記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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ChatGPTや画像生成AIに触れて「これで何か作れば、自分でも起業できるかもしれない」と感じ始めた方は、ここ1年でぐっと増えました。ところが、勢いに任せて商品やサービスを作ってみても、思うように売れない。そんな相談が起業18フォーラムにも続いています。
うまくいかない理由は、AIの使い方ではありません。誰が何に困っていて、その人がどんな言葉でその困りごとを語るのか。この「顧客の言葉」を集めないまま商品設計から入ってしまうことが、AI起業のいちばん多い失敗パターンです。この記事では、商品化に走る前に集めたい顧客の言葉30個の集め方と、それを商品の輪郭に変えていく順番を整理します。
AI起業を考える会社員が商品設計より先にやること

AIが使いやすくなった分、商品やサービスを形にすること自体は速くなりました。けれど、速く作れることと売れることは別の話です。商品が売れるかどうかを決めるのは、AIの精度ではなく、誰のどんな困りごとに答えているかの設計です。その設計の土台になるのが、顧客が自分の言葉で語った困りごとの記録、つまり顧客の言葉です。
なぜAIの登場で「言葉が先」がより大事になったのか

中小企業庁の「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書」では、中小企業におけるAIの活用はおよそ3割にとどまっていると整理されています。同白書では人手不足や生産性向上の論点と並んで、AIをどう業務に組み込むかが大きな課題として取り上げられました。つまり、AIを使うこと自体はまだ全体の少数派です。
勤めながらAI起業を考える人の多くが、ここを「自分にも入り込む余地がある」と感じます。実際そのとおりで、AIを使った起業の余地は広く残っています。ただし、参入が広いということは、似たような商品が今後も増えるということでもあります。同じツールを使った似た商品が並んだとき、選ばれる側に立てるかどうかは、顧客の困りごとをどれだけ具体的に言葉で押さえているかにかかります。
AIが登場する前は、商品を作る作業そのものに時間がかかったため、リサーチに時間を割く余裕がありませんでした。いまは違います。商品の試作はAIで一気に進められる。空いた時間を、商品作りの前段にある顧客リサーチに振り替えるのが、AI時代の会社員が踏むべき新しい順番です。
顧客の言葉を30個集める3つの場所

顧客の言葉を集めるとき、最初から100人にアンケートを取る必要はありません。まずは30個。ここでの言葉とは、誰かが自分の悩みや困りごとを自分の言い回しで表現したフレーズ全部を指します。集める場所は、大きく3つに分けられます。
- 身近な人から聞く:同僚、後輩、友人、家族。最近どんなことで困ったかを雑談の中で聞き取る
- 公開の場で読む:Q&Aサイト、SNSの投稿、業界系の質問掲示板。ターゲットらしき人の生の発言を写す
- 対面・通話で聞く:知人や元同僚に30分だけ時間をもらい、その分野でいま気になっていることを語ってもらう
大事なのは、要約しないことです。「業務効率化したい」というあなたの解釈ではなく、本人が言った「夕方になると報告書のテンプレが揃わなくて毎回1時間残業になる」という具体的な言い回しをそのまま記録します。言葉の生々しさこそが、後で商品の輪郭を決めるときの材料になります。
30個という数字には意味があります。10個では偶然のばらつきが残り、傾向が見えません。50個を最初から狙うと続きません。30個を目安に集めると、そのうち5〜7個が似た言い回しで重なる経験ができるはずです。重なった塊こそが、商品の中心に据えるべき困りごとです。
集めた言葉から商品の輪郭をつくる4ステップ

30個の言葉が集まったら、ここから商品の輪郭を作っていきます。拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』に「商品の4つのカタチ」という整理が出てきます。商品はかならず「モノ」「やってあげる」「教える」「場・機会」の4つのいずれかに分けられる、という考え方です。集めた顧客の言葉を、この4つの引き出しに当てはめながら選んでいきます。
- STEP1 30個の言葉を読み返し、似た言い回しでまとまる塊を5つほど見つける
- STEP2 塊ごとに「これはモノで解けるか、やってあげるか、教えるか、場で解けるか」を当てはめる
- STEP3 AIが特に効きそうな塊を1つ選ぶ。たとえばテンプレ作成・データ整形・文章下書きは「やってあげる」と相性がよい
- STEP4 選んだ塊に対して「いくらまでなら払う気持ちになるか」を、聞き取った人にもう一度確認する
このとき、AIを使うこと自体を商品にしないでください。「ChatGPTを使って○○します」は、顧客から見ると道具の説明であって価値の説明ではありません。顧客の言葉のままで困りごとに名前をつけ、その困りごとを解決することを商品にする。AIは舞台裏の道具として置いておきます。
30個の言葉のなかには、AIで解けないものも混ざります。たとえば人間関係の悩み、社内の根回し、感情の整理。解けないものは無理に商品にせず、いったん横に置いてください。解けるものから始めるほうが、最初の1件の手応えに早く届きます。
自己流から学び直した会員さんの歩み

起業18フォーラムの会員さんに、IT企業で営業を15年続けてきた茂木さん(仮名・45歳・既婚・小学生の子が2人)がいます。茂木さんはChatGPTが話題になり始めた頃、自己流で「営業メール自動生成ツール」を作って販売しようとしました。AIに任せれば商品の中身はすぐ作れる、と考えたからです。
ところが、半年たっても問い合わせが3件しか来ませんでした。作ったのは「営業メールを自動で書くツール」でしたが、想定した顧客が本当に困っていたのは「メールの文面そのもの」ではなく「相手から返事が来ない理由がわからない」ことだったのです。商品と顧客の言葉が一段ずれていました。
フォーラムの勉強会で「商品より先に顧客の言葉を集める」順番を学んだ茂木さんは、いったんツールの販売を止めました。そして元同僚や取引先の営業担当30人に時間をもらい、最近の営業で困っていることを聞いて回ったそうです。集まった言葉を整理すると、「返事が来ない理由を見立てたい」「次の一手を相談したい」という塊が浮かび上がりました。
そこから茂木さんは、ツール販売をやめて「中堅メーカー営業向け・返信状況を月1回いっしょに振り返る相談サービス」へと商品の輪郭を組み直しました。AIは舞台裏で過去メールの整理に使い、本人がやるのは月1回30分の面談です。準備を始めて12ヶ月目に月5万円、18ヶ月目には月18万円の継続収入になり、いまも勤務を続けたまま月に3社のクライアントと向き合っているとのことです。
茂木さんが振り返って言うのは、商品を作る速さに価値があるのではなく、顧客の困りごとに名前をつける細かさに価値があるということでした。AIが商品作りを速くしてくれた分、その時間を顧客の言葉を聞く時間に回すと、商品はもう一度自分の手の中に戻ってきます。
会社員のうちに30個集めるための進め方

30個の言葉集めは、会社を辞めてからやる作業ではありません。勤めながらでも週に数個ずつ集めれば、1〜2か月で30個に届きます。急いで全部一気にやろうとせず、生活に組み込む形で続けるほうが、結果として深い言葉が集まります。
週次のリズムとしては、平日に1〜2個、休日に2〜3個。1週間で計4〜5個を目安にすると、1か月で20個前後、2か月目で30個を超えます。集めた言葉はノートでもスプレッドシートでもよいので、必ず本人の言い回しのまま書き残します。要約してしまうと、後で商品の輪郭を作るときに材料の生々しさが消えてしまいます。
そして、最初の手応えは商品が売れたときではなく、似た言葉が重なって聞こえてきた瞬間に訪れます。3〜4人から似た言い回しの困りごとが聞こえてきたら、商品の輪郭が見え始めた合図です。そこから先は、AIを使って試作を一気に進める段階に進んでも、もう順番を間違えません。

よくある質問

Q.AIで商品を作る速さが武器だと思っていました。先に顧客の言葉を集めるのは時間の無駄ではありませんか?
武器が速さだと考えると、同じ速さで作る人が出てきた瞬間に並ばれてしまいます。AIで誰でも速く作れる時代だからこそ、商品の中身を決める顧客の言葉のほうが希少な資産になります。リサーチは時間の無駄ではなく、後の作り直しを減らす投資です。
Q.30個も集める知人がいません。どうすればよいでしょうか?
知人だけで30個を狙う必要はありません。Q&Aサイトや業界系の質問掲示板でターゲットらしき人の発言を読み写すだけでも10〜15個は集まります。残りは元同僚への声かけ、SNSでの発信に対する返信などから少しずつ。30個は1か月や2か月をかけて積み上げるもので、一晩で揃える数字ではありません。
Q.AIをまったく触ったことがなくても、AI起業の準備に入ってよいですか?
かまいません。AIの使い方は、顧客の言葉が集まってから学んでも遅くないからです。むしろ先にAIを学ぶと、ツールに合わせて困りごとを探す順序になり、顧客とのずれが大きくなります。最初の1か月は言葉集めだけに集中し、商品の輪郭が見えてからAIに触れていくほうが、結果として早く回り始めます。
Q.集めた言葉のなかに、AIでは解けない悩みも混ざってきます。それは捨ててよいですか?
捨てる必要はなく、いったん横に置いておきます。AIで解けるものから始めて最初の手応えを得たあと、横に置いた言葉に戻ると、別の角度で商品が立ち上がることがあります。すべての言葉を一度に商品にしないで、解けるものから順番に着手するのがコツです。
AIの時代だからこそ、商品設計に走る前に顧客の言葉を30個。この順番を守れば、AIを使った起業は勤めながらでも無理なく形になっていきます。今週から、まずは身近な人に最近困っていることを一つ聞いてみてください。集めた言葉の一つひとつが、半年後の商品の核になります。
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