記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
会社を3か月ほど休職しています。適応障害の診断を受けて、いまは自宅で療養中です。医師からは復職の目安が見え始めたところで、産業医の面談も控えています。
同じ会社に戻る心づもりはあるのですが、「戻る前の助走の時期に、次に自分でできる仕事の芽だけでも作っておきたい」という気持ちが少しずつ出てきました。
復職前のこの時期に会社の外で稼ぐ準備を始めるとしたら、何をどの順番で進めればいいのでしょうか?

● 回答
まず、いま療養に集中されていること自体が、いちばん大事な下ごしらえです。そのうえで、復職前の助走時期に会社の外で稼ぐ準備を始めるかどうかを迷っているお気持ち、よくわかります。
起業の始め方は、いきなり大海原に出る航海ではなく、まず岸の近くで小舟を浮かべてみることに似ています。復職を前にした助走の時期は、その岸辺での小さな試しに向いた期間です。ただし、順序を間違えると復職そのものに響きます。
戻るための助走と、稼ぐための助走は、負荷のかけ方がまったく別物です。今日は、狩野さん(仮名)が戻る前の助走を進めた運び方をお伝えしながら、進める順序を整理していきます。
この記事でお伝えする順序
- ①主治医と産業医の意見を先に確認する:
体力の見立てと復職の負荷計画を、医療の窓口で先に共有する - ②就業規則で復職前の外部活動の扱いを確認する:
休職期間中の外部収入や兼業に関する規定を落ち着いて読み直す - ③「単価アップの3方向」で助走の中身を組み立てる:
今の職場と重ならない居場所と流通経路に、小さく試しを置く - ④無料の試験配信を1つだけ出してみる:
反応の有無より、続けられる形かどうかを自分の体で確かめる
先を急いで助走で崩した先輩の例
復職を控えた助走の時期に、いちばん多い失敗は「戻る前に成果を作っておこう」と前のめりになってしまうことです。以前フォーラムにいた会員さんで、復職の1か月前から週に30時間近く自主的な発信や制作に時間を割いてしまい、面談直前で体調を崩してしまった方がいました。
ここを取り違えると、療養で整えた土台を助走で使い切ってしまいます。助走の役割は、稼ぐことではなく、続けられる形を体で確かめることです。
主治医と産業医の意見を先に確認する
療養中の外部活動については、まず主治医の意見を聞くのが最初です。復職の見立てをどう置いているか、日常の中で使える負荷がどのくらいかを、診察の場で率直に聞いてみてください。主治医は日常生活の回復度から判断されるので、職場や外の活動でどれだけ動けるかは別の物差しです。
そのうえで、産業医の面談が控えているなら、「復職の準備として自分でできる範囲の作業を、どのくらいから始めていいか」を面談の議題に一つだけ入れておきます。
厚生労働省が公表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、主治医の日常生活の判断と、職場で必要とされる業務遂行能力の判断は別々に精査する必要があると整理されています。産業医は後者の見立ての専門家です。
就業規則で復職前の外部活動の扱いを確認する
復職前に会社の外で収入を作る動きは、就業規則との整合を必ず先に確認します。休職期間中の外部収入や兼業に関する条項が、会社によって異なるからです。
傷病手当金は「労務不能」が受給要件です。復職準備の一環でも、報酬を伴う外部活動を続ける場合は、就労可能性や収入の扱いによって支給額の調整、不支給、打切りにつながる可能性があります。動き始める前に、加入している保険者へ必ず事前確認してください。
確認しておく3点
- 就業規則の兼業条項:
「休職中」「復職前」の外部活動をどう扱っているか、条文の文言を一度確認する - 傷病手当金と外部収入の関係:
金額の多寡ではなく「収入があった事実を報告する義務」の有無を先に押さえる - 復職判定への影響:
外部活動を職場に伝えるべきか、伝えなくてよいかを、医療側にも一度相談する
「単価アップの3方向」で助走の中身を組み立てる
ここまでで前提が整ったら、いよいよ助走の中身の話です。拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』の”単価アップの3方向”という考え方(居場所・カテゴリ・経路を変える)に触れられています。同じ市場で正面から勝負するのではなく、居場所と流通経路をわずかにずらすことで、自分の負荷を下げながら新しい流れを作る、という考え方です。
復職前の助走にこそ、この「3方向のずらし」がよく効きます。今の職場と同じ領域で発信や受注を始めると、心理的にも法務的にも重なりが増えます。そうではなく、今の仕事の周辺で、まだ言葉になっていない小さな困りごとを、別の届け方で拾ってみる。これが助走の設計の中心になります。
狩野さんの職業で言えば、開発案件そのものを取りに行くのではなく、たとえば「開発者向けの朝の考えごとを、音声で短く配信する」といった、別の入口を先に置いてみる。同じスキルの土台を使いながら、届け方と居場所を変えるやり方です。
ずらし方の考え方
- 居場所をずらす:
今の会社の顧客層と重ならない場に、小さな出入り口を置く - 流通経路をずらす:
本業の販売チャネルとは別の届け方(配信・記事・単発の相談枠)を選ぶ - 時間帯をずらす:
療養中の体調に合う短い時間帯だけを使い、集中しすぎない
狩野さん(仮名)が助走の2年目までに歩いた道
ここからは、狩野さんの許可を得て、時系列で運び方をお伝えします。細部はぼかしています。
狩野さんは41歳・システム開発職の男性で、適応障害の診断を受けて3か月の休職に入っていました。休職の中盤で復職の見立てが少しずつ立ち始めたころ、「戻ってからも自分の逃げ道を一つ持っておきたい」という気持ちが出てきたそうです。ただ、最初は書店で見かけた起業本を読んでは、「今の状態でこれをやったら潰れる」と感じて、本を閉じることが続いたと話していました。
道が見え始めたのは、療養中に自宅で書き続けていた「今日の体調と、その日の考えごと」のメモを、2か月ぶんまとめて読み返した日でした。日々の観察の中に、同じ職種の方が言葉にできずに困っている場面が繰り返し出てきていたのです。
そのあと、狩野さんは起業18フォーラムの勉強会にオンラインで参加を始めました。復職と両立している他会員の事例に触れるうちに、「復職前の助走に向いた運び方」と「復職後にペースを上げる運び方」を、自分の中で分けて考えられるようになったそうです。とくに、拙著の「単価アップの3方向」の話が勉強会で取り上げられた回で、「同じスキルを、別の届け方で出してみる」という視点が腹に落ちたと話していました。
狩野さんが最初に出したのは、有料の商品ではなく、無料の音声試験配信でした。週に1本、10分だけ。復職して半年経ったころ、その配信の聞き手から「開発現場での相談を、単発で受けてもらえないか」という声がかかり、そこから1件1万円の相談枠が始まりました。件数は月に2件からのスタートでした。
22か月目には、単価が1件2万円に上がり、件数も月に5件まで積み上がっていました。復職した勤務先での仕事は続けたまま、月の外の収入は約10万円で落ち着いています。この間、勉強会で耳にした事例共有が、体調に合わせて配信の頻度を調整する判断材料になったそうです。
狩野さんの助走を支えたもの
今日から動かせる小さな一歩
ここまでの話を、復職前のいまのあなたに合わせて縮めます。最初にやるのは、有料の商品を作ることではありません。無料の試験配信を、1つだけ出してみることです。
商品が固まっていなくても構いません。テスト配信の告知を1本だけ出してみて、そこで自分の体調がどう反応するかを見ます。反応が誰から来なくても、それも立派なデータです。聞き手の数より、自分の体が続けられそうかどうかを、まずいちばんに観察してみてください。
配信の中身に迷ったら、今日までの療養中に「これは他の同業者も困っているだろうな」と感じた場面を、一つ思い出してみます。そこが最初の試験配信の題材になります。
厚生労働省の令和6年労働安全衛生調査によると、メンタルヘルス不調で連続1か月以上休業または退職した労働者がいた事業所は12.8%にのぼり、復職と外の助走を両立させる働き方の設計は、多くの現場で共通の関心事になっています。

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