記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
会社で18年ほど、人事と採用の仕事をしてきました。面接で人を見て、採用の設計をして、入社した人の定着まで見てきた経験があります。ただ、これは自分の会社の中でやってきたことなので、外に出て役に立つのか自信がありません。
採用や面接の目利きのような経験は、起業の商品として本当に通用するのでしょうか?

● 回答
「人事や採用の経験は、その会社の中でしか通じない」。多くの方がそう思い込んでいますが、それは半分だけ正しくて、半分は誤解です。採用に困っている中小企業は数多くあり、面接での見抜き方や採用の設計、入社後の定着支援は、外から手伝う仕事として十分に商品になります。まずは、あなたが感じている「社内でしか通用しない」という前提から解いていきます。
採用の経験を「使えない」と感じてしまう、よくある思い込みを3つ挙げます。
- 大企業の人事は中小企業には通用しない:
規模が違うだけで、人を見る目や採用の段取りそのものは会社を選びません。 - 資格がないと採用の仕事は売れない:
現場で人を採り、育て、定着させてきた実務のほうが、採用に悩む経営者には響きます。 - 目利きは感覚だから言葉にできない:
どこを見て合否を決めてきたかを分解すれば、そのまま相手に渡せる判断基準になります。
なぜ社外でも通用するのか。背景には、採用そのものに苦しむ中小企業の多さがあります。中小企業庁の2026年版中小企業白書では、生産年齢人口の減少によって労働供給の制約が強まり、人手不足がさらに深刻になる可能性があると整理されています。人を採りたいのに採れない、採ってもすぐ辞めてしまう。この悩みを社内に相談できる人事担当がいない会社ほど、外からの手を必要としています。
経験を「何屋か」で言い直す
ここで大事になるのが、経験の中身そのものではなく呼び名です。拙著『起業神100則』では、自分の強みを見つける入口として「あなたは『何に詳しい人』と呼ばれているか」という問いを紹介しています。人事・採用の経験を持つ方は、この問いに「人を見て、合う合わないを見極めてきた人」と答えられます。社内での役割を、社外の誰の何を助ける仕事なのかへ翻訳し直すことが、商品づくりの出発点になります。
起業18フォーラムの会員に、沢口さん(仮名・50代後半・女性)という方がいます。長く人事部で採用と面接を担当してきましたが、独立を考えたとき「大きな会社でやってきたことなど、外では役に立たない」と思い込み、動けずにいました。
転機は、起業18フォーラムの勉強会で、他業種の経営者たちが採用で毎回思うような人が採れない、面接で見抜けず早期離職が続くと、口々に困っている現実を知ったことです。自分が当たり前にやってきた見極めが、周りには当たり前ではなかった。他人を鏡にして、初めて自分の経験の価値に気づいたと言います。
そこから沢口さんは、範囲を「採用支援ぜんぶ」から「中小企業の中途採用で、面接に同席して評価する」へと絞り込みました。名前で頼まれ始めたのは、その頃からでした。知り合いの経営者から「うちの面接に一度入ってほしい」と声がかかり、その後「沢口さんに見てもらいたい」と名指しで頼まれるようになります。
今では、金額の大小より、経営者から名前で相談が来ること自体が、自分の目利きが外でも通用した証しだと感じています。
採用経験を外から必要とされる形にする
「採用支援」とひとくくりにすると、頼む側に届きません。人事・採用の経験は、次の3つのどれを売るかを決めると、相手がイメージしやすくなります。
経験を商品に変えるときの、代表的な3つの切り口です。
- 採用設計を手伝う:
どんな人を、どの順番で、どう選ぶかという採用の段取りを、社外から組み立て直します。 - 面接に同席して評価する:
経営者ひとりでは見抜きにくい応募者の適性を、第三者の目で言葉にして渡します。 - 入社後の定着を支える:
採って終わりにせず、早期離職を防ぐための受け入れや面談の仕組みを整えます。
この3つのうち、まず1つに絞ると相手に伝わりやすくなります。今日できることは、これまでの採用や面接の経験を「自分は”何屋”なのか」で一度だけ言い直してみることです。
言い直してみると、「採用の目利き屋」なのか「定着の立て直し屋」なのか、自分が一番力を出せる場所が見えてきます。ここがはっきりすると、誰に声をかければいいのかも決まってきます。
採用に悩む中小企業にとって、人を見てきた経験は、資格や肩書きよりも実際に役立つ武器になります。あなたが社内で当たり前にやってきたことほど、外では希少に映ります。
とはいえ、いきなり大きな契約を狙う必要はありません。まずは身近な、採用で困っている経営者を思い浮かべるところからで十分です。
あわせて、これまで面接や採用で誰かに頼られた場面を1つ思い出し、その人が本当に困っていたことは何だったかを確かめてみてください。そこに、あなたの経験が誰に必要とされるかの手がかりが残っています。

人を見抜いてきた時間は、会社の外でも消えません。その目を必要としている経営者は、思っているより身近にいるはずです。
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