記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
夫婦どちらもフルタイムで働いていて、家事も育児も分担しながらなんとか毎日を回しています。起業準備をしたい気持ちはあるのですが、私だけ自分の時間をもらうのは配偶者に申し訳なくて言い出せません。
こうした家庭でも、起業準備の時間は作れるものでしょうか? そもそも、お互い忙しいなかでどう時間を分け合えばいいのか見当もつきません。

● 回答
子どもを寝かしつけたあとの、静かな台所。その三十分を「自分の起業準備に使っていいのか」と迷う気持ちは、よく分かります。相手も同じだけ疲れているのが見えているからこそ、自分のためだけに時間をもらうのが申し訳なく感じるのですよね。
結論からお話しすると、共働きでも起業準備の時間は作れます。ただし、考える順番が大事です。時間の総量を奪い合う交渉ではなく、限られた細切れの時間で何を作るかを先に決めるほうが、ずっと前に進みます。まずは数字で、いまの偏りを見てみましょう。
「申し訳なさ」の正体を、まず数字で見てみる
総務省の「令和3年社会生活基本調査」(2021年実施・2022年公表)によると、6歳未満の子どもがいる世帯の家事関連時間は、週全体の1日あたりで夫が1時間54分、妻が7時間28分でした。妻の家事育児時間は夫の3.9倍にのぼります。
この数字を見ると、「自分だけ時間をもらうのが申し訳ない」という感覚の中身が少し見えてきます。多くの家庭では、そもそも分担がまだ均等になりきっていません。だからこそ、片方が「自分の時間がほしい」と言い出しにくい空気が生まれます。申し訳なさは性格の問題ではなく、見えていなかった時間の偏りから来ていることが多いのです。
つまり、最初にやるべきは時間を切り取ってくる交渉ではありません。お互いの持ち時間がいま実際どうなっているかを、二人で同じ数字として眺めてみることです。土台を見ないまま「三十分ちょうだい」と言うと、相手には「自分の負担が増える」としか伝わりません。
不安を3つに分けると、手をつけられる順番が見える
共働きで起業準備を迷う人の不安は、ひとかたまりに見えて、実は性質の違う3つが混ざっています。分けてみると、今日から動かせるものと、そうでないものがはっきりします。
- 時間の不安:
まとまった作業時間が取れないという不安。これは作業の中身を変えれば、細切れでも進められます。 - 分担の不安:
自分だけ時間をもらうと相手の負担が増える不安。これは話し方の順番で和らげられます。 - 気持ちの不安:
申し訳なさや、反対されたらどうしようという不安。これは説得ではなく共有から解いていきます。
このうち、いちばん早く手をつけられるのは時間の不安です。意外に思えるかもしれませんが、まとまった時間がないこと自体は、起業準備の致命傷になりません。問題は「まとまった時間がないと進まない作業」ばかり選んでしまうことのほうにあります。
細切れの時間は「積み上がる作業」に寄せる
ここで考え方の軸になるのが、商品の作り方です。拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』では、商品を4つの構成で整理する考え方を紹介しています。お試しのフロントエンド、本命のバックエンド、ついで買いのサイドメニュー、そして月会費や顧問のように積み上がるストック型です。
共働きで時間が細切れになりやすい人ほど、この中のストック型の作業に細切れ時間を寄せるのが向いています。一度作れば後から効いてくる作業、たとえば自分の経験をまとめた文章や手順書づくりは、十五分ずつでも少しずつ積み上がっていきます。逆に、毎回その場で動かないと成立しない仕事だけを選ぶと、まとまった時間が取れない日はゼロ進捗になり、続きません。
大切なのは、可処分時間の総量を増やすことではなく、限られた時間を「積み上がる作業」に変えることです。同じ三十分でも、消えてしまう三十分と、後に残る三十分があります。共働きで時間を増やしにくいなら、残るほうの三十分を選べばいい、という考え方です。
- 後に残る作業を選ぶ:
経験のまとめや手順の文書化など、積み上がってストックになる作業に細切れ時間を充てます。 - その場限りの作業は後回し:
毎回ゼロから動かす作業は、まとまった時間が取れる休日に寄せます。 - 一回分を15分で区切る:
寝かしつけ後や通勤前の15分で完結する単位に、作業を小さく割っておきます。
分担を変えた庄司さんが、ストックを積み上げた話
たとえば、起業18フォーラムの会員さんに庄司さん(仮名・30代・共働き)という方がいました。未就学のお子さんがいて、配偶者と家事育児を分け合いながら働いていました。最初は「自分の準備のために相手の時間を削るなんて」と、起業準備そのものをずっと先送りにしていたそうです。
動きはじめたきっかけは、末のお子さんが幼稚園に上がり、夕方の送り迎えの形が少し変わった節目でした。生活のリズムが動いたタイミングで、庄司さんは自分の一日を朝・昼・夜の三場面に分けて眺め直してみたといいます。朝は出勤前の慌ただしさ、昼は仕事、夜は寝かしつけのあとに少しだけ静かな時間が残る。その夜の十五分だけを、自分の準備に充てられないかと考えました。
そこで庄司さんは、まず配偶者にこう切り出しました。説得ではなく、「こういうことをやってみたいと思っている」という気持ちの共有からです。相手も最初は戸惑ったものの、時間の偏りを二人で数字にして眺めてみると、「夜の十五分なら回せそう」という話になりました。庄司さんはその十五分を、その場限りの作業ではなく、自分の仕事の経験を手順書にまとめる作業に充てました。
半年後、庄司さんの手元には、十五分ずつ積み上げた手順のまとめが一つの形になっていました。それを小さく有料で公開したところ、同じ悩みを持つ人から少しずつ申し込みが入るようになりました。本人いわく、変わったのは時間の長さではなく、消える作業をやめて積み上がる作業を選んだことだったそうです。
最初は一行ずつだった手順書が、半年で読み手に手渡せる一本のまとまりになり、そこへ毎月新しい申し込みが静かに乗っていく。同じ十五分が翌月以降も働き続けてくれる、その積み上がりが何より続ける支えになっていると話しています。
時間をもらうのではなく、気持ちを共有することから
分担の不安と気持ちの不安は、話し方の順番でずいぶん変わります。いきなり「三十分ほしい」と時間を要求すると、相手は自分の負担増として受け取ります。そうではなく、自分が何をやってみたいのか、なぜそれをやりたいのかを先に共有するほうが、相手も受け止めやすくなります。
一度で理解してもらおうとしなくて大丈夫です。共働きで分担している関係なら、お互いの時間が有限なことは相手もよく知っています。だからこそ、説き伏せるのではなく、少しずつ景色を共有していくほうが長続きします。時間の話は、その共有ができてからで十分間に合います。
まずは今夜、パートナーに「こういうことをやってみたいと思っている」と、起業準備の気持ちを15分だけ話してみてください。説得ではなく、共有から始めるのが続けるコツです。

時間が足りないのは、共働きで真剣に家庭を回している証拠でもあります。その限られた時間を、消えていく作業ではなく後に残る作業へ少しずつ寄せていけば、忙しさの中でも準備は前に進みます。
よくある質問

Q.パートナーに反対されたら、起業準備は諦めるべきですか?
諦める必要はありません。最初の戸惑いは、多くの場合「自分の負担が増えるのでは」という不安から来ています。一度で理解してもらおうとせず、少しずつ景色を共有していけば大丈夫です。時間の偏りを二人で同じ数字として眺め、自分がやりたいことと、相手の負担を増やさない進め方をセットで共有してみてください。
Q.まとまった作業時間がどうしても取れません。それでも準備は進みますか?
進みます。鍵は、まとまった時間がないと進まない作業を選ばないことです。経験を文章にまとめる、手順を書き出すといった「積み上がる作業」は、15分ずつでも形になっていきます。逆にその場限りの作業は、まとまった時間が取れる休日に寄せておくと、平日ゼロ進捗で続かなくなる事態を防げます。
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