「250万〜500万円未満」が21.7%でした。合わせて4割以上が、500万円未満で開業している計算になります。

この調査が始まった1991年度の中央値は970万円でしたから、開業の入口はこの30年あまりで約4割下がりました。しかも対象は、公庫の融資を受けて開業した企業です。店舗や設備を構える開業が多く含まれ、融資を使わずに小さく始めた人は、そもそもこの数字に入ってきません。

「開業には1千万円」という昔の相場観のままあきらめるのは、値札を見ずに店を出るようなものです。自分のやりたい形ならいくらかかるのか。それを調べた時点で、資金の壁は漠然とした難しさから、具体的な準備項目に変わります。

ポイント 知識と経験の壁|開業した人の経歴は意外なほど普通

開業者の経歴データが示す意外な事実を知る

起業18

「経営の勉強をしたことがないから難しい」という声も、相談では必ず出てきます。それでは、実際に開業した人はどんな経歴の持ち主なのでしょうか。

同じ「2025年度新規開業実態調査」によると、開業者の97.6%には勤務経験があり、その年数は平均21.1年にのぼります。開業した事業に関連する仕事を経験してきた人も81.1%を占めました。

2016年にこの記事を最初に書いたとき、私は「周りで成功している起業家はサラリーマン経験者ばかり」という観察を記しました。10年近く経って、その観察は公的データで裏付けられた形です。経営の英才教育を受けた人ではなく、長く勤めた末に始めた人が大多数なのです。

知識の壁の正体は、量ではなく順番です。簿記も法人設立も集客理論も、開業前に全部そろえる必要はありません。最初のお客様一人に商品を届けるために必要な知識から覚えれば足ります。長く働いてきた人には、その土台になる業務経験と仕事の常識がすでにあります。

ポイント 時間の壁|始め方の単位が小さくなった

ひとりで小さく始める形が当たり前になった今

ナンバーワン

「準備に専念できる時間がないから難しい」という思い込みは、起業の単位を大きく見積もりすぎているサインです。

同調査では、開業時の従業者数は「1人」、つまり自分ひとりだけでの開業が42.6%と最多でした。人を雇い、事務所を構え、看板を掲げる形は、今の開業の標準ではありません。

2016年と比べて大きく変わったのは、小さく試す場所がそろったことです。メルカリで不要品を売って販売の感覚をつかむ。ココナラで得意な作業を一件だけ請け負ってみる。BASEで自分の店のページを開く。ストアカで講座を一度開いてみる。どれも夜の30分から動かせます。

まとまった時間ができてから始めるのではなく、いまの仕事と収入を保ったまま、小さな単位で試しながら形にしていく。順番をこう入れ替えるだけで、時間の壁はずいぶん低くなります。

ポイント 失敗コストの壁|怖さは「見積もっていない」から大きい

撤退コストを先に見積もると怖さが縮む理由

考えるミドルの男性

最後に残るのが、29.1%の「失敗したときのリスクが大きい」です。4つの中で、これだけは単なる思い込みと言い切れません。失敗の可能性は確かにあるからです。ただし、怖さの大きさは測り方で変わります。

拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』では、始める前に予算・期間・出口の3つを仮決めしておく方法を紹介しています。いくらまで使うか、いつまで続けるか、どうなったらやめるか。出口を先に決めるのは弱気ではなく、安心して試行錯誤するための装備だと考えてください。

起業18フォーラムの会員さんに、計測機器メーカーで品質管理をしている飯田さん(30代)がいます。趣味のロードバイク整備を仕事にしてみたいと思いながら、「自分には難しい」と何年も動けずにいた方でした。

起業18の個別相談を申し込んだ週末の夜、飯田さんは自分で電卓を出し、もしやめるなら何をいくら失うのかを見積もってみました。出張メンテナンスに必要な工具とスタンドで約4万3千円、活動用の保険料とチラシの印刷で約1万5千円。1年続けて一人もお客様が来なくても、失うのは合計5万8千円だと分かった瞬間、怖さが半分になったそうです。

翌月から、週末だけの出張メンテナンスと初心者向けの整備レッスンを始めました。最初の3ヶ月は予約が月2件という時期も続きましたが、作業内容を写真付きの記録にして渡す進め方が口コミで広がり、半年が過ぎたころには予約表の大半が二度目以降のお客様で埋まるようになりました。

いま飯田さんが難しいと話すのは、繁忙期の予約の断り方や価格の見直しといった、始めた人だけがぶつかる課題です。難しさが消えたわけではありません。漠然とした恐怖が、調べ方も相談先もある具体的な課題に入れ替わったのです。

ポイント よくある質問

起業の難しさにまつわる細かい疑問に答える

起業前質問集

Q.起業に成功する人と失敗する人の差は、どこにありますか?

支援の現場で見てきた限り、差は才能ではなく試し方の大きさに出ます。うまくいかなかった例には、自分の商品に惚れ込みすぎてお客様を見ていない、最初から大きな投資で一発勝負する、という共通点がありました。小さく出して、反応を見て直していく人は、失敗しても致命傷になりません。

Q.自己資金がほとんどなくても始められますか?

形態によります。教える、作業を請け負う、経験を文章や講座の形にするといったやり方なら、初期費用は数千円から数万円に収まります。先ほどの開業費用の統計は、店舗型の開業も含んだ数字です。手元資金が少ないうちは借り入れありきの計画にせず、お金のかからない形から試すのが安全です。

Q.「やめておけ」と周りに反対されたら、どう受け止めればいいですか?

反対の多くは、あなたの計画ではなく、その人の頭の中にある「起業=危険な賭け」という昔のイメージに向けられています。いくらまでで、いつまで試すのかという数字を添えて話すと、漠然とした反対は具体的な相談に変わっていきます。不安が残る間は、生活の基盤を崩さない範囲で小さく続ければ大丈夫です。

ポイント 「難しい」は消えるのではなく、種類が変わる

難しさの種類が変わることを知って一歩を出す

point

起業が簡単だと言うつもりはありません。始めれば、値付け、集客、続け方と、新しい課題は次々にやってきます。ただ、始める前の漠然とした難しさと、始めた後の具体的な難しさは、まったくの別物です。後者には教科書も相談相手も存在します。

4つの壁のうち、資金・知識・時間の3つは、最新の数字を見れば等身大に戻ります。残る失敗コストも、見積もった人から順に小さくなっていきます。

次の一歩はシンプルです。もし始めて1年で撤退するとしたら最大いくら失うのか、いま分かる費用だけでざっくり見積もってみてください。金額の正確さより、桁が見えることが大切です。桁が見えた瞬間、「難しい」は比べられる数字になります。

見積もった金額を「いくらまでなら授業料と割り切れるか」という撤退ラインに育てていく手順は、こちらの記事で詳しく解説しています。

起業の失敗が怖い人へ|辞める前に決めておく3つの撤退ライン
起業に興味はあるけれど、失敗したら家族の生活まで巻き込んでしまう。そう考えると、どうしても最初の一歩が踏み出せ

最後に一つだけ。もし失うものが飯田さんと同じくらいの金額で済むとしたら、あなたは何を試してみたいですか? その問いに浮かんだ答えこそ、4つの壁の向こうであなたを待っている仕事の種です。


さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

起業アイデア診断
【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!

【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!

ポイント この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます!