記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
勤め先の給料日が毎月25日だったので、その感覚のまま初めての仕事を引き受けました。納品したあとで注文書を読み直すと月末締めの翌々月払いと書いてあり、振り込みは2ヶ月ほど先になりそうです。
カードの引き落としに間に合うかどうか不安なのですが、受ける前にどこを確かめておけばよかったのでしょうか?

● 回答
受注のやり取りで確かめられることが一つだけだとしたら、あなたは何を聞きますか? 私が挙げるのは締め日と支払日のひと組です。フリーランス・事業者間取引適正化等法は、報酬の支払期日を給付の受領日から起算して60日以内と定めています。この二つさえ聞いておけば、納品から入金まで何日空くのかを受注の前にその場で数えられます。
給料日は毎月同じ日に来ます。振り込まれる日を疑ったことは、たぶん一度もないはずです。その感覚のまま最初の受注をすると、納品した月に一円も入ってこないという事実そのものが想定外になります。金額の交渉だけは慎重にやったのに、入金日は空欄のまま話が進んでしまいます。
給料日の感覚のままだと入金の谷に気づけない
締め日とは、その月の請求をいったん締める日です。支払日は、締めた分をまとめて振り込む日を指します。月末締めなら、5月中に納品した分が5月31日でひとまとまりになります。見落としやすいのは、締め日を一日またぐだけで入金がまるごと1ヶ月後ろへずれることです。6月1日の納品は、5月分ではなく6月分として扱われます。
入金が後ろへずれる場所は、ほかにもあります。受注のときに目に入りにくい順で並べると次のようになります。
- 締め日のまたぎ:
納品が締め日の翌日になった場合の丸ごと翌月扱い - 検収の完了日:
納品日ではなく先方の検収終了日を起算点にすると書かれた契約(法律が数え始めるのは受領日から) - 請求書の提出期限:
締め日より前に請求書が届かないと翌月回しになる社内ルール - 振込日の休日扱い:
支払日が土日祝に重なったときに翌営業日へずれる社内規定
四つとも、契約書の隅か発注メールの末尾に細かい字で書かれていることが多い項目です。金額の欄だけ見て返事をすると、まず気づけません。ただし二つめについては注意が必要です。検収の完了日を起算点にすると契約に書かれていても、法律上の60日は給付を受領した日から数えます。
支払期日の上限は給付を受けた日から60日
ここからは制度の話をします。2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法では、発注側は報酬の支払期日を、給付を受領した日から起算して60日以内で定めなければなりません。条文には、できる限り短い期間内で定めるという条件まで付いています。
例外は、他社から請けた仕事をそのまま再委託する場合に限られます。再委託である旨と元の委託者の名称、元の委託の支払期日という三つを書面で示したときだけ、その支払期日から起算して30日以内で定めることが認められています。
ただし、この義務が誰にかかるのかは正確に押さえてください。60日の上限を負うのは特定業務委託事業者と呼ばれる発注者です。個人であれば、従業員を使っている人が当てはまります。法人であれば、役員が2人以上いるか、従業員を使っている会社が当てはまります。
相手が一人で回している個人事業主や、代表ひとりだけの会社なら、この支払期日の義務そのものはかかりません。一方で、取引条件を書面やメールで明示する義務は、従業員のいない発注者にも等しくかかります。
60日という上限を、実際の支払条件に当てはめてみます。月の初めに納品したケースで並べると差がはっきりします。
| 支払条件 | 月初に納品した分の入金日 | 受領日から入金までの日数 |
|---|---|---|
| 月末締め・翌月末払い | 翌月の末日 | およそ60日 |
| 月末締め・翌々月10日払い | 翌々月10日 | およそ70日 |
| 月末締め・翌々月末払い | 翌々月の末日 | およそ90日 |
月の初めに納品した分で見ると、下の二つは60日を超えます。いちばん上の月末締め・翌月末払いは、月によって61日や62日になることがありますが、公正取引委員会の公式Q&Aでは、月単位の締切制度で「受領日から2か月以内」として運用されるものは問題にしない扱いが示されています。あなたが受けた月末締めの翌々月払いは、相手の規模によっては直してもらえる余地があるということです。
もう一つ、2026年1月に大きな変更がありました。下請代金支払遅延等防止法は、通称で中小受託取引適正化法、略して取適法と呼ばれる形に変わり、親事業者は委託事業者、下請事業者は中小受託事業者という呼び方に変わっています。こちらでも支払期日は受領日から60日以内です。
従来の資本金基準に、常時使用する従業員数の基準が加わりました。製造や修理、運送、情報処理などの委託は従業員300人超、それ以外の情報成果物の作成や役務の提供は100人超の会社も対象に入ります。資本金の小さい会社から受注していても、規制がかかる場面の範囲は広がっています。
金額を答える前に聞く締め日と支払日
制度を覚えるより、聞き方をひとつ持つほうが早いです。金額の話が出たら、答える前に「締め日はいつで、その締め分はいつ振り込まれますか」と入れてください。確認はこれだけで足ります。
- 聞くタイミング:
金額を答える前、または注文書を受け取る前 - 返事の残し先:
見積書の余白ではなく注文書か発注メールの本文 - そのあと数えるもの:
納品予定日から入金予定日までの実日数
この質問は値切りでも催促でもありません。経理の締め処理を確かめる当たり前のやり取りなので、角は立ちません。むしろ即答できる担当者ほど、支払いの管理がきちんとしています。
入金までの空白そのものに耐える考え方も、あわせて持っておきたいところです。拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』では、初期費用と毎月の運転コストを合わせて月1万円以下に収める基準を紹介しています。運転コスト6ヶ月分を予備として持っておく目安も添えました。
入金が2ヶ月空いても事業が止まらないのは、売上が大きいからではありません。続けられる範囲まで毎月の支出を下げてあるからです。まず手元の注文書か発注メールを開いて、支払日が書かれた行を探してみてください。
単発から月ぎめへ切り替えた堀内さんの手順
建設資材商社で営業をしている会員の堀内さん(40代前半)は、施工店向けの積算補助を休日に請け負うところから始めました。最初の3件はいずれも月末締めの翌々月払いで、納品から振り込みまで70日前後空きました。手が空いた月に限って入金がなく、忙しい月にまとめて振り込まれました。生活のリズムと入金のリズムが噛み合わない状態が、半年ほど続いたそうです。
受け方そのものを疑い始めたのは、1年分の見積書と請求書を一枚の表に並べ直したときでした。納品日と入金日を横に書き足していくと、60日を超えている取引先が全体の7割だと数字で見えたのです。単発を追いかけている限り、この谷は毎回同じ形でやってきます。堀内さんはそこで、支払期日の見直しを頼むことと、仕事の受け方を変えることを同時に進めると決めました。
そのあと起業18フォーラムの勉強会に通い、月ぎめの契約に組み替える手順を学びました。まず60日を超えていた2社には支払期日の短縮を頼み、うち1社は翌月末払いに直してもらえました。
単発だった積算補助は、図面チェックを毎月まとめて引き受ける形に作り替えました。請求のタイミングも、どの取引先も同じ締め日にそろえてもらっています。いまは月ぎめの契約が4社あり、いちばん長い取引先とは18ヶ月続いています。入金の日が毎月決まってからは、生活費をいくら残しておくかで迷わなくなりました。
堀内さんが表に書き足したのも、特別な項目ではありませんでした。日数を数えるときに使う日付は、次の三つだけです。
- 納品予定日:
先方に成果物を渡す日 - 締め日:
その納品が乗る月の区切り - 支払日:
締めた分が口座に入る日
入金が2ヶ月後だと先に分かっていれば、その間に払う家賃やカード代をどこから出すかを組み立てられます。分からないまま迎える2ヶ月は、引き落としの前日になって残高を見ることになります。資金繰り表を作り込む前でも、この三つの日付を押さえるだけで生活費の見通しは立ちます。
あなたが今日できることも、堀内さんの最初の一歩と同じで構いません。受けている仕事の納品日と、注文書に書かれた支払日を横に並べて、その間が何日あるのかを数えてみてください。

提示された支払条件をそのまま受け入れるのも、見直しを頼んでみるのも、どちらも間違いではありません。大事なのは、何日空くのかを知ったうえで自分で選んだかどうかです。
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