記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
● 質問
いつかは会社の外で自分の事業を持ちたいと考えていますが、何の業種で起業すればよいのかが決まりません。ネットで「起業 成功しやすい業種」と調べてランキングを見ても、どれも自分には当てはまらない気がするのです。
起業の分野を選ぶときは、何を基準に決めればよいのでしょうか?

● 回答
起業の業種は、外側にある「成功しやすい業種ランキング」を眺めても決まりません。長く事業を続けている方とそうでない方を見比べると、分野の選び方そのものに違いがあります。ランキングは「他人にとって儲かった業種」の一覧であって、「あなたが続けられる業種」の一覧ではありません。
では、長く続いている方はどうやって業種を選んでいるのでしょうか。答えは意外なほど地味です。
長く事業が続く方は、たいてい、自分が経験を積んできた分野の周辺で起業しています。これは順番にたどれば誰にでもできる作業なので、ここからは三つのステップに分けて説明します。
その前に、一つの数字を見ておきます。日本政策金融公庫の「2024年度新規開業実態調査」によれば、開業した方のうち、現在の事業に関連する仕事の経験がある人の割合は83.1%にのぼります。平均の経験年数は14.7年です。
多くの方はゼロから新しい分野に飛び込むのではなく、自分が長く関わってきた領域の延長線上で事業を始めているということです。
STEP1 「儲かる業種」から探すのをいったんやめる
最初のステップは、探す方向を変えることです。「これからの注目業種」や「成功しやすい業種」といったランキング記事を見るのを、いったんやめてみてください。理由は二つあります。
一つは、ランキング上位の業種は、それだけ多くの人がすでに参入しているということです。未経験の自分が後から入っても、先に経験を積んだ人と比べられてしまいます。もう一つは、ランキングは過去に儲かった結果であって、自分が無理なく続けられるかどうかは何も教えてくれないことです。続けられない分野は、どれだけ市場が大きくても、自分にとっては入口で終わってしまいます。
STEP2 自分の経験から業種の候補を出す
次に、自分の内側から候補を出します。これまでの仕事や暮らしの中から、次の四つの問いに当てはまるものを書き出してみてください。
- 人からよく相談・質問されたテーマ
- 同僚や後輩に教えて喜ばれた作業・知識
- 異動や転職で経験者評価された分野
- 休日でも苦にならず手が動くテーマ
四つすべてに当てはまるものがあれば、それが有力な候補です。一つも思いつかないときは、直近の1年でこなした仕事を一覧に書き出し、人に感謝された場面に印をつけていくと、自分でも気づいていなかった経験の固まりが見えてきます。
STEP3 候補を「誰のどんな困りごとか」で絞る
候補がいくつか出たら、最後に一つに絞ります。絞る基準は「儲かりそうか」ではなく「誰の、どんな困りごとを解決できるか」です。拙著『起業神100則』に「ドリルを売るな、穴を売れ」という言葉が出てきます。お客さまが本当に欲しいのはドリルという商品ではなく、ドリルで開けた穴のほうだ、という意味です。
業種選びも同じです。「何の業種か」を先に決めるのではなく、「目の前の誰の、どんな困りごとを自分の経験で解けるか」を先に決める。そうすると、業種は後から自然に決まっていきます。
- 業種選びの起点=経験のある分野
- 候補を絞る軸=誰のどんな困りごとか
- 最初の一歩=経験棚卸しと感謝場面の洗い出し
起業18フォーラムの会員さんに、地方銀行で融資を担当してきた早川さん(仮名・43歳・既婚・小学生の子が2人)がいます。早川さんは最初、自己流で「これからはSNSの時代だ」と考え、まったく未経験のSNS運用の代行を始めようとしました。教材を買って勉強しましたが、同じことをしている人が多く、何の経験もない自分が選ばれる理由をつくれないまま止まってしまったそうです。
フォーラムで「自分が経験を積んできた分野で考える」と教わり、選び直したのが、銀行員として10年以上向き合ってきた「小さな会社の資金繰りや事業計画の相談」でした。これは早川さんが毎日のように手がけてきた仕事です。
いまは小規模事業者向けの資金繰り相談を会社の外で少しずつ受けはじめ、最初のお客さまから次の紹介も生まれています。
遠回りに見えても、一度つまずいた経験があったからこそ、自分の本当の持ち場がはっきり見えたと早川さんは話します。
早川さんのように、一度別の道で立ち止まったとしても、そこで使った時間は、経験を選び直すための材料になります。
業種は、ランキングという外側の地図ではなく、自分の経験という内側の地図から選ぶ。公庫の調査が示すとおり、多くの開業者が経験のある分野で事業を始めているのは、それが一番くじけにくい道だからです。
焦って「正解の業種」を一つ当てに行く必要はありません。まずは経験の棚卸しから始めてみてください。自分の強みが自分では見えにくいときは、次の記事も手がかりになります。

業種ランキングは、誰かがすでに通った道の記録にすぎません。あなたが選ぶべき分野は、その記録の中ではなく、あなた自身がこれまで時間をかけてきた場所のすぐ近くにあります。経験のある場所から始めた人ほど、最初の壁を越えていけるのです。
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