記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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今回のマネ虎レポートは、女性だけをターゲットにしたスープカレー専門店の開業を夢見る、札幌の飲食店経営者のお話です。

「マネーの虎」は2001年から2004年まで日本テレビ系で放送されたリアリティ番組で、夢を持つ志願者が起業資金を求めて名だたる実業家=「虎」たちのまえでプレゼンを行い、出資をめぐってぶつかり合う人間ドラマです。なかでも、女性実業家5人が虎として座った回は異色の輝きを放っています。華やかな経歴を持ちながらも誰ひとり甘くない。そのシビアさこそが、この番組の真骨頂だと私は思っています。

- 吉川幸枝(67歳当時)年商約100億
株式会社よし川 代表取締役社長 レストラン・ブライダル経営 - 野口美佳(38歳当時)年商134億
株式会社ピーチ・ジョン 代表取締役 販 - 尾崎友俐(35歳当時)年商10億
株式会社オリエンタル 代表取締役 - 臼井由妃(45歳当時)年商23億
株式会社健康プラザコーワ 代表取締役 - レイコ・B・リスター(69歳当時)年商25億
株式会社エル・インターナショナル 代表取締役社長
ちなみに、当回には出演されていませんが、現在の南原会長です。虎ノ門・株式会社LUFTホールディングス事務所にて。

「女性だけのためのスープカレー」1200万円を求めた男の夢

スタジオに現れたのは、札幌でダイニングバーを営む松橋さんです。彼はスープカレーに魅せられて8年間、札幌市内の専門店80件以上を食べ歩き、独自レシピを磨き続けてきました。専門店としてではなく、あくまで「女性のために作ったカレー」という切り口で勝負しようとしています。
希望額は1200万円。用途は女性をターゲットにしたスープカレー専門店の開業資金です。
松橋さん「1200万円です。女性をターゲットにしたスープカレーの専門店の開業資金です」
尾崎社長「スープカレーっていうのはどういうものなのでしょうか。具だくさんのスープを何かカップで売るとか、そういうものですか?」
松橋さん「まずカレーとは別なものと考えていただきたいのです。器がスープの器がありまして、別にご飯があるのですよ。特徴としては大きめの具がチキンですとか、人参ですとか、彩りのいい野菜ですね。緑黄色野菜とかそういったものを少し大きめに盛り付けるということで、まず見た目でも非常にヘルシーに見える」
スープカレーとは、カレールーではなくスパイスを溶かしたスープに大きな具材を沈めた料理で、北海道・札幌が発祥地です。当時、首都圏では「スープカレー」という言葉自体がまだ浸透しておらず、虎たちには「カップに入ったカレー?」という感覚でした。松橋さんは丁寧に説明を重ねます。
松橋さん「柔らかく煮てありますので、例えばチキンにしてもスプーン1本で全部ほぐれます」
臼井社長ご自分の周りに女性で『こういうのどうですか、こういうメニュー考えたのですけど』と相談できる相手はいますか?」
松橋さん「たくさんいます。僕は札幌でお店をやっているのですけれども、バーをやっています。スープカレーに関してはお店をやってからではなくて、8年間食べ歩いて研究はしてきたつもりです」
このカレーのターゲットは、ヘルシーさやローカロリーを気にする「女性」です。
「ランチ2.5回転は世界に例がない」女社長たちが数字を斬る

吉川社長「話の途中で悪いんだけど、女性をターゲットにするなら、やっぱり「太るのが嫌」という悩みは外せないわよね。私くらいの年齢になっても、「肌が綺麗になる」といった、きちっとした目的やメリットがはっきり提示されないと、行かないよ女は」
松橋さん「『太る』という点に関しては、カプサイシン(唐辛子の成分)が非常に有効です。また肌に関して言えば、やはり内臓の健康が非常に重要だと考えています。内臓を元気にする「整腸作用」のあるスパイスも、私のカレーにはふんだんに取り入れています」
ここで、元ファッションモデルという異色の経歴を持つ虎・レイコ・B・リスター社長が口火を切ります。年商25億円の化粧品輸入商社を率いる彼女の目は鋭く、数字の甘さを一瞬で見抜きました。
松橋さん「チキンカレーが850円で、ベジタブルカレーが900円を予定しています。300万から400万の売上。ランチセットとかを考えているので、客単価は昼のランチタイムは950円で」
吉川社長「何回転するつもり?」
松橋さん「昼は2.5で考えてます」
野口社長「女性をターゲットにするってことは、リピートで来てもらうってことはご飯食べた後におしゃべりしたいわけよ。回転率悪いと思うのね」
続いて飲食のプロ、吉川社長が畳みかけます。
臼井由妃「数字はいいのだけど、私ね、一生懸命やってる人大好きなのね。今は健康関連の健康食品とか化粧品とかそういったことを事業させていただいてますけど、もともとは飲食業なのですよ。俺しかないぞっていうのを見せてもらえないかな」
スパイス14種類! 8時間煮込みのスープカレー実演

こだわりの調理法を説明するも、言葉だけでは伝わらないと悟った松橋さんは、実際に調理を披露します。「見せてください」という虎の声に応え、スタジオで再現された本格スープカレーは、虎たちを驚かせました。
まずスープ作りから始まります。鶏ガラと豚骨(コクを出すために少量)、そして野菜からだしを取ります。弱火で8時間煮込んだ後、さらに3種類の魚のだしを加えるという凝りようです。
松橋さん「このチキンを取り出して揚げます。煮込んだだけだとどうしてもちょっと味がですね、抜けちゃう。ただ味が抜けた肉になってしまうので」
チキンを取り出し、水気を切って下味をつけてから揚げます。煮込んで柔らかくしたうえで揚げることで、コクと食感を両立させるというこだわりの技法です。
松橋さん「いや、1000じゃきかないとは思いますけども。これがスパイス14種類混ざってまして、これも今回のカレーに合わせて変えたので、僕にしては力作の一つなのですよね。スパイスはさきに入れて煮込む場合もあるのですけど、そうすると肉がちょっとボロボロになるということと、香りを重視したいということで最後に加えるようにしてます」
こうして完成したのが、北海道の冷涼な大地で育まれた女性のためのスープカレー。スリランカ料理に近いという魚だしの風味が、ほかのカレーにはない独特の香りと味わいを生んでいました。
女社長5人を魅了した味! 吉田栄作も「俺行くな」

完成したスープカレーを前に、虎たちの表情が変わります。司会の吉田栄作が真っ先に食いつきました。
ホストが本気で通いたいと言わしめた一品。続いて女社長たちの試食が始まります。
野口社長「このスタイルだったら私はすごく大好きな。野菜が大きいってだけでものすごくありがたみっていう価値があるのですね。野菜が食べやすいからって言って細かくなっちゃってるとそれだけでなんかね残念だったりもするのですよ。だからいいのではないかなと思う。カラフルだし」
試食の場は和やかな雰囲気に包まれました。大きな具材のインパクト、スパイスの奥深い香り、そして食べながら感じるヘルシー感。松橋さんが8年かけて磨いてきた一杯は、確かに女社長たちの心を動かしていました。
これほど評判がよければマネー成立かと思ったその瞬間、事態は急転します。
「なぜ大阪?」 根拠なき出店計画が暗転を招く
出店場所について話が及んだとき、場の空気が一変しました。
松橋さん「決まっているというわけではないのですけれども、北海道…… 今考えているのは大阪がいいのではないかということで」
臼井社長「札幌から大阪に、っていう発想どっからあるのかな。大阪って食の街だよね。そこにこのスープカレー持ってって戦えるって自信があるから大阪、ってこと?」
松橋さん「根拠ですよね?」
「食の激戦区・大阪」という話に、虎たちは動揺します。さらに鋭い問いが飛びます。
ここで野口社長が、否定的な意見を言います。
尾崎社長「このカレーはとてもいいと思います。世の女性の多くは油を嫌うかもしれませんが、私は大好きでで。さっきお鍋を覗かせてもらいましたけど、カレーが入る前の状態で、上に油が浮いているのを見て「うまそう」と感じました。油の量は、お客さんの好みに合わせて調整できるようにすればいい。ただ、私がもしこのカレー屋をプロデュースするなら、初期費用は300万円くらいで探しますね。1,200万円はかけすぎです。回収するのは本当に大変ですよ。私が最初に焼肉店を始めたときは、180万円でやりました。やればできるんです。もっとコストを抑えてスタートさせていれば、このカレーは内容がいいと思いますよ」
臼井社長「私もすごく迷ったんです。途中までたくさん質問もしました。でも、どうしても「なぜ大阪なのか」という点に納得がいかなくて」
松橋さん「今のところ、自分が一番いい材料を(調達できるのは)大阪しか知らないもので……」
臼井社長「申し訳ないけれど、そこに至る明確な『なぜ』が、私には最後まで見えてきませんでした。ごめんなさい」
吉田栄作さん「この時点で、皆さんからの出資額があなたの希望額に達しませんでした。今回はノーマネーでフィニッシュです」
これが決定打でした。「大阪にいい食材業者を知っているから大阪にしたい」という理由では、戦略的根拠になりません。
希望額の4分の1以下で同等のことができる、という経験からの言葉は重く響きます。臼井由妃社長も、内容は認めながらも出資に踏み切れない理由を打ち明けました。
女社長5人全員が、スープカレーそのものの味と可能性は認めつつも、出資には至りませんでした。カレーの評価は上々だが、事業計画と出店根拠が弱い。この2点が松橋さんの夢に立ちはだかりました。
志願者のその後 スープカレーブームの立役者に

松橋さんがノーマネーに終わった後、スープカレーの物語はこんな展開を見せます。
番組放送の翌年にあたる2003年、札幌の人気スープカレー店が首都圏へ進出し、一気にブームが到来します。東京・大阪をはじめ全国にスープカレー専門店が誕生し、「スープカレー」という言葉が日本中に広まりました。
マネーの虎のスタジオで松橋さんが懸命にスープカレーを説明したあの回が、「スープカレーとは何か」を全国に知らしめる機会となったのでしょうか。誰一人出資しなかった虎たちの判断に対し、後に批評家からは「見る目がなかった」という声も上がりました。ただ、虎たちが指摘した「大阪出店の根拠」「1200万円という過剰投資」「回転率の非現実さ」は、客観的な事業計画の問題として正確でした。
まとめ 「なぜ、あなたがやるのか」が問われた回

松橋さんのスープカレーは美味しかった。試食した女社長5人も、司会の吉田栄作さんも、その味を認めていました。しかし事業には「なぜ大阪なのか」「なぜ1200万円が必要なのか」「ランチ2.5回転はどう達成するのか」という問いへの明確な答えが必要でした。
虎たちが本当に欲しかったのは、松橋さん自身が「なぜ自分がこれをやるのか」という言葉だったのかもしれません。「大阪しか知らないから」という答えは、正直ではあっても投資家を動かす言葉ではありません。
料理のクオリティと事業計画は別物です。どれほど美味しくても、資金の使い道や戦略が曖昧であれば、プロの目は冷静に「ノー」を突きつけます。
一方でスープカレーという食文化は、このあとブームを迎え日本中に広まりました。あのプレゼンが全国にスープカレーを知らせるきっかけになったことは間違いなく、松橋さんの8年間の研究はある意味で、時代を先取りしていたのです。
よくある質問(FAQ)
Q. なぜ松橋さんはノーマネーに終わったのですか?
主な理由は2つです。①大阪出店の根拠が「自分が大阪の食材業者しか知らないから」という個人的な事情にとどまっており、戦略的根拠に欠けていたこと。②希望額の1200万円が高すぎるとの判断(尾崎社長によれば300万円でできる)が虎たちに共通していたことです。スープカレー自体の評価は高く、味は認められていました。
Q. その後スープカレーは本当に流行したのですか?
はい。番組放送翌年の2003年に札幌の有名スープカレー店が首都圏に進出し、東京を中心に一大ブームが到来しました。現在でもスープカレー専門店は全国に存在し、安定した人気を誇っています。マネーの虎での放送が「スープカレー」という言葉を全国に広めるきっかけになったともいわれています。
Q. この回の虎はなぜ女性社長ばかりだったのですか?
「女性をターゲットにしたスープカレー」というテーマに合わせ、女性実業家5人(吉川幸枝・野口美佳・尾崎友俐・臼井由妃・レイコ・B・リスター)が虎を務めた特別回でした。ターゲット顧客と同じ目線を持つ女性社長たちが判断するという点で、通常回とは異なる緊張感がありました。
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