記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
いずれ独立して自分の看板で仕事をしていきたいと考えていて、そのときに日本政策金融公庫の創業融資を使いたいと思っています。ただ、辞めてから動き始めるより、勤めているうちに準備を進めておいたほうが安全な気がしています。
会社に籍がある段階でも、公庫への相談や申込みに向けた準備はどこまで進められるものでしょうか?

● 回答
創業融資は、退職してから動き出すよりも、勤めているうちに「自己資金・事業計画・相談実績」の三点を整えたほうが、申込み時点の説得力がまったく変わってきます。公庫の窓口は、事業をこれから始める段階の方の相談を前提に設計されていますから、勤めているうちの相談も特別なことではありません。
ただし、公庫の融資判断は個々の状況で細かく変わります。ここでは「必ず借りられる」という話ではなく、勤めているうちに整えておくと面談で聞かれる質問に落ち着いて答えられるという、順番の話としてお読みください。
勤めているうちに整える三点セットと、面談で問われる論点
融資の面談では、事業計画書の内容以前に「あなたはこの事業にいくら自分のお金を入れられますか」という自己資金の話から入ります。日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査によると、開業時の資金調達額は平均1,219万円で、そのうち自己資金が平均279万円(構成比22.9%)を占めていました。金融機関からの借入は平均827万円(67.9%)です。
この数字が示しているのは、自己資金ゼロで満額借りている人はほとんどいないという実態です。ご自身の想定する開業費用に対し、まず何割を自分で用意できるかを、勤めているうちに逆算しておきたいところです。
① 自己資金は「通帳の履歴」で語れる形にする
公庫の面談では、自己資金の金額そのものより、その資金がどう積み上がったかを見ます。毎月の給与から一定額を別口座に移して残高が伸びていく通帳は、そのまま「計画的に準備してきた証拠」になります。逆に、直前に親族から通帳へ振り込まれた資金は「見せ金」として扱われ、自己資金には算入されにくくなります。
勤めているうちであれば、毎月の給与という安定した入金源があります。半年でも、開業用の口座を分けて残高を積んでおくと、面談時に説明が短くて済みます。
② 事業計画書は「困っている人は誰か」から書き始める
拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか? 』では、事業設計の骨格として、①困っている人は誰か、②何を提供するか、③どうやって届けるか、④いつ、⑤いくらで、⑥選ばれる理由、⑦ビフォー、⑧アフター、⑨その根拠、という9項目の設計図を紹介しています。この順番で書くと、公庫の事業計画書フォーマットに落とし込みやすくなります。
勤めているうちに、この9項目を、まずはA4用紙1枚に手書きで書き出してみてください。書けない項目があれば、そこがまだ検証されていない箇所です。辞めてから動き始めると、この検証に使える時間が限られてしまいます。
③ 公庫窓口には「面談前の相談」で一度触れておく
日本政策金融公庫には「ビジネスサポートプラザ」という創業前の方向けの相談窓口があり、オンラインまたは対面で約60分、専任スタッフに事業計画や必要書類の相談ができます。オンライン相談(Microsoft Teamsを使用)は全国どこからでも予約・利用が可能です。なお、来店での対面相談は現在、東京ビジネスサポートプラザ(新宿区)と大阪ビジネスサポートプラザ(大阪市北区)の2か所のみで実施しています(名古屋拠点は2026年4月1日付で統合済み)。また、事業資金相談ダイヤル(0120-154-505/平日9時〜17時、創業前の方・個人企業・小規模企業の方は平日9時〜19時)で電話相談も可能です。
申込みの前に一度、事前相談の枠を使えるかを電話または公庫公式サイトから問い合わせてみてください。そこで「この計画で自己資金はいくら必要か」「どの制度の対象になりそうか」を口頭で確認できると、正式申込み時の書類作成の迷いが減ります。
辞める前と辞めた後、どちらで申込むのが有利か
公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方が対象で、融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。担保・保証人は希望や審査内容に応じて相談する扱いなので、申込み前に支店や事業資金相談ダイヤルで最新条件を確認してください。
勤めながら公庫に相談すること自体は問題ありません。ただし、正式申込みの段階では「いつ辞めるのか」「辞める意思決定はどこまで固まっているか」を必ず確認されます。融資実行の直前まで在職の状態でも申込みは可能ですが、面談時に「まだ辞めるかどうか迷っています」の返答だと、事業の実行性を疑問視されます。
辞める時期の目処、退職日を伝えた上司の反応、開業届の提出予定日。この三点を口頭で説明できるようにしておくと、話が前に進みやすくなります。
退職後の申込みで気をつけたいこと
辞めてから動き出す場合、給与という定期入金がなくなった通帳を持って面談に向かうことになります。自己資金の積み上げが止まった状態で、開業前の生活費が減っていく通帳を見せることになりますから、退職前に自己資金の残高を確定させておいたほうが説明が楽になります。
また、勤めている間に社会保険・住民税・所得税がどう変わるかも、辞める前に自分で概算しておく必要があります。開業直後の運転資金にこれらの支払いが重なると、想定より現金が減るのが早く感じられます。
千賀さんが勤めながら12ヶ月で整えた申込みまでの道のり
起業18フォーラム会員の千賀さん(仮名・システムエンジニア勤務)は、退職の2年ほど前から独立を意識し始めていました。最初は独学で事業計画書のテンプレートを埋めることから始めましたが、書き上げるたびに「これで融資が通るのか」という不安が消えず、3ヶ月ほど手が止まっていた時期があります。
潮目が変わったのは、フォーラムの勉強会で、実際に公庫の融資通過を経験した会員さんの話を聞いたときでした。「事業計画書の完成度より、面談での説明の一貫性を見られる」「自己資金は金額より積み上げのプロセスを見せる」という具体的な話を聞いて、それまで机上で完璧を目指していた自分の方向がずれていることに気づいたそうです。
そこから千賀さんは、フォーラムの個別相談で毎月一回、事業計画の見直しと通帳の残高記録を持ち込んで壁打ちを続けました。給与から毎月一定額を開業用口座に移す仕組みを作り、副次的に貯まっていく残高を面談で見せられる形にしていきました。
勤めながら12ヶ月目に公庫のビジネスサポートプラザで事前相談を受け、そこから翌月に正式申込み、面談を経て融資実行という順番で進めていきました。振り返って千賀さんが話すのは、「勤めているうちに残高を積んだことより、勤めているうちに面談の予行演習ができたことのほうが大きかった」ということです。金額の準備よりも、説明の準備に時間を使えたのが、勤めている期間の意味だったといいます。
よくある質問

Q.自己資金がゼロでも創業融資は借りられますか?
制度上は「自己資金要件なし」の枠もありますが、実務上は自己資金の割合が融資判断に大きく影響します。日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査でも、平均で開業資金の約22.9%(約4分の1)を自己資金が占めています。ゼロで通せる保証はないため、まずは開業費用の想定額を出し、そこから逆算した自己資金の目標を設定してください。
Q.事業計画書は自分で書いたほうがいいですか?
はい、初稿は必ずご自身で書いてください。面談では計画書の内容を口頭で説明する場面が続き、他人が書いた計画書だとどこかで説明が詰まります。ひととおり書いたあとで、フォーラムや専門家の目で修正を入れる順番が現実的です。
Q.借入希望額はどう決めればよいですか?
公庫の新規開業・スタートアップ支援資金の限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)ですが、実際の融資額は事業の規模と自己資金の額から決まります。開業費用と半年分の運転資金を積み上げ、そこから自己資金を引いた残りが借入希望額の目安になります。過大な希望額は面談で減額を提案されることが多いため、根拠のある数字を出したほうが説明が短く済みます。
Q.面談ではどんなことを聞かれますか?
事業内容、なぜその事業を選んだか、これまでの職歴とその事業の関連性、想定する顧客、価格の根拠、開業後半年〜1年の収支計画、自己資金の内訳。この順で聞かれることが多いようです。事業計画書の内容と口頭説明の内容がずれると、その場で追加質問が続くことになります。
今日は、勤めているうちにできる次の一歩として、日本政策金融公庫のビジネスサポートプラザ(オンライン相談は全国対応)または事業資金相談ダイヤル(0120-154-505)に1本、面談前の事前相談の可否と予約方法を問い合わせてみてください。問い合わせが済んだら、開業用の口座をひとつ分けて、来月から給与の一部を移していく仕組みを整えてみてください。

創業融資は、書類の完成度で勝負するものではなく、勤めているうちに積み上げてきた準備の一貫性で判断されるものです。金額の大きさよりも、そこに至るまでの通帳と説明の筋道が見られています。
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