起業アイデアを絞るには? 単価と入金速度から見た優先順位

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

コンサル系の仕事を10年やってきた30代後半の独身で、いま独立を見据えて3案件を並行して走らせています。どれも中途半端で手応えがゼロに近く、かといって1つに絞ると残りの2つを捨てるようで踏み切れません。

どの順番でどう絞り込めばよいでしょうか?

起業前質問集

● 回答

複数の案件を同時に走らせて手応えが薄いのは、あなたの努力不足ではなく、絞り込みの前に必ず通る当然の過程です。最初にやるのは、3案件のうち1つに丸をつける前に、4指標(単価・入金速度・在庫・自分の消耗)で候補を並べて優先順位を可視化することです。順番を「やめるほうから先に決める」に置き換えると、残りの1つに投じる時間と気持ちがはっきり増えます。

「全部やって手応えゼロ」はよくある通過点

複数案件を同時に抱えて成果がなかなか出ない状態は、独立準備の入口ではむしろ珍しくありません。起業18フォーラムの会員さんを見ていても、開業前は複数の芽を同時に試し、手応えの出た方に少しずつ寄せていく順序をたどる方が多く、並行状態は準備段階の通過点として頻繁に観察されます。つまり並行状態そのものは失敗の証ではなく、次の一手を選ぶための土台になっているという読み方ができます。

問題は、並行を続けているうちに「どれも捨てられない」まま時間だけが過ぎることです。ここで必要になるのが、感覚ではなく指標で優先順位を出す道具になります。

4指標で並べると案件の順位が浮かぶ

コンサル系の仕事を長くやってきた方に向いているのが、次の4つの軸で候補を並べる方法です。単価・入金速度・在庫・自分の消耗の4軸それぞれで、いま抱えている案件を高・低に振り分けます。

意味 高い候補が意味すること
単価 1案件あたりの受注額 少ない件数で売上が立つ
入金速度 着手から入金までの日数の短さ キャッシュが早く戻る
在庫 抱える仕入・素材・仕込み 資金拘束と滞留リスクがある
自分の消耗 終わった後の疲労度・熱量減 継続の難易度が高い

4軸で並べると、単価と入金速度が高く在庫が低く自分の消耗も低い案件が、独立準備の初期に最も相性がよい候補として浮き上がります。逆に、単価が低く消耗が高い案件は、たとえ思い入れがあっても劣後順位(後回し)に置くのが理にかなっています。

今日並べてみる4軸チェック

  • 単価:
    過去3件の受注額の中央値はいくらか
  • 入金速度:
    初回打合せから初回入金までの日数はどれだけ短いか
  • 在庫:
    着手前に用意する素材・仕入・仕込みの合計金額はいくらか
  • 自分の消耗:
    納品直後にもう1件同じ仕事を受けたいと感じるかどうか
劣後順位リストで先にやめることを決める

私がこれまで一貫してお伝えしている道具のひとつに、劣後順位リスト(やらないことリスト)という考え方があります。これは「やることを増やすリスト」ではなく、「今期はやらないことを先に決めるリスト」です。人は増やすほうが得意で減らすほうが苦手なので、意識して先に減らす側を書き出しておくと、残った案件に自然と時間と気持ちが集まる仕組みです。

3案件を抱えている方は、4指標で最下位に落ちた1案件を「今期はやらない」欄にまず書き入れると、その案件に投じていた時間を残り2案件へ回せます。やめると決めた案件は、完全に閉じる必要はなく、来期以降の再検討候補として棚に上げるだけで十分です。

絞り込みでよくある勘違い

  • どれも育てば大きくなる:
    時間と気力は有限のため、並行のまま続くと全部が中途半端で終わる
  • やめるのは負け:
    劣後順位に置くのは撤退ではなく、来期以降の再検討枠へ移すだけ
  • 絞ると機会損失が怖い:
    残す1案件の受注速度が上がるため、総額はむしろ増えやすい
絞り込みで動き出したコンサル会社員の例

ある起業18フォーラムの会員さんに、コンサル系の仕事を10年続けてきた唐沢さん(30代後半・独身・仮名)がいます。独立を見据えて、業務改善支援・研修講師・スタートアップ壁打ちの3案件を同時に走らせていて、どれも月に数万円の売上に留まり、手応えの薄い状態が半年ほど続いていました。

転機になったのは、地元へ帰省したときにたまたま入った古い喫茶店での会話です。年配のマスターが「昔はここで喫茶も雑貨も豆売りも仕出しも軽食も、5つ手を出していたけれど、2つに絞ってからようやく食べられるようになった」と話してくれ、絞り込む順番の話に耳が留まりました。その足で持ち帰ったのが「まずやめるほうから決める」という判断の順序でした。

戻ってから起業18フォーラムの勉強会に参加し、他会員の事例と4指標の判断軸を並べて、自分の3案件を採点し直しました。単価と入金速度が最も低く、自分の消耗が高かったスタートアップ壁打ちを今期の劣後に置き、業務改善支援に時間の7割を寄せる形に組み替えました。

半年後には業務改善支援だけで月商90万円台まで積み上がり、余った時間で研修講師の告知を回せるようになりました。絞り込みの前は3案件合計で月30万円前後だった売上が、絞ってから半年で約3倍に伸びた計算です。

今日できる小さな一歩

いま並行している案件を紙1枚に書き出し、4指標で採点してから、最下位に落ちた1つに「今期はやらない」と書き添える。ここまでで所要は15分ほどで、絞り込みの意思決定はほぼ終わります。残る2案件のうち、単価と入金速度が最も高いほうに丸を1つ入れ、次の1ヶ月はそこにだけ時間を寄せる、を今日の決めごとにしてみてください。

今日15分でやること

  • 紙に書く:
    並行している案件をすべて紙1枚に列挙する
  • 4指標で採点:
    単価・入金速度・在庫・自分の消耗の4軸で高低を書き添える
  • 丸と横棒:
    最上位に丸、最下位に横棒を引き、横棒に「今期はやらない」と一言添える

残す1案件が決まると、次に見えるのは「どう伸ばすか」の設計です。強みを一言に落とし込む手順は、次の記事も参考にしてみてください。

自分の強みを一言で言えない人へ|経験を言葉に翻訳する
日本政策金融公庫が融資した開業後1年以内の企業を対象とする2025年度新規開業実態調査では、現在苦労しているこ

全部やって手応えゼロのままにしないで済むのは、増やす前に減らす順序を先に決めた人だけです。今日は紙1枚と15分で、劣後に置く1案件を選ぶだけで十分です。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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