記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「いつか脱サラして、自分のラーメン屋を持ちたい」。カウンター越しに湯気の向こうの常連さんと笑い合う、そんな景色に憧れる方は少なくありません。

一方で「ラーメン屋はやめておけ」という声も、検索すればいくらでも出てきます。憧れと不安のあいだで揺れているのが、いまこの記事を読んでいる方の本当のところではないでしょうか。私は26年にわたって会社員のセカンドキャリアを支援してきましたが、飲食の夢を語る方ほど、開業の「やり方」よりも先に決めるべきことを飛ばしがちです。
結論からお伝えすると、ラーメン屋の開業は「いきなり店を構える」のではなく、本出店の前に小さく需要を試してから判断するのが、いちばん後悔の少ない進め方です。
この記事では、脱サラでラーメン屋を開く2つの方法と最新の手続き、2025年時点の開業資金、そして本出店の前に小さく検証する具体的な道筋までを、現場の目線で整理します。
脱サラでラーメン屋に挑む前に知っておきたい現実

ラーメンが好きで、たくさんの店を食べ歩いてきた経験は、たしかに大きな財産です。好きなことを仕事にできる喜びは、続ける原動力になります。ですが、夢を一度、数字の隣に置いてみてほしいのです。
飲食店がどれだけ厳しい世界かを語るとき、私は感覚ではなく公的な統計を見るようにしています。だからこそ、まずこの数字を共有させてください。中小企業庁の「2025年版中小企業白書」では、宿泊業・飲食サービス業が、ほかの業種と比べて開業率も廃業率もともに高い水準にあると示されています。入りやすい一方で、退場も多い。それが飲食という業界の地形です。
なぜ廃業が多いのか。ラーメン屋に限れば、理由は「参入のしやすさ」と「労働の重さ」の二つに集約されます。お金さえあれば開業自体はできてしまうので、近隣に資金力のある人気店が出店すれば、立地の優位は一晩で揺らぎます。さらに、9席ほどの小さな店でも、仕込みから閉店後の清掃まで一人でこなせば、立ちっぱなしの長時間労働になります。憧れの裏側にある、この体力勝負を先に知っておくことが大切です。
ラーメン屋開業の2つの道と、最新の手続き

脱サラしてラーメン屋を開業したいと思ったら、大きく分けて2つの道があります。それぞれ向いている人が違います。
フランチャイズに加盟する
ひとつ目は、フランチャイズチェーンに加盟する方法です。本部と契約し、味の設計やメニュー、食材の供給、店舗探し、研修までを支援してもらえます。ラーメン作りの経験がない方にとって、ノウハウをまとめて受け取れるフランチャイズは心強い選択肢になります。
その分、加盟金やロイヤリティという形で本部にコストを払い続けることになります。自分の味を一から作りたい人には窮屈に感じられる場面もあるので、契約内容は隅々まで確認してください。
自分で一から開業する
ふたつ目は、レシピも事業計画も物件も、すべて自分で組み立てる道です。費用を抑える鍵は「居抜き物件」にあります。居抜きとは、前のテナントの厨房や空調をそのまま引き継げる物件のことです。お金のかかる設備が残っているため、初期費用も開業までの期間も短くできます。
ただし、元ラーメン屋の居抜きは「前の店が続かなかった場所」でもあります。撤退の理由が立地なのか商品なのかを、契約前に必ず調べてください。理由が立地そのものなら、設備が安く手に入っても同じ轍を踏むことになります。
開業に必要な許可と資格(最新の運用)
ここは制度が新しくなった部分なので、丁寧に確認します。ラーメン屋の開業に調理師免許は必要ありません。必要なのは、保健所の飲食店営業許可と、店舗ごとに1人置く食品衛生責任者の資格です。食品衛生責任者は、各都道府県の食品衛生協会の講習を1日受ければ取得できます。収容人数が30名以上になる店舗では、防火管理者も必要になります。
そして見落としやすいのが衛生管理の制度です。食品衛生法の改正により、2021年6月1日からは、飲食店を含むすべての食品事業者に「HACCPに沿った衛生管理」が義務づけられました。といっても、小規模な飲食店は業界団体の手引書に沿って衛生管理を記録すればよい簡略版で対応できます。
同じ改正では営業許可の業種が32業種に再編され、許可の対象外となる事業者向けに営業届出制度も新設されました。開店のスケジュールは、この許可が下りるタイミングから逆算して組んでください。
開業資金は今いくらかかるのか

資金の話は、夢といちばん正面からぶつかる部分です。物価とエネルギー価格が上がった影響で、開業費用はかつての目安より上振れしています。
2025年時点の相場感をつかむと、おおよそ次のようになります。居抜き物件をうまく活用しても初期費用は1,000万円前後から、スケルトン(内装なしの状態)から作り込むと、さらに大きく膨らみます。厨房設備を寸胴やコンロ、冷蔵庫まで新品でそろえると、それだけで数百万円に達することも珍しくありません。
- 物件取得費:
保証金・礼金・仲介手数料。立地が良いほど高額になる - 内装・厨房設備:
居抜きなら圧縮できるが、スケルトンは数百万円から - 運転資金:
家賃・人件費・食材費の数か月分を開業前に確保しておく
見落としやすいのが、開業後の運転資金です。売上が安定するまでの数か月、家賃と食材費は容赦なく出ていきます。開業費用だけで貯金を使い切らず、軌道に乗るまでの運転資金を別枠で残しておくことが、撤退を避ける生命線になります。必要な金額の全体像は、起業準備にかかるお金を順番に整理した記事もあわせて読んでみてください。

資金計画は、楽観ではなく「うまくいかなかったとき」を前提に立てておくと、心の余裕が変わります。
本出店の前に「小さく検証」する道がある

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。多くの方は「店を借りるか、借りないか」の二択でラーメン屋を考えます。ですが現実には、その間に「小さく試す」という第三の道があります。
たとえば、夜だけ営業する居酒屋の昼の時間を借りる間借り営業。週末だけ動かすキッチンカー。月に数回のイベント出店や、自宅近くの公園マルシェ。いずれも数百万円の内装をかけずに、自分のラーメンを実際にお客様の前に出せます。本出店という大きな賭けに踏み切る前に、まず「自分の味にお金を払う人がいるのか」を確かめられるのが、この小さな検証の最大の価値です。
収入の柱を一つ確かめてから動く考え方は、拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』でも紹介しています。いきなり大きく始めるのではなく、まず家族や知人に振る舞い、次に実費で、そして一般のお客様へと、規模を一段ずつ上げていく。
この階段を飲食に当てはめると、間借りやキッチンカーが最初の一段になります。テストで手応えがなければ、退職せずに引き返せます。これが、脱サラ前にできる最大のリスク管理です。
- 間借り営業:
他店の空き時間を借り、低コストで実際に提供できる - キッチンカー:
立地を変えながら反応の良い場所を探せる - 週末・イベント出店:
休日だけで需要を測れる
小さく試してから踏み出す進め方は、ほかの業種でも有効です。店を構える前の検証手順は、こちらの記事でも具体的に整理しています。

小さく試した記録は、いざ融資を受けるときの実績にもなります。
間借りから始めた会員さんの話

起業18フォーラムの会員さんに、ラーメンで独立を目指していた古川さん(仮名)がいます。最初に相談に来られたとき、古川さんはすでに物件情報を10件以上印刷して持ってきていました。気持ちは痛いほど分かりましたが、私はまず「店を借りる前に、半年だけ間借りで試してみませんか」とお伝えしました。
古川さんが選んだのは、夜営業のバルが昼に空ける時間でした。平日の昼と週末だけ、淡麗な塩ラーメンを一杯750円で出す。最初の月の利益は、正直わずかなものでした。それでも古川さんが手応えを口にしたのは、売上の数字ではなく「同じ作業着の二人組が、3週続けて並んで座ってくれた日」のことでした。
数字より先に、常連という事実が立ち上がってきたのです。その常連さんが友人を連れてくるようになり、テスト期の終盤には月11万円ほどの利益が出るまでになりました。期間にして半年です。古川さんはこの検証を経て、ようやく本出店に向けた物件探しを始めました。間借りで集めた常連さんは、開店後の最初のお客様になりました。
よくある質問

Q.ラーメン作りの経験がなくても開業できますか?
制度上は、調理師免許が不要なので開業はできます。ですが未経験のまま店を出すのは、もっとも撤退率が上がる進め方です。人気店で修業するか、間借りやキッチンカーで実際にお客様に出しながら腕を磨く期間を、開業前に必ず取ってください。
Q.調理師免許は本当にいらないのですか?
はい。ラーメン屋に必要なのは食品衛生責任者の資格と保健所の飲食店営業許可で、調理師免許は必須ではありません。食品衛生責任者は1日の講習で取得できます。
Q.何年くらいで軌道に乗りますか?
立地と商品次第で大きく変わります。だからこそ、開店後に祈るのではなく、開店前に間借りで需要を測っておくことをおすすめします。検証で常連がつくかどうかが、軌道に乗るまでの時間を左右します。
Q.とんこつ系の臭いで近隣トラブルになると聞きました。
実際に、スープを長時間煮出す臭いが近隣のクレームにつながった例はあります。住宅が近い物件では、換気設備の容量や排気の向きを契約前に確認しておくと安心です。
おわりに
脱サラしてラーメン屋をやりたいという夢は、けっして甘いものではありません。けれど、夢を諦める必要もありません。問われているのは「夢を持つか諦めるか」ではなく、「夢をどう守りながら近づくか」です。
その人が本当に欲しいのは、ラーメン屋という肩書きではなく、好きなことで生活が成り立っている毎日のはずです。だからこそ、いきなり店を構えて生活ごと賭けるのではなく、勤めを続けたまま小さく試し、常連がつくという事実を確かめてから踏み出してください。
その一段を踏んでおくだけで、たとえ手応えがなかったとしても、あなたの生活は守られます。まずは、自分のラーメンを誰か一人に食べてもらう場所を、今週末に探すところから始めてみてください。
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