希望退職の募集が出た会社員へ|今すぐ辞めなくても始められる3つの準備

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

「ある朝、机に戻ると、希望退職の募集案内が一枚置かれていました。割増退職金の上乗せ条件まで具体的に書かれていて、思わず手が止まった」。そんな声を、最近よく聞くようになりました。

多くの方は、今すぐ手を挙げるつもりはありません。それでも「このままでいいのだろうか」という問いだけが、胸の奥に静かに残ります。不安なまま会社にしがみつくのでも、勢いで辞表を出すのでもない、第三の動き方があります。

この記事では、募集の紙を受け取ったときに今日から落ち着いて始められる3つの準備を、順番にお伝えします。

ポイント 黒字でも退職募集が出る時代に起きている変化

黒字企業にも退職募集が広がる背景整理

会社員

まず、いま起きていることを数字で確認しておきます。東京商工リサーチの集計によると、2025年に「早期・希望退職募集」を実施した上場企業は43社、募集人数は1万7,875人にのぼりました。これはリーマン・ショック以降で3番目に高い水準です。

注目したいのは、その内訳です。この募集人数の85%超を占めたのは、業績が赤字の企業ではなく黒字の企業でした。つまり「会社の調子が悪いから人を減らす」のではなく、「業績は悪くないのに、年齢構成を整えるために中高年へ募集をかける」という動きが広がっています。

かつては、退職募集は「危ない会社のサイン」でした。今は違います。真面目に勤めてきた人ほど、ある日とつぜん「あなたの席は、この先も保証されているわけではない」と知らされる時代になりました。これは脅しではなく、ただの事実です。事実だからこそ、感情ではなく準備で受け止めることができます。

ポイント 準備①|辞めたあとの自分を「5つの問い」で知る

退職後の生活を数字で見える化する5つの問い

50代

募集の紙を見て最初に湧くのは「辞めるべきか、残るべきか」という二択の問いです。けれど、その問いにいきなり答えを出そうとすると、不安と希望が混ざって判断が揺れます。先にやるべきは、辞めたあとの自分を具体的に「知る」ことです。

拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』に、退職を考え始めた人へ向けた「5つの退職前チェック」という考え方をまとめています。これは、勢いで決める前に、自分の足元を5つの角度から見える化するための問いです。

辞める前に確かめたい5つの問い

  • 利益:会社の外で、まだ一円も自分の力で稼いだことがあるか
  • インフラ:仕事を受ける口座・連絡先・道具など、最低限の受け皿があるか
  • 根拠ある自信:「たぶん大丈夫」ではなく、実際に喜ばれた事実があるか
  • メンター・人脈:迷ったときに相談できる、半歩先を歩く人がいるか
  • 半年先の売上見込み:辞めた後の半年、収入の当てが具体的に描けるか

この5つに今すぐ全部「はい」と答えられる方は、ほとんどいません。それでいいのです。大切なのは、答えられない項目こそが「在職のうちに埋めておくべき準備リスト」になるという点です。辞めるかどうかの結論を急ぐより、まずこの5つを紙に書き出してみてください。漠然とした不安が、具体的な宿題に変わります。

ポイント 準備②|在職のまま、小さく一度だけ売ってみる

会社に残ったまま小さく一度売ってみる検証手順

女性

5つの問いのなかで、多くの方がいちばん埋まっていないのが一つ目の「利益」です。会社の給料以外で、自分の力で一円でも受け取った経験。ここがゼロのまま辞めると、退職金という残高は減る一方で、入ってくる流れがない状態に置かれます。

だからこそ準備②は、在職のまま小さく一度だけ売ってみることです。大きな事業を立ち上げる必要はありません。今の仕事で身につけた知識や段取りを、困っている知人に有料で一度だけ届けてみる。それだけで十分です。

在職のまま試す「一度だけの検証」

  • これまでの仕事で「ありがとう」と言われた場面を10個書き出す
  • そのなかから、社外の個人や小さな会社でも役立ちそうなものを1つ選ぶ
  • 身近な知人3人に「試しに相談に乗らせてほしい」と声をかける
  • 無理のない金額で一度だけ届け、相手の反応をそのまま記録する

今週末、まずは「ありがとうと言われた場面」を10個書き出すところから始めてみてください。ここで会社名や肩書きを使う必要はありません。在職中の競業や機密のルールに触れない範囲で、自分個人の経験として届けられるものを選びます。一度でも「会社の外で喜ばれた」という経験ができると、5つの問いのうち「利益」と「根拠ある自信」が同時に動き出します。

ポイント 準備③|「いつ辞めるか」ではなく「どんな状態なら動けるか」で決める

辞める日でなく辞められる状態で決める判断軸

40代営業

準備の最後は「決める」ことです。ただし、ここで多くの方がつまずきます。「来年の3月までに結論を出す」と期限だけを先に決めてしまうと、準備が整っていなくても期限が来た瞬間に飛び降りることになります。期限は、安心材料のように見えて、実は判断を雑にします。

おすすめしたいのは、日付ではなく状態で決めることです。辞める日を決めるのではなく、「これが揃ったら辞められる」という状態を先につくる。先ほどの5つの問いが、そのまま状態のチェックリストになります。

電機メーカーの設計部門で働くNさん(仮名・49歳・男性・既婚・子ども2人)も、勤め先で希望退職の募集を受け取った一人でした。最初は焦って、自己流で「経営コンサルタントとして独立する」と決め、高額な起業塾に申し込みました。けれど半年が過ぎても、相談してくれる人は一人も現れません。

転機は、起業18フォーラムの勉強会に参加し、先ほどの「5つの退職前チェック」で自分の足元を見直したことでした。Nさんに足りなかったのは立派な肩書きではなく、「会社の外で一度も売っていない」という一点だったのです。

そこから、社内で20年くり返し頼まれてきた「設計図面の品質チェック」を棚卸しし、中小の製造業向けに「図面チェック代行」という小さなサービスへ作り直しました。知人経由でモニターを引き受け、12ヶ月目に月5万円、18ヶ月目には月15万円の継続収入になりました。今もまだ会社には在籍していて、辞める日は決めていません。「いつでも辞められる」という状態が、Nさんの表情を穏やかにしてくれました

ポイント 募集の紙を「準備の出発点」に変える順番

会社からの募集を準備の出発点に変える順番

point

希望退職の募集案内は、受け取った瞬間は冷たい紙に見えます。ただ見方を変えれば、それは「準備を始めなさい」という外からの合図でもあります。手を挙げるかどうかは、今日決めなくて構いません。決めるべきは「辞めるか残るか」ではなく、「準備を始めるか、先送りするか」のほうです

順番は、知る・試す・決めるの3つです。まず5つの問いで辞めたあとの自分を知り、次に在職のまま一度だけ小さく売って試し、最後に日付ではなく状態で決める。この順番なら、会社に残っても辞めても、足元が崩れません。

会社の業績や人事の方針は、自分では変えられません。けれど、もう一つの足場を在職のうちに育てておくことは、今日からできます。まずは今夜、紙を一枚用意して、先ほどの5つの問いに今の自分が何点くらい答えられるかを書き出してみてください。それが、不安を準備に変える最初の一歩になります。

会社の先行きが不安なとき、辞める前に準備できることは?
● 質問 51歳の会社員です。勤めている会社の業績がここ数年じわじわ落ちていて、この先ずっとここで働き続けられ

募集の紙が回ってきたこと自体は、もう変えられません。でも、その紙をきっかけに動き出した人は、数年後にずいぶん違う景色を見ています。あなたの足場づくりも、今日から静かに始められます。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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