親の介護をしながら起業準備はできる? 両立ペースの作り方

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

実家の親の介護が始まって、週末はほぼ半分潰れています。平日は本業もあり、正直、体も気持ちも余裕がありません。

この状況で起業準備を進めるのは、無謀でしょうか?

起業前質問集

● 回答

親の介護が始まって、週末が半分どこかへ消えていく。それでも本業も家事も動き続けている。その重さを、軽んじるつもりはありません。この状況で「起業準備なんて今は無理では」と感じるのは、自然な反応です。ただ、無理と決めつける前に、進め方の設計を1段階だけ変えると、話が変わることが多いのです。

実家の介護1年目の会員・堀之内さんが試したこと

金融機関の事務職を続けている堀之内さん(48歳・仮名)は、母親の介護が始まって1年目に、この質問と同じ迷いを抱えていました。FP2級を活かして家計相談のオンラインサービスを持ちたい、と考えていた矢先の出来事だったそうです。

最初は週末にまとめて動こうとしました。土日のどちらか丸1日を机に張り付いて、金融情報の勉強とSNS投稿、サービス設計を詰め込む。ところが実際は、母親の通院付き添い、食事の準備、週2回のデイサービスの送り出しで、確保していた時間が削られる週が続きます。無理に詰めた分だけ続かない、を繰り返して、3か月で手が止まりました。

流れが変わったのは、起業18フォーラムの勉強会で「継続可能ゾーン」の話を聞いた日です。やる気の適切ラインより少し左にある、簡単な目標設定エリアで動き続けるほうが、長期では成果につながるという考え方でした。堀之内さんは、初めて自分の失敗の理由を言葉にできたと話してくれました。

翌週の勉強会でも、親の介護中で同じ50代前半の会員が「1日15分だけ」を1年半続けて、月10件の相談を維持している事例を聞きました。淡々とした語り口だったのに、堀之内さんには一番響いたそうです。

切り替えた進め方は、平日の朝、家を出るまでの15分だけ。SNS投稿を1本、または相談者への返信を1本、どちらか片方だけ。週末は「絶対にやらない」と決めました。

  • 平日朝:15分でSNS投稿1本または相談者への返信1本に限定する運用
  • 週末:介護と休息を優先し、起業準備を入れない方針

3か月目に初めての有料モニターが1件、8か月目には月4件の家計相談がリピートで回り、そのまま1年、途切れず続いています。件数だけ見れば派手ではありません。ただ、堀之内さん自身は「続いているという事実が、いちばん自信になった」と話してくれました。

継続可能ゾーンという考え方

拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』には「継続可能ゾーン」という考え方が出てきます。やる気の適切ラインより少し左、つまり「もう少し頑張れそう」を、あえて我慢して越えないエリアで日々の目標を置く運用です。介護のように予定が外部要因で崩される日常を抱えている人ほど、このゾーンの効き目が大きくなります。

週末にまとまった時間を確保する計画は、体調・介護の状況・家族の急用で1度崩れると、そこから戻せなくなります。平日朝の枠なら、崩れても翌日また立て直せます。起業準備は「大きく動いた日」より「動かない日をゼロにできた期間」で結果が変わります。動きの上限をあえて低く保つ設計、と考えるほうが意味が近いと感じます。

介護と両立している人の実像は数字で見える

あなたが感じている重さは、決して少数派の感覚ではありません。総務省の令和4年就業構造基本調査によると、有業者のうち介護をしている人は365万人にのぼり、そのうち女性は208万人を占めます。仕事を主にしながら介護に関わる「ビジネスケアラー」は、経済産業省の試算で2030年に約318万人まで増えると見込まれています。

制度面では、育児・介護休業法の改正で、2025年4月から40歳前後の従業員への情報提供や、介護に直面した従業員への個別周知・意向確認が事業主に義務づけられました。介護休業と介護休暇は、家族の介護や必要な手続きのための制度です。起業準備の時間を作る目的では使えませんが、介護との両立を整えることで生活全体の負担を調整しやすくなります。

  • 介護休業:
    対象家族1人につき通算93日まで・3回を上限とする分割取得と、一定要件下の介護休業給付金(厚生労働省)
  • 介護休暇:
    対象家族1人なら年5日、2人以上なら年10日までの取得日数と、勤務先の規定による賃金の扱い(厚生労働省)
  • ビジネスケアラー:
    2030年に約318万人、介護離職を含む経済損失約9.2兆円の試算(経済産業省資料)
今日の一歩=地域包括支援センターに1度だけ相談

介護と起業準備の両立で迷ったら、まずお住まいの地域包括支援センターに、介護負担や使える支援について相談しておきます。地域包括支援センターは市町村が設置する高齢者の総合相談窓口で、保健医療・福祉の専門職が介護予防や必要な支援への接続を手伝います。必要に応じてケアマネジャーなどにつながり、生活全体の負担を見直すきっかけになります。

相談時は「まだ介護度は軽い段階ですが」「仕事との両立に負担を感じています」と状況を率直に伝えて構いません。利用できる制度やサービスは本人の状態、地域、要介護認定などで異なるため、相談先と一緒に確認していきます。

親の介護が始まる前に動くべき?「介護前」に作ることが大事!
● 質問 50代前半・教育研修職で20年働いています。先月、実家の父が脳梗塞で入院し、退院後は週末ごとに帰省し

同じ立場で悩んでいた方を何人も見てきましたが、こうして質問できる時点で、あなたはもう前に進み始めています。今週のどこかで、地域包括支援センターの番号を1度検索してみるところから、その一歩は始まります。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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