社労士が起業する始め方手順|開業前に差別化できる専門分野の作り方

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

社労士の資格を取ったあと、「いつか開業したい」と思いながら勤務を続けている人は少なくありません。ですが、登録費用や年会費がかかること、顧問先が見つかるかどうかわからないこと、そういった不安から先送りにしているケースが多いです。

開業後に稼いでいる社労士と苦戦している社労士の差は、資格の強さではありません。違うのは「何の専門家か」という軸が明確かどうかです。

この記事では、社労士が起業するときに見落としがちな差別化の作り方と、在職中から動けるステップを整理します。

ポイント 社労士の「見えていない強み」が起業の核になる

資格より経験の組み合わせが差別化の軸になる

頑張ろう

資格は全員同じ、でも経験は一人一人違う

全国に登録している社労士は、2024年3月31日時点で45,386人。うち開業社労士は24,549人です(全国社会保険労務士会連合会「2024年度実態調査」)。これだけの数がいると、「同じ社労士」として横一列に並んでしまいます。ホームページに書けることも、できる業務の幅も、顧問料の相場も似ています。

でも勤務経験の中身は、一人一人まったく違います。製造業の工場で労災対応を10年してきた人、IT系スタートアップで採用と評価制度を一人で回していた人、医療法人で給与計算と社会保険手続きを長年続けてきた人。同じ資格でも、積み上げてきた「現場の感覚」は全員異なります。

起業で差をつけるのは資格ではなく、「社労士である自分が、どの業界の、どんな課題を、どんな形で解決できるか」という組み合わせです。

「何でもできます」が一番弱い

開業直後に「労務全般お任せください」とホームページに書いてしまうのが、よくある落とし穴です。中小企業の経営者から見れば、「何でもできる社労士」と「うちの業界に詳しい社労士」では、後者のほうが圧倒的に頼みやすい。

顧問先が取れない開業社労士の多くは、専門分野を絞らずに開業してしまっています。資格の取得と顧問先の獲得は、まったく別の問題です。

差別化は、大きな「違い」である必要はありません。業種(どの業界か)×テーマ(何の問題か)×提供形式(どう届けるか)という3つの小さな違いを掛け合わせるだけで、他の社労士にはない独自のポジションが生まれます。

  • 業種特化型:「製造業専門」「IT業界専門」「医療・介護特化」など
  • テーマ特化型:「就業規則作成専門」「助成金申請専門」「ハラスメント対策専門」など
  • 提供形式型:「完全オンライン対応」「従業員10名以下専門」「スポット相談のみ受付」など

資格の希少性で勝負するのではなく、「業種×テーマ×提供形式」の組み合わせで独自ポジションを作ること。この考え方が、開業後の顧問先獲得を左右します。

ポイント 起業準備の進め方|登録より先に決めること

登録前に専門軸を決めるための4ステップ

お金の見える化

ステップ1:勤務経験を棚卸しして「軸」を言語化する

まず、過去の勤務経験を棚卸しして「自分が他の社労士より詳しい業界・問題領域」を明確にします。社労士試験で学んだ知識はみな共通です。差がつくのは、試験科目には出てこない「現場での体験」です。

確認したいのは、以下の3点です。

  • どの業種の会社で、何年働いてきたか
  • 労務でどんなトラブルを実際に経験・対処してきたか
  • 人事・給与・採用・評価の中で、最も時間を使ってきた分野はどこか

この棚卸しをしておくと、開業後に「何を発信すればいいか」も自然に決まります。

ステップ2:在職中に「小さな仕事」を1件経験する

開業社労士の1人事務所比率は56.4%(全国社会保険労務士会連合会・2024年度実態調査)。半数以上が一人で事務所を運営しています。新規参入の社労士がいきなり複数の顧問先を持つのは難しい。だから在職中に、知り合いの小さな事業者に対してスポットで就業規則を確認する、勤怠管理の相談に乗るなど「小さな仕事」を経験しておくことが重要です。

技術的な確認だけでなく、「この課題なら自分は手伝える」という手応えを掴んでおく。それが開業を踏み出す根拠になります。

ステップ3・4:発信→登録の順番で進める

開業登録(社労士会への登録)と、起業準備を始めるタイミングは別の話です。登録費用がかかるため、「軸が決まる前に登録して焦る」より、発信を先行させて顧問先の見込みが出てきてから登録するほうが現実的です。SNSやブログで「何の専門家か」を伝える発信を続けながら、最初の顧問先の目処が立った段階で登録するという順番が、立ち上がりをスムーズにします。

  • 勤務経験の棚卸し(業種・テーマ・強みを言語化する)
  • 在職中のスポット案件で手応えをつかむ
  • 専門特化の軸を決めて発信内容を揃える
  • 社労士会に登録・開業(軸が決まってから登録する)

ポイント 社労士の経験別・具体的な起業アイデア

勤務経験から逆算する3つのビジネスモデル

コンサルタント

人事・採用に携わってきた社労士

採用・評価制度・等級制度の設計は、社労士の独占業務ではありません。でも「社労士資格+人事経験」の組み合わせは、コンサルタントとして非常に強いポジションです。

人事制度を見直したいが顧問社労士には頼めない、人事部を持てない中小企業は数多くあります。「就業規則の整備+評価制度の設計+社会保険手続き」をワンストップで受けられる社労士は、中小企業の経営者が長期間頼み続ける存在になります。

給与計算・社会保険実務に特化してきた社労士

社労士の顧問料は、従業員10名以下の中小企業向けで月額20,000〜30,000円前後が相場です。純粋な事務処理(給与計算代行+社会保険手続き)の顧問契約に絞り、IT化・自動化で効率化すると、少ない稼働で顧問先数を増やすことができます。

ただしこの路線は、価格競争に入りやすい面があります。「正確で早い」を軸にするなら、徹底した仕組み化とデジタル化が前提です。

特定業種(医療・建設・IT等)で働いていた社労士

業種によって労務の問題はまったく異なります。建設業の働き方改革対応(時間外労働の上限規制)、医療法人の就業規則整備、IT系企業の裁量労働制の設計。「その業種の問題を肌感覚で知っている」という経歴は、同業他社からの紹介だけで顧問先が増えていく状況を生み出すことがあります。

  • 人事・採用経験あり → 人事制度設計+社労士業務のワンストップ型
  • 給与計算・実務特化 → IT化+仕組み化による多顧問先モデル
  • 特定業種勤務経験 → 業種特化型の顧問モデル(建設・医療・IT等)
  • 労働紛争・ハラスメント対応経験 → 特定社労士資格+労務相談専門型

ポイント 社労士特有の失敗パターン

開業後に落ちやすい失敗パターンと回避策

失敗

失敗①:「資格があれば仕事が来る」と思っていた

社労士資格は国家資格です。でも、開業登録しただけでは問い合わせはゼロです。難しい試験を通ったという事実と、顧問先を獲得できるかどうかは、まったく別の問題です。

開業社労士の年間売上の中央値は550万円で、全体の6割が年間1,000万円未満(全国社会保険労務士会連合会・2024年度実態調査)。資格取得は起業の入場券に過ぎず、収入は別途設計が必要です。

集客・発信を意図的に動かさなければ、最初の顧問先は取れません。

失敗②:1号・2号業務だけで勝負した

社労士の業務には、1号業務(書類作成・申請代行)、2号業務(帳簿書類の作成)、3号業務(相談・コンサルティング)があります。1号・2号は社労士の独占業務ですが、全員が持っている武器であるため、ここだけでは差別化になりません。

稼いでいる開業社労士の多くは、3号業務(労務コンサルティング・研修・人事制度設計)に比重を置いています。顧問料の単価も上がりやすく、クライアントとの関係が深まりやすいからです。

失敗③:人脈ゼロのまま登録・開業した

起業18フォーラムの会員さん(40代・大手メーカー人事部門に16年)がこんな話をしてくれました。「試験に合格したあと、勢いで社労士会に登録しました。でも知り合いに中小企業の経営者がいなくて、最初の顧問先を見つけるのに8ヶ月かかりました。在職中に、同期の転職先(中小企業)に声をかけておけばよかった、と後悔しています。開業2年目の今、顧問先は9社になりましたが、そのうち7社は元同僚・元取引先からの紹介です。」

  • 「資格があれば仕事が来る」と思って開業後に待ち続けた
  • 1号・2号業務だけで差別化しようとした
  • 専門分野を絞らずに「何でもやります」で開業した
  • 在職中に人脈・実績を作らずに退職してから焦り始めた

ポイント 社労士起業のマインドセット

資格は入場券という発想への転換が鍵

point

士業資格は「入場券」でしかない

社労士資格は独占業務を守るための「入場券」に過ぎません。その入場券を持ったあとに何ができるか、誰の何を解決できるか、が実際の収入を決めます。

26年間で60,000人を超える起業準備者を支援してきた経験からいえば、資格を持ちながら収入が伸びない人に共通しているのは、「資格があるから大丈夫」という思い込みで動きが止まっていることです。独立後に稼ぎ続けている社労士の多くは、「社労士資格という専門性」ではなく「この業界・この問題・この形式なら自分が一番詳しい」という軸で動いています。

在職中の準備が「最初の収益」を左右する

顧問先の開拓は、名刺を配って待つものではありません。在職中から、SNSや社内勉強会で「労務・人事の専門家」として発信し続けることで、自然に相談が来るようになります。

開業後に顧問先が取れた社労士の多くは、「最初の依頼は元同僚・元取引先からだった」と言います。今の職場・業界のネットワークが、起業後の最初の資産になります。「将来の顧問先になりうる人」という目線で、在職中から関係を積んでおくことが、開業後の立ち上がりを変えます。

「まだ実力が足りない」と思っているうちに動かないのが、一番のリスクです。専門分野の軸を決めて小さな一歩を踏み出す準備を、在職中にしておくことが開業後の収益安定につながります。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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