就業規則に兼業禁止とあります。起業の準備もしてはいけませんか?

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

勤め先の就業規則を読み返したら、服務規律のところに「兼業を禁止する」とはっきり書いてありました。将来は自分で何かを始めたいと思い、少しずつ本を読んだり市場を調べたりしているのですが、まだ一円も稼いでいないこういう準備の段階でも、規則違反として処分の対象になってしまうのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

「就業規則にそう書いてあるのだから、起業の準備も一切できない」。そう受け取って手が止まる方は少なくありません。私生活上の学習や公開情報の収集は、一般に直ちに他社で働くことと同じではありません。ただし、各社の規則は、開業準備、競業行為、社外発信、会社設備の利用まで独自に定めていることがあります。無報酬だけを理由に対象外と決めず、実際の条文を確認してください。

とはいえ、「規則違反で査定を下げられたり、処分されたりしたらどうしよう」という怖さは、理屈だけで割り切れるものではありません。これまで数多くの相談を受けてきましたが、この一線が「わからない」まま宙づりになると、やる気があった人ほどそこで止まってしまいます。だからこそ、規則の文言が実際に何を禁じているのかを、先に正確に見ておきましょう。

モデル規則と自社の規則を分けて読む

厚生労働省のモデル就業規則は、会社が規則を作る際の参考例であり、あなたの勤務先を直接拘束する規則ではありません。令和7年12月版の第70条は、勤務時間外に他の会社等の業務に従事できるとし、事前に会社へ所定の届出をする例を示しています。実際には自社の規則、雇用契約、誓約書が優先されます。

本を読む、公開セミナーで学ぶ、自分の強みを棚卸しする、といった私的な学習は比較的リスクが低い行為です。一方、顧客募集、見積り、受注、継続的な公開発信、開業届の提出、競合サービスの試作などは、無報酬でも規則上の届出対象や競業行為と判断される可能性があります。

勤務時間外の自由に付く3つの例外

勤務時間外の行為に対する会社の制限や懲戒の有効性は、規則の内容、職務、企業秩序への影響などを踏まえて個別に判断されます。「勤務時間外だから必ず自由」「無報酬だから処分できない」と一律には言えません。

モデル就業規則は、禁止・制限を検討する例として、①本業の労務提供への支障、②企業秘密の漏えい、③会社の名誉・信用や信頼関係の毀損、④競業による会社利益の侵害を挙げています。これは例示であり、この4項目に見当たらなければ自動的に許可されるという意味ではありません。

  • 競合相手への顧客情報や機密の持ち出し
  • 会社名や役職を使った集客・宣伝
  • 本業に支障が出る夜間・休日の過度な活動

会社の時間、端末、メール、顧客名簿、非公開資料は使わず、会社名や役職を宣伝に使わないことが最低限です。公開情報だけで行う私的な学習でも、競合分野なら早めに相談したほうが安全です。

「準備」「届出が要る段階」「禁止に触れる行為」の切り分け

混乱の多くは、性質の違う3つを一緒くたにしていることから生まれます。この3つを分けて見ると、自分が今どこに立っているのかがはっきりします。

  • 比較的リスクの低い準備:
    私物で行う学習、公開情報の収集、会社情報を使わない非公開の構想づくり
  • 事前確認したい段階:
    募集、見積り、外部への試作品公開、収益化、開業手続き、競合分野での活動
  • 避けるべき行為:
    会社の時間・設備・秘密・顧客の使用、本業に支障を出す活動、無断の競業

厚生労働省が示す兼業に関するガイドラインも、会社が一律に禁ずるのではなく、届出などの手続きで把握する方向をすすめています。このガイドラインは平成30年1月に作られ、令和2年9月と令和4年7月に改定を重ね、わかりやすい解説版が令和7年3月に公表されました。

報酬が発生する直前まで待つのではなく、外部募集や試作公開など、自社規則の対象になり得る行動の前に届出・許可の要否を確認してください。人事、コンプライアンス窓口、労働組合へ、活動内容を具体的に示して尋ねると判断しやすくなります。

「わからない」がやる気を削ぐという地雷

起業18フォーラムの会員に、大西さん(仮名・30代後半)という方がいます。ITメーカーに勤めていて、就業規則の禁止規定が引っかかり、やりたい構想があっても半年ほど何も動けずにいました。規則違反で査定に響くのが怖い。かといって上司には聞きづらい。その「わからない」が、いちばんの足かせでした。

潮目が変わったのは、起業18フォーラムの勉強会で、同じように規則を気にしていた会員の進め方を知ってからです。大西さんは人事窓口へ、公開情報だけを使う試作と情報発信の内容を事前に説明しました。会社の事業と競合せず、会社情報・設備・勤務時間を使わない条件を確認してから、試作に着手しました。収益化の前には、改めて所定の届出を出しました。

今では、本業以外の収入が毎月の給料の3割ほどに届くようになっています。準備を始めてから、およそ15ヶ月後のことでした。

拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』では、売上ゼロから1万円までのいちばん最初の時期に、やる気を致命的に削ぐ「地雷」を先に避けておく大切さを紹介しています。同書には「忙しい、わからない、面倒くさいという3つの感情は、せっかく出てきたやる気を摘んでしまう」という一節があります。

制度や規則の「わからない」は、その典型的な地雷の一つです。踏む前に事実で足元を照らしておけば、やる気はそのまま前に使えます。

この記事の要点

  • 自社の規則・契約・誓約書の確認
  • 無報酬の募集・公開・競業に関する事前確認
  • 会社の時間・設備・秘密・顧客の不使用と本業への支障回避
  • 外部活動前に行う届出・許可の要否確認

それでも判断に迷うときは、一人で抱え込まないことです。勤め先に相談窓口や労働組合があれば、「収入を伴わない準備の段階も、届出が必要ですか」と1問だけ確認してみてください。社内で聞きづらければ、お住まいの地域のよろず支援拠点でも構いません。無料で、起業前の会社員でも使える相談先です。

準備の段階は、いつでも立ち止まれますし、いつでも引き返せます。会社を辞める必要も、規則と事を構える必要もなく、事実を一つずつ確かめながら試せるところに、この時期の身軽さがあります。今日できることは、その一文が何を指しているのかを確かめるだけで十分です。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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