壱岐島での起業と移住|麦焼酎の島で会社員から始める手順

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

「やっぱり都会のほうが起業に有利でしょう」とよく聞かれます。26年、起業準備のお手伝いをしてきた立場から言うと、それは半分しか当たっていません。

壱岐のように人口2万人台の離島だと、「この島で起業の準備なんてできるのか」という不安のほうが先に立つかもしれません。お客さんの数も、相談できる相手も、都会より少ないのは事実です。けれど私自身、地方や離島から動き出した方を何人も見てきて、島という条件は不利な点ばかりではない、とむしろ感じています。

とはいえ、お客さんも相談相手も少ない島で、やみくもに動いても空回りします。大切なのは、補助金や移住の制度に飛びつく前に、島の特産や交通という前提を押さえ、何を売るかを先に決めてから準備の順番を踏むことです。そのうえで制度を道具として使えば、同じ支援でもぐっと活きてきます。

ポイント 博多港から船で通える、壱岐という島の前提

壱岐とはどんな島?

壱岐

起業の話に入る前に、壱岐がどういう場所かを数字で押さえておきます。ここが曖昧なままだと、何を売るかの判断もぶれてしまうからです。

壱岐市は長崎県に属する離島です。人口は2024年(令和6年)1月1日時点で24,251人(外国人を除く・総務省統計局の住民基本台帳ベース)で、前年から2.4%減っています。65歳以上が39.2%を占め、人口減と高齢化が同時に進む、典型的な離島の人口構成です。この事実は重いのですが、裏を返せば「島の暮らしを支える担い手が足りていない」ということでもあります。

交通は、福岡の博多港からの船が中心です。ジェットフォイル(高速船)で約1時間10分、車も載せられるフェリーで2時間強。到着する港は便によって郷ノ浦港・芦辺港・印通寺港のいずれかに分かれます。博多港から約1時間10分という距離は、離島のなかでは近い部類に入ります。福岡で働きながら週末に通う、という関わり方が現実的に成り立つ近さです。

そして壱岐は、産業の資源が豊かな島です。海では新鮮なうにやイカ、陸では壱岐牛。さらに壱岐は麦焼酎発祥の地とされています。1995年、WTO・TRIPS協定に基づき国税庁長官が「壱岐焼酎」を地理的表示(GI)の産地に指定しました(球磨・琉球とともに最初の指定です)。米麹と大麦を1対2で仕込む独特の製法で、国が定めた地理的表示を持つ島なのです。

漁業・農業・観光・焼酎という、それぞれに固有名がある資源がそろっている。起業の文脈で見ると、これは大きな手がかりになります。

ポイント 島の支援制度は「方向が決まってから使う道具」

補助金より先に何を売るかを固める、その順番が大事

壱岐

離島の起業を調べると、補助金や移住支援金の情報がたくさん出てきます。これらは確かに心強い制度です。ただ、順番を間違えると効果が出ません。

壱岐市にも、創業相談の窓口や移住に関する支援があります。離島ならではの支援策が用意されている年度もあります。こうした制度は、年度ごとに上限額や対象条件が変わるので、最新の内容は必ず市の公式情報で確かめてください。ここで大事なのは、補助金や支援制度は「何を売るか」が固まったあとに使う道具だ、ということです。

方向が決まっていない段階で窓口に相談に行っても、担当の方も具体的な助言がしにくいものです。「島で何かやりたい」だけでは、どの制度が合うかも絞れません。だからこそ、まず自分の事業の輪郭を描くことが先で、制度はそのあとに合わせていく。順番を守るだけで、同じ制度がぐっと使いやすくなります。

ポイント 壱岐で会社の外の人が始めやすい事業の見つけ方

島の資源と自分のスキルを掛け合わせる発想

壱岐

では、壱岐で何を売るか。島の資源と、自分がこれまでの仕事で培ったスキルを掛け合わせる方向で考えると、現実的な候補が見えてきます。

島の資源を「島の外」に届ける仕事

壱岐焼酎、うに、壱岐牛といった特産品は、島に来た観光客には届きます。けれど、その多くは一度きりの接点で終わってしまいがちです。ここに、勤め先で身につけたスキルが入る余地があります。商品の魅力を文章や写真で伝える、ネットの通販ページを整える、島外の人に向けて発信を続ける。こうした仕事は、生産そのものをしていなくても担えます。

  • 地場産品のオンライン販売支援:
    壱岐焼酎やうに、壱岐牛などの生産者と組み、商品ページや発送の仕組みを整える仕事。生産者は作るのが本業で、売り方の整備まで手が回らないことが多いです。
  • 島のコンテンツ発信:
    島の暮らしや食、季節の景色を、島外の人に向けて継続的に発信する仕事。関係人口を増やす入口になります。
  • 観光客向けの体験づくり:
    神社めぐりや漁業体験など、壱岐ならではの時間を、来訪者に届ける形に整える仕事。
いきなり移住せず「通い」から関わる

博多港から約1時間10分という近さは、関わり方の選択肢を広げてくれます。最初から島に移り住むのではなく、福岡などで働きながら週末に壱岐へ通い、関係人口として準備を進める。この入り方なら、収入を保ったまま島での事業の芽を試せます。

拙著『朝晩30分 好きなことで起業する』では、好きなことを発信し続ける大切さを紹介しています。ブログは書いた内容がネットの世界に半永久的に残り続けるストック型のメディアだ、という言葉が出てきます。好きの一部を切り出して、決まった場所で出し続ける。この「定点発信」が、島の外にいる人との細く長いつながりを育てます。週末しか島に行けなくても、発信そのものは平日の朝晩30分でも積み上げられます。

ポイント 壱岐のような離島で、起業準備はどう進めるのか

観光客の一度きりを、島外の常連に変えていく発想

壱岐

離島で事業を始める方によく起きるのは、観光シーズンの売上に頼りすぎて、シーズンが終わると一気に細くなるパターンです。来た人に売るだけだと、どうしても波が大きくなります。

たとえば壱岐で、40代・食品関連の勤務経験がある方が、島の特産品を扱う事業を考えたとします。最初は観光客向けに島で直接売る形から入りますが、来島者の数に売上が左右され、閑散期には手応えが消えてしまう。一度きりの接点ばかりで、リピーターが積み上がっていかないのです。この「観光客の一度きり」で止まる構図は、離島の起業でとてもよく見かけます。

こうした方が流れを変えるきっかけは、たいてい外からの問いかけです。たとえば起業18フォーラムの勉強会で、ほかの会員から売り方を問われ、「観光客にその場で渡すことしか考えていなかった」と気づく。来島した人に売って終わりにせず、帰ったあとも壱岐焼酎やうにを定期的に取り寄せてもらう道がある。そうやって視点が変わっていきます。観光客を「一度きりの客」から「島外の常連」に変えていく発想です。

壱岐

そこからは、勉強会の仲間に試作の通販ページや同梱の手紙を見てもらいながら、どの特産を主役にするか、リピートにつなげるために何を伝えるかを絞っていく。島での直売と、帰宅後に続く通販をつなぐ設計を、一人で抱えず人の目を借りて組み直していきます。

この進め方がはまると、移住して三年目あたりには、売上の柱が観光シーズンの直売から、島外のリピーターによる通販へと移っていきます。直売だけだった頃は繁忙期に月20万円、閑散期はほぼゼロという落差になりがちですが、定期注文の常連が育つにつれて、年間を通して月12万円前後が読める形に近づいていきます。

観光の波に左右される直売の山と谷より、年間を通して積み上がる定期注文のほうが、島で事業を続けていくうえでは計算が立ちます。

ここで効くのは、特別な才能ではありません。島の資源を、帰ったあとも続く形で届け直すこと。そして、その整理を一人で抱え込まず、学びの場で他の人の事例と突き合わせることです。

ポイント 壱岐で起業を考える人が、今日できること

通いから始め、方向を固めてから島の制度を使う

point

壱岐での起業は、「島に移り住んで一発勝負」ではありません。博多港から約1時間10分という近さを活かして、勤めているうちから関係人口として関わり、何を売るかを固めてから島の制度を使う。この順番で進めれば、収入を保ったまま準備ができます。

進め方を整理すると、まず起業18フォーラムの動画やセミナーで「自分は島の何を、誰に届けるのか」という事業の輪郭をつかみます。方向が見えてきたら、壱岐市の創業相談や移住支援の窓口を使い、関係人口・二拠点という形から段階的に島との距離を縮めていく。一気に移住せず、お試し移住や期間限定の滞在を挟むのも、離島では現実的な選択です。

動き出すなら、壱岐市の商工振興課か壱岐市商工会の創業相談窓口に「島で足りていない仕事は何ですか」と一度問い合わせてみてください。地元ならではの困りごとが、そのままあなたの事業の種になることがあります。

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壱岐という地名を冠した自分の屋号は、会社の名刺と違って、辞めても異動しても手元に残ります。最初の一歩は、窓口に島の困りごとを一つ聞きにいくことです。

ポイント 壱岐での起業に関するよくある質問

壱岐での起業準備で迷いやすい点への回答をまとめます

起業前質問集

Q.壱岐に住んでいなくても、起業の準備は始められますか?

始められます。博多港からジェットフォイルで約1時間10分という近さなので、福岡などで働きながら週末に通い、関係人口として準備を進める方法が現実的です。発信や商品ページづくりは島の外にいてもできるので、収入を保ったまま事業の芽を試せます。

Q.壱岐の特産品を扱う事業は、未経験でも参入できますか?

生産そのものではなく、売り方や発信の整備から入る道があります。壱岐焼酎やうに、壱岐牛といった資源を持つ生産者は、作るのが本業で売る仕組みまで手が回らないことが多いです。これまでの仕事で培った文章・販促・ネットのスキルが、そこで活きます。

Q.離島だと、補助金や支援制度は受けられますか?

壱岐市にも創業相談の窓口や移住に関する支援があります。ただし上限額や対象条件は年度ごとに変わるため、最新の内容は市の公式情報で確認してください。制度は「何を売るか」が固まってから使うと効果が出やすいので、まず事業の方向を決めることを先にするのがおすすめです。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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