記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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日光5000万アジアンリゾート案件は、温泉付き物件1450万円という資産担保がありながらノーマネー、資産よりも「人物リスク」を読む虎たちの判断軸が見える回です
今回のマネ虎レポートは、日光にアジア系温泉リゾート施設をオープンしたいと夢を語る、バングラデシュ出身の起業家のお話です。

日本テレビで2001年から2004年にかけて放送された「マネーの虎」。事業計画を持つ志願者が、資産家の虎5人の前でプレゼンを行い、全員分の出資額の合計が希望額に達すれば「マネー成立」、届かなければ「ノーマネーでフィニッシュ」というルールの番組です。
虎たちは自腹でリアルなお金を出すわけですから、プレゼンの真剣さも、評価の厳しさも、本番そのもの。私がこの番組を今も繰り返し観てしまうのは、そのリアルな緊張感と、人生をかけた志願者たちの姿に、いつも何か大切なものを見つけられるからかもしれません。

- 堀之内九一郎(55歳当時)年商67億
株式会社生活創庫 代表取締役社長 - 吉川幸枝
よし川グループ 代表取締役社長 - 加藤和也(31歳当時)
株式会社ひばりプロダクション 社長 - 櫻木博(53歳当時)年商157億
株式会社トマトアンドアソシエイツ 代表取締役社長 - 南原竜樹(43歳当時)年商55億
株式会社オートトレーディングルフトジャパン 代表取締役会長
当回に出演された南原竜樹会長の現在のお姿です。虎ノ門・株式会社LUFTホールディングス事務所にて。

日光に5000万円のアジアンリゾートを作りたい
今回の志願者は、バングラデシュ出身の男性です。すでに渋谷でアジア料理のレストランを営んでおり、その経験をもとに、日光に大規模なアジア系温泉リゾート施設を開業したいと名乗り出ました。
希望額は5000万円。虎たちの前に立った彼は、まず事業計画の概要を語り始めます。

加藤社長「アジアンリゾート施設……。どういったものなのか、その施設の内容を詳しく教えていただきたいですが」
志願者「この建物が4階建てです。1階にアジアンのレストランを作りたいのです。2階がアジアの雑貨とお土産。3階に日帰り温泉。宿泊はしません」
宿泊施設はないというのです。
志願者「もうできている建物なのです。今まではホテルだったのです。閉鎖中のホテルを私が購入しました」
堀之内社長「いくらで買ったのですか?」
志願者「1450万円です」
吉川社長「安い!」
吉田栄作さん「それは妥当な値段なのですか?」
志願者「もともと競売物件で、買うために2年待ちました」
加藤社長「内装工事と設備を整えるための資金として5000万円が必要なのですね」
温泉付き物件を1450万円で取得

虎たちが驚いたのは、物件の安さだけではありませんでした。「温泉」という最大の付加価値が、すでに建物についていたのです。
志願者「ついてます」
南原社長「安いね!!」
志願者「はい。建物は600坪と広大です。この1450万円で購入しました。そこからオープンするまでの費用が必要なのですよ」
温泉設備が既設、敷地は600坪、物件取得費が格安。数字だけ見れば、宿泊業の参入コストとしては破格の条件です。
観光庁の宿泊旅行統計調査(2025年公表データ)によると、栃木県の延べ宿泊者数は年間約1,030万人泊で、外国人宿泊者比率も全国平均並みに回復してきています。日光・中禅寺湖エリアは温泉地ブランドが確立しており、立地としては「悪くない」どころか、むしろ恵まれた部類に入ります。
物件・温泉・立地という3つの「外形」がここまで揃った案件は、私の26年の支援現場でも年間数件あるかないかです。だからこそ、虎たちが「中身(人物・運営・財務)」をどう読み解くかに、この回の本質が現れます。
志願者「5,000万円で抑えるような形で、今計画しています」
櫻木社長「5,000万円で? ……そんな予測、今できるのですか?」
志願者「私はもう、3,000万円をね、今の温泉の水回りとか、そのための日本の業者に発注するつもりでいるのですよ。あとは国の方(バングラデシュ)からも、これから大使館の協力等で、大工さんを10人連れてくるのですよ」
南原社長「私、バングラデシュ人の友達がいるけど、「渋い」ですもん。その渋い感覚であれば、はっきり言って放送では使えないかもしれないけど、めちゃくちゃ「ケチ」だよね。彼らの感覚でやったら、本当に(その金額で)できるんじゃないかなとは思う」
志願者の経歴と渋谷のレストラン

プレゼンが進む中で、志願者の経歴も明らかになってきました。志願者(ホーセンさん)は1986年に来日、会社に勤めました。その後、目黒、渋谷、日光で、6年前からインド料理店を展開。もともとはお台場で移動販売のカレー屋からスタートし、当時すでに3店舗に成長しています。
移動販売で稼いだお金1,600万円を投じて目黒に出店。3店舗(個人事業)の売上は5,500万円、利益は1,500万円。利益率27%という外食業界としては驚異的な数字です。日本フードサービス協会の外食産業市場動向調査(2025年版)によれば、外食業の経常利益率は平均3〜5%台で推移しており、その5倍以上の収益性を個人事業で出している計算になります。あの厳しい堀之内社長も関心を見せました。
南原社長「100席を5人?」
志願者「はい。キッチンに2人、ホールに3人。それで、お客さんが一度に100人くらい来ても、バイキングなら回せるのです」
南原社長「この方式を適用すれば、日本のレストランなんか目じゃないですね」
志願者「こうしないと、不景気では生き残れないと思います」
ここで南原社長が発言。
しかし、堀之内社長が……。
虎が正直に語る「投資したい、しかし」

堀之内社長が意外な言葉を口にしました。
男の商才に惚れ込みながらも、現実的な厳しさを隠さない。マネーの虎らしい正直な言葉です。
堀之内社長「あなた一人でやってるの?」
志願者「はい、ひとりでやってます」
堀之内社長「それを考えるとね、この5,000万円なんか自分で(用意)できるよ。できないなら嘘だ」
志願者「できなければ物件は買わない。ただ、私はこれまで「一匹狼」でやってきました。でも、ビジネスを大きくするためには、投資家の方のいろんな話を聞いて、投資してもらう方が早い」
それほどの志願者が、なぜ自己資金でやれないのか? 虎は懐疑的になっていきます。
志願者「300万円借りるのに保証人を2人つけてくれと言われました。借りました」
堀之内社長「ということは借りられるのですね。さっき外国人だとできないとか」
志願者「300万円借りるのに保証人を2人つけてくれって言われたのですよ」
加藤社長「それだけの信用があるということですね」
最後の加藤社長の言葉通り、これはすごいことです。実績を積みながら少しずつ信用を作ってきた、典型的な実力派の経営者像が見えてきます。
「投資ですか? それともローンですか?」

プレゼンの場で、重要な問いが突きつけられました。志願者が求めているのは「出資」なのか「融資(ローン)」なのか、という根本的な話です。
志願者「投資してくれれば」
ここで理解が曖昧な志願者に対して、南原社長が投資と融資の違い、そして日本語としての「お前に投資してやる」という意味の投資との違いを丁寧に説明します。
南原社長「ローンですね」
借りて、もちろん返すという志願者。その建物と、日光に持っている自宅もあります。140坪の敷地で、建物が35坪ということです。
ここで加藤社長が(想定外の)発言。
そして、櫻木社長が続きます。
次いで、堀之内社長。
最後は、南原社長です。
志願者「いやいろいろありがとうございます」
しかし、番組のナレーションはこう続けました。
「ノーマネーでフィニッシュではなかった」
番組放映の数ヶ月後、志願者は銀行から融資を受けることに成功し、夢の施設をオープンさせたのです。
投資と融資、虎が見た「資金の正体」

投資・融資・補助金の3類型
本案件は「物件あり、温泉あり、利益率も高い」という条件下でのノーマネーです。なぜ虎たちは断ったのか。資金調達の3類型で整理してみます。
- 投資(エクイティ):返済義務なし。代わりに事業の成長と経営権の一部を渡す。虎が想定していた立場
- 融資(デット):返済義務あり。担保・保証人・事業計画で銀行が判断する。志願者が実際に必要としていた資金
- 補助金・助成金:原則返済不要。観光業は地方自治体・観光庁・経産省で複数の制度がある(事後精算・実績要件あり)
志願者が「投資して欲しい」と言いながら、内容としては「ローン(融資)」を求めていたことに、虎たちは気づきました。中小企業庁「2025年版 中小企業白書」によれば、新規開業時の資金調達における自己資金比率の中央値は約24%、金融機関借入比率の中央値が約60%。本案件のような大型設備投資(5,000万円規模)は、本来は日本政策金融公庫・地銀のプロパー融資・観光庁の補助金(インバウンド需要対応事業など)の組み合わせで設計するのが正攻法です。
虎が「投資しない」と判断した3つの理由
- ① 資金性質のズレ:志願者が求めていたのはローン。虎は「事業と人への出資」の文脈で構えていた
- ② 経営権譲渡への抵抗:「一匹狼」と語る志願者像と、虎たちが想定する「共同経営的な投資」が噛み合わない
- ③ コミュニケーション・ギャップ:堀之内社長が指摘した「マインドが読めない」状態
つまり、不動産という担保があっても、虎の判断材料は別の場所にあったわけです。資金調達は「お金が欲しい理由」と「お金を出す側の前提」を一致させる作業ですと言えます。
志願者のその後

番組出演から約3ヶ月後、この志願者は銀行から多額の融資を受け、日光・中禅寺湖畔に「ホテル アジアンガーデン(Hotel Asian Garden)」をオープンさせました。
施設はアジアンテイストのインテリアで統一された温泉旅館。スタッフはバングラデシュ・インド出身者で構成され、本格的なインド料理も楽しめる異色のリゾートとして話題を集めました。
2011年3月、東日本大震災が発生。このとき、オーナーは通常の営業を一時中止し、ホテルを被災者の避難所として無償で開放する決断をしました。言語も文化も違う異国の地で起業した彼の、人としての誠実さが垣間見えた場面として語り継がれています。
しかし2015年、その後入管難民法違反の幇助容疑で逮捕というニュースが届きました。夢を実現させたあとの、衝撃的な結末でした。
まとめ|虎に断られた起業家から学ぶ3つの教訓

この回から学べることは多くあります。
まず、投資と融資は全く別物だということ。虎たちが求めるのは「事業と人への出資」です。「借りて返す」ならば銀行が窓口になります。志願者が虎に求めていたものは、ビジネス的な意味では「融資」に近い形でした。この認識のズレが、ノーマネーの一因になったとも言えます。
次に、言語の壁とビジネスの壁は別次元の問題ですということ。南原竜樹は「言葉がよく通じないからマインドがわからない」と正直に語りました。これは偏見ではなく、起業においてコミュニケーション能力がどれほど重要かを示す言葉です。拙著『起業神100則』では「商品力×発信力×信用力」というフレームで起業の必須要素を論じていますが、本案件は商品力・信用力(実績)が高い一方で、発信力(マインドを伝え切る力)が当時の言語環境で十分に機能していなかったケースだと整理できます。
そして何より注目すべきは、ノーマネーでも諦めなかった姿勢です。番組で全員に断られた後も、志願者は銀行へ向かい、自力でファイナンスを実現しました。「マネーの虎に出た」という露出そのものが、銀行の与信判断に影響した可能性も否定できません。起業において、最初の「NO」は終わりではない。この回は、それを体現した物語です。
よくある質問

Q. 志願者はなぜ銀行ではなくマネーの虎に出演したのですか?
本人は「この番組に出ることに大きなメリットがある」と語っています。テレビ出演による知名度向上で銀行融資も通りやすくなる、という戦略的判断があったと推測されます。実際、番組出演後に銀行融資に成功した事実が、その判断の合理性を裏付けています。
Q. ホテル アジアンガーデンは現在も営業しているのですか?
2015年にオーナーが逮捕されたことで、その後の経営状況については明確な情報が確認できていません。かつては中禅寺湖畔で日帰り温泉も楽しめる人気施設として運営されていました。現在の運営状況は、お出かけ前に各種予約サイト・観光協会で最新情報を確認することをおすすめします。
Q. マネーの虎で外国人の志願者は珍しかったのですか?
当時の番組の中でも、外国人志願者は比較的珍しい存在でした。虎の1人が「外国人だから銀行での融資は難しいかもしれない」と言及していたように、外国人起業家に対する社会的なハードルが現在よりも高かった時代です。それだけに、この志願者が実際にホテルを開業させた事実は、今見ても胸に刺さるものがあります。
Q. 1450万円で温泉付き物件を取得できたのは特殊なケースですか?
競売物件で2年待った、という条件付きですので、相場での取得ではありません。一般に、温泉設備が既設の宿泊施設の競売物件は、設備老朽化・廃業時の負債整理・地方部の人口減少などの背景で、市場価格より大幅に安く出ることがあります。ただし、温泉法の許認可(源泉所有・湯使用権・浴場業の営業許可)の引継ぎ条件が複雑で、購入後に追加投資が想定以上にかかるケースもあります。
Q. この回から起業準備中の人が学べることは何ですか?
「資金が必要」だけで動き始めると、出資・融資・補助金のいずれを求めるべきかがブレます。まずは事業計画上の資金性質を明確にし、調達手段ごとの返済義務・経営権・条件を整理することが先です。日本政策金融公庫の創業融資、地方自治体の創業補助金、エンジェル投資家の出資など、調達手段ごとに事前準備が異なります。

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