記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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アロマテラピーの資格を取り終えて、「さあ独立しよう」と思った瞬間に、急に足が止まる方がとても多いです。
サロンを借りる費用、ずらりと揃えなければいけなさそうな精油、ベッドやタオルの準備。考えるほどに「私のアロマに、本当にお金を払ってくれる人がいるのだろうか」という不安のほうが大きくなっていきます。
この記事では、店舗をフル装備で構える前にやっておく準備と、ホームサロン・出張・間借りという3つの始め方を、現場で見てきた順番でお伝えします。
「サロンを構えないと開業できない」という思い込み

まず外したいのは「店舗ありき」の発想
アロマセラピストの開業と聞くと、多くの方が真っ先に「どこにサロンを借りようか」と考え始めます。けれど、いきなりテナントを借りてベッドを入れ、精油を何十本も揃えるところから始める必要は、実はありません。最初に必要なのは、立派な空間ではなく「あなたの手当てで楽になった」と言ってくれる、たった一人のお客様です。
日本アロマ環境協会(AEAJ)の発表によると、1999年に始まったアロマテラピー検定の累計受験者数は54万人を超えています(AEAJ・2023年公表)。資格を持つ人は決して少なくありません。だからこそ、設備の豪華さで差がつくことはほとんどないのです。
在庫よりも先に「届け先」を決める
精油やキャリアオイルを先に大量に買い込んでしまうと、使い切れずに香りが飛んでいくものも出てきます。順番が逆なのです。先に「誰の、どんな疲れをほぐすのか」を決めてしまえば、必要な精油は驚くほど絞られます。届け先を決めてから道具を揃えると、開業の費用は一気に小さくなります。
そもそも、起業に大きなお金がかかるという前提が薄れてきています。日本政策金融公庫総合研究所の「2024年度新規開業実態調査」では、開業費用が250万円未満だった人が20.1%にのぼり、500万円未満で開いた人が全体の約4割を占めました。アロマのように在庫の少ない仕事なら、ここからさらに小さく始められます。
- テナントを先に借りてしまう:
お客様がまだ一人もいない段階で固定費だけが重くのしかかる - 精油を何十本も揃えてしまう:
使われないまま劣化し、最初の出費が回収できなくなる - 上位資格の取得を開業の条件にしてしまう:
学び続けること自体が目的化し、いつまでも開けない
開業前にやっておく3つの準備

準備その1:誰のどんな悩みに向き合うかを決める
アロマトリートメントは、肩こりにも、寝つきの悪さにも、産後の心の揺れにも効かせ方が変わります。「すべての人に」を狙うと、かえって誰にも届きません。育児で眠れない方なのか、立ち仕事で脚がむくむ方なのか、まず一つに絞ります。対象が決まると、選ぶ精油もメニューの言葉も自然と定まっていきます。
準備その2:自分の弱みを棚卸しする
ここで意外に効いてくるのが、自分の弱みや回り道です。拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』では、引っ込み思案やつらかった経験こそ独自の切り口になるという考え方を紹介しています。人前で話すのが苦手なら「静かに過ごせる、会話を求められないサロン」が売りになります。自分が乗り越えてきた不調や事情は、同じことで悩む人にとって、いちばん信用できる目印になります。
準備その3:練習ではなく「お金をもらう」一回をやってみる
無料のモニターを何十人にやっても、有料で成立するかどうかは分かりません。友人でも親戚でもいいので、一回だけ料金をいただいてセッションをします。お金が介在した瞬間に見えてくる相手の本音こそ、どんな市場調査よりも確かな手がかりになります。
ホームサロン・出張・間借り、3つの始め方

いちばん費用が軽いのはホームサロン
自宅の一室を使うホームサロンは、家賃が増えない分、最も小さく始められます。タオルやベッドは中古でも十分で、初期費用を数万円に収めることも難しくありません。住所を公開したくない場合は、予約時にお伝えする形でも運営できます。
場所を持ちたくないなら出張・訪問
お客様の自宅へ伺う出張アロマは、自分の施術スペースを持たずに始められます。子育て中で外出が難しい方や、高齢のご家族を介護中の方など、「来てもらえると助かる」層に喜ばれます。移動の手間はありますが、店舗費用がまるごと不要になります。
設備を借りたいならレンタルサロンの間借り
きちんとした施術環境で迎えたいけれど、まだ固定費は抱えたくない。そんなときはレンタルサロンを時間単位で借りる間借りが向いています。予約が入った日だけ借りれば、空き時間の家賃を払わずに済みます。
- ホームサロン:
費用が最も軽い。自宅の一室を使い、初期費用を数万円に抑えられる - 出張・訪問:
施術スペースを持たずに始められる。来てほしい層に直接届く - レンタルサロン間借り:
予約が入った日だけ借りる。固定費を持たずに整った環境を使える
これらは「どれか一つを選んで一生固定」ではなく、出張で始めて手応えが出たらホームサロンへ、という乗り換えも自由です。
自己流で伸び悩んだ会員さんが指名で呼ばれるまで

起業18フォーラムにいた七尾さん(仮名・40代・女性・元アパレル販売員)は、アロマテラピーの資格を取ったあと、自己流でホームサロンを開きました。SNSに「癒やしの空間で心も体もリラックス」と投稿し、予約を待っていたそうです。けれど、半年たっても月の予約は2、3件のまま。「誰にでも効きます」という打ち出しが、かえって誰の心にも引っかからずにいました。
転機は、ひとりのお客様のひと言でした。施術のあと「人と話すのが疲れる日に、黙って受けられるのが、すごく助かって」と打ち明けられたのです。七尾さんは長く接客業をしてきた反動で、自分も「気を使わずに過ごせる時間」に飢えていました。その自分の事情と、目の前の声が重なった瞬間でした。
ただ、その気づきを商品の形にする方法までは見えませんでした。起業18フォーラムの勉強会で、つらかった経験や苦手こそが独自の切り口になると学び、会員さん同士の個別相談で「会話を求められないサロン」という看板に絞り込んでいきました。メニュー名も「静かに整える、無言のアロマトリートメント」へと書き換えたのです。
すると、一人の満足したお客様が、同じように人疲れしやすい友人を連れてくるようになりました。商品より先に、信頼が口コミを回していったのです。そこに気づいてから、紹介が紹介を呼ぶようになりました。自己流で待っていた頃は月2、3件だった予約が、今では月12件の常連さんで埋まり、半分以上が指名と紹介です。「もっと早く、自分の苦手を隠さず出していればよかった」と、七尾さんは振り返ります。
よくある質問

Q.アロマセラピストとして開業するのに、特別な許可や資格は必要ですか?
アロマトリートメントそのものに国家資格や営業許可は必須ではありません。ただし、自宅で施術スペースを設ける際の用途や、マッサージという表現の使い方には注意が必要です。お住まいの保健所に「どこまでの表記なら問題ないか」を一度確認しておくと安心です。
Q.資格は何級まで取ってから独立すべきでしょうか?
級を上げ続けることが開業の条件ではありません。日本アロマ環境協会の個人正会員は約4万1,921人(AEAJ・2025年3月末時点)いて、資格保有者は多くいます。上の級を目指すより、目の前の一人を満足させる経験を積むほうが、独立後の力になります。
Q.どのくらい稼げたら確定申告が必要ですか?
会社にお勤めのまま起業準備を進める場合、本業以外の所得が年間20万円を超えると確定申告の対象になります。金額は人によって変わるので、売上が見えてきた段階で、お住まいの地域の税務署や無料相談で確認しておくと迷いません。
次の一歩:知り合い一人に、有料で一回

ここまで読んで、「サロンも揃えていないのに、もう始められるのか」と少し驚かれたかもしれません。大きな決断はまだ必要ありません。今日できることは、これまでアロマを施したり、誰かの肩をもんで喜ばれた場面を一つ思い出し、知り合いを一人だけ、有料で迎えてみることです。
数千円のメニューを一つ用意して、一回だけ受けてもらう。それだけで、自分のアロマにお金を払う人がいるのかという最大の不安は、具体的な手応えに変わります。失敗しても、痛手になる規模ではありません。香りが記憶に残るように、あなたの手当てで楽になった時間も、お客様の中に静かに残っていきます。その積み重ねが、次に呼ばれる理由になります。

踏み出す前に立ち止まってしまうその慎重さこそ、人の心と体に触れるこの仕事では、お客様を雑に扱わない誠実さとして伝わります。怖さを抱えたまま、小さな一回から始めてかまいません。
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