記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
● 質問
WEB制作業をしています。インボイス登録を済ませたのですが、ようするに登録したあと、私たちの毎日の実務は具体的にどう変わるのでしょうか? また、ココナラやストアカなどを利用している場合は、どう扱えばいいのでしょうか?

● 回答
登録後に増える日々の作業は、請求書の書き方・会計ソフトの税率入力・帳簿への記載・書類の保管という4つに集約できます。制度そのものを覚え直す必要はありません。手を動かす場面だけ押さえれば十分です。
ひとつだけ先に頭に入れておきたいのは、2026年が小さな分岐点になることです。2026年10月に経過措置の控除割合が下がり、2割特例も2026年分で終わります。日々の作業に加えて、この切替も後半でお伝えします。
登録後の実務は「4つの作業」に集約される
WEB制作のように相手が法人中心の業種では、登録を済ませた方が多いと思います。登録したあとの実務は、次の4つを淡々と回すだけです。
- 請求書・領収書を適格請求書の形式で出す
登録番号・税率ごとの区分・税率別の消費税額を加える - 会計ソフトに税率区分(10%か8%か)を入力する
日々の入力で消費税区分を選ぶ習慣をつける - 受け取った書類を帳簿に記載する
相手がインボイスなしのときは摘要欄に注記を残す - 請求書・領収書・レシートを保管する
仕入税額控除の根拠として残しておく
請求書というと紙の請求書だけを思い浮かべがちですが、領収書・レシート・納品書など、取引の証明になる書類はすべて同じ扱いになります。WEB制作なら、納品時に出す請求書がそのまま適格請求書の対象です。
適格請求書に必ず書く項目
従来の請求書に、登録番号と税率まわりの情報を足すイメージです。ゼロから様式を作り直す必要はありません。
適格請求書には、登録番号、税率ごとに区分した取引金額、税率ごとの消費税額、適用税率の記載が新しく必要になります。これに加えて、従来どおり、発行者の氏名または名称、取引年月日、取引内容(軽減税率対象ならその旨)、受け取る相手の氏名または名称も残します。
会計ソフトを使っているなら、登録番号をひとつ設定しておけば、あとは請求書テンプレートが自動で形式を整えてくれます。まずは自分の登録番号を、請求書テンプレートと会計ソフトの両方に一度だけ登録しておきましょう。
相手がインボイスなしのとき|80%控除と少額特例
自分が出す書類だけでなく、受け取る書類の扱いも変わります。とくに、相手が登録していないケースの処理を覚えておくと、あとで慌てません。
取引先や仕入れ先から受け取った領収書に登録番号がないと、原則として消費税の仕入税額控除が使えません。ただし、いきなりゼロになるわけではなく、経過措置があります。
免税事業者など登録のない相手からの仕入れでも、2023年10月から2026年9月までは仕入税額相当額の80%を控除できます(国税庁の経過措置)。この経過措置を使うときは、帳簿の摘要欄に「80%控除対象」などと記載しておく必要があります。
- 登録番号がない領収書をもらったとき
帳簿の摘要欄に「80%控除対象」と記載しておく - 電車賃やバス代など公共交通機関を使ったとき
摘要欄に「3万円未満の公共交通機関」などと記載する - 少額の経費の保存
基準期間の課税売上が1億円以下なら、税込1万円未満の取引は帳簿の記載だけで控除でき、インボイスの保存は不要(少額特例)
この少額特例は、国税庁・財務省の案内では2023年10月1日から2029年9月30日までの取引が対象とされています。少額の経費が多い業種ほど、保管の手間がここでぐっと軽くなります。なお、簡易課税を選んでいる場合は、受け取る書類のインボイス対応を気にする必要はありません。
2026年が分岐点|控除割合の縮小と2割特例の終了
ここが、2023年の制度開始時には見えていなかった新しい論点です。2026年は、登録した人の実務がもう一段変わる年になります。
免税事業者になった人の負担を軽くする「2割特例」は、国税庁の案内で令和5年(2023年)10月1日から令和8年(2026年)9月30日までの各課税期間が対象とされ、個人事業者では2026年分をもって終わります。基準期間の課税売上が1,000万円以下であることなどが条件です。
2割特例が終わったあとも消費税の計算を軽くしたいなら、簡易課税制度に移る選択肢があります。簡易課税を使いたい個人事業者は、適用したい年の前年末(2026年分の翌年から使うなら2026年12月31日まで)に届出書を出す必要があるので、期限だけは早めに確認しておきましょう。
もうひとつ、登録のない相手からの仕入れの80%控除も、2026年9月で第1段階が区切りを迎えます。
なお、財務省の令和8年度税制改正大綱の概要では、この控除割合を2026年10月から70%へ下げ、その後50%、30%と段階的に縮小して2031年9月で終了する見直しが示されています。実務で適用するときは、国税庁や財務省の最新案内で必ず確認してください。
ココナラ・ストアカなどスキルシェアサイトの扱い

WEB制作のかたわらココナラやストアカを使っている方も多いので、プラットフォームごとの違いも整理しておきます。サイトによって対応がまったく異なります。
ストアカは、ヘルプページでインボイス制度開始後の領収書について案内しており、講師側で個別対応が必要になる場面があります。受講者からインボイスを求められたら、自分で発行する前提で考えておくと安心です。
ココナラは媒介者交付特例という仕組みを採用しています。購入者がダウンロードする領収書にはココナラの登録番号だけが記載され、出品者自身の登録番号は記載されません。そのため、国税庁の公表システムで個人名が知られる心配がないのは、出品者にとって安心できる対応です。ココナラのインボイス対応や登録の方法は、お知らせページで案内されています。
備品の購入も、控除の確実さを考えると、適格請求書が出る業者を選ぶのが無難です。Amazonビジネスのようにインボイス対応がはっきりしている仕入れ先を使うと、帳簿づけの判断に迷う場面が減ります。
会員さんの実例|「全部手作業」から会計の自動化へ

起業18フォーラムの会員さんに、WEB制作で独立した井狩さんという方がいます。制度が始まったころ、井狩さんはインボイスの実務に振り回されていました。
当初の井狩さんは、請求書をその都度ワードで手作りし、登録番号や税率を毎回入力していました。受け取った領収書も封筒にためこむだけで、月末に一気に仕分ける自己流のやり方でした。確定申告の直前に書類が見つからず、控除の根拠を探して半日つぶした、という失敗もあったそうです。
転機は、起業18フォーラムの個別相談で「経理は覚えるより仕組みに任せたほうがいい」と助言を受けたことでした。井狩さんは会計ソフトに登録番号を一度だけ設定し、請求書の発行と帳簿づけをソフト側に寄せていきました。領収書もスマホ撮影で都度取り込む運用に変えたところ、月末の作業時間が以前の3分の1ほどに減りました。
拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』では、自分が手を動かす仕事は全体の2割以下に抑えるという「80%ルール」を取り上げています。経理はまさに、その2割の外に出すべき作業です。インボイスの実務でいちばん効くのは、覚える努力より「自分が毎回判断しなくていい仕組み」を一度だけ作ることです。
- 登録番号は一度だけ設定する
会計ソフトと請求書テンプレートに最初に登録しておく - 領収書はためずに都度取り込む
スマホ撮影で受け取ったその場で記録する - 判断が必要な処理だけ手元に残す
80%控除の摘要欄記載など例外処理に集中する
よくある質問(FAQ)

登録したら、請求書のどこを変えればいいですか?
従来の請求書に、登録番号・税率ごとの取引金額・税率別の消費税額・適用税率を足すだけです。会計ソフトを使えば、登録番号を一度設定すれば自動で形式が整います。
相手の領収書に登録番号がないと、控除は使えませんか?
2026年9月までは経過措置で80%を控除できます。帳簿の摘要欄に「80%控除対象」と記載しておきましょう。2026年10月以降の割合は、令和8年度税制改正大綱の概要で見直しが示されているため、国税庁や財務省の最新案内を確認してください。
2割特例はいつまで使えますか?
国税庁の案内では、個人事業者は2026年分までが対象です。終了後も負担を抑えたいなら、簡易課税制度への切替を、届出の期限に間に合うよう検討しておくと安心です。

インボイスの実務は、最初に仕組みを整えてしまえば、あとは淡々と回るものです。覚えることの多さに身構えるより、請求書の様式と帳簿づけを一度だけ固めるところから始めてみてください。
今日できることは、自分の登録番号を会計ソフトと請求書テンプレートに登録しておくだけで十分です。
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