記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
家電が好きで、その知識を活かして「家電アドバイザー」で起業したいのですが、本当に成り立つでしょうか?
好きなことの整理を進めるうちに、自分の得意が家電だと見えてきました。テレビのバラエティ番組で家電芸人が取り上げられるのを録画して何度も見るくらい、家電が好きです。彼らほど詳しいわけではありませんが、勉強する意欲はありますし、近いところまではいける自信があります。
やりたいのは、これから家電を選ぶ人に、その人に合った一台を中立の立場で教えてあげることです。量販店だと、お店が売りたい商品をすすめられてしまいますから。販売の形は、有料で質問を受けるサイトや、カルチャーセンターでの講座などを考えています。
ただ、不安が二つあります。一つは、家電を買う人はとにかく価格に厳しいので、私にお金を払ってまでアドバイスを受けたいと思ってくれるのか、というニーズの不安です。もう一つは、「家電」という言葉が広すぎて、全ジャンルに詳しくなるのは無理だということです。得意なパソコンや掃除ロボットに絞るべきでしょうか?

● 回答
好きなことを起業に変えられるか、という問いですね。結論からお話しすると、家電好きを仕事にすること自体は十分に成り立ちます。ただし、いまの設計のままだと、おっしゃる通り壁にぶつかります。越え方は一つで、「アドバイスを受ける人」と「お金を払う人」を、別の人に分けてしまうことです。
この一点が腑に落ちると、家電に限らず「好きなことで起業は成り立つのか」という不安の多くは、輪郭がはっきりしてきます。順番にお答えしていきます。
「家電が好き」を「家電を選ぶ人に教える商売」に変えようとしたとき、最初に立ちはだかるのが、まさにあなたが感じている二つの壁です。ここを正直に見ておきましょう。
一つ目は、価格に厳しい人は有料アドバイスにお金を払いにくい、という壁です。家電を1円でも安く買いたい人にとって、相談料は「節約したい出費」の側に入ります。ニーズがあること(みんな失敗したくない)と、お金を払うこと(財布を開くこと)は、残念ながら別物です。
二つ目は、「家電」という領域が広すぎる壁です。全ジャンルに詳しくなろうとすると、知識を仕入れるだけで時間が尽きます。かといって一つの製品に絞ると、個別の製品に詳しい人は世の中にいくらでもいて、埋もれてしまいます。
この二つは別々の悩みに見えて、実は根が同じです。「誰の、どんな困りごとに詳しい人なのか」が、まだ定まっていないのです。
ここで効いてくるのが、最初に申し上げた発想の切り替えです。アドバイスを受け取る人と、お金を払う人は、同じである必要はありません。
たとえば、メーカーと組んで自社製品を説明する。ショールームでセミナーを開く。この形なら、相談者は無料で恩恵を受け、お金はメーカーが払います。ただし中立性は薄れますから、そこを譲れないなら、別の「払う人」を探します。
有力なのは、これから家電業界で働く人や、量販店・メーカーへの就職や転職を控えた人です。彼らは事前に商品知識を得たいので、お金を払う理由がはっきりしています。さらに広げれば、街の電気店に最新家電や他社製品との違いを伝える研修、店員向けの説明トレーニングなども、お金を払う側に企業が立つビジネスです。
拙著『起業神100則』に、「『何に詳しい人』と呼ばれているか?」という問いがあります。あなたが本当に詰めるべきは「家電に詳しい人」ではなく、「家電の何を、誰の困りごととして引き受ける人なのか」という一行です。そこが決まると、領域が広すぎる問題も、自然にほどけていきます。
もう一つ、好きなことを起業に変えるとき、信用をどう見える形にするかも考えどころです。ここで一つの第三者の物差しを紹介します。家電製品アドバイザーという、販売・接客の知識を確かめる民間資格があります。
この資格は「AV情報家電」と「生活家電」の区分があり、両方に合格すると「家電製品総合アドバイザー」と認定されます。受験資格に制限はなく、試験は毎年3月と9月の年2回、全国のテストセンターのパソコンで受けられます。資格の有効期間は5年で、更新の仕組みもあります。

資格そのものが集客してくれるわけではありません。ただ、好きなことを仕事にすると名乗るとき、第三者が認めた知識の裏づけが一つあると、お金を払う相手、とくに企業や研修の発注者に対して話が早くなります。好きという熱量を、相手が確かめられる形に翻訳する道具、と考えてください。
ここまでを、好きなことで起業を考えるときに使える三つの問いに、ぎゅっとまとめます。家電に限らず、どんな趣味でも当てはまります。一つ目は、「お金を払うのは誰か」を、アドバイスを受ける人とは別に名指しできるか。二つ目は、「自分は何の困りごとに詳しい人なのか」を、一行で言えるか。三つ目は、その商品を、知り合い一人が有料で受けてくれるか。
最後の問いだけは、頭の中ではなく、実際に一件試して確かめます。好きなことで起業が成り立つかどうかは、好きの強さでは決まりません。「誰がお金を払うのか」を、好きの外側にきちんと置けるかどうかで決まります。
実際にこの組み替えで前に進んだ方がいます。趣味のコーヒーを起業につなげたかった篠崎さんは、最初、淹れ方を教える有料講座を一般のコーヒー好きに向けて開きました。ところが、ネットに無料の情報があふれるなかで、わざわざお金を払う人は集まりませんでした。半年ほど、空席の目立つ会場で立ち止まっていたそうです。
転機は、知人のカフェ開業相談に一度だけ付き合い、お礼を渡したいと言われたことでした。無料の親切と、お金が動く仕事の境目を、そこで初めて意識したと言います。
とはいえ、その気づきをどう商売の形にすればいいかは分からず、起業18フォーラムの勉強会に持ち込みました。そこで「払う人を、コーヒー好きから、これから店を出す人に替えてみては」と助言を受け、会員さん同士の個別相談で商品の輪郭を組み直したそうです。
独立したい人向けに、開業前の豆選びと抽出設計を支える相談に切り替えたところ、流れが変わりました。最初の月は2件でしたが、相談者がまた相談者を呼び、半年で月12件まで増えたと聞いています。好きなことは何も変えていません。変えたのは、お金を払う人だけでした。
あなたの家電好きも、まったく同じ筋道で起業に変えられます。今日できることは一つです。いきなりサイトや講座を作る前に、家電選びで困っていそうな知り合いを一人思い浮かべ、その人に有料で一件だけアドバイスを引き受けてみてください。お金をもらって成立するかどうかが、どんな調べものよりも確かな答えをくれます。そこで「払うのはこの人ではないな」と分かれば、それも前進です。
よくある質問

Q.好きなことで起業は、やっぱり甘い考えなのでしょうか?
甘いかどうかは「好き」の強さではなく、お金を払う相手を決めているかで分かれます。好きを入口にするのは悪いことではありません。問題になるのは、好きな気持ちのまま「自分が楽しいこと」を売ろうとして、誰の財布を開けるのかを後回しにしたときです。好きという熱量に、買い手を一人足してください。
Q.家電製品アドバイザーの資格は取っておくべきですか?
必須ではありません。資格があるから売れる、という性質のものではないからです。ただ、企業向けの研修や、就職・転職を控えた人への講座など、お金を払う相手が信用を確かめたい場面では、第三者の認定が一つあると話が進めやすくなります。試験は毎年3月と9月の年2回ありますから、お金を払う相手が見えてきた段階で検討すれば十分です。
Q.領域は「家電全般」と「パソコンだけ」のどちらに絞るべきですか?
どちらでもなく、「誰の困りごとか」で絞るのがおすすめです。製品で絞ると詳しい人と競合し、広げると知識が追いつきません。たとえば「初めて一人暮らしをする人の家電一式」「高齢の親に贈る家電」のように、相手と場面で切り取ると、ちょうどよい広さに収まります。
Q.まず何から試せばいいですか?
これまで家電選びの相談に乗った経験を、思い出せるだけ書き出してみてください。職場の同僚、親戚、友人、どんな小さな相談でも構いません。3件ほど並べると、自分がどのジャンルを、どんな立場の人から頼られてきたかが見えてきます。そこに、あなたが本当に向き合うべきお客様の輪郭が表れます。

家電好きを仕事にしたいという入口を、ここまで具体的に詰めて考えられている時点で、あなたは「なんとなく好き」で止まる人とは違う場所にいます。あとは、お金を払う相手を一人見つけるだけです。
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