記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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金曜の夜、高崎駅の新幹線ホームに立つと、上越新幹線と北陸新幹線が別々の方向へ走り出していきます。改札の外に出れば、関越道と北関東道の案内標識が街のあちこちに見えます。
この街で「自分の仕事を持ちたい」と考えたとき、多くの方が最初に浮かべるのは東京との比較ではないでしょうか。けれど高崎の地図をよく見ると、勝負すべき方角は南だけではないと分かってきます。
新幹線と高速道路が交わる高崎の立地と商圏

高崎駅には上越新幹線と北陸新幹線が乗り入れ、この駅を境に新潟方面と長野・北陸方面へ線路が分かれていきます。道路も同じで、関越道と北関東道が市内の高崎ジャンクションで交わり、少し南へ下れば上信越道にも接続できます。
高崎市の人口は2026年6月末時点で363,211人です(高崎市住民基本台帳)。古くから中山道の宿場町として栄えてきた、群馬県で最も人口の多い中核市になります。
車で1時間圏に広がる北関東の商圏
関越道を使えば埼玉県北部まで、北関東道なら伊勢崎や太田を経て栃木方面まで、日帰りの往復が現実的な距離です。前橋へは在来線でも車でも通勤圏内に収まります。
高崎で起業する最大の強みは、北関東から信越までの商圏を、生活圏の延長のまま自分の足で回れることです。東京へ売り込みに行く発想だけで考えると、この立地の価値を半分しか使えません。
卸のまちとして育ってきた歴史
高崎には問屋町という地名が残るほど、卸売業が集まって栄えてきた歴史があります。高崎だるまのような全国区の地場産品や、パスタの街として知られる食文化など、外へ発信できる地域コンテンツも豊富です。商いの下地がある土地柄は、これから始める人にとって追い風になります。
高崎市の創業支援と特定創業支援等事業

高崎市には、これから事業を始める人向けの支援がひと通りそろっています。ただし、頼る順番を間違えると遠回りになります。支援制度は、何を売るかの方向性が固まったあとに使う道具だと覚えておいてください。
- 高崎市産業創造館:
創業と経営の無料相談窓口や入居型の創業準備室を備えた市の支援拠点 - 特定創業支援等事業:
継続的な支援を受けた人に市が証明書を発行し税負担などを軽くする国の制度 - 高崎商工会議所:
個別相談やセミナーの開催と創業計画書の作成を手伝ってくれる相談先
特定創業支援等事業について補足します。高崎市の場合、産業創造館の創業準備室に入居し、インキュベーションマネジャーの支援を3ヶ月以上受け、経営・財務・人材育成・販路開拓の4分野を習得したと認められると、市が証明書を発行します(2026年7月時点・高崎市公式情報)。
この証明書があると、会社設立時の登録免許税が税率0.7%から0.35%に軽減されます。創業関連保証の特例や、日本政策金融公庫の利率引き下げの対象にもなります。
魅力的な制度ですが、使いどきがあります。何を売るかが決まっていない段階で窓口に行っても、相談は具体的に進みません。
支援の内容や条件は年度ごとに見直されます。実際に使う段階になったら、高崎市と産業創造館の公式ページで最新情報を確かめてください。
高崎で始めやすい事業の切り口3つ

切り口の話に入る前に、商圏の土台を数字で確かめておきましょう。総務省統計局の「令和3年経済センサス活動調査」によると、高崎市の事業所数は16,497にのぼります(2021年6月時点)。法人や店舗を相手にする商売なら、売り込み先の候補が足元に十分あるということです。
そのうえで、高崎の立地を活かしやすい切り口を挙げます。
- 本業の知見を横展開する型:
卸・製造・物流など地元に集積する業種の経験を近隣の中小企業支援に転用する形 - 広域訪問型:
高崎を起点に前橋・伊勢崎・太田など車で回れる範囲へ定期訪問のサービスを届ける形 - 地域コンテンツ発信型:
だるまや食文化など高崎の素材を題材にした情報発信や体験サービスを外へ売る形
共通するのは、事務所や店舗を最初から構えない点です。自宅と車と本業で培った知識があれば、元手をかけずに試せる形ばかりになります。
訪問型の商売にとって、移動時間はそのまま原価です。だからこそ、高速道路の結節点に住んでいること自体が、高崎の人には見えにくい競争力になっています。
取引先の一言から始まった会員の実例

起業18フォーラムの会員に、楠原さん(仮名・40代)という方がいます。高崎市内の卸売会社で長く法人営業を担当してきた方です。
数年前、将来に備えて本業と関係のないネット物販を自己流で始めたものの、半年で在庫だけが残りました。誰に何を売るのかを決めないまま、扱いやすい商材を並べていたからです。
地元の取引先から声がかかったのは、物販から手を引いて1年ほど経った頃でした。「棚の並べ替えと売り場の販促を、個人的に相談できないか」という内容だったそうです。
なぜ自分に頼むのかが分からず、楠原さんは自分の取引実績を棚卸ししてみました。すると、担当した売り場の数字を立て直した経験が10年分たまっていると気づいたのです。
手がかりになったのは、拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』に出てくる「ドリルを売るな、穴を売れ」という原則でした。お客様が買っているのは道具としてのドリルではなく、穴という結果のほうだ、という意味です。
楠原さんは起業18フォーラムの勉強会でこの考え方に触れ、取引先が求めていたのは商品知識ではなく売り場の結果だったと整理できました。声をかけてくれた取引先との2度目の打ち合わせで、頼まれる範囲を「小売店の売り場改善サポート」に絞り込みました。
週末に前橋や伊勢崎の取引先へ車で通い、最初の半年は月1件の頼まれ仕事だけの月もありました。それでも12ヶ月目には、定期で訪問する契約先が月5件まで積み上がりました。最初に声をかけてくれた取引先からの紹介が、件数を押し上げたと本人は振り返ります。独立の時期は、定期契約が月10件で安定してからと線を引いています。
よくある質問

Q.東京ではなく高崎で始めるのは不利ではありませんか?
何を売るかによります。訪問や対面のサービスなら、競合の密度と移動コストの点でむしろ高崎に分があります。オンラインで完結する事業なら、拠点による差はほとんどありません。生活費と事務所コストを低く保てるぶん、準備期間を長く取れるのも地方拠点の利点です。
Q.特定創業支援等事業はいつ問い合わせればいいですか?
方向性が固まってからで十分です。高崎市の場合は産業創造館で3ヶ月以上の継続支援を受けることが証明の条件なので、時間のかかる制度でもあります。会社設立の予定が視野に入った段階で問い合わせると、無駄がありません。
Q.会社を辞めてから準備に集中した方が早くありませんか?
お勧めしません。収入が途切れると、売れるまで待つ余裕が消えてしまいます。楠原さんのように本業の取引や経験がそのまま種になるケースでは、辞めた瞬間にその種へ触れる機会も減ります。手応えを確かめてから独立を判断しても遅くはありません。
Q.平日は本業で手一杯でも準備は進められますか?
進められます。取引先や職場で受けた頼まれごと、現場で聞いた困りごとをメモしておくだけでも、事業の種は集まります。棚卸しと商品づくりは週末の時間で足りますし、勉強会はオンラインでも参加できます。
基礎と方向性を固めてから窓口を使う

高崎で始めるときの順番を整理します。最初にやることは、窓口巡りではありません。起業18フォーラムの勉強会やセミナーで基礎と全体像を学び、「誰の、どんな困りごとに、何を届けるか」を自分の言葉にするのが先です。
方向性が言葉になったら、高崎市産業創造館の無料相談に「この内容で創業の相談をしたい」と一度問い合わせてみてください。そこから先は、特定創業支援等事業も融資も、あなたの計画を後押しする道具として動き始めます。
同じ窓口でも、基礎を学んでから使う人と丸腰で行く人とでは、得られる答えの具体性がまるで違います。準備の手順に迷ったら、次の記事から確かめてみてください。

通いなれた道の先に「これは自分にしか見えていない需要かもしれない」と思える売り場や取引先が一つでもあるなら、高崎はそれを事業に変えやすい街です。
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