記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
主婦をしている40代です。子どもは中学生になり、日中はほとんど手が離れました。今は在宅で事務のパートをしていますが、これから増える教育費を考えると、もう少し自分で収入をつくりたいと思い、起業について調べ始めたところです。
体力にあまり自信がないので、飲食店のように立ち続ける仕事は難しいと感じています。
ネットで「主婦 起業 アイデア」と検索すると、家事代行、ハンドメイド、ライター、オンライン講師と、いくつも名前が出てきます。名前は分かるようになったものの、そこから先に進めません。
自宅かレンタルオフィスででき、元手のかからない候補の中から、どうやって1つに決めればよいのでしょうか?

● 回答
家事代行、ハンドメイド、ライター、オンライン講師。ここまで調べてこられた方なら、候補の名前はもう出そろっています。ここから先を決めるのは、1日のうちどの時間帯が空くかと、在庫を持つかどうかの2点です。日本政策金融公庫の2025年度の調査では、事業に週35時間未満を充てている人の9割が、50万円未満の費用で起業しています。
ご質問の条件のうち候補をいちばん強く絞るのは、体力でも自宅かどうかでもなく、お子さんが学校にいる平日の昼が空くという事実のほうです。ここを起点にすると、候補は4つに分かれます。
決まらない原因は候補の多さにある
アイデアが思いつかないという言葉は、2通りの意味で使われます。候補がゼロという状態と、候補が多すぎて選べないという状態です。ご質問に当てはまるのは後者で、この場合は候補を増やしても前に進みません。
日本政策金融公庫が2026年2月に公表した2025年度起業と起業意識に関する調査では、起業に関心がありながらまだ起業していない理由として「ビジネスのアイデアが思いつかない」を挙げた人が29.0%いました。最も多い「自己資金が不足している」の48.4%に続く同率圏で、「失敗したときのリスクが大きい」の29.1%と並んでいます。
資金の不足とほぼ同じ重さで、アイデアが人の足を止めているわけです。ただ、候補の名前をもう10個増やしても、この29.0%に含まれる人は動き出しません。動き出せるかどうかは、候補を削る物差しが手元にあるかで決まります。
子どもが中学生になると空く時間が動く
物差しの1本目に時間帯を置くのには理由があります。子どもが育てば家事の総量も減りますが、それ以上に大きく変わるのは、家事が張りつく時刻です。総量が半分になっても、残った分が朝と夕方に固まっていれば、昼は空きません。
総務省統計局が2022年8月に公表した令和3年社会生活基本調査では、15歳以上の家事関連時間は週全体の1日当たりで女性が3時間24分、男性が51分でした。6歳未満の子どもがいる世帯に絞ると、妻の家事関連時間は1日7時間28分にのぼり、24時間の3割を超えます。夫は1時間54分でした。
ここで数字の読み方に注意がいります。3時間24分は15歳以上の女性全体をならした平均で、子育て期を抜けた方も未婚の方も含んだ値です。中学生を育てている世帯を測った数字ではありません。なお、家事の山が朝と夕方に寄るかどうかまでは、この調査からは分かりません。会員さんから聞く1日の流れがおおむねその形をしている、という程度に受け取ってください。
それでも、お子さんが中学生という条件は大きく効いてきます。総量が減ること自体もありがたい話ですが、仕事の形を決めるのは、空いた時間がどこに現れるかです。送り迎えや在宅の見守りが外れると、平日の昼にまとまった4〜5時間が姿を見せます。早朝や夜に1時間ずつ絞り出す人と、平日の昼が丸ごと空く人とでは、回せる仕事がまるで違ってきます。ご質問の中でいちばん強い手がかりは、ここにあります。

動ける時間ごとに向く形を並べて比べる
いつ動けるかによって何が変わるのか。元手、在庫や原価のリスク、収入が入り始めるまでの早さの3点で並べると、次のようになります。
| 主に空く時間帯 | 向く仕事の例 | 元手と場所の目安 | 在庫・原価のリスク | 収入の立ち上がり |
|---|---|---|---|---|
| 早朝(家族が起きる前の1〜2時間) | 資料作成の代行、データ整理、文章の仕事 | 手持ちのパソコンだけ。自宅で完結する | なし | 受注した月から入る。単価は上げにくい |
| 平日の昼(登校している4〜5時間) | 家事や買い物の手伝い、付き添い、対面のレッスン | 交通費と数千円の備品。仕事の場は相手の自宅や近所の施設で、事務所は要らない | ほぼなし | 1件目から入る。移動時間が件数の上限を決める |
| 夜(家事を終えたあとの1時間) | オンライン講座、録画教材の販売、オンライン相談 | ゼロから数万円。自宅から配信でき、レンタルオフィスは後から考えれば足りる | なし | 立ち上がりは遅い。あとから時間あたりの収入が伸びる |
| まとまった時間が読めない | ハンドメイド、食品、仕入れ販売 | 材料費と仕入れが先に出る。保管する場所も要る | いちばん高い | 売れるまで戻らない。上限を先に決める必要がある |
読む順番は1つだけです。まず自分の行を決めて、それから列を見ます。逆に「元手がゼロだから」と列から入って行を後回しにすると、動ける時間に合わない形を選んでしまい、続きません。
ご質問の条件なら、行は2行目です。平日の昼に人と会える方は、思っているほど多くありません。重い荷物を運ぶような仕事を外しても、この行には対面で教える仕事や、書類や手続きに付き添う仕事が残ります。しかも4行目のように材料費が先に出ることもありません。
レンタルオフィスを借りるかどうかは、今の段階では決めなくて構いません。2行目も3行目も、相手のお宅や近所の施設、あるいは自宅の一室で始められます。場所を借りるのは、毎月の固定費が読めるようになってからでも遅くありません。
元手をかけない形がいちばん多い
表の元手の列に数万円までしか書いていないのには、根拠があります。
先ほどの2025年度起業と起業意識に関する調査では、事業に充てる時間が週35時間未満の人(公庫の定義でパートタイム起業家)の起業費用は、「費用はかからなかった」が53.2%、「50万円未満」が36.8%でした。合わせて9割が50万円未満に収まっています。
週35時間以上の人でも「費用はかからなかった」は32.2%あります。採算が黒字基調と答えた割合は、週35時間未満の人が74.8%で、週35時間以上の72.6%を上回りました。ただし、これは労働時間ごとの集計で、起業費用の多寡と採算の因果関係を示す数字ではありません。ここから言えるのは、週35時間未満で始める人の大半が50万円未満で始め、その層全体の黒字基調が74.8%だったというところまでです。
桁を取り違えないための対比も置いておきます。同じ公庫が2025年12月に公表した2025年度新規開業実態調査では、開業費用の平均値は975万円でした。こちらは融資を受けて店舗や設備を構える開業まで含んだ数字です。同じ「起業」という言葉でも、50万円との間には20倍近い開きがあります。
自宅やレンタルオフィスで始める場合は、まず50万円未満で収まる形を検討し、店舗や大きな設備が必要なら別に見積もると、数字を混同せずに済みます。
- 先に出ていくお金:
材料費、仕入れ、機材の購入など、売れる前に手元から出る分。ここがゼロなら在庫のリスクもゼロ - 毎月かかるお金:
月額のシステム利用料、レンタル料、広告費など、受注がない月でも出ていく固定費 - やめても戻らないお金:
講座の受講料や資格の取得費など、続けなかった場合に返ってこない支出。数十万円の先払いはこの段階では不要
この3つがどれも当てはまらないなら、合わなかったときの損失はほぼ出ません。逆に1つでも当てはまるなら、次の話が必要になります。
在庫を持つなら先に上限を決める
表の4行目にあたる、作って売る仕事と仕入れて売る仕事だけは、他の3行と性質が違います。売れる前にお金が出ていき、売れなければ戻らないからです。ご質問に挙がっているハンドメイドはここに入ります。
この行を選ぶこと自体は問題ありません。危ないのは、期限も出口も決めないまま材料を買い足していく進み方です。始める時点で、予算・期間・出口の3つを仮に決めてしまいます。いくらまで使うか、いつまで続けるか、どうなったら形を変えるか。先に決めて家族と共有しておくと、途中の判断が感情から離れます。
- 予算:
材料と仕入れに使う上限額。ご質問の条件なら、まずは月に1万円台など家計から見て痛まない範囲 - 期間:
いつまで試すかの区切り。半年と決めたら、その間は上限額を守る前提 - 出口:
どうなったらやめるかの条件。期限までに1件も売れなければ別の行へ移す、といった線引き
在庫を持つやり方から入るなら、材料を買う前に上限額と期限を家族に伝えておいてください。ここを飛ばすと、売れない理由を探しているあいだに材料だけが積み上がります。

予定表を色分けして平日の昼に絞った志水さんの例
起業18フォーラムの会員さんに、志水さん(40代前半)という方がいます。お子さんは中学生で、在宅で経理の入力のパートをしていました。ご質問とよく似た条件です。
最初に選んだのはハンドメイドでした。家族が寝たあとに1時間ほど手を動かし、フリマアプリに出していました。使ったお金は半年で27,000円と、家計を痛めるほどの額ではありません。決めていなかったのは、いつまで試すかと、どうなったら形を変えるかです。区切りがないまま月日が過ぎ、平日の昼には一度も手をつけず、材料だけが先にそろっていきました。半年で売れたのは3点でした。
やり方を見直したのは、その半年を振り返って予定表を色分けしたときでした。パートの時間を青、家事を灰色、自分の準備を赤で塗ってみると、赤が入っていたのは夜の細切れだけで、平日の昼はほとんど白いまま残っていました。条件のいちばんよい時間を、まったく使っていなかったわけです。
白いまま残っていた平日の昼に何を入れるか。志水さんが選んだのは、近所の方にスマートフォンの使い方を教える対面のレッスンでした。1回ごとの申し込みなので、在庫も材料も持ちません。同じように時間の制約を抱えた方がどんな形を選んでいるかは、起業18フォーラムの勉強会でも聞けます。志水さんも、料金の決め方や1日に入れる件数を、他の会員さんの話を参考にあとから調整していきました。
始めて9ヶ月目には、月の申し込みが9件になりました。うち5件は、一度受けた方からの再依頼です。残っていたハンドメイドの材料は、趣味のほうに回しました。志水さんが変えたのは業種ではなく、動ける時間帯に形を合わせるという順番のほうでした。
好きなことから選びたい場合の順番
空く時間から決めるのは味気ない、好きなことから選びたい。そう感じた方もいるはずです。その感覚は間違っていません。続くかどうかを最後に決めるのは、好きかどうかです。
拙著『朝晩30分 好きなことで起業する』では、好きなこと・得意なこと・求められることの3つの円が重なる場所を探すという整理を紹介しています。ただ、円が重なっていても、動ける時間に合わなければ手が回りません。手芸が好きな方でも、まとまった作業時間が夜の1時間しかないなら、作って売る形より教える形のほうが続きます。
今週やることは、表の2行目から候補を2つに絞り、そのうち1つを1件だけ引き受けてみることです。無料でも千円台でも構いません。人が来てくれるか、決めた時間内に終わるか、また頼まれるかを1件受けて確かめてください。考えているあいだは分からず、1件終えた翌日には分かります。
期待の置き方も先に決めておくと楽になります。2行目も3行目も、初月から大きな金額にはなりません。
2025年度起業と起業意識に関する調査では、週35時間未満で事業をしている人の91.5%が、現在の月商50万円未満に収まっていました。数万円から始まる規模だと分かっていれば、1件目の手応えを見誤らずに済みます。
候補の名前をもっと見てから決めたい場合は、業種ごとの実例をまとめた記事もあります。見る順番だけは、自分の行を決めたあとにしてください。

表の2行目と3行目から選ぶかぎり、先に出ていくお金はほとんどありません。合わなかったと分かっても、失うのは1件分の時間だけです。教育費という期限がある中で、取り返しのつく試し方から入れるのは、ご質問の条件がそろっているからです。
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