斎藤佑樹さんは引退後どんな起業をした? 肩書きより個性で稼ぐという視点

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

「ハンカチ王子」と呼ばれた斎藤佑樹さんが、いまは一社の代表取締役になっている。そう聞いて、意外に思う方もいるかもしれません。華やかなテレビ出演や知名度を活かしたタレント業ではなく、彼が軸に選んだのは別のものでした。

この記事では、有名人や元アスリートのセカンドキャリアを入口にしながら、「肩書きや実績がなくても、自分の個性で稼げるのか」という、もっと身近な問いを掘り下げていきます。26年の起業支援の現場から見えてきたことも交えてお話しします。

ポイント ハンカチ王子は、いま「会社の代表」になっている

仮定ではなく、もう動き出している起業の実像

高校野球

斎藤佑樹さんは、高校野球の試合中に汗をハンカチで拭ったことから「ハンカチ王子」と呼ばれました。誰もが袖で汗をぬぐう場で、上品にハンカチを額にあてる姿が話題になったのです。

ケガに苦しんだ現役生活に区切りをつけ、2021年10月に引退されました。引退と言ってもまだ30代。当時は「これから何をするのだろう」と、多くの人がセカンドキャリアを気にしていました。

そして、その答えはもう出ています。斎藤さんは引退の翌々月、2021年12月に代表取締役として会社の経営をスタートさせました。大学在学中から関わっていた会社を「株式会社斎藤佑樹」へと商号変更し、自らが代表に就いたのです。つまり、彼の起業は「もしするなら」という仮定の話ではなく、すでに現実に動いているということです。

今日は、斎藤佑樹さんが何を軸に選んだのかをたどりながら、「華やかな肩書きがなくても、自分の個性が仕事になるのか」という問いを、自分ごととして見ていきます。

ポイント 斎藤佑樹さんの経歴を、もう一度たどってみる

野球と教育、ふたつの核が学生時代から見えてくる歩み

野球場

斎藤佑樹さんは、1988年に群馬県太田市で生まれました。小学生で野球を始め、高校は早稲田実業学校高等部に進みます。同じくプロ野球選手である田中将大さんと死闘を演じた2006年夏の甲子園決勝戦は、今でも私の記憶に鮮明に残っています。

注目したいのは、その後の進路です。高校卒業後すぐにプロを目指す道もあったなかで、斎藤さんは早稲田大学教育学部社会科社会科学専修に進学しました。野球部に所属しながら学業にも励み、卒業論文では「スポーツの地方興行と観客動員の地域の中での経済効果について」というテーマで、スポーツと経済の関係を書いています。

大学卒業後はプロ野球選手として活躍しますが、成績不振やケガもあり、必ずしも順風満帆とは言えない選手生活でした。それでも2010年のヒーローインタビューでは「いろんな人から斎藤は何か持っていると言われ続けてきました。今日、何を持っているのか確信しました。それは仲間です」と語っています。(参考:スポーツ報知「【日本ハム】斎藤佑樹「僕が持っているのは最高の仲間です」流行語大賞で特別賞の名言で現役生活に別れ」2021年10月18日)

ここまでの歩みを並べると、「野球」と「教育」というふたつの核が、すでに学生時代から育っていたことが見えてきます。この核が、後の起業につながっていきます。

ポイント 彼が選んだのは「知名度の換金」ではなかった

スターの看板より、自分の核を事業にした選択

高校野球

引退した有名人が起業すると聞くと、知名度をそのまま換金する道を思い浮かべがちです。名前を冠したブランドを立ち上げる、テレビ露出を増やす、グッズを売る。たしかに斎藤さんなら、それも選べたはずです。

けれど、彼が実際に力を注いだのは違いました。斎藤さんが代表を務める会社は「野球未来づくり」を掲げ、子どもたちのための野球場づくりに取り組んでいます。北海道長沼町には、少年少女のための野球場「はらっぱスタジアム」を建設し、2025年5月にプレオープンしました。知名度を一度で使い切る仕事ではなく、自分の核から長く続く事業を選んだということです。

上品さや知名度は「入口の信用」にすぎない

斎藤さんは元高校野球のスター選手、プロ野球選手という素晴らしい経歴を持っています。最初に何かを立ち上げる際には、何をやるにしても一番大事な「信用」が初めからついてくるという、とても有利な状態にあります。これは大企業出身者にも言えることで、最初の1回目の立ち上げ時には有利に働きます。

ただし、その信用は入口にすぎません。その後の実績や立ち振る舞いで状況はすぐに変わります。知名度というスタートダッシュの貯金は、何で食べていくかという軸がなければ、使い切って終わってしまうのです。

本当の軸は、大学で学んだ「教育×野球」だった

斎藤さんが野球場づくりや子どもへの普及を選んだのは、偶然ではないでしょう。早稲田大学の教育学部で学び、卒業論文ではスポーツと地域経済の関係を掘り下げていました。野球というキャリアの軸に、教育という学びが重なっている。

つまり彼は、ハンカチ王子という看板そのものではなく、その看板の下にずっとあった「自分の核」を事業に選びました。何で起業するかを決めるとき、いちばん強いのは、肩書きではなく自分が積み重ねてきた経験と関心が交わるところです。

仮に飲食店のような華やかな道を選んでいたとしても、知名度だけで続く世界はありません。場所選びや準備が甘ければ、有名人であっても同じ轍を踏みます。斎藤さんが高校卒業後にすぐプロ入りせず大学へ進んだのは、人生を長い目で見たからでしょう。その地に足のついた姿勢が、起業の軸選びにもそのまま表れているように見えます。

ポイント 肩書きがなくても、個性は誰にでもある

無名でも自分の核がそのまま仕事の軸になるという話

ここまで読んで、「斎藤さんは元スターだからできた話でしょう」と感じた方もいるはずです。その気持ちは、よく分かります。けれど、ここからが本題です。

開業動機の上位は「肩書き」ではなく「経験を活かす」

そもそも、世の中の人は何をきっかけに起業しているのでしょうか。日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月公表・複数回答)によると、開業動機は「自由に仕事がしたかった」が59.7%、「収入を増やしたかった」が44.9%、「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」が41.1%でした。

ここから読み取れるのは、多くの人が華やかな看板ではなく、自分がこれまでに積み上げてきた経験や知識を入口に起業している、ということです。斎藤さんが「教育×野球」という自分の核を選んだ構造は、特別な人だけのものではありません。経験を活かしたいという動機は、組織のなかで働いてきた人なら誰もが持っている資産です。

拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』では、資格や肩書きを並べる人よりも、自分にしか書けない個性を持つ人のほうが早く成果を出すという考え方を紹介しています。才能のない人は一人もいません。離婚や失敗、人見知りといったマイナスに見える経験でさえ、同じ悩みを持つ誰かにとっては、お金を払ってでも聞きたい話になります。

会員・神野さんが見つけた「自分にしか書けないもの」

起業18フォーラムの会員さんに、神野さん(40代)という方がいます。長く法人向けの事務職に就いていて、「自分には人に売れるものなんて何もない」というのが口ぐせでした。

最初の神野さんは、流行のスキル販売に手を出しては続かず、半年ほど空回りしていました。流れが変わったのは、ある会員さんが何気なく「神野さんって、いつも取引先の細かい困りごとに気づくよね」と言ったひと言でした。本人は当たり前すぎて気づいていなかったのです。

そこから神野さんは、自分が日々「ありがとう」と言われていた瞬間を一つずつ書き留めていきました。すると、小さな会社の経理や請求まわりの段取りを整えるのが、人より得意だと分かってきたのです。華やかな資格ではなく、地味だけれど確実に頼られていた経験のほうが、神野さんの核でした。

その核に絞り込んでから、神野さんは知人の個人事業主に頼まれて、月々の請求業務の整理を1件だけ引き受けました。丁寧さが口コミで伝わり、いまでは数件の依頼が安定して入るようになっています。最初の月の報酬は、わずか1万8千円でした。それでも、自分の個性がお金になった事実が、何より大きな手応えになったといいます。

ポイント 今日からできる、自分の核の見つけ方

ありがとうの瞬間に、あなたの個性が隠れている

斎藤佑樹さんは、引退後すぐに自分の核を起業の軸に変えました。私たちが彼から学べるのは、知名度や実績そのものではありません。どんな経歴にも、その下に「ずっと続けてきた関心」と「自然と頼られてきたこと」が隠れていて、それこそが事業の軸になるという見方です。

斎藤さんにとっての「教育×野球」が、神野さんにとっては「細かい困りごとに気づく目」でした。あなたにも、必ず同じものがあります。今日できることは、この1週間で誰かに「ありがとう」と言われた瞬間を、心に留めて数えてみるだけで十分です。大げさに棚卸しをする必要はありません。あなたが当たり前にやっていて、相手が喜んでくれたこと。そこに、あなたにしか書けない個性が眠っています。

肩書きが消えたあとに残るものこそが、本当の元手です。自分には何もないと感じている人ほど、これまで積み上げてきた経験という資産を、見落としているだけなのかもしれません。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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