アパレル販売員のまま終わりたくない。対面の接客力は独立の武器になりますか?

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

40代のアパレル販売員です。新卒からずっと店頭の接客と販売しかしてきませんでした。資格もない、パソコンの特技もない、人に教えられるような専門知識もない。それでも、いつか自分の名前で稼げるようになりたいと思っています。

対面でお客様に服を売ってきた経験は、会社の外でも武器になるのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

「私には特技なんてない、と思っていました」。準備講座でそう前置きをして話し始めた販売員の方が、後に自分の一番の武器に気づいた、という出来事がありました。対面でお客様に売ってきた経験は、翻訳の仕方さえ間違えなければ、会社の外でも十分に商品になります。まず、この一点を先にお伝えしておきます。

ただ、私自身、最初にこの相談を受けたときは答え方を間違えていました。「接客が得意なら、その接客スキルを教える講座を開けばいい」とお伝えしていた時期があるのです。ところが、それで本当にうまくいった方はほとんどいませんでした。対面販売の力の本当の価値は、接客の技術そのものではなく、目の前の一人が何に迷っているかを読み取って、その人に合う一点を手渡せることのほうにあります。

「安く売る力」のまま外に出ると、すり減って終わる

販売・接客の経験を独立に活かそうとするとき、多くの方が最初につまずくのは、店頭でやっていたことをそのまま会社の外に持ち出そうとする点です。店頭では、来てくれた不特定多数のお客様に、いかに気持ちよく買ってもらうかが仕事でした。その延長で「とにかくたくさんの人に、安く手早く」を続けると、独立しても価格競争に巻き込まれ、体力だけがすり減っていきます。

対面で人にものを売る仕事をしてきた人は、決して少数派ではありません。総務省統計局の労働力調査によると、2025年平均で卸売業・小売業の就業者数は1,029万人にのぼります。それだけ多くの人が店頭で売る経験を持っているからこそ、その他大勢と同じ「安く手早く」の売り方のまま外に出ると、すぐに埋もれてしまうのです。

対面販売をしてきた人がもったいないのは、店頭で毎日のように起きていた「あなたに見てもらえてよかった」という瞬間を、自分の力だと数えていないことです。お客様は商品にお金を払っていたようでいて、実はあなたの目利きと一押しに安心してお金を払っていました。独立で売れるようになる人は、商品を安く売る力ではなく、この「あなたに選んでほしい」と思われる力のほうを外に持ち出しています。

対面の力は、こんな相手に翻訳できる

では、その力を会社の外で誰に向けるか。ここで属性ごとに考えると、行き先が見えやすくなります。

たとえば、何を着ればいいか分からない個人のお客様に向けて、買い物の同行やオンラインでの服選びの相談に乗る形があります。あるいは、店を持つ側、つまり小さなアパレルショップやハンドメイド作家に向けて、店頭での声かけや売場づくりの相談に乗る形もあります。

前者は一般のお客様、後者は同業の事業者で、必要としている力は同じ「対面で売る勘」でも、出口がまったく違います。大切なのは、自分の経験を誰の悩みに翻訳するかを一つに絞ることで、ここを広く取りすぎると、店頭時代と同じ「不特定多数への安売り」に逆戻りします。

不特定多数ではなく、指名で相談が来る形に変える

「発信は増えたのに、お金を払いたいという声だけが届かなくて」。そう肩を落としていたのが、地方都市でアパレル販売を続けてきた藤掛さん(仮名・40代後半・既婚・子は高校生)でした。起業18フォーラムで相談に来られた当初、最初の半年は自分の接客の動画を撮って発信する形を試していましたが、見てくれる人は増えても、依頼にはつながらなかったのです。

流れが変わったのは、長く担当していた常連のお客様からかけられた一言でした。「藤掛さんがいる日に来てるの。服が欲しいんじゃなくて、藤掛さんに選んでほしいのよ」。藤掛さんは、自分が売っていたのは服ではなく、この人なら任せられるという安心だったのだと、その言葉でようやく自分の手柄として受け取れたそうです。

そこから藤掛さんは、発信で広く集めることをやめ、これまで担当した常連客に「お店の外でも、服選びの相談に乗ります」と一人ずつ声をかける形に変えました。不特定多数に向けて発信していたあいだは反応がなかったのに、顔の見える一人に直接手渡したら、相談がそのまま依頼になって返ってきたのです。

いまは勤めを続けながら、休みの日に個人の服選び相談を引き受け、最初の月の2件から、紹介がつながって月12件まで届いています。「次もあなたにお願いしたい」と名前で指名されることが当たり前になり、誰かに見つけてもらうのを待つ働き方から、藤掛さんはすっかり抜け出しました。

小さな流れを複数持って、結びつけておく

拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』では、一つの収入の流れに頼り切らず、小さな流れを複数持って結びつけておく「複線化」という考え方を紹介しています。一本の太い柱を立てようとするより、細い流れをいくつか育てて束ねるほうが、枯れにくく続きやすい、という見方です。

販売・接客の経験は、この複線化と相性のよい資産です。個人の服選び相談、同業ショップへの売場のアドバイス、店頭で培った言葉づかいを使った商品紹介文の代筆。どれも一つでは小さくても、根っこにあるのは同じ「対面で売る勘」なので、無理なく束ねられます。

まずは上位で売れている個人スタイリストや、繁盛している小さなショップの店主を、しばらく「お客の目」で観察してみてください。なぜこの人が選ばれているのかが言葉で見えてくると、自分の経験のどこを外に出せばよいかが分かってきます。

会社員時代の人脈はどう起業準備に活かす? 気をつけるべき点は?
● 質問 会社員10年目です。社外の交流会に時間とお金をかけて人脈を広げてきましたが、起業準備を始めてみると、

今週、指名で売れている人を一人だけ選び、その人がお客様にどんな一言を返しているかを、買う側の目でメモしてみてください。あなたが店頭で何度も受け取ってきた「あなたに会えてよかった」という言葉は、会社の名札を外しても消えません。その声を一番よく知っているあなた自身が、自分の力をいちばん安く見積もらないでください。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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