記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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柔道整復師として臨床に立っているあなたが「いずれ独立して接骨院を持ちたい」と考えているなら、店舗を借りる前にひとつだけ確認してほしいことがあります。
厚生労働省「令和4年衛生行政報告例」によると、就業柔道整復師は78,827人、施術所は50,919か所。整骨院・接骨院の倒産は2024年で47件と集計が始まって以来の高水準で、保険請求だけで食べていける時代は静かに終わりつつあります。
大事なのは「どこに店を構えるか」より「自分の手と知識で何をどう売るか」のほうです。会社員的な働き方をしている勤務柔整師さんであれば、在職中の今こそ、リスクを抑えて起業の地ならしを始められる絶好のタイミングなのです。
柔道整復師の経験が「起業の商品」になる理由

勤務先の接骨院でカルテを書き、保険請求のレセプトを作り、患者さんの主訴を聞き分け、再来につなげる。日々こなしている業務は、独立後そのまま「商品」に変わる素材のかたまりです。本人は気づきにくい、いわゆる名もなき強みのことです。
手技だけが商品ではない
柔整学校で教わるのは骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷の徒手整復と固定。けれども患者さんが繰り返し通ってくれる理由は、必ずしも技術の上手さではありません。痛みの説明のわかりやすさ、再発予防のアドバイス、復帰までの目安をきちんと言語化する力。これらはあなたが現場で何百例と積み上げてきた、目に見えない資産なのです。
手技より「説明力」と「再現性」のほうが、独立後の単価を決めます。
- カルテ記載で鍛えた症状の言語化スキル
- レセプト作成で身についた医療事務リテラシー
- 患者さんへの説明と再発予防の指導経験
- スポーツ現場で培ったテーピング・コンディショニング判断
- 勤務先で見てきた「リピートする人・しない人」の差
これらは全部、起業後の値付け根拠になります。技術料そのものではなく、「説明と判断のクオリティ」を売るという発想に切り替わると、保険点数の枠から自由になれるのです。
業界の数字が告げているもの
就業柔道整復師は2022年末で78,827人。施術所数は50,919か所、わずか2024年の1年間で増えたのは8件と頭打ちで、新規開業よりも閉院・廃業のほうが目立つ局面に入っています(東京商工リサーチ)。さらに第34回国家試験(令和8年3月実施)では合格者3,170人が新たに加わりました。
このデータが示すのは、「資格を持っているだけでは差別化にならない」ということです。逆に言えば、勤務時代に積んだ症例経験と再現性のある説明スタイルが、ますます貴重な武器になっていきます。
在職中から動ける起業準備の4ステップ

独立を決意した瞬間に退職届を出すのは、リスクの取り方として最も雑なやり方です。在職中だからこそ整えられる土台がいくつもあります。
ステップ1:施術管理者要件を見落とさない
2018年4月から、受領委任払い(保険請求)を扱う施術管理者になるには、実務経験プラス2日間の施術管理者研修の受講が義務化されています。実務経験の年数も段階的に引き上げられていて、最新の要件では3年以上の勤務が標準です。
「独立前にこの要件を満たしているか」を、まず一度確認してください。要件を満たしていなければ、いくら開業準備が進んでも保険請求はできません。
ステップ2:保険売上に頼らない収益モデルを試す
勤務時代に多い誤解は「独立=保険でレセプト枚数を稼ぐ」という発想です。これがいま最も危ない設計です。慢性症状への保険請求が引き締められた結果、「保険で回す」ビジネスモデル自体が壊れ始めています。
在職中にやるべきは、自費メニューを小さく試すこと。出張トレーナーで月1〜2件、休日にスポーツ大会の救護で謝礼を受け取る、家族や知人にコンディショニング指導をして対価を取る、など。最初の1円を保険外で稼ぐ経験が、独立後のメニュー設計の核になるのです。
- 休日のスポーツ大会救護・帯同(1日単位)
- パーソナルトレーナーへのコンディショニング情報提供
- 地域の中高運動部への外部コーチ的アドバイザー
- 知人・家族への姿勢分析・施術アドバイス(謝礼ベース)
- SNSでのストレッチ動画・ケアコラムの発信
ステップ3:勤務先の就業規則を冷静に読む
勤務柔整師さんが見落としがちなのが、所属している接骨院・整骨院の就業規則や雇用契約の競業避止条項です。特に「同一商圏での開業を○年制限する」という条項が紛れていることがあります。
これは退職後のトラブル要因になりやすく、店舗物件の検討より先に確認すべきポイントです。曖昧な口約束ではなく、書面での合意状況を一度棚卸ししてください。
ステップ4:開業形態を「店舗ありき」で決めない
柔道整復師の独立というと反射的に「テナントを借りて接骨院を構える」がイメージされがちです。けれど初期費用1,000万円超の店舗開業は、数あるカタチの1つにすぎません。
出張専門、間借り、シェアサロン、訪問施術、企業向け健康支援、オンライン指導。在職中に試した収益モデルが軌道に乗ったら、その延長線上に最適な形態が見えてきます。順序を逆にしないことが大事なのです。
接骨院だけじゃない、柔道整復師の起業アイデア

独立の出口は「保険を扱う接骨院」だけではありません。むしろ拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』に出てくるストック思考とフロー思考の話で言えば、保険請求は典型的な「フロー」の収入で、患者さんが来なくなれば一気に細る性質を持ちます。
柔道整復師として独立するなら、保険のフロー以外に、自分の知見が積み上がっていく「ストック」のフローも同時に育てる発想が要ります。
経験別・起業アイデアの逆算
- スポーツ現場経験が長い人:チーム帯同・選手向けコンディショニング契約・遠征帯同
- 機能訓練の経験がある人:介護施設での機能訓練指導員・自費リハビリ
- 女性スタッフが多い職場経験:マタニティ・産後ケア・骨盤調整の自費サロン
- 整体・カイロも併修した人:自費専門のコンディショニングルーム
- 説明・教育が得意な人:トレーナー養成講座・腰痛改善オンライン講座
- 事務・経理に強い人:他院向けレセプト代行・経営アドバイス
どれも勤務時代の延長線上にあるアイデアばかりです。新しいスキルを取りに行く必要はなく、自分の経験のどこを商品化するかを決めるだけ。独立とは「持っているものを並べ替えるだけ」と捉え直すと、急にハードルが下がるのです。
フロー収入とストック収入を同時に育てる
たとえば訪問施術(フロー)を主軸にしつつ、ストレッチ動画のオンラインプログラム(ストック)を販売します。スポーツ大会の救護(フロー)で得た知見を、選手向けコンディショニング講座(ストック)にしていきます。
フロー1本では時間と体力が天井を決めますが、ストックを並走させると稼ぎ方が立体になっていきます。これは特定の人にしかできない話ではなく、勤務時代の経験を素直に並べると自然に出てくる組み合わせです。
柔道整復師が起業で陥りやすい失敗パターン

26年の現場で、勤務柔整師さんから独立した方の相談に何度も乗ってきました。失敗の中身はかなり共通しています。
よくある失敗1:保険請求の引き締めを甘く見る
慢性的な肩こり・腰痛への保険適用が認められないことは制度上明確ですが、勤務時代の習慣でつい同じ書き方を続けてしまい、返戻の山になるケース。「以前の職場ではこれで通っていた」という言い分は、独立後は通用しません。
よくある失敗2:物件先行で借入を膨らます
「広い物件のほうが将来分院化できる」「内装にこだわらないと差別化できない」という思い込みで、開業初月から固定費に追われるパターン。家賃・人件費・物療機器のリースが先に積み上がると、自費メニューを試す余白が消えます。これは廃業に直結する設計ミスです。
- 「保険で月100万円」を前提にした収支計画
- 勤務時代の患者を前提にした商圏設計
- 同業の勧誘で言われるままの物療機器導入
- 1か月以内のオープンを急ぐ前のめりスケジュール
- 家族・配偶者への説明を後回しにした開業準備
よくある失敗3:「人を雇わないと回らない」の罠
1人開業のつもりが、受付・施術助手・隣で別メニューを担当する整体師まで雇って、結果として人件費に縛られて自分の選択肢が狭まります。独立初年度は「自分が動かなくても回る仕組み」より「自分の判断で組み替えられる小ささ」のほうが大事です。これは順番を間違えやすいところなのです。
「保険を回す」発想から抜けたとき、独立は静かに動き出す
柔道整復師の独立は、店舗を借りた瞬間に始まるものではありません。在職中に自費で1円を稼げた経験、自分の言葉で施術を説明できた経験、保険外で来てくれる人を1人見つけた経験。これらが積み重なったときに、はじめて「店舗を持つかどうか」を冷静に判断できるようになります。
厚生労働省の統計が告げているのは、業界の頭打ちでも淘汰でもなく、「資格と勤続だけで成立する時代の終わり」です。逆に、自分の経験を商品として並べ替える力さえあれば、勤務柔整師さんが独立で食べていく道は十分に残されています。
大切なのは、いきなり大きな店舗を構えることではなく、今日の臨床で患者さんに伝えた一言、書いたカルテ一枚、組み立てた施術プランの一つひとつを、自分の商品として再定義することです。
起業18フォーラムにも、勤務柔整師として10年以上勤めた後に在職中から自費メニューを試し、無理のない形で独立した会員さんが何人もいます。一気に全部を変えるのではなく、保険のフローと自費のストックを一本ずつ育てていく。その積み重ねの先に、自分らしい施術所のかたちが見えてきます。

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