記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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取引先とメールでやりとりした注文書や請求書を紙に印刷して綴じておく保管のしかたは、令和6年(2024年)1月から税務のうえでは原則として通らなくなりました。クラウドサインは弁護士ドットコム株式会社が運営する電子契約サービスで、料金を払うのは送る側だけ、受け取る側はアカウント登録も費用もいりません。
無料のプランでも月2件まで送れるので、印鑑も郵送もなしで、初めて受けた仕事を書面に残すところから試せます。
個人で頼まれごとを受け始めた人からよく聞くのは、「契約書を出したら相手が身構えてしまいそうで、言い出せない」という話です。ただ、金額と納期だけの口約束で困るのは、修正が何度も続いたときと入金が遅れたときです。
口約束のまま進んだ仕事で何が起きるか

受注のときにやりとりした記録は、メール本文と電話の会話しか残っていません。この状態でつまずくのは、だいたい次の3つの場面です。
- 修正が止まらない:
「もう一回だけ直して」が4回目、5回目まで重なる展開。何回までと決めていないので、断る根拠が手元にない状況。 - 頼まれごとの範囲がふくらむ:
最初は文章だけの依頼だったのに、写真の差し替えや図の作成まで頼まれる流れ。追加料金を切り出せないまま作業だけが増える形。 - 入金の時期が読めない:
「今月末で大丈夫です」が翌々月までずれ込むケース。いつまでに払うと決めた記録がなく、催促が「お願い」になる構図。
どれも相手が意地悪をしたわけではありません。決めていなかっただけです。そして決めていないことは、あとから決め直そうとすると必ず角が立ちます。だからこそ、受ける前に1枚残しておく形が要ります。
クラウドサインは何をするサービスか

やることは3つだけです。合意書のPDFをアップロードし、相手のメールアドレスを入力して、送信ボタンを押します。相手には確認依頼のメールが届き、リンクを開いて内容を読み、同意のボタンを押せば締結です。押印も返送もありません。
気になるのは「これで法律上の効力はあるのか」というところでしょう。電子署名法第3条は、本人による電子署名が行われている電磁的記録について、真正に成立したものと推定すると定めています。クラウドサインのようにサービス事業者が利用者の指示で署名する型についても、利用者の意思に基づくことが明らかで、認証の固有性など一定の要件を満たす場合には、この推定が働くと整理されています。
費用の面でも紙とは違いが出ます。印紙税法の課税対象は「文書」に限られていて、そこに電磁的記録は含まれません。
電磁的記録として作成・送信した契約書に収入印紙が不要であることは、2005年3月15日の参議院答弁で示された整理です。金額の大きい請負契約ほど、この差は大きくなります。
料金がかかるのは送る側だけ

クラウドサイン公式サイトの料金ページで確認できるプランは、次の通りです(2026年7月時点・金額はいずれも税別)。
- Freeプラン:
月額0円で、送信は月2件まで、使えるのは1人。基本の電子署名とタイムスタンプ付き。 - Lightプラン:
月額11,000円に、送信1件あたり220円が加算。ユーザー数と書類数の上限なし。 - Corporateプラン:
月額28,000円に、送信1件あたり220円。承認権限などの管理機能が追加。 - Business・Enterpriseプラン:
料金は問い合わせ。送信件数が多い場合はボリュームディスカウントの相談も可能。
押さえておきたいのは、この料金がすべて送る側の負担だという点です。通常の送受信なら、受け取る側はクラウドサインを契約している必要がありません。アカウント登録をしなくても、利用規約に同意したうえで書類の確認と同意ができます。相手にアカウントを作らせず、費用も負担させずに合意の記録を残せる点が、個人で受ける仕事ではいちばん効いてきます。
「契約書を送りますね」が言い出しにくいのは、相手に手間をかけさせる後ろめたさがあるからです。その手間がメールを開いてボタンを押すだけなら、切り出し方も変わります。
初めての1件を送るまでの手順

実際の流れは、身構えるほど複雑ではありません。
- 1.無料プランに登録する:
メールアドレスと氏名、屋号があれば屋号を入力。法人でなくても登録は可能。 - 2.合意書をPDFで用意する:
Wordで作ってPDFに書き出せば十分。1枚に収まる分量で問題なし。 - 3.相手の宛先と署名欄を指定する:
画面上でPDFの署名欄の位置を決め、相手のメールアドレスを入力。宛先が複数でも流れは同じ。 - 4.送信して同意を待つ:
相手が同意すると締結済みのPDFが両者に届く仕組み。あとは自分の側で保存。
締結したPDFの保管には、注意しておきたい点があります。電子帳簿保存法では、令和6年1月以降に電子で授受した取引情報を、原則として電子データのまま保存することが義務づけられています。個人事業者も対象です。印刷して紙で綴じるだけの保管では要件を満たしません。
ただし、所轄税務署長が相当の理由があると認める場合には猶予措置があります。また、基準期間(個人事業者は前々年)の売上高が5,000万円以下で、税務職員のダウンロードの求めに応じられるようにしていれば、検索要件は不要です。電子契約なら締結済みPDFがサービス上に残るので、保存し忘れは起きにくくなります。
紙とメールと電子契約を並べて比べる

個人で受ける仕事で使われている手段は、実質3つです。
| 手段 | 相手にかかる手間 | 手元に残るもの | 費用 |
|---|---|---|---|
| 紙の契約書 | 印刷・押印・返送で往復1週間ほど | 紙の原本。保管場所が要る | 郵送代と印紙代 |
| メールのやりとりだけ | ほぼなし。返信するだけ | 散らばった文面。合意の範囲があいまい | 0円 |
| 電子契約(クラウドサイン) | 届いたリンクを開いて同意ボタン | 締結済みPDFと同意の記録 | 送る側だけ負担 |
メールが手軽なのは間違いありません。ただし、どこまでが合意でどこからが追加なのかを、あとから文面を掘り返して探すことになります。相手の手間はメールとほとんど変わらないのに、範囲だけははっきり残ります。電子契約を選ぶ理由はここに尽きます。
契約書に書くことは起業の設計図で決まる

ひな型を探し回る前に、決めるべきことのほうを先に固めます。拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』の第2章で、起業の設計図として9項目を紹介しています。困っている人/何を/どうやって/いつ/いくらで/選ばれる理由/ビフォー/アフター/根拠の9つです。
このうち4つは、そのまま合意書の項目になります。
設計図の4項目を合意書に移す
「何を」は業務の範囲です。文章の作成までなのか、写真の選定まで含むのか。「どうやって」は納品の形と修正回数を指します。「いつ」は納期と支払期日の両方です。「いくらで」は金額と、範囲を超えたときの追加費用の単価にあたります。この4つが書いてあれば、先ほど挙げた3つの詰まりはほとんど起きません。
送信ボタンを押す前に、範囲・修正回数・支払期日・追加費用の単価という4点が書き込まれているかだけ確かめてください。逆に言えば、この4点が決まっていない依頼は、まだ受けるべきではありません。
合意書を送るようにしてから受注が変わった瀬川さんの話

起業18フォーラムの会員さんに、瀬川さんという30代前半の方がいます。工務店で工程管理の補助を担当していて、職人さんとの段取りを毎日詰めている人でした。その瀬川さんが、知り合いのリフォーム会社から施工事例ページの文章を頼まれたのが始まりです。
最初の依頼は「一式で3万円」の口約束でした。本業では着工前に工程と担当範囲を細かく詰めているのに、自分が受けた仕事の条件はメールに数行あるだけでした。写真の差し替えと文言の直しが何度も重なり、同じ条件の依頼が続いた月は、実働で割ると時給が千円を割り込みました。
気持ちが切り替わったのは、割に合わなかった月の内訳を書き出したときです。相手が無理を言ったのではなく、範囲と回数を決めずに受けた自分の側に原因がありました。そう整理がついた、と本人は話していました。
そこで瀬川さんは、起業18フォーラムの勉強会で受注の進め方を扱った回に出ました。ほかの会員さんが実際に使っている見積書と発注書のやりとりを見て、足りていないのは書類の体裁ではなく「送る前に決めておく」という順番だと分かったそうです。
それから範囲・修正回数・支払期日を書いた1枚の合意書を作り、クラウドサインで送るようにしました。相手には「印鑑もいらないので、届いたメールのボタンだけ押してください」と添えたそうです。いまのところ断られていません。
以前は月に1〜2件だった受注が、いまは月6件前後で落ち着いています。単価が跳ね上がったわけではありません。変わったのは、条件を確認する往復がなくなったぶん、次の依頼をすぐ受けられるようになったところです。取引先から別のリフォーム会社を紹介されることも出てきました。段取りを先に詰めるという本業の習慣が、ようやく自分の仕事にも活きた形です。
もっとも、条件の線引きそのものに迷いがあるなら、書面の前に「受けるかどうか」を決める段階でつまずいています。断り方から逆算して考える手もあります。

よくある質問

Q.相手がクラウドサインを使っていなくても契約できますか?
できます。受け取る側はアカウント登録をしなくても、利用規約に同意したうえで書類の確認と同意ができます。費用の負担もありません。相手にお願いするのは、届いたメールのリンクを開いて内容を読み、同意のボタンを押すところまでです。
Q.無料プランだけで足りますか?
受注が月2件までなら足ります。Freeプランは送信が月2件・利用者1人という制限ですが、基本の電子署名とタイムスタンプは付いています。件数が増えたら、月額11,000円のLightプランに送信1件あたり220円が加わる形になります(いずれも税別)。まずは無料で送り方を覚えてから判断して構いません。
Q.電子契約に収入印紙は必要ですか?
不要です。印紙税法の課税対象は「文書」であり、電磁的記録として作成・送信した契約書は課税文書に当たらないという整理が示されています。ただし、締結後にプリントアウトして紙の原本として相手に交付すると、その紙が課税文書になり得ます。電子で完結させることが前提です。
Q.紙で受け取った契約書はどう保管すればいいですか?
紙でやりとりしたものは紙のまま保管して構いません。義務が生じるのは電子で授受した取引情報のほうです。国税庁の解説によれば、令和6年1月以降に電子で受け取った注文書・請求書・契約書などは、原則として電子データのまま保存することが求められています。紙と電子が混ざっているなら、どちらの経路で受け取ったかで分けて管理してください。
今日からできること

ひな型を集めることから始めなくて構いません。次に受ける1件のために、範囲と修正回数と支払期日を書いた1枚をPDFにして、無料プランから送ってみてください。相手がどんな顔で受け取るかは、送ってみて初めて分かります。
断られたらどうしよう、と考えている間は動けません。実際には「助かります」と返ってきたケースもあります。相手にとっても、どこまでが依頼の範囲なのかがはっきりするほうが安心だからです。
外で受けた仕事を長く続けている人には、腕前よりも先に、合意を記録として残す習慣がありました。会員さんを見ていても、そこが分かれ目になっていると感じます。まずは目の前の1件から、その形に変えてみてください。
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