記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
● 質問
建設会社で現場監督と施工管理を、かれこれ20年以上続けてきました。ただ、自分でCADを使って図面を引けるわけでも、営業をやってきたわけでもありません。
工期に間に合うよう段取りを組み、職人さんと元請けの間に立って話をまとめる。そんな調整ばかりの毎日でした。
この現場監督としての経験だけで、会社の外で通用するものが作れるのでしょうか? 手に職と呼べる技能を持たない自分でも、独立して食べていく道はあるのでしょうか?

● 回答
工期の迫った現場で、職人さんの手が止まらないよう資材と人の動きを先回りして整え、元請けからの急な変更を角が立たないように収める。振り返れば20年、そんな段取りと調整の連続でした。現場監督の経験は、図面を引く技能や職人の腕ではなく、工程を段取りし、立場の違う人たちをまとめる調整力という形で、会社の外でも十分に売り物になります。
現場監督が会社の外で売れるのは、図面を引く技能ではなく、工程を段取りして立場の違う人をまとめる調整力のほうです。だからこそ、CADが使えないことも営業の経験がないことも、独立をあきらめる理由にはなりません。
現場監督の経験を売る3つの方向
現場監督としての経験を会社の外で売ろうとするとき、方向はおおまかに3つに分かれます。どこで勝負するかを取り違えると、「自分には売るものがない」という誤解に陥りやすくなります。
- 職人の技能で売る:
自分の手で施工する腕を商品にする道。これは職人さんの領域で、管理を担ってきた人の本命ではない - 図面・設計・積算で売る:
専門ソフトや設計力が要る道。苦手なら無理に選ばなくてよい - 段取り・工程管理・調整で売る:
人と工程を動かしてきた経験そのものを商品にする道。現場監督がいちばん力を発揮できる方向
三つめの段取りや工程管理について、工事の完成を請け負わず、助言や工程調整だけを行う支援であれば、建設業許可の対象となる建設工事の請負とは別です。
仮に将来、自分で小さな工事を直接請けるとしても、建築一式工事以外は税込500万円未満、建築一式工事は税込1,500万円未満または延べ面積150平方メートル未満の木造住宅工事であれば、軽微な建設工事として建設業許可なしで請け負えます。ただし、契約を分割した場合や注文者が材料を提供する場合にも算定ルールがあるため、実際の契約前に許可行政庁へ確認してください。
「図面が描けない」ことは弱みではない
拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』では、弱みは、ほかの人にまねできない強みになりうる、という見方を紹介しています。図面を自分で引けない現場監督は、裏を返せば、設計する人・積算する人・職人・施主という立場の違う人たちの間に立ち、言葉を翻訳しながら現場を回してきた人でもあります。
図面を描く力そのものより、立場の違う人の間を通訳しながら現場を前に進める力のほうが、専門特化した人にはまねしにくい強みになります。「描けない」という引け目は、見る角度を変えると、そのまま独自の立ち位置に変わります。
施工計画を立て、工程・品質・安全を管理する力は、施工管理技士の技術検定でも問われる、ひとつの確立した専門性です。それを20年続けてきた事実を、「手に職がない」と切り捨てるのは、あまりにもったいないと感じます。
- 工程表の組み方:
納期から逆算して人と資材の動きを並べ替える段取りの型 - 職人と発注元の橋渡し:
言い分の違う相手の間に立ち、落としどころを作る調整の勘所 - 小規模工事の進行管理:
リフォームやDIYを望む個人・小さな工務店の現場を回す支援
まずはこの3つのうち、これまで現場で実際に「あなたに頼みたい」と言われた経験があるものに、印をつけてみてください。頼まれた事実があるものほど、会社の外でも求められやすい調整力です。
20年の現場経験を段取り支援に変えた宮下さんの例
建設会社で現場監督と施工管理を20年以上務めてきた宮下さん(50代後半・男性)も、独立を考えるたびに足が止まっていました。図面も引けない、営業もしたことがない自分に、外で売れるものなどない、と感じていました。
ただ、自分でつけていた現場の作業記録を見返すうちに、あることに気づきました。若手や一人親方から「段取りだけ見てほしい」「工程表の組み方を教えてほしい」と頼まれる場面が、少しずつ多くなっていました。
手応えを感じ始めたのは、起業18フォーラムの勉強会で、自分の頼まれごとを一つずつ棚卸ししてからでした。ばらばらに見えていた頼まれごとに、「段取りと調整」という共通の芯が通っていることが見えてきたのです。同じように現場の管理経験を支援業に変えた会員さんの事例を勉強会で知り、進め方の型がつかめました。
宮下さんは、自分で施工まで請け負うのではなく、段取りと工程管理の支援に的を絞りました。小さな工務店やリフォームを望む個人に向けて、現場の進め方を整える役回りです。はじめは月に1、2件だった段取りの相談が、一年ほどで月に10件前後まで増え、今では初めての現場からも名指しで声がかかるようになっています。
新しい取引先を必死に探す時間は減り、これまで培った現場の勘と人のつながりが、そのまま仕事につながるようになりました。手を動かす技能ではなく、人と工程を動かす力で食べていけると、宮下さんは今、実感しています。
まずは、これまでの現場で「あなたに頼みたい」と言われた段取りや調整ごとを一つ選び、それを1件いくらで引き受けられるか、ためしに値段をつけて見積もってみてください。頭の中の経験に値札をつけた瞬間から、それは売り物に変わり始めます。
現場監督は、いわば現場全体を預かる管理職です。図面や技能ではなく、人と工程を動かしてきたその経験こそ、会社の外で選ばれる軸になります。

管理職として積み上げた経験をどう棚卸しし、どんな順番で商品に変えるかは、上でご紹介した記事でも整理しています。手に職がないと感じてきた20年は、裏を返せば、あなたにしか回せなかった現場を預かってきた証です。売るものを探す段階から、どの方向で勝負するかを選ぶ段階へ、もう来ています。
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