電気工事士が独立して稼ぐには? 下請け常用から直請け・元請けへ移る進め方

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

電気工事士の資格を取り、現場の腕にも自信がついて、いよいよ独立を考える。そこまでは順調なのに、いざ一人親方になってみると「日当はもらえるけれど、単価は相手が決める」状態から抜け出せない。そんな声をよく聞きます。

腕があるのに収入が頭打ちになるのは、技術の問題ではありません。電気工事士の独立でつまずく多くは、技術ではなく「単価を誰が決めているか」という立ち位置の問題です。

この記事では、下請けの常用単価に縛られたまま終わらないために、価格を決める側へ少しずつ動いていく現実的な手順を整理します。

ポイント なぜ資格があっても「単価を決められない側」に残るのか

下請けの重層構造が単価を相手任せにしている仕組み

電気工事士

電気工事の世界は、ゼネコンや元請けの下に一次・二次の下請けがぶら下がる重層構造になっています。独立して一人親方になっても、最初に入ってくる仕事の多くは、この下請けの末端からの「常用」です。

常用とは、1日いくらという日当ベースで現場に入る働き方を指します。腕の良し悪しにかかわらず、単価は元請けや上位の業者が決めます。つまり独立しても、価格を決めているのは自分ではない状態が続くのです。

独立直後の電気工事士が「会社員のときと手取りがあまり変わらない」と感じるのは、ここに理由があります。勤めていたころと同じ現場に、今度は外注として入っているだけだと、決定権の構造は何も変わっていません。

ポイント 「常用一本足」がはらむ収入リスク

日当は安定して見えて実は途切れに弱い働き方

電気工事士

常用の仕事は、毎日決まった日当が入るので安定して見えます。実際の単価感も決して低くはありません。建設業の一人親方の常用日当を見ると、電気工事士は2023年の全国建設労働組合総連合の調査で平均およそ21,728円という水準が示されています。月20日稼働すれば、額面では会社員時代を上回ることもあります。

ただ、この働き方には弱点があります。仕事が途切れた瞬間に収入がゼロになり、単価交渉の主導権を自分が持てないという点です。元請けの都合で現場が減れば、そのまま自分の売上が減ります。

参考までに、電気工事士という職業全体は人手不足が続いています。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)によると、電気工事士の有効求人倍率はjob tag掲載の最新のハローワーク求人統計で約3.8倍。仕事の需要そのものは旺盛です。

需要があるのに単価を上げにくいのは、矛盾しているようで矛盾していません。需要は「電気工事ができる人手」に対してであって、「あなたという業者を指名する理由」に対してではないからです。指名される理由がないかぎり、価格は相手任せのままになります。

  • 単価が相手任せ:
    日当の額を自分で提示できず、元請けの提示を受ける立場に固定される
  • 仕事が途切れると即ゼロ:
    常用以外の収入の入り口がなく、現場が減ると売上が直撃を受ける
  • 指名理由が育たない:
    末端の人手として入るため、施主や発注者に名前が残りにくい

ポイント 価格を決める側へ動く「3つのずらし」

流通経路と居場所とカテゴリを変える三つのずらし

電気工事士

ここからが本題です。常用の末端から、価格を提示できる側へ移っていくには、いきなり大きな元請け会社になる必要はありません。今の立ち位置を少しずつ「ずらす」発想が効きます。

拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』の第3章では、単価を上げる方向として「流通経路を変える」「居場所を変える」「カテゴリを変える」という3つのずらしを紹介しています。同じ腕でも、誰を経由して、どこで、何として売るかを変えるだけで、価格を決める側に回れるという考え方です。電気工事士の独立に、この3つはそのまま当てはまります。

流通経路を変える

二次下請けで入っていた仕事を、一次下請けや工務店との直接取引に変えるのが、流通経路のずらしです。間に入る業者が減るほど、単価の取り分は自分に近づきます。元請けと飲みに行くより、過去に世話になった現場監督や設計事務所に「直接お願いできませんか」と一声かけるほうが、現実には早く効きます。

居場所を変える

同じ電気工事でも、新築の数物現場と、リフォームや店舗の改修では、求められるものが違います。人手の数で勝負する現場から、提案や段取りで評価される現場へ居場所を移すと、価格は腕の値段に近づきます。エアコン増設、EV充電設備、古い住宅の分電盤更新など、施主と直接やり取りする仕事は、その典型です。

カテゴリを変える

「電気工事をやる人」から「○○に強い電気工事屋さん」へ名乗りを変えるのが、カテゴリのずらしです。店舗の照明計画が得意、太陽光と蓄電池に詳しい、古民家の改修に慣れている。こうした一点があると、発注側は単価より「この人に頼みたい」で選ぶようになります。指名されれば、価格を提示するのは自分の側です。

  • 流通経路:
    二次下請けから一次下請け・工務店との直接取引へ間口を寄せる
  • 居場所:
    人手で勝負する数物現場から、提案で評価されるリフォーム・店舗工事へ
  • カテゴリ:
    「電気工事屋」から「特定分野に強い電気工事屋」へ名乗りを絞る

ポイント 常用一本から直請けへ移った会員さんの歩み

常用一本の下請け頼みから直請け軸へ移った転換例

電気工事士

起業18フォーラムの会員さんに、独立から数年は常用一本でやってきた是枝さん(仮名・当時45歳)がいました。第一種電気工事士の免状も持ち、現場の腕は周囲も認めるほどでした。

独立した当初、是枝さんは付き合いのあった元請けからの常用だけで月の予定が埋まり、それで十分だと考えていました。ところが、その元請けが受注を減らした年に、月の売上が一気に半分近くまで落ち込みました。単価を上げてほしいと頼んでも、「うちもこの額が精一杯だから」と返されるだけでした。決める側にいないことの不利を、このとき痛感したそうです。

転機になったのは、起業18フォーラムの勉強会で「自分が価格を提示できる相手を一つでも持っているか」と問われたことでした。是枝さんはそれまで、提示される側にしか立ったことがないと気づきました。そこから、過去に一緒に仕事をした工務店の担当者に、自分から直接見積りを出させてほしいと連絡を取り始めました。

最初は小さな改修の電気工事からでした。それでも、自分で工程を組み、自分で金額を出し、施主に説明する経験を重ねるうちに、店舗のリフォーム案件で「照明と配線の相談に乗ってくれる人」として名前で呼ばれるようになっていきました。常用一本だった売上の構成は、二年ほどかけて直請けと工務店からの直接受注が半分を超える形に変わりました。

是枝さんは今、「日当をもらう人から、金額を出す人になっただけで、同じ腕でも見える景色が変わった」と話しています。資格や技術を変えたわけではなく、価格を決める側に立つ入り口を一つ持ったことが、いちばんの変化でした。

ポイント 価格を決める側へ、今日から踏み出す一歩

小さな直請けを一件持つことから立ち位置を動かす

電気工事士

電気工事士の独立は、資格と腕という土台がすでにある分、ほかの職種より有利なスタートが切れます。就業者の規模を見ても、令和2年国勢調査で電気工事士は約37万9,510人。平均年収も厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)で約550万円と、会社員全体の平均と同程度かやや高い水準です。土台は十分にあるのです。

足りないのは、技術ではなく「自分で価格を提示する経験」のほうです。常用をいきなりやめる必要はありません。常用で生活を支えながら、自分が見積りを出せる相手を一つだけ作る。それが、価格を決める側へ移る最初の一歩になります。

今日できることは、過去に世話になった工務店や現場監督を一人思い出し、「直接お見積りを出させてください」と連絡してみるだけで十分です。一件でも自分で金額を出した経験ができれば、立ち位置は確実に動き始めます。

腕はもう持っています。あとは、その腕に自分で値段をつける側へ、一歩だけ寄ってみることです。

ポイント よくある質問

独立の前後でつまずきやすい疑問にまとめて回答

よくある質問

第二種電気工事士でも独立できますか?

できます。第二種でも住宅や小規模店舗の一般用電気工作物の工事は担えるため、リフォームや住宅改修を軸にした独立は十分に可能です。高圧設備など対応範囲を広げたい場合に、第一種の取得を検討すれば十分でしょう。大切なのは資格の種別よりも、価格を提示できる相手を持てるかどうかです。

独立したらすぐ元請けを目指すべきですか?

急ぐ必要はありません。いきなり大きな元請けになろうとすると、営業も管理も一人で抱えきれず、かえって苦しくなります。まずは常用で生活を支えながら、工務店や施主との直請けを一件ずつ増やすほうが現実的です。直接取引の比率が上がってきてから、元請け化を考えても遅くはありません。

電気工事業の登録は独立時に必要ですか?

電気工事を業として請け負う場合、電気工事業の業務の適正化に関する法律にもとづく登録や届出が必要になります。建設業許可を持つ場合のみなし登録など、立場によって手続きが異なるため、開業前に営業予定地の都道府県窓口や経済産業省の手引きで自分のケースを確認しておくと安心です。

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「腕には自信がある。でも、独立して食べていけるかは、また別の話だ」。長く現場に立ってきた大工さんほど、ここで足

電気工事士の独立は、続けるか続けないかではなく、価格を決める側に立てるかどうかで景色が変わります。まずは小さな直請けを一件、自分の手で見積もるところから始めてみてください。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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