記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
同僚は資格や専門スキルを持っているのに、自分は総務でこまごました雑用ばかりやってきて、これといって人に売れる専門がありません。
こういう普通の会社員でも、起業の種は見つけられるものでしょうか? 何を起業の種にすればいいのか、入口すら見えなくて困っています。

● 回答
「自分には売り物になる専門がない」という感覚、痛いほどよくわかります。隣の席の人が資格の話をしているのを聞くたびに、自分だけ手ぶらで起業の入口に立っている気がしてしまいますよね。
けれども、26年この起業18フォーラムで会社員の起業を見てきた立場から言わせてください。起業の種は資格の有無ではなく、これまで人から頼まれてきたことの中に埋まっています。そして庶務畑の方は、その「頼まれごと」を誰よりも多く引き受けてきた人なのです。
「特別な人だけのもの」という思い込みを先に外す
起業と聞くと、尖ったスキルや珍しい資格を持った人が始めるもの、というイメージが先に立ちます。だからこそ「自分には無理かもしれない」と入口で足が止まります。
でも、実際に小さく始めている人たちの動機を見ると、その思い込みが揺らぎます。日本政策金融公庫が公表した「2025年度 起業と起業意識に関する調査」(2026年2月公表)では、起業家の起業動機としてもっとも多かったのは「自由に仕事がしたかった」(51.7%)でした。
特別な専門を武器にしたかった、ではないのです。多くの人は、立派な専門があったから始めたのではなく、自分のやり方で人の役に立ちたくて始めています。
だからこそ、起業の入口で問うべきは「自分に何の専門があるか」ではありません。「自分はこれまで、誰に何を頼まれてきたか」です。問いを変えるだけで、見える景色が変わります。
「自分には種がない」と感じる人がしている、よくある勘違い
- 専門スキルがないと種にならない:
人がお金を払うのは資格にではなく、自分の手間が減ることに対してです。 - 誰でもできる雑用に価値はない:
誰でもできるはずの仕事を、なぜか毎回あなたに頼む人がいる時点で価値があります。 - 立派な実績を作ってから探すもの:
種はこれから作るものではなく、すでに済ませてきた仕事の中に埋まっています。
ここで一度、自分の仕事の棚卸しをしてみてください。総務や庶務の仕事は、社内の「面倒だけど誰かがやらないと回らないこと」を一手に引き受ける役回りです。それは裏を返せば、人の手間を肩代わりする力を毎日鍛えてきた、ということでもあります。
起業の種が見つかる人・見つからない人、3つのタイプ
同じ「専門がない」会社員でも、種にたどり着く人とそうでない人がいます。違いは能力ではなく、自分の経験のどこを見ているかにあります。大きく3つのタイプに分かれます。
- タイプ1:資格の有無で判断する人:
「何の資格も持っていない」で思考が止まり、自分の経験を見ずに入口で引き返してしまうタイプ。 - タイプ2:実績の派手さで判断する人:
表彰歴や大きな成果ばかり探し、日々こなしている地味な頼まれごとを「種ではない」と切り捨てるタイプ。 - タイプ3:頼まれた回数で判断する人:
「またあなたにお願い」と言われた経験を数え、そこから自分の役回りを見つけられるタイプ。
種が見つかるのはタイプ3の人です。大きな実績ではなく、何度も頼まれた小さな仕事こそが、お金を払ってでも頼みたい人がいる証拠になります。庶務畑の方は、この「何度も頼まれた経験」の宝庫を持っています。
総務畑から「相談される人」になった会員さんの話
たとえば、起業18フォーラムの会員さんに奥山さん(仮名・40代・総務)という方がいました。長く庶務の仕事を担当してきて、最初は「自分には人に教えられるものなんて何もない」と話していました。やってきたのは備品の手配や会議室の予約、社内の細かい問い合わせの交通整理ばかりだ、と。
転機は、奥山さんが自分の仕事を語った言葉そのものにありました。起業18フォーラムの勉強会で他の会員さんの話を聞いていたとき、講師が隣の参加者に「それは誰の面倒を肩代わりしているの?」と問いかけたのです。
横で聞いていた奥山さんは、その問いが自分にも刺さって、帰り道で立ち止まりました。自分がやってきたのは雑用ではなく、人が後回しにしがちな段取りを代わりに引き受けることだったと、初めて言葉になったのです。
そこから奥山さんは、社内で頼まれてきた段取りごとを一つずつ書き出し、「面倒な手配を代わりにやる」という一点に絞り込みました。最初は同じ部署の同僚から雑用を引き受けるところから始めました。
やがて「あの人に頼むと早い」という評判が部署の外にも伝わり、別の部署からも段取りの相談が回ってくるようになりました。今では他部署の担当者から「この手配、奥山さんにお願いしたい」と名前で声がかかり、頼られる場所が社内に少しずつ広がっています。
拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』では、才能のない人は一人もいない、という考え方を紹介しています。奥山さんの「段取りを代わりに引き受ける力」も、本人がずっと雑用だと思い込んでいた、名前のない強みでした。
頼まれごとを「数える」と種が立ち上がる
では、何から手をつければいいのか。専門を探すのをやめて、頼まれごとを数えることから始めてください。具体的には、人から「ありがとう」と言われた瞬間に注目します。
- 誰に頼まれたか:
同じ人が繰り返し頼んでくるなら、そこにあなたの役回りがあります。 - 何を頼まれたか:
内容が地味でも、人が避けたがる手間ほど価値が高くなります。 - なぜあなたに頼んだか:
「あなたなら早い・安心」と言われた理由が、そのまま売り文句になります。
頼まれごとを数えていくと、自分でも気づかなかった偏りが見えてきます。やたら同じ種類の相談が回ってくる、特定の場面でだけ名前を呼ばれる。その偏りが、あなたの起業の種です。専門という言葉で探していたものが、頼まれごとの記録の中から立ち上がってきます。
大切なのは、最初から完璧な商品を作ろうとしないことです。まずは身近な人の手間を一つ肩代わりしてみる。その小さな一歩で、種が本物かどうかは確かめられます。
今日できることは、今の仕事で「ありがとう」と言われた瞬間を、これから1週間だけ気に留めて数えてみることだけで十分です。

専門がないと感じている人ほど、人の頼みごとを断れずに引き受けてきた優しさを持っています。その積み重ねは、もう立派な種です。今日からは「資格がない」ではなく「何を頼まれてきたか」で自分を見てみてください。
よくある質問

Q.頼まれごとが少ない人は、起業の種を諦めるしかないですか?
諦める必要はありません。頼まれた回数が少なく感じるのは、自分が引き受けてきたことを雑用として記憶から消しているだけ、というケースがほとんどです。過去に「助かった」「ありがとう」と言われた場面を1週間だけ意識して数えてみると、思っていたより多くの頼まれごとを引き受けてきたことに気づきます。まずは専門を探すより、自分が頼まれてきた小さな仕事を数えることから始めてください。
Q.数えた頼まれごとを、どうやって起業の種につなげればいいですか?
まずは一番多く頼まれてきたものを一つに絞ることです。あれもこれもと欲張らず、繰り返し頼まれた経験を一点に絞ると、誰のどんな手間を減らせるかがはっきりします。そのうえで、身近な人の同じ困りごとを一度だけ無償で引き受けてみてください。相手が本当に助かったと感じるかどうかで、種が育つかどうかが見えてきます。
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