保険の営業経験は独立にどう活きる? 売る力を相談業へ翻訳する道

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

毎月リセットされる歩合のグラフを見ながら、ふと「会社の看板が外れたら、自分は何も売れないのではないか」と考えたことはありませんか。商品があって、会社の信用があって、はじめて契約が取れている。そんな感覚があると、独立という言葉は一気に遠くなります。

けれど、本当にそうでしょうか。私はこれまで多くの営業職の方の独立を見てきましたが、保険の対面営業で身についた力は、商品を手放しても残ります。残った力をどう翻訳すれば独立につながるのか。今日はそこを一緒に見ていきます。

ポイント 保険営業の「売る力」は、何が独立に持ち越せるのか

看板でなく対面力こそが独立に持ち越せる資産

保険営業

まず、不安の正体を切り分けます。あなたが「売れている」のは、会社のおかげなのか、自分のおかげなのか。ここを分けないまま独立を考えると、足がすくんで当然です。

商品そのもの、つまり「どこの会社のどの保険か」は、独立すれば一度ゼロになります。これは事実です。けれど、保険の対面営業で日々やっていることを思い出してください。初対面の警戒をほどき、相手が口にしない不安を引き出し、家族構成やお金の事情まで踏み込んで聞き、最後に「あなたに任せたい」と思ってもらう。この一連の力は、商品が変わっても、会社が変わっても、まるごと持ち越せる資産です。

数字で見ても、対面で売る力の価値は小さくありません。生命保険文化センターの「2024年度 生命保険に関する全国実態調査」では、直近に加入した契約の加入経路で最も多いのが「生保の営業職員(訪問)」で56.7%を占めています。

ネットや窓口が広がった今も、人が会いに来て対面で説明し納得して入る、という経路がいちばん太いままなのです。だからこそ、その対面力を持っているあなたには、外に出ても十分な土台があります。

ポイント 「商品を売る」から「相談に乗る」へ、稼ぎ方の形を変える

手数料商売から相談料を受け取る形への切り替え

保険営業

独立を考えるとき、いちばん大きな転換は「何で稼ぐか」の形です。保険の営業は、契約が成立してはじめてお金になる手数料商売です。だから契約が取れない月は、どれだけ動いてもゼロになる。あの不安定さの根っこは、ここにあります。

独立で目指したいのは、稼ぎ方の形そのものを変えることです。商品を売って手数料を受け取るのではなく、相談に乗って相談料を受け取る。家計の見直しを1件いくらで設計し、保険はそのなかの選択肢の一つとして扱う。商材を売るのではなく、判断を助ける時間そのものに値段をつけるのです。

手数料型と相談料型は、ここが違う

同じ「お客様と向き合う仕事」でも、お金の発生の仕方がまるで違います。ここを先に理解しておくと、独立後の動き方が変わります。

稼ぎ方の形の違い

  • 手数料型(会社員時代):
    契約が成立してはじめて報酬。契約ゼロの月は収入もゼロ
  • 相談料型(独立の選択肢):
    相談に乗った時間や設計の成果に値段。契約有無に左右されにくい
  • 混合型(現実的な着地):
    相談料を土台に、必要な人にだけ商品を案内し手数料も得る

多くの方が最初から混合型を選びます。相談料という安定した土台を作りながら、保険の知識も活かす。これなら、毎月ゼロに戻る恐怖から少しずつ抜け出せます。

ただし、保険商品を案内して契約につなぎ、手数料を受け取る場合は、保険募集人としての登録や、所属する保険会社・代理店との契約など、保険募集に必要な前提を整える必要があります。相談料型と混合型は、ここを分けて考えてください。

ポイント 独立の設計図を、9つの問いで埋めてみる

売る商材は1項目で残り8つの設計こそが本体

保険営業

「何を売るか」ばかり考えると、結局また商品探しに戻ってしまいます。そこで役に立つのが、起業の設計図を9つの問いで埋める方法です。拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』では、この9項目を紹介しています。

9つとは、困っている人は誰か/何を提供するか/どうやって届けるか/いつ/いくらで/なぜあなたが選ばれるか/利用前はどんな状態か/利用後どう変わるか/その根拠は何か、です。注目してほしいのは、「何を(売る商材)」は9つのうちのたった1項目だということ。残りの8つ、つまり誰に・どんな悩みに・どの順で届けるかの設計こそが、独立の本体なのです。

保険営業の方がこの9項目を埋めると、自分の強みが具体的に見えてきます。たとえば「困っている人」を、子どもが生まれたばかりで家計の優先順位がわからない30代夫婦、と絞る。「ビフォー」は、保険も貯蓄もなんとなく不安なまま放置している状態。「アフター」は、毎月いくらをどこに回せばいいかがはっきり見えて眠れるようになる状態。こうして埋めていくと、売る商品ではなく、解消する悩みが商品の中心に座ります。

埋めるときの順番にコツがある

9項目は上から順に埋める必要はありません。先に「困っている人」と「ビフォー・アフター」を決めてしまうと、残りは自然と埋まります。誰のどんな状態をどう変えるか。そこが決まれば、いくらで・どうやっては後からついてきます。

先に決めたい3項目

  • 困っている人(年代・家族構成・お金の悩みまで具体的に)
  • ビフォー(その人が今かかえているモヤモヤの中身)
  • アフター(相談を受けた後に手に入る安心の状態)

この3つが言葉になった時点で、あなたは「保険を売る人」から「お金の不安に伴走する人」へ立ち位置が変わっています。

ポイント 歩合に疲れた宮原さんが、単価の作り方を変えるまで

看板を絞り込み単価の作り方を変えた宮原さんの一年

保険営業

起業18フォーラム会員の宮原さん(仮名・40代)は、国内の生命保険会社で15年、対面営業を続けてきた方でした。成績は決して悪くなかったのですが、毎月ゼロから積み上げ直す歩合給に少しずつ疲れていました。独立を考えても、「商品も会社の信用もない自分に、何が売れるのか」という不安で止まっていたそうです。

最初の宮原さんは、独立してからも会社員時代と同じやり方を続けていました。とにかく知り合いに声をかけ、保険の見直しを切り口に契約を取ろうとする。けれど看板が外れた状態では話を聞いてもらいにくく、月に1件か2件で足踏みしていました。手数料を追いかけるほど、あの不安定さがそのまま独立後にもついてきたのです。

転機は、勉強会で自分の仕事を9項目に書き出してみたときでした。「何を売るか」の欄ばかり埋めようとしていた自分に気づき、先に「困っている人」を考え直した。すると、これまでいちばん感謝されたのは契約の瞬間ではなく、家計全体を見渡して「これで安心しました」と言われた場面だったと思い出したのです。売っていたのは保険ではなく、お金の不安を解きほぐす時間だったのだと、その瞬間にはっきり言葉になりました。

そこから宮原さんは、看板を「子育て世帯の家計まるごと相談」に絞り直しました。初回の家計相談を1件いくらの相談料として設計し、保険はそのなかで必要な人にだけ案内する形へ。契約が取れたかどうかで報酬が決まる手数料商売から、相談という時間そのものに値段をつける形へ、単価の作り方を変えたのです。

1年ほどたった今、宮原さんの月の相談件数は8件ほどで安定しています。契約が取れた月だけ報酬が立つ歩合と違い、家計相談を1件いくらで受ける形にしたことで、契約の有無に関係なく相談料がそのまま積み上がるようになりました。一度相談した人が「家計のことならあの人」と知り合いを紹介してくれるようになり、契約を追いかけなくても相談が続くようになったそうです。

ポイント 独立を考える今、最初に確かめておきたいこと

業界の人数より自分一人の設計を決める順番

保険営業

独立を考えるとき、業界全体の数字も一度見ておくと冷静になれます。生命保険協会の「生命保険の動向(2025年版)」によると、2024年度末の登録営業職員数は24万1,507名で、前年度比100.3%と2年ぶりに増加しています。対面で保険を届ける仕事は、減り続けているわけではなく、いまも厚い層が存在しています。

収入の面も、平均だけを見れば決して低くありません。厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」をもとにした集計では、保険外交員の平均年収は580万円前後とされています。問題は金額の高さではなく、その中身が毎月ゼロから積み上げ直す歩合だという点にあります。だからこそ、稼ぐ力そのものより「稼ぎ方の形」を変えることが、独立の本当のテーマになります。

大事なのは、この大きな数字のなかで自分がどう動くかです。同じ営業職でも、会社の看板で売る人のままでいるのか、自分の名前で相談に乗る人になるのか。違いは資格や経歴ではなく、設計図を自分の言葉で埋めたかどうかにあります。人数の多さに飲まれるのではなく、自分だけの「困っている人」を一人決めることから始めてください。

そのうえで、独立後の景色を具体的に知る一番の近道は、すでに外に出た先輩の現場を見ることです。求人票や説明会では見えない、平日の動き方やお金の受け取り方、断られたときのふるまいまで、隣で一日見ると一気に解像度が上がります。

もし身近に、保険や金融の対面営業から独立した先輩がいるなら、思い切って「一日同行させてください」と声をかけてみてください。同業だった先輩を一人思い浮かべ、今週中に同行のお願いを伝えてみてください。一日見学するだけで、「自分にもできそうだ」と「ここは準備しておこう」が同時に見えてきます。

営業職一筋の起業、スキル不足で不安なときに何から手を付ければいい?
● 質問 勤めている会社で早期退職募集が出ました。50代前半で手を上げる方向で検討しています。ただ営業職20年

看板の力で売ってきた時間は、無駄ではありません。その時間に磨いた対面力を、商品から相談へ翻訳し直す。今日できることは、独立した先輩に一日同行を申し込んでみるだけで十分です。


さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

起業アイデア診断
【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!

【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!

ポイント この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます!