記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
今の会社の先行きに不安があって転職を考えているのですが、何社か面接を受けるうちに、そもそも会社勤めを続けるべきなのか分からなくなってきました。
いっそ起業も選択肢に入れていいのか、でも失敗したら転職よりも取り返しがつかない気がして怖いです。
勢いで決めてしまう前に、転職と起業のどちらが自分に向くかを試してから決める方法はありますか?

● 回答
起業を選択肢に入れて構いません。むしろ、転職と並べて検討するのはごく自然なことです。起業を考える方の相談を受けていると、この迷いはとても多く聞きます。ただ、気をつけたいのは「転職か起業か」を頭の中だけで比べようとすることです。二者択一に賭けるしかないと思い込むほど、どちらを選んでも怖くて動けなくなります。
決め手になるのは、二択を頭で選ぶことではなく、いま受けている転職の選考そのものを、自分の市場価値をはかる実験として使ってしまうことです。応募して、面接で値踏みされ、提示額を受け取る。その一つひとつが、机の上で悩むより確かな手がかりになります。そのうえで会社の外でも有料で1件だけ引き受けてみれば、選考だけでは見えない外の反応まで、手元にそろいます。
そもそも、転職を考えること自体にうしろめたさを感じる必要はありません。総務省の労働力調査によると、2024年に転職した人は全国で331万人にのぼりました。会社を移ろうとすること自体は、まったく珍しくない選択です。それでも「起業」を横に並べたとたん急に怖くなるのは、転職には見える数字があるのに、起業には見える数字がないからです。
会社の中の値段と外での反応
なぜ人はわざわざ会社の外に出るのでしょうか。日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査では、開業した人の動機で最も多かったのは「自由に仕事がしたかった」で59.7%でした。「収入を増やしたかった」(44.9%)よりも先に、自分の裁量で働きたいという気持ちが来ます。これは会社を移る転職では手に入りにくいものだからこそ、起業を横に置く意味があります。
その2つは、どちらも数字で確かめられます。会社の中でいくら値がつくかは、求人票を眺めるだけでなく、実際に応募して面接まで進み、提示額を引き出せば、いまの自分の相場がはっきりします。会社の外で稼げるかは、有料で1件だけ引き受けてみれば、あなたの仕事にお金を払う人がいるかどうかが分かります。どちらも、動けば手に入る実測値です。
- 会社の中の値段:
気になる求人に実際に応募し、面接で引き出した提示額から、いまの自分の相場を知る - 会社の外の反応:
知人1人に有料で1件だけ引き受け、お金を払う人がいるか確かめる
転職面接で突きつけられた一つの数字
きっかけは、転職の面接で突きつけられた数字でした。瀬能さん(仮名・30代後半)は、勤め先の先行きに不安を覚えて転職活動を始めました。ところが何社か面接を受けるうちに、「あなたの経験なら、この年収です」と提示された金額を見て、自分の市場価値をはじめて客観的な数字で知ったのです。同時に、会社を移るだけでいいのか、という迷いも生まれました。
そこで瀬能さんは、起業18フォーラムの勉強会に足を運びました。同席していた別の会員が、同じように面接で提示された年収を”会社の中にいる自分”の相場と受け止め、その裏で有料1件を試して外の反応も測ってから進路を決めた話を語っていたそうです。選考で示された年収は会社の中にいる自分の値段であって、会社の外でいくら払われるかは、有料で1件試すまで誰にも分からない。その順番が、瀬能さんに見取り図を渡してくれました。まだ30代後半で、時間にも少し余裕がある。それなら、転職の選考を続けながら、その裏で外の反応も1件だけ見ておけばいい、という段取りです。
気づきを持ち帰った瀬能さんは、会社を辞めず、退職も開業もしないまま、まず知人1人から有料で1件だけ仕事を引き受けてみました。転職の選考で自分の相場を確かめながら、同時に外の反応も1件だけ試したのです。
8ヶ月目には、その最初の1件から似た依頼が続くようになり、初回の知人経由からの紹介で月3〜4件、1件2〜3万円で月に5〜8万円台の副収入が定着しました。金額の大きさよりも、頼まれた仕事にお金が動き、また声がかかったという事実が、瀬能さんの迷いをほどいていきました。
拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』に、最初のお客様はたった一人でいい、その一人に満足してもらえれば9割はうまくいく、という考え方を紹介しています。瀬能さんがやったのは、まさにこの一人の有料客で向き不向きを確かめることでした。
向いているかどうかは、頭で考える前に、一人の有料客の反応が教えてくれます。反応が良ければ起業を、鈍ければ転職を厚めに見る。そのくらいの試し方から入れば、迷いは動かしながらほどけます。
辞める前に試すという順番
「試す時間なんてない」と感じるかもしれません。けれど、試すのに大きな準備は要りません。マイナビの転職動向調査では、2024年に転職した正社員は7.2%でした。転職市場はいつでも動いていて、外で1件試して合わないと感じても、転職という道はあとから選び直せます。だから、辞めずに1件試して失うものはわずかです。
順番はこうです。まず転職の選考を進めて会社の中での自分の値段を確かめ、その裏で外の反応を有料1件で試す。両方の数字がそろってから、転職か起業かを決めます。
会社の規程で外の仕事の扱いを確認したうえで、知り合い1人に「1件だけ有料で引き受けられませんか」と声をかけてみてください。
- 今日:
転職サイトで同じ職種の求人票を1件開き、提示年収と応募条件をメモする - 今週:
会社の規程で外の仕事の扱いを確かめ、問題なければ知人に1件だけ声をかける - 1件を終えたあと:
お金が動いたか、また頼まれそうかで、転職か起業かの順番を決める
今日できることは、転職サイトで同じ職種の求人票を1件だけ開いて、そこに書かれた年収と、いまの自分の年収を並べてみることです。まずはその1件で、会社の中にいる自分の値段を数字で確かめてください。

転職も起業も、逃げでも一発勝負でもありません。会社の中で価値を上げる道と、外で試す道の両方を手元に持てたとき、はじめて自分の意思で選べるようになります。
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