記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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神津島の海の写真を眺めながら、「ここで暮らしながら食べていけたら」と検索窓に手を伸ばした方は、たぶん同じところで止まっています。住む場所のイメージはわく。けれど、何で生計を立てるのかが、まるで見えてこないのです。
「やっぱり都会のほうが起業には有利でしょう」と、私はこれまで何度も聞かれてきました。これまで起業支援をしてきた実感から言うと、それは半分しか当たっていません。神津島のように人の少ない島では、需要の見つけ方と仕事の組み立て方が本土とは違うだけで、食べていく道がないわけではないのです。
神津島はどんな島か。仕事を考える前に押さえる3つの数字

神津島村の人口は、2026年6月1日現在で1,688人(男性870人・女性818人・913世帯)です。東京都の住民基本台帳に基づく村公式の数字で、伊豆諸島のなかでも小さな島に入ります。この規模感を最初につかんでおくと、仕事の考え方がぶれません。
東京から島までの距離感
アクセスは思っているより選択肢があります。竹芝の客船ターミナルから高速ジェット船で約3〜4時間(大島・利島・新島・式根島を経由する1日1便)、夜行の大型客船さるびあ丸なら船中泊で約12時間です。空からなら、調布飛行場から新中央航空のプロペラ機で約45分という近さもあります。
島の主産業は漁業・農業・観光で、なかでも漁業が暮らしの柱になっています。透明度の高い海と釣りの島として知られ、夏の観光シーズンには人が集まります。
小さい島の数字を、不利と読まないために
1,688人という数字を見て、「お客様が少なすぎる」と感じる方は多いです。ただ、商売の組み立て方によっては、この少なさが逆に味方になります。誰が何に困っているかが見えやすく、口コミも回りやすい。本土の街なかで埋もれてしまう仕事が、島では名前で覚えてもらえます。だからこそ、最初に島の規模を正確に知っておくことが、無理のない計画の土台になります。
移住・創業で使える支援制度。使うのは方向が決まってから

神津島村は、離島振興法に基づく離島振興対策実施地域に指定されています(東京都離島振興計画・令和5年度〜令和14年度)。伊豆諸島の8町村9島がこの対象で、東京都総務局が計画を公表しています。離島ならではの条件不利を補うための土台が、制度として用意されているということです。
創業の相談先もあります。村は産業競争力強化法に基づく創業支援等事業として、これから創業する人の相談を受け付けています。あわせて、神津島村は東京圏のなかの条件不利地域に含まれます。内閣府が示す地方創生の移住支援金や起業支援金は、実施自治体と年度ごとの要件で扱いが変わるため、使う前に東京都や村の最新窓口で確認するのが安全です。
ここで一つだけ、順番について書いておきます。補助金や支援制度は、何を売るかの方向が固まったあとに使う道具です。やることが見えていない段階で窓口に行っても、担当者も答えようがありません。制度は「あること」を知っておけば十分で、申し込みは方向が見えてからで遅くないのです。
観光客と島民、二つの動線に商品を置く

島で仕事を考えるとき、私がいちばん大事だと思うのは「人とお金がどこを通って流れているか」を先に見ることです。拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』に、起業を陣取りゲームにたとえる話を紹介しています。すでにお金が流れている場所に自分の商品を置く、という考え方です。
神津島には、はっきりと違う二つの流れがあります。夏に島へ来る観光客の流れと、年間を通して島で暮らす1,688人の生活の流れです。この二つの動線の両方に商品を置けるかどうかが、島で食べ続けられるかの分かれ目になります。
観光客の動線に置く仕事
観光客の流れに乗るのは、釣り客や海好きを案内するガイド、星空や港を巡る体験プログラム、島の食材を使った土産や軽食といった仕事です。人が来る時期に、来る場所で売る。わかりやすく、最初の手応えも得やすい入口です。
島民の動線に置く仕事
一方で、島で暮らす人の生活にも流れがあります。買い物の不便を埋める配達や代行、空き家や移住者まわりの困りごとへの対応、本業のスキルを活かしたリモートの受託など、観光とは別の需要がそこにあります。
- 観光客向け:
来島者の流れに乗る季節型の仕事。ガイド・海の体験プログラム・土産・軽食など - 島民向け:
暮らしの不便を埋める通年型の仕事。配達・代行・移住者や空き家まわりの困りごと対応など - 島外向け:
島にいながら全国を相手にするリモート受託・オンライン販売
いきなり移住して一本に賭けるのではなく、まずは東京と神津島を行き来する関係人口から始める道もあります。本業のスキルをリモートで続けながら、島に通って需要を確かめる。二拠点で土台を作ってから移ると、生活が一気に変わる怖さを避けられます。
観光期だけに頼らない。年間の波をならす考え方

島で仕事を始めた方によく起きるのが、観光シーズンに収入が偏り、冬になると一気に細るという波です。たとえば40代で、食品関連の勤務経験がある方が、夏の観光客向けに島の食材を使った商品を売り始めたとします。ここから先は、同じ条件の離島でよく見かける流れとして読んでください。
夏のあいだは忙しく、手応えもあります。けれど秋が深まると客足が引き、冬は売上がほとんど立たない月が続く。観光協会経由の集客に頼っているうちは、人が来ない時期にできることがない。こうして「夏だけ稼いで一年をしのぐ」状態から抜けられなくなる方が、離島では少なくありません。
潮目が変わったのは、起業18フォーラムの勉強会で、別の離島にいる会員の話を聞いたときだという方が多いです。観光客向けの仕事と、島民向けの定期的な仕事を組み合わせて、年間の収入をならしている事例でした。「自分は観光の一本足で立とうとしていた」と、その事例を聞いて初めて気づく。これが転機になります。
そこから会員間の個別相談で、自分の手元にある需要を一つずつ整理していきます。夏は観光客向けの商品、それ以外の季節は島の家庭に向けた食材の定期宅配というふうに、二つの動線へ商品を分けて置き直すのです。観光期に偏っていた売上を、島内の定期需要で下支えする形です。
こうした方が、移住して3年目あたりで「ようやく一年を通して読める形になった」と話されることがあります。夏の売上の大きさより、冬にも数件の定期注文が残っていることのほうが、暮らしの安心につながったという声が印象的でした。観光の波に振り回されず、島の暮らしそのものを需要として束ねていく。これが、人の少ない島で長く続けるための一つの形です。
神津島で動き出すための、最初の一歩

神津島で仕事を作るなら、進める順番があります。まずは起業18フォーラムで「自分は何で食べていくのか」「島のどの動線に商品を置くのか」を整理する。方向が見えてきたら、村の創業相談や移住支援といった制度を道具として使う。そして、いきなり移住せず、二拠点や関係人口から段階的に近づいていく。この順番なら、生活の土台を崩さずに進められます。
そのうえで、今日できる小さな一歩を一つだけ挙げるなら、島で本当に足りていない仕事を確かめることです。神津島村役場の産業観光課に電話して、「島でいま足りていない仕事や、暮らしの困りごとは何ですか」と一つだけ聞いてみてください。観光の話ではなく、島の生活の困りごとを尋ねると、観光客の動線からは見えない需要が浮かびます。
地方で島内の需要を束ねるのも、島にいながらオンラインで全国を相手にするのも、どちらも神津島で成り立つ道です。土地に縛られすぎず、自分に合うほうから試してみてください。
よくある質問

Q.神津島は人口1,688人ですが、お客様が少なすぎて起業は無理ではないですか?
人の少なさは、商売の組み立て方しだいで弱点にも強みにもなります。神津島には夏に来る観光客と、年間を通して暮らす島民という二つの需要の流れがあります。観光客の動線だけを見ると確かに季節に左右されますが、島民の暮らしの困りごとや、島にいながら全国を相手にするオンラインの仕事まで広げると、人口の数字以上に商売の余地は出てきます。少ないからこそ、誰に何が足りていないかが見えやすいのも島の特徴です。
Q.会社を辞めて移住しないと、神津島で仕事は始められませんか?
いいえ、いきなり移住する必要はありません。むしろ、本業を続けながら東京と島を行き来する関係人口の段階から始める方が、生活の土台を崩さずに済みます。リモートで本業のスキルを使いながら島に通い、需要を確かめてから移住を判断する。創業相談や移住関連の制度はありますが、年度ごとの要件を確認し、方向が固まってから使う道具として考えるのが安全です。お試し移住や二拠点という選び方も、十分に現実的です。

神津島の海は、来た人を惹きつけます。けれど、そこで暮らし続けられるかを決めるのは、景色ではなく、二つの動線のどちらにも商品を置けたかどうかです。どこに商品を置くかが見えてくれば、島の景色は「眺めるところ」から「暮らしを立てるところ」へ変わっていきます。
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