記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「好きなことで起業したい」という相談は、起業18フォーラムに届く声の中でも特に多いものです。ところが、好きなことを軸に動き始めた人の中には、半年後に「好きだったのに、なぜかしんどい」という状態に陥る方が出てきます。一方で、同じように好きなことを仕事にした人が月20万円、25万円と安定した収入を作り続けています。
この差を生んでいるのは、好きなことの「どの部分を商品にするか」という切り口の絞り方です。

日本政策金融公庫の「2024年度 新規開業実態調査」によれば、開業の動機として最も多かったのは「自由に仕事がしたかった」で56.9%でした。好きなことで自由に働きたいという思いは多くの人が持っています。問題は、その実現の方法が見えにくいことです。この記事では、26年の起業支援現場で見えてきた「好きなことで起業がうまくいく人の設計の仕方」を整理します。
「好きなこと全部」を商品にしようとすると失敗する理由

「好きなことで起業したい」と動き始めた人が最初に陥るのは、「好きなこと全部をサービスにしよう」という設計です。たとえば、コーヒーが好きな人がカフェ・豆の販売・焙煎体験・ドリップ動画・豆の定期便と次々に手を広げる。一見、豊かなラインナップに見えます。ですが、「このお店に行けば〇〇ができる」という一言で言い表せないサービスは、人に伝わりません。
起業18フォーラムに届く相談でも「AIで集客できると思ってスクールに入ったが、売れるものがない段階でツールだけ使っても意味がなかった」という声が増えています。ツールやSNSよりも先に、「誰の・何の困りごとを解決するのか」という基本設計が不可欠です。好きなことを仕事にするための第一歩は、好きなことの中から「これだけ」と絞ることにあります。
好きなことの一部分を切り出す「知・人・金」の設計

拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』にも書いたのですが、起業を始めるときに必要なのは「知」「人」「金」の3種のチカラです。そのうち、好きなことを軸にした起業では「知」、つまり自分の知識・スキル・経験を最初の起点にするのが、最も効率がよい入り方です。
ここで注意したいのは「知」の定義です。資格や学歴だけが「知」ではありません。職場で当たり前のようにやってきたこと、友人からよく相談されること、自分では特別とは思っていないこと。それらが、社外ではすでに「知」になっています。好きなことの「知」を一つに絞り、それを必要としている特定の人に届ける設計が、小さく始める起業の基本です。

ある会員さんの例を紹介します。双子を出産後、育休中に起業準備を進めたAさん(仮名・35歳)は、「子どもの食事を整えることへのこだわり」という好きを起点にしました。
最初は「離乳食・幼児食のプロとして全般的に教えたい」と考えていましたが、「仕事が忙しくて離乳食を手作りする時間がない0〜1歳の親御さんに、10分で作れる離乳食の方法だけを教える」に絞り込んだところ、最初のモニター申込みが1週間で5人集まりました。好きなことは全部乗せるのではなく、相手が「自分のことだ」と感じる一点に絞り込むと、最初の反応が一気に生まれます。
切り口を絞り込む4つの問い

好きなことを絞り込むための問いを4つ紹介します。紙に書き出しながら考えると、より明確になります。
問い①:友人や同僚からどんなことを相談されるか?
自分では「こんな当たり前のことを」と思っていることが、他人にとっては貴重な知識であることが多くあります。よく相談されるテーマには、すでに需要があるサインが含まれています。
問い②:時間を忘れてやってしまうことは何か?
「もっとやりたい」と自然に思える行動は、長期的に続けられる仕事の核になります。義務感ではなく好奇心で動けることが、サービスの質を長く保つ力になります。
問い③:お金を払ってでも学んできたことは何か?
自分の財布から出してきた学びには、本物の関心が宿っています。資格・セミナー・本・旅行・道具への投資を振り返ると、自分の「知」の方向性が見えてきます。
問い④:「〇〇が苦手な人」の悩みを、自分は解決できそうか?
好きなことを持っている人は、同じ領域が苦手な人の困りごとを自然に解決できる立場にいます。「料理が好き」なら「忙しくて料理できない人」、「整理整頓が好き」なら「片付けられない人」というように、苦手な人の視点から需要を逆算できます。「自分が好きなこと」と「相手が困っていること」が重なる部分が、商品の輪郭になります。この重なりが小さいほど、起業は難航します。
試して確かめる手順

切り口が決まったら、次は「試して確かめる」フェーズです。この動きを今すぐ取れます。
- 知り合い10人に「こういうことを始めようと思っている」と話してみる
- 「受けてみたい」と言った人に無料または低価格のモニターを提供する
- モニターの感想を聞き、何が「刺さった」かをメモする
- 刺さった部分だけをさらに磨いて、次のサービスに反映する
この試す→確かめる→磨くのサイクルを、給与が入る間に回すことが重要です。先に辞めてから動こうとすると、収入のプレッシャーが設計の邪魔をします。給与がある間に試して失敗しても、その収入が安全網になってくれます。本業を続けながら試した人の方が、辞めてから動いた人よりも早く最初の収入に届きます。起業18フォーラムの支援現場でも、そのパターンが多く見られます。
よくある質問

Q.好きなことを仕事にすると嫌いになりませんか?
「好き」の全部を仕事にしようとすると嫌いになりやすいのですが、好きなことの一部分だけを商品にすると、残りの「好き」は趣味として守られます。好きなことを絞り込むことは、好きを守ることでもあります。
Q.好きなことで稼げる根拠がわかりません。
根拠は探してもわかりません。最初は根拠がないまま試して、実際に反応が来てから「この分野に需要がある」とわかります。試す前に根拠を求めると、永遠に動けません。知人10人への声かけが、最初の根拠を作る唯一の方法です。
Q.好きなことに特別なスキルがなくても大丈夫ですか?
大丈夫です。「好き」の蓄積は、知らないうちに知識や経験の厚みになっています。資格や認定がなくても、苦手な人の役に立てることは必ずあります。まず声をかけてみて、相手の反応から自分のスキルを確かめてみてください。
まとめ:好きなことは全部やらなくていい

好きなことで起業がうまくいく人は、「好きなことの全部」を商品にしようとしません。好きなことの中から、特定の誰かが今まさに困っている一点を切り出して、そこから小さく動き始めます。それだけで、最初の反応は変わります。

今が、最もリスクの低い試し時です。まず好きなことの切り口を4つの問いで整理し、知り合い10人に話しかけるところから始めてみてください。
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