東京の島で起業する選択肢|大島で“通い”から始める準備の歩き方

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

「伊豆大島で起業を考えています」というご相談を受けることがあります。竹芝桟橋からジェット船で約1時間45分。日帰りも夜行もできる近さでありながら、椿で知られ、火山活動で湧き出した温泉のある島です。けれども相談に来てくださる方の多くが、椿油や温泉といった「観光側の景色」だけを見て、島で何を売るかの輪郭がぼんやりしたまま、移住の話だけが先に進んでいます。

島で会社員のスキルを仕事にしていくときに大切なのは、観光客の動線と、島で暮らす方々の定期的な需要の、両方に副産物を載せていく視点です。今日は伊豆大島に的を絞り、勤めながら通うところから始める準備の歩き方を整理していきます。

ポイント 大島とはどんな島か|ジェット船で約1時間45分、椿で知られる島

伊豆諸島最大の島と都心からの近さの再確認

伊豆大島

大島は東京都大島町の島で、伊豆諸島では最も面積が広い島です(面積90.76㎢)。大島町公式サイトの町勢データによると、令和8年5月末時点の人口は6,500人でした。

総務省統計局の国勢調査では1995年の人口が9,693人でした。そこから、この30年でおよそ3割の方が減っています。減ったぶんだけ、島の暮らしの中に以前はあった仕事が抜け落ちている領域があります。そこに副産物として何かを載せられるかが、起業の起点になります。

都心からのアクセスは、竹芝客船ターミナルから東海汽船の高速ジェット船で約1時間45分です(東海汽船公式)。調布飛行場からの航空便もあり、夜行の大型客船も走っています。週末に通うことを想像しやすい距離で、二地域居住の現実味があるのも大島の特徴です。

島の固有資源は椿油・温泉・三原山の三本柱

島内には推定300万本のヤブツバキがあるといわれ、椿油は大島の代表的な産品です。2026年2月1日から3月22日にかけては第71回伊豆大島椿まつりが開催されました。冬から春の観光のピークがここに集中し、椿油や椿関連商品を求めて来訪する方が島の動線をつくります。あわせて温泉と三原山という、ほかの伊豆諸島とは違う火山由来の資源があります。

ポイント 知っておきたい東京都の離島支援|離島振興計画と相談先の窓口

制度は売る方向が定まってから使う道具です

伊豆大島

大島は東京都の離島振興対策実施地域に含まれます。東京都総務局行政部が公表している「東京都離島振興計画(令和5年度〜令和14年度)」では、伊豆諸島9島(大島・利島・新島・式根島・神津島・三宅島・御蔵島・八丈島・青ヶ島)の産業振興・観光振興・生活基盤について、10年間の方向性が示されています。

気をつけたいのは、大島は国の特定有人国境離島地域には指定されていない点です。長崎・鹿児島・沖縄などの国境離島で使える「特定有人国境離島地域社会維持推進交付金」とは別の制度が動いている、という前提で支援を見ます。

支援は「何で食べていくか」が見えてから使う

勤めながら準備を進める段階で、いきなり補助金の窓口へ駆け込むのは順番が逆になりやすいやり方です。担当の方も、何を売るかが固まっていない段階で相談を受けても、お返事のしようがありません。まずは起業18フォーラムの勉強会や個別相談で、自分のスキルと島の需要をどこで重ねるかの輪郭を作ります。輪郭が見えてから町の窓口で具体の制度を聞きに行く、という順序を守ると、相談の時間が一気に濃くなります。

島内の相談先としては、大島町役場の産業課(農業係・水産商工係)があります。産業課の電話番号は04992-2-1445です。観光協会・商工会といった窓口もあります。窓口名と電話番号だけ手元に控えておく、というところからで構いません。

ポイント 大島で勤めの経験を事業にしていく入口|二層で考える

観光動線と島の定期需要の二層で副産物を設計

伊豆大島

大島で何を売るかを考えるとき、観光客向けと、島民・島内事業者向けの二層に分けると、選択肢がはっきりしてきます。両方に手をかけられるのが、人口6千人規模で観光の動線がある大島の利点です。

観光客の動線に”ついで買い”の副産物を載せる

拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』では、すでにお金が流れている場所に商品を置く、という考え方を紹介しています。椿まつりの2か月間、温泉宿の連泊客、ジェット船で日帰りに来る登山客。それぞれの動線の途中に、本業のスキルで作れる副産物を一つ置けないかを考えます。

たとえば、勤め先で広報やSNS運用の経験がある方が、椿関連商品の個店事業者の発信を月いくらで請け負う形があります。撮影が得意な方が、椿まつりの2か月間だけ、家族写真とお宿の写真を撮る出張プランを出す形もあります。観光ガイドそのものを始めるのではなく、観光側の人が必要としていて、まだ満たされていない作業を一つ拾う、という発想です。

  • 椿まつり期の撮影・発信代行:
    2か月の繁忙期だけ、宿や椿油店の写真と投稿を月決めで請け負う
  • 連泊客向けの体験プログラム企画:
    温泉宿と組んで、滞在中の半日体験を一本だけ立ち上げる
  • 島外向けオンライン発信支援:
    島内事業者のEC・予約導線を、勤め先のITスキルで整える
島内の定期需要に静的なサービスを重ねる

観光は季節と天候に左右されます。島で長く続く事業の多くは、観光の波の谷で島民や島内事業者の暮らしを支える定期的な仕事を持っています。会計記帳の月次代行、ホームページの保守、求人原稿の作成、業務用アプリの設定支援。勤め先で当たり前にこなしていた事務・IT・営業の作業が、島ではお願いできる人が島内にいない状態になっていることが少なくありません。

このタイプの仕事は、観光ガイドのように華やかではありません。けれども、月3万円・月5万円といった金額で1年通して入ってくる売上は、移住後の生活の土台になります。観光側の副産物と、定期需要の静かな仕事。この二層を最初から意識して設計することが、伊豆大島での起業準備では効いてきます。

ポイント 起業準備の中で見えてきた”島での進み方”の一般的な姿

通いで足を運ぶ方ほど島内で頼まれやすくなる

伊豆大島

個別の方の話を書くと現地で特定の方が浮かんでしまうので、ここでは起業18フォーラムで実際に見てきた進み方を、一般化した形で紹介します。勤めながら動く方が新しい生業の準備に充てられる時間は、平日ではごく限られています。だからこそ、限られた時間の使い道が大島での成否を分けます。

たとえば、40代でメーカー系のIT保守の経験がある方が、伊豆大島が好きで月に2回ほど通っていたとします。最初の半年は観光ガイドや民泊といった、ガイドブックでよく見る形をなんとなく構想していました。週末に通ってカフェに座り、構想を一人で考え続けても、何が島で必要とされているのか、輪郭が出てきません。

動き出したのは、起業18フォーラムの勉強会で、別の離島で勤めながら準備を進めている会員さんの事例に触れたあたりからです。観光側ではなく、島内の小規模事業者の発信や予約導線を整える仕事を、本業のITスキルで月いくらかで請け負っている、という話でした。勉強会の後の会員間の個別相談で、自分のスキルの棚卸しと、大島で実際に足りていない仕事を聞きに行く順序を、別の会員さんと一緒に並べていきます。

次の月に島へ通った際、椿油の個店店主さんに「ホームページの更新が止まっていて困っている」と相談された方が、月1万円の保守から引き受けます。すると数か月のうちに、その店主さんから島内の別の事業者を紹介され、続けて声がかかる流れができます。

こういう進み方をされる方が大島では多く、移住後3年目には、島内の事業者から名指しで翌月の依頼が複数届く関係が育ち、月3万円・5万円の継続契約が3件並びました。30代後半から50代の会員さんに多い進み方で、観光客向けに派手な集客をしなくても、島内の紹介の連鎖だけで、月の予定が安定して埋まっていく状態です。

ポイント よくある質問

大島起業の準備で読者からよく届く3つの質問

起業前質問集

Q.いきなり移住しないと大島での起業準備は始められませんか?

いいえ、通いから始めることをおすすめしています。竹芝からジェット船で約1時間45分という距離は、月に2回から3回の通いを現実的にしてくれます。勤めながら半年ほど通って、島の事業者の方々と顔見知りになりながら、自分の出せるサービスの輪郭を作っていく方が、移住後の早い段階で売上が立ちやすくなります。

Q.椿油や温泉といった島の固有資源は、よそから来た人間が事業にしてもよいものですか?

固有資源そのものを自分の商品にする形は、地元の生産者・組合との関係づくりが大前提になります。そこは時間がかかります。一方、椿油や温泉を扱う島内の事業者の業務を、勤め先で培ったスキルで支える側の仕事は、よそから来た方が新しく担いやすい領域です。固有資源に直接触らなくても、固有資源を扱う方の動線にぶら下がる形での起業の入口は、十分にあります。

Q.大島で使える起業支援の制度はどこに聞けばわかりますか?

町の制度については大島町役場の産業課(電話04992-2-1445)が窓口です。あわせて東京都の離島振興計画は東京都総務局行政部のサイトで全文が公開されています。ただし制度の話は、自分が何を売るかの方向が見えてから聞きに行くと、相談の中身が一気に具体的になります。先に方向を作る段で時間をかけてください。

ポイント 大島で起業を考え始めた方の、次の一歩

島で足りていない仕事を町の窓口に聞いてみる準備

point

大島での起業準備を、補助金や移住の相談から始めるのではなく、まず島内でどんな仕事が足りていないかを聞くところから始めてみてください。大島町産業課の電話番号は04992-2-1445です。「島で足りていない仕事を聞いてみたいのですが」と、情報提供の依頼として一度電話をかけてみる。これだけで、ネットの検索では出てこない島の手触りが、ぐっと近くなります。

島の暮らしや事業の話を聞いたうえで、勤めの中で培った経験をどこに重ねられるかを考える。観光に憧れる気持ちと、定期需要を支える地味な仕事の両方を、同じ視野に入れて準備していけるかが、伊豆大島で長く続く起業の分かれ目になります。

どの選択肢が大島で自分に合うかは、最終的にご本人がいちばんよくわかっているはずです。今日この記事を読んだタイミングを、ひとつのきっかけにしてみてください。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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