不動産業で起業する手順|在職中の会社員が逆算で動く順序とは

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

不動産業で起業しようとする会社員の方が最初にぶつかるのは、宅建業免許や営業保証金、事務所要件といった「制度のハードル」です。

けれども国土交通省の令和6年度調査では、宅地建物取引業者数は132,291業者と11年連続で増加しています。免許も供託金も、あとから追いかければ間に合うのです。むしろ会社員のうちに先に決めておくべきは、「誰の、どんな悩みを、どの形で解くか」というたった1つの軸です。

本記事では、在職中の不動産業界経験者が独立に向けて踏むべき具体的な手順を、失敗パターンとあわせてお伝えします。

ポイント 不動産経験は「客の悩み」を読む武器になる

仲介・管理・営業の経験が独立後の差別化軸

不動産

不動産業界で働いてきた方は、自分のキャリアを「物件を案内できる人」「契約書を巻ける人」として捉えがちです。しかし会社員として現場に立ってきた経験のなかには、お客様自身が言語化できなかった迷いや不安に対する答えが大量に蓄積されています。それが起業時に効いてくるのです。

「名もなき強み」が現場の数だけ眠っている

たとえば賃貸仲介で年間100件以上の内見対応をしてきた方なら、「鍵の受け渡しでお客様が不安になる瞬間」「ペット可物件でオーナーが嫌がる属性」「単身女性が決断を躊躇する床材の質感」までを感覚で把握しています。これは資格保有者でも、現場を知らない人には絶対に書けない情報です。

拙著『起業神100則』に「名もなき強み」という考え方が出てきます。社内では当たり前すぎて誰も評価してくれない経験が、外に出ると指名される理由になるのです。

  • 内見時のヒアリングで掴んだ家族構成と動機の傾向
  • ローン審査が通りにくい属性と通すための逆算手順
  • オーナー目線の入居審査基準と空室リスクの読み方
  • 査定書には載らない「売主が手放したくなる時期」の勘所
  • 管理会社が嫌がるトラブル類型と未然防止の声かけ

これらは全部、起業するときの武器になります。新井が26年間で見てきた起業18フォーラム会員の不動産業出身者も、まずは自分の経験リストを書き出すところから始めています。

ポイント 在職中から動ける4つのステップ

免許申請より先に客を持つ逆算手順

不動産

不動産業特有のハードルは、店舗・免許・保証協会といった「箱と制度」にお金がかかる点です。だからこそ、ここに踏み込む前に客を持っておく順序が重要になります。

ステップ1:知り合い100人リストを書き出す

最初にやるのは営業電話でも広告出稿でもありません。手元のスマートフォンの連絡先・名刺フォルダ・SNSのつながりから、家を買いたい・売りたい・貸したい・借りたいと言いそうな知り合いを100人書き出す作業です。

リストを作っただけで「あ、あの人そろそろマイホーム検討してたな」と思い出せます。営業ではなく情報共有から始めるのが在職中の動き方です。

ステップ2:聞き取り20件で「悩みの正体」を掴む

リストの中から声をかけやすい20人に「いま住まいで困っていることありますか?」と聞いて回ります。仲介手数料や物件提案の話は一切しません。聞きたいのは、不動産業者に対する不満や、物件選びでつまずいた経験の生の声です。

ここで集めた言葉が、独立後の商品コピーやSNS発信のすべての土台になります。拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』にも、起業前のアイデア出しより在職中のヒアリングで集めた一次情報のほうが価値が高いと書かれています。

ステップ3:モニター案件を1件動かす

知人の中で本当に困っている方が見つかったら、無報酬または実費のみでサポートに入ります。物件探しの相談相手、売却査定の比較整理、契約書のリーガルチェック同行など、現職の業務範囲外で動ける役割は意外と多いものです。

ここで気をつけるのは「宅建業免許がないと仲介はできない」という線です。仲介手数料の受領や媒介契約の締結は無免許では絶対にやってはいけません。コンサルティングや情報整理、内見同行レベルにとどめます。

ステップ4:免許申請と保証協会加入は方向性が決まってから

ここまで来てはじめて、宅建業免許の申請に動きます。本店だけなら保証協会経由で弁済業務保証金分担金は60万円程度に抑えられ、入会金や諸経費を含めても150万円から200万円が目安です。営業保証金1,000万円を直接供託する道もありますが、起業初期はほとんどの方が保証協会ルートを選んでいます。

  • ステップ1:100人リストの書き出し
  • ステップ2:20件の聞き取り(手数料の話なし)
  • ステップ3:モニター案件1件をコンサル範囲で実施
  • ステップ4:方向性が固まってから免許申請と保証協会加入

順序を逆にして「先に免許を取ってから客を探す」と、月の事務所家賃と保証協会の年会費だけが減り続ける時期に耐えられず撤退する方が出てきます。

ポイント 経験タイプ別に逆算する起業の方向性

前職の現場が独立後の絞り込み軸になる

不動産

「不動産業で起業」と言っても、前職での担当領域によって独立後の最短ルートは大きく変わります。総合不動産として全部やろうとすると、結局どの分野でも指名されない人になります。

売買仲介経験者:紹介ネットワーク型へ

売買仲介を5年以上やってきた方は、過去の顧客の「次の引っ越し・住み替え」が確実にやってきます。退職時に名簿の引き継ぎはできませんが、在職中から個人の連絡先で年に数回の近況報告を続けて関係を切らさないのが鍵です。独立後は紹介中心で、広告費ゼロでも回す方がいます。

賃貸仲介経験者:エリア×属性のニッチ特化型へ

賃貸仲介出身の方は、特定エリアの賃料相場と物件特性が頭に入っています。ここに「単身女性×職住近接」「外国人留学生×保証会社対応」「ペット可×ファミリー」など属性軸を一本掛けるだけで、地場の大手チェーンが手を出しにくいニッチが生まれます。

管理会社経験者:オーナー伴走型へ

管理会社で空室対策やクレーム対応をしてきた方は、独立後にオーナー側の伴走者になる選択肢があります。仲介一回きりの収入ではなく、月額顧問料での収益構造に持ち込めるため、ストック型のビジネスとして安定しやすいのが特徴です。

買取再生経験者:小ロット案件特化型へ

買取再生の経験者は、大手が手を出さない「築古・再建築不可・狭小地」をピンポイントで仕入れて出口戦略を組める強みがあります。資金力では大手に勝てないので、自己資金を入れずに買主を先に決めてから動く逆順設計が必要です。

  • 売買仲介出身:紹介ネットワーク型
  • 賃貸仲介出身:エリア×属性のニッチ特化型
  • 管理会社出身:オーナー伴走型(顧問契約ストック)
  • 買取再生出身:小ロット出口先行型
  • 営業統括出身:他社営業マン向けコンサル型

起業18フォーラム会員のHさん(45歳・賃貸仲介10年)は、独立当初「売買も賃貸も管理も全部やる総合不動産」を掲げて半年間成約ゼロでした。そこから知人20人へのヒアリングをやり直し、「単身女性×ペット可×自転車置き場あり」の1軸に絞り込んだ結果、13ヶ月目で月45万円の継続収入に届いています。絞ることで指名される側に回ったのです。

ポイント 不動産起業でつまずく3つのパターン

固定費膨張・全方位対応・物件先行

不動産

11年連続で増えている宅建業者ですが、毎年およそ3,985件・全体の約3%が廃業届を出しているのも事実です(令和4年度・国土交通省)。失敗には共通の型があります。

パターン①:開業初月から路面店を借りる

不動産業の事務所要件は宅建業法で定められていますが、これは「独立性が確保された業務スペース」を意味し、必ずしも路面店である必要はありません。集客効果を狙って開業初月から月20万円の路面店を借りた方が、客足ゼロで半年保たずに撤退するケースを何度も見ています。

パターン②:全エリア・全種別を掲げる

「売買・賃貸・管理・コンサルなんでも対応」と謳う総合不動産は、お客様から見ると「結局この人は何屋さんなのか」がわからず、相談先として選ばれません。会員のSさん(38歳・売買仲介出身)も独立直後はこのパターンで3ヶ月成約ゼロでしたが、「都内中古マンション×共働き世帯」に絞った瞬間に紹介が回り始めています。

パターン③:物件先行で在庫リスクを抱える

買取再生に未経験で踏み込み、自己資金で物件を仕入れた瞬間に出口が見えなくなる失敗もよくあります。買主が決まらない物件は毎月の固定資産税と金利を吸い続ける負債です。最初の1件は必ず「買主が先に決まっている案件」だけに絞ります。

  • 路面店契約・専従スタッフ雇用の前倒し
  • 全エリア全種別の総合不動産路線
  • 買主未確定での物件先行仕入れ
  • 広告費先行投下による現金枯渇

独立直後は固定費を月5万円以下、商圏を半径3キロ以内、商品を1種類に絞るところから始めると、半年生き残る確率が大きく変わります。

ポイント 132,291業者の中で「指名される一人」になるために

在職中の時間が独立後の景色を決める

不動産

ここまで読んでくださった方は、不動産業で独立する道筋が「免許より先に客」「物件より先に絞り込み」の順序で見えてきたかと思います。132,291業者という数字に圧倒される必要はありません。指名されるのは、その地域の・その属性の・その悩みに最も詳しい一人だけだからです。

拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』にも書いていますが、起業準備に必要なのは知識・人脈・資金の3つのチカラのバランスです。在職中の方はすでに毎月の給与で資金面が安定しており、不動産業界での仕事を通じて知識も日々更新されています。残るのは、物件を介さない関係性で「あなたに相談したい」と言ってくれる人を増やす作業だけです。

物件を扱う仕事だからこそ、最初の一歩は「箱」ではなく「人」から。今日のうちに連絡先を100件書き出してみるところから、独立後の景色が変わり始めます。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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