親の介護が始まりそうな40代後半です。起業準備は今動くべき? それとも介護優先?

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

父が要介護一歩手前で、母も体力が落ちてきています。私は40代後半の会社員で、起業準備を昨年から少しずつ進めてきました。

介護が本格化する前に動くべきか、それとも一旦止めて介護を優先すべきか、判断がつかなくて手が止まっています。どう考えればよいでしょうか?

起業前質問集

● 回答

どちらかを選ぶ問いではなく、介護に充てる時間を先に区切ってから、残りの時間で起業準備を続ける順番にすると、手が止まりません。「介護が始まったら準備は中断」と思い込んでいる方が多いのですが、決め方を逆にすると、打ち手の順番が変わります。

起業18フォーラムに相談に来られる40代後半の方には、まず介護に充てる時間と期間の見込みを紙に書き出してもらいます。数字が出ると、残りの時間で何ができるかが見えてくるからです。

「介護優先か起業優先か」の二択を一度やめる

私のこれまでの起業支援の経験では、介護が見え始めた段階で起業準備を完全停止してしまった方ほど、介護が落ち着いたあとに再起動できずに数年を失っています。逆に、介護の時間を先に確定させた方は、残った時間が短くても、その短い時間で続ける覚悟が決まります。

総務省の「令和4年就業構造基本調査」では、働きながら介護をしている人は365万人に上ります。また、介護を理由に離職した人は年間10万6,000人に達しています。経済産業省も、仕事をしながら家族介護に関わる「ビジネスケアラー」を2030年時点で318万人規模と試算しています。定義は異なりますが、どちらも介護と仕事の両立が大きな社会課題になっていることを示しています。

「予算・期間・出口」を介護側で先に仮決めする

拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』では、起業準備を始めるときに「予算・期間・出口」の3点を仮で決めておくことを紹介しています。介護が見え始めた40代後半の場合は、この3点を起業側だけでなく介護側でも先に決めておくのが要点です。

  • 予算(介護に出せる時間の上限):
    平日は朝晩で合計1時間、休日は半日まで。これを超えそうなら介護サービスで補う、と先に決める
  • 期間(仮の見通し):
    要介護認定の状況によって変わるが、まずは次の半年間を区切りにして、半年ごとに見直す
  • 出口(どうなったら見直すか):
    親の介護度が変わったとき、自分の体力が落ちたとき、勤務先の働き方が変わったとき、の3点を見直しの合図にする

この3点を先に決めると、残った時間で起業準備に何時間使えるかが計算でき、無理な計画を立てずに済みます。

起業18フォーラム会員・古川さんの「時間の組み直し」

起業18フォーラム会員の古川さん(仮名・46歳・メーカー勤務・実家は新幹線で2時間)は、ちょうどあなたと同じ位置にいました。父親の物忘れが目立ち始め、母親もここ1年で体力が落ち、起業準備の手は完全に止まっていました。自己流で「介護が落ち着いてから本格化させよう」と決めたものの、いつ落ち着くか分からない不安で半年間動けずにいたそうです。

潮目が変わったのは、起業18フォーラムの個別相談で、介護想定の時間設計を組み直した日でした。担当者と一緒に「実家の往復に月どれだけ時間が要るか」「平日夜の電話相談で代替できる部分はどこか」を書き出し、介護側の上限を月40時間と仮置きしてみたのです。残った時間で起業準備にあてられるのは平日夜の30分と土曜午前の3時間、と数字が出ました。

同じころ、フォーラム内では古川さんより少し先を歩く50代の会員さんが、要介護2の母親を在宅で支えながら週末中心に小さな受注を継続している事例が共有されていました。古川さんは「自分が想像していた介護が始まったら全部止まる、というのは思い込みだったのかもしれない」と感じたそうです。年代も家族構成も近い人の実例を、フォーラム経由で聞けたことが大きかったと話していました。

そこから古川さんは、限られた時間で「単発で受けて終わり」ではなく小さな常連を増やす設計に切り替えました。最初の3か月で常連客が2件、半年で5件、現在は7か月目で月間の定期相談が9件に増えています。介護で実家に行く週末は受注を入れず、平日夜の30分でメッセージ対応だけ続ける運用に落ち着いたそうです。父親の状態は一進一退ですが、起業準備は止まっていません。

介護が本格化する前に「相談先」を1つ確保しておく

介護に直面したときの最初のつまずきは、どこに何を聞けばよいか分からないことです。親御さんがお住まいの地域の地域包括支援センターに、初回の相談を1件だけ申し込んでおいてください。厚生労働省の制度で設置されている公的な窓口で、相談は無料、まだ介護認定を受けていない段階でも使えます。

事前に1度連絡しておくと、いざ介護が本格化したときの動き出しが格段に早くなります。介護サービスの選択肢、ケアマネジャーの紹介、利用できる制度の説明まで、最初の方向づけを一気に聞けるからです。

ポイント よくある質問

介護と起業準備の両立で多い疑問と現場での回答

起業前質問集

Q.介護休業を取りながら起業準備を進めても問題ないですか?

介護休業は介護のための制度なので、起業準備のために取得するのは目的外利用にあたります。ただし、介護休業中に発生する空き時間で情報収集や勉強を進めるのは、目的に反しない範囲で可能です。判断に迷うときは、勤務先の人事担当に介護に関する書類整理や調べ物をしてよいかと聞いておくと安心です。

Q.親が遠方の場合、起業準備は不利になりますか?

移動時間が増えるぶん、可処分時間は確かに減ります。一方で、遠距離介護の方ほどオンラインで完結する仕事の設計に強くなる傾向があります。地域包括支援センターには遠距離介護家族向けの相談メニューを用意している自治体もあるので、初回相談で確認してみてください。

Q.要介護認定はまだですが、相談に行ってもよいですか?

はい、認定前でも相談できます。むしろこれから介護が始まりそうという段階で1度顔を出しておくほうが、本格化したときに動きやすくなります。担当地区の窓口を1度知っておくだけでも、心理的な負担は大きく下がります。

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ここまで親の状況と自分の時間を並べて考えてきた手応えは、地域包括の窓口で要点を一度に質問する場面で役に立ちます。次の一歩は、親の介護保険被保険者番号と直近の受診歴をA4一枚にまとめて、地域包括支援センターの相談予約を入れることです。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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