記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
フリーランス・事業者間取引適正化等法(通称:フリーランス新法)が2024年11月1日に施行され、法律上のフリーランス(特定受託事業者)へ業務を委託する事業者には、報酬や納期といった取引条件を書面や電磁的方法(メール等)で明示する義務ができました。会社の外で仕事を受ける人にとって、これは追い風です。
発注する側が条件を紙にするなら、受ける側も同じ準備をしておきたいところです。この記事では、精神論の「強気の値段を言いなさい」ではなく、見積書と契約書という型で、最初の受注の前に守りを固める手順を紹介します。
見積書と契約書を「受注の前」に用意する理由

最初の仕事は、うれしさが先に立ちます。だからこそ、条件を決めないまま「まずやってみます」と引き受けてしまいがちです。ところが、金額や範囲を決めずに走り出すと、後から困るのはたいてい引き受けた側です。
「言った言わない」で追加の作業を無償で頼まれる。納品したのに支払いが遅れる。こうしたつまずきの多くは、条件を先に紙にしておけば防げます。見積書と契約書は、受注してから作る書類ではなく、受注する前に用意しておく書類です。
難しく考える必要はありません。見積書は価格を先に示す紙、契約書は約束を後に残す紙、と役割を分けて考えると整理できます。順番に見ていきます。
見積書は「価格を先に示す」書類

見積書の役割は、価格の提示です。いくらで、どこまでやるのかを、引き受ける前に相手へ文書で見せます。これがあると、相手は予算と照らして判断でき、こちらは後から値切られにくくなります。
見積書には、次の項目を入れておきます。
- 提示する金額:
一式ではなく、作業ごとに分けた金額 - 作業の範囲:
料金内の作業と追加料金が必要な作業の境界 - 修正の回数:
無料修正の回数と、それ以降の追加料金 - 有効期限:
提示した金額を保証する期限 - 支払いの期日:
納品後の支払期限と受取方法
とくに大事なのが、金額の分け方です。一式でまとめず、作業ごとに金額を分けて書いておくと、追加の依頼が来たときに料金の根拠を示せます。「デザイン一式5万円」ではなく、「基本デザイン3万円、修正2回まで込み、3回目以降は1回5千円」と分けるだけで、線引きがはっきりします。
契約書は「約束を紙に残す」書類

契約書の役割は、合意の証拠を残すことです。見積書が申し込む前の価格提示なら、契約書は引き受けると決めた後の約束の記録です。同じ取引でも、担う役目が違います。
とはいえ、最初から分厚い契約書が必要とは限りません。発注書と発注請書でも条件の記録にはなりますが、その二枚だけで足りるかは業務内容で判断します。相手が出す発注書に、こちらが請書で応じる場合も、法定の明示事項と必要な合意がそろっているかを確認します。
簡単な業務委託の合意書を交わすなら、成果物の権利、修正範囲、支払期日、中途終了の扱いは先に決めます。さらに業務に応じて、秘密保持、個人情報、検収、知的財産、再委託などの条項も必要です。ひな形の項目数で安心せず、自分の仕事で起こり得る食い違いを先に書面へ落とします。
フリーランス新法で発注側に生まれた明示義務

条件を紙にするのは、いまや自分の都合だけの話ではありません。2024年11月1日に施行されたフリーランス新法は、正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。従業員を使わない個人など、法律上のフリーランス(特定受託事業者)へ業務を委託する事業者に、取引条件の明示を義務づけました。
この法律の第3条では、対象となる発注側が業務を委託したとき、書面または電磁的方法(メール等)で条件を直ちに明示するよう定めています。明示すべき項目には、業務委託事業者と特定受託事業者の名称、業務委託をした日、給付の内容、給付を受領する期日と場所、報酬の額および支払期日などが含まれます。条件を書面やメール等で残すことは、いまや制度が発注側に求める当たり前の作法です。
報酬の支払期日にも決まりがあります。従業員を使用する個人事業主や、二以上の役員がいるか従業員を使用する法人などの「特定業務委託事業者」は、発注した給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定め、その期日までに報酬を支払わなければなりません。取引適正化に係る規定の執行を主に担うのは公正取引委員会と中小企業庁で、就業環境の整備に係る規定は主に厚生労働省が担います。受注する側が見積書に支払期日を書いておけば、発注側の明示義務ともかみ合います。
値付けは経営そのもの

値段をいくらにするか。これは、事業を続けるうえで避けて通れない判断です。「値決めは経営」という言葉があります。京セラを創業した稲盛和夫さんが遺した言葉で、経営12カ条の一つとしても知られています。拙著『起業神100則』の第59則「値決めは経営」でも、この言葉を取り上げました。
値段を決めることは、経営そのものだという意味です。安すぎれば体力が削られ、高すぎれば選ばれません。その値決めを相手に伝える最初の書類が、見積書です。
デザインの仕事を受けている富永さん(40代)は、印刷会社で営業を長く務めてきました。取引先とのやり取りで身につけた知識を生かし、勤めのかたわらチラシやロゴの制作を受けるようになりました。始めた頃は、金額も納期も口頭で決めていました。「一式でいくら」とだけ伝え、あとは相手任せです。決まった金額のまま何度も修正を頼まれ、支払いも遅れがちでした。
取り決めを紙に残すようにしたのは、長く付き合っていた常連先との一件がきっかけでした。追加の修正を無償で重ねた末、利益がほとんど残らなかったのです。このままでは続かないと感じた富永さんが選んだのは、起業18フォーラムの勉強会にこの悩みを持ち込み、見積書と契約書の作り方を一から学び直すことでした。
勉強会では、金額を作業ごとに分けて示すこと、修正の回数を先に決めておくことを教わりました。実践報告会で他の会員が使っている見積書の様式を見せてもらい、自分の仕事に合う型を作っていきました。
紙に残すようになってから、値切られて安請け合いすることが減りました。1件あたりの単価は3万円から5万円へ、受注は月4件から6件へと増えました。
始めた頃は月12万円ほどだった手取りが、いまではデザインだけで月30万円に届いています。勤めの収入と合わせた月の手取りの、およそ4割をこの仕事が占めるまでになりました。見積書と契約書を整え始めてから、13ヶ月目のことでした。
よくある質問

Q.最初の一件でも、契約書まで必要ですか?
報酬が少額の仕事なら、分厚い契約書までは要りません。見積書と、発注書・請書のやり取りでも条件の記録になります。ただし、フリーランス新法の対象取引では、発注事業者側に、業務委託事業者と特定受託事業者の名称、業務委託をした日、給付の内容、報酬額、支払期日などを書面または電磁的方法で明示する義務があるため、それらの項目がそろっているかを確認します。大きな取引や継続する取引になったら、業務委託の合意書を交わすと安心です。
Q.見積書と請求書と発注書は、どう違いますか?
見積書は引き受ける前に「いくらでやります」と示す紙、発注書は相手が「お願いします」と正式に頼む紙、請求書は納品後に「お支払いください」と求める紙です。時間の流れでいうと、見積書、発注書、請求書の順に登場します。
Q.契約書のひな形を、そのまま使ってもいいですか?
ひな形を土台にするのは良い方法です。ただし、修正回数や成果物の権利など、自分の仕事で線引きしたい項目は必ず書き換えます。公的機関や士業が公開している様式なら、土台として安心して使えます。
Q.フリーランス新法は、受注する個人にも関係ありますか?
関係あります。発注側に明示義務がある一方で、受注する側は、示された条件をよく確認する立場になります。条件が口頭のままなら、書面または電磁的方法で出してほしいと求めてかまいません。法律がその求めを後押しします。
今日できる一歩を決める

見積書と契約書は、いきなり完璧に整えなくて大丈夫です。まずは制度の全体像をつかむところからで十分です。公正取引委員会か中小企業庁、厚生労働省が出しているフリーランス新法の解説を、今日は1本だけ、最後まで読んでみてください。断片的なSNSの情報より、公式の解説のほうが確かです。
制度の輪郭が見えたら、次は自分の見積書のひな形を一つ用意します。金額を作業ごとに分け、修正の回数と支払いの期日を入れる。それだけで、最初の受注に落ち着いて向き合えます。

見積書と契約書は、身構えるほど面倒な書類ではありません。いくらで、どこまでやるのかを先に決める作業は、自分の仕事を数字と言葉で見つめ直す最初のきっかけにもなります。
さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
★【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!
★【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!
