脱サラの「廃業率が高い」は本当か?|白書の数字と続く準備の設計

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

「脱サラは廃業率が高いから危ない」。この一言で足が止まってしまう方は少なくありません。中小企業庁の2025年版中小企業白書では2023年度の開業率・廃業率がともに3.9%、2023年版では企業データベース上の設立5年後の生存率が80.7%でした。ただし、二つは母集団も期間も異なり、個人の脱サラ後をそのまま予測する数字ではありません。

ここでは、相談の現場で見られる「廃業率の数字を怖がって止まる人ほど、続く準備の設計を後回しにしている」という傾向を踏まえます。噂の数字と実測値のズレを整理し、脱サラをつぶさないための順番を書いていきます。

ポイント 脱サラの「廃業率が高い」は本当か

噂の数字と実測値のあいだにあるズレの整理

会社員不安

脱サラを検索したときに最初に目に入るのが、「10年で9割が廃業する」「5年で6割が消える」という強い数字です。実際にこの数字を根拠に動けなくなっている方は、勤め先の早期退職募集の発表が続くいまの環境でも珍しくありません。

ただ、その数字の出どころを一度たどってみると、印象と実測値のあいだに大きなズレがあります。ここは一度、根拠を自分の目で確かめる価値があります。

中小企業庁の2025年版中小企業白書(第8節・開業、倒産・休廃業)では、2023年度の開業率は3.9%、廃業率も3.9%と報告されています。この指標は雇用保険の適用事業所を基にしており、従業員を雇わない個人事業などをすべて含む統計ではありません。「10年で9割」という出所や算定方法が示されない数字とも、期間・母集団が違うため単純には比較できません。

もう一つの参考データが、中小企業庁の2023年版中小企業白書に掲載された企業生存率です。帝国データバンクの企業データベースを用いた集計では、設立5年後の生存率は80.7%でした。一方、このデータベースは一定規模の企業を中心に収録するため、白書自身も、実際の生存率より高めに算出されている可能性を指摘しています。

よく聞く数字と実測値の比較

  • よく聞く印象:
    「脱サラは10年で9割廃業する」という印象
  • 白書の実測(2025年版):
    2023年度の廃業率は年3.9%、開業率と拮抗
  • 2023年版白書の参考値:
    企業データベース上の設立5年後の生存率は80.7%(実態より高めの可能性あり)

生存率のデータは帝国データバンクに収録された企業を主に見ているため、小さな個人事業の実感とはずれる可能性があります。大切なのは、強い数字だけを切り取らず、出所、対象、測定期間を確認することです。「10年で9割」を個人の未来予測として受け取ることも、5年後80.7%を安心材料として受け取ることもできません。

ポイント 続けている人とやめる人を分ける要因

数字より始める順番を優先した廃業回避の判断基準

フリーランス

脱サラ後の継続を考えるとき、始める規模と順番は自分で調整できる重要な要素です。日本政策金融公庫の2024年度新規開業実態調査では、開業費用の中央値は580万円、開業時の平均年齢は43.6歳で、「250万円未満」で始めた層が全体の20.1%を占めています。これは小さな費用で始める人が一定数いることを示しますが、費用別の継続率まで示した数字ではありません。

生活が止まらない規模で始める

月の家計を丸ごと事業に乗せない規模から検証する方法があります。いきなり退職して固定費を全部起業側にのせると、売上が立たない時期の判断が難しくなります。勤めを続けながら有料需要を確かめる順番は、初期の損失を限定する一つの方法です。

検証にお金と時間をかけすぎない

開業前に事務所を借り、設備を揃え、発信環境まで一気に投資すると、売上を試す前から固定費が重くなります。東京商工リサーチの2025年(1〜12月)の全国企業倒産集計では、負債1億円未満の倒産が7,892件で、全体の76.6%を占めました。

この倒産統計だけで、開業前の設備投資が原因だったとは判断できません。ここから分かるのは、小規模な倒産が多数を占めるという範囲までです。自分の計画では、需要を確かめる前に固定費をどこまで持つかを別に点検します。

「続くかどうか」を月単位で確かめる

成功か失敗かの二択ではなく、「今月続けるか、いったん止めるか」を月ごとに判断できる設計を組むと、損失の拡大に早く気づけます。廃業率の数字だけで立ち止まっているなら、自分の判断の単位を「10年後」から「今月」へ縮め、売上、費用、時間を確かめます。

ポイント 続く範囲で始める・つぶさない準備の設計

続けられる範囲による事業損失の最小化設計

フリーランス

拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』に「継続可能ゾーン」という言葉があります。やる気満々で高い目標を掲げるより、「これなら続けられる」と自分が思える少し甘めの目標を最初に置くほうが、長い距離を走れる、という考え方を紹介しています。廃業率を怖がっている方こそ、この考え方から入るのが向いています。

「続けられる範囲で始める」という設計は、根性論とは反対の立ち位置です。時間・お金・気力の全部を最初から起業側に振り切らず、家計・本業・家族関係が回る範囲を先に固定し、そこに収まる規模から立ち上げます。これは初期の損失を限定する方法であり、事業の継続を保証するものではありません。

最初に決める3つの「続く範囲」

脱サラをつぶさない準備は、3つの範囲を紙に書き出すところから始まります。金額・時間・家族の側から、続けられる境界線を先に定めておく作業です。

紙に書き出す3つの続く範囲

  • お金の続く範囲:
    家計を圧迫せず事業へ回せる月額と世帯状況に合わせた上限
  • 時間の続く範囲:
    本業・睡眠・家族時間を守れる週の準備時間上限
  • 家族の続く範囲:
    配偶者・子どもとの会話や食卓への影響を確かめる月1回の確認

この3つの範囲を数字で書き出しておくと、途中で「もう限界かも」と感じたときに、感覚ではなく事実に照らして判断できます。廃業率の議論の外側で、自分の生活が壊れない足場を先に組んでおく作業です。順番としては、市場の検討や商品設計より、これを最初にやります。

ポイント 廃業率の噂で止まっていた人の事例

廃業率の噂で半年止まっていた40代の18ヶ月

フリーランス

40代・在職中・産業機器メーカーの資材購買職・既婚・小学生のお子さん2人という富永さん(仮名)の動き方を例にします。勤め先の早期退職募集の告知が続き、「いずれ自分でも動かないと」と感じ始めたのが最初のきっかけでした。

自己流で調べていた最初の半年は、「脱サラ 廃業率」「起業 失敗 割合」と毎晩検索し、ノートに数字を書き写す作業を繰り返していました。中小企業庁の白書にある廃業率、公庫の開業費用、飲食業の生存率まで網羅的に読み込み、知識だけは同世代の誰よりも詰め込んだ状態です。

それでも、モニター1人にも会わず、価格を1つも決めないまま半年が経ち、数字を見るたびに手が止まる状態から抜け出せませんでした。

整理がついたのは、起業18フォーラムの勉強会に参加してからです。他会員の実例に触れる中で、中小企業庁の白書にある廃業率と自分がやろうとしている規模は別の話だという整理が腑に落ちました。

次の勉強会までの宿題として、廃業率の議論を外側に置き、「月に3万円の起業準備収入を、家計を崩さずに続ける設計」を紙に書き出したのです。書けた設計は、月の起業準備コスト上限2万円、時間は朝晩30分+土曜午前3時間、家族には月1回の共有会というものでした。

この枠の中で、購買職の経験を一般化した「中小製造業向けの購買見直し相談」を、勤務先と取引関係がなく、個人的な関係として連絡できる知人の会社に試すところから始めます。勤務先の承認を得て、顧客情報や社内資料は使いません。翌月から1,000円の有料相談、4か月目に月額5,000円の月次サポート、10ヶ月目に月額1万円の継続契約が2社に増えました。

18ヶ月目の現在、月の起業準備からの収入は継続契約3社で月3万円、単発相談を足して平均5万円が「続く仕組み」として毎月入ってくるようになり、廃業率の数字はもう検索していないそうです。

富永さんが変えたのは、廃業率の解釈でも、業種選びでもありません。「10年で9割」という印象を判断基準から外し、「今月続けられるか」の設計に判断の単位を切り替えただけです。拙著の「継続可能ゾーン」で紹介している考え方の、実際の適用例に近いと感じています。

ポイント つぶさない準備の点検リスト

続く仕組みを月1回確認する運営点検の項目

フリーランス

脱サラの前も、始めてからも、月に一度だけ点検しておきたい項目があります。廃業率の数字を追う代わりに、この点検リストに沿って自分の状態を確かめる時間を、月末の30分に固定してしまうのが実用的です。

月に一度の点検リスト(続く仕組みを崩さないための最低限)

  • お金の点検:
    決めた上限額に対する今月の起業準備コスト
  • 時間の点検:
    週の準備時間と上限超過の有無
  • 家族の点検:
    配偶者・子どもとの会話や食卓への影響
  • 単価の点検:
    無料・極端な安値による疲弊と次回値上げ額の目安
  • 顧客の点検:
    継続依頼者数の前月比

この5つの点検を月末に一度だけ通しておくと、廃業率の数字より、はるかに自分の続けやすさを正確に映してくれます。数字が悪化する月があっても、原因が「お金」なのか「時間」なのか「家族」なのかが特定できていれば、次の月の打ち手も具体的になります。

大切なのは、点検を毎日でも週次でもなく、月に一度にとどめておくことです。毎日点検すると気持ちが縛られ、続けること自体が苦しくなります。月末の30分だけと決めておくことで、続く仕組みは長く回ります。

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ポイント よくある質問

廃業率とつぶさない準備の設計に関する疑問集

起業前質問集

Q.「10年で9割廃業」はまったくのウソなのですか?

根拠を示さず「10年で9割」とだけ書かれた情報は、対象や廃業の定義を確認できないため、判断材料にはしにくいものです。中小企業庁の白書にある年間廃業率や企業データベースの生存率とも、期間・母集団が違えば比較できません。廃業の可能性はゼロにはできませんが、出所不明の数字を自分の確率として受け取らないでください。

Q.廃業率が上がっているという話は本当ですか?

中小企業庁の2025年版中小企業白書では、雇用保険適用事業所を基にした2023年度の廃業率は3.9%で、開業率も3.9%でした。ただし、従業員を雇わない個人事業などをすべて含む指標ではなく、同じ事業が入れ替わったことを示す数字でもありません。単年の率だけで自分の計画の危険度を決めないことが大切です。

Q.いくらから始めれば「つぶさない」規模になりますか?

金額に絶対の正解はありませんが、日本政策金融公庫の2024年度調査では開業費用の中央値が580万円、「250万円未満」で始めた層も20.1%います。ただし、これは公庫融資先の開業費用の分布です。自分の上限は、家計だけでなく、借入返済、生活予備費、納税資金、社会保険料、売上が遅れた場合の余力まで確認して決めます。

Q.廃業率を気にしなくていい業種はありますか?

業種で開廃業の動きに差はありますが、「気にしなくていい業種」というものはありません。中小企業庁の2023年版中小企業白書の業種別集計では、廃業率は宿泊業・飲食サービス業が最も高く、生活関連サービス業・娯楽業、小売業が続きました。ただし、これは業種全体の平均で、個人の生存確率ではありません。地域、固定費、顧客の確かめ方まで含めて自分の規模を設計してください。

ポイント 続けるための最小の第一歩

必要な売上と継続可能な活動時間の明確な数値化

point

脱サラの廃業率を気にして半年、1年と止まってきた方に、今日だけやってみてほしいことが一つあります。廃業率の数字を追う代わりに、自分の必要売上と、それに届くまでに使える時間を、紙に書き出してみるのです。

手取りから逆算した「毎月最低これだけあれば生活は回る」という金額を出し、その金額を稼ぐのに、単価いくらの仕事を月に何件やる必要があるかを一度だけ計算します。数字は正確でなくて構いません。桁が見えれば十分です。この計算をするだけで、廃業率の議論が急に自分から遠くなり、代わりに「今月やる件数」という具体的な数字が目の前に来ます。

26年で延べ6万人の起業準備に伴走してきましたが、廃業率の数字を見て慎重になった方ほど、実際には長く続いている印象があります。今日は、必要な売上と、それに使える時間を紙に書き出すだけで十分です。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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