記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
都内メーカーで事務と営業アシスタントを兼務する50代です。会社で生成AIの導入が本格化し、上司に「そのうち君の仕事はAIに置き換わるよ」と半分冗談で言われました。
AIに仕事を奪われそうで不安が強くなっています。今のうちから、何を準備しておけばいいのでしょうか?

● 回答
OECDが2025年11月に公表した日本の労働市場に関する報告では、日本で仕事にAIを使うと回答した労働者は8.4%でした。測定時点やAIの定義で利用率は変わるため、一つの数字だけで遅れや安全を判断することはできません。
AIの影響は、職種全体より、その中にある作業、導入方法、企業の判断、顧客の要望によって変わります。「1回で終わる作業」と「時間をまたいで判断や責任を引き受ける仕事」を分けると、自分の業務で試す部分と守る部分を考えやすくなります。
不安が強いときほど、遠くのニュースが自分の未来のように見えてきます。将来の完全代替を断定するより、今の業務のどこでAIの試行が始まり、品質確認や責任の所在がどう変わるかを具体的に見ます。予測ではなく、職場で起きている変化から準備を始めます。
事務も営業も、日々の業務を細かく分けると、「1回で完結する作業」と「時間をまたぐ関係」の二層で成り立っています。前者は請求書の下書き、議事録の要約、見積書の初稿、メールの一次対応など。後者は取引先との3年越しの信頼、社内調整の勘所、担当者が代わっても引き継がれる依頼の流れです。
定型化しやすい作業では、自動化や支援が広がる可能性があります。OECDの同報告では、日本で仕事にAIを使う労働者は8.4%で、その利用者の35.8%が仕事の成果や労働条件の改善を報告したとされています。これは雇用が消える割合ではなく、利用状況と利用者の評価です。
単発作業は、全部が消えるのではなく、下書き時間が短くなる、確認作業が増える、担当範囲が変わるなど複数の変化が考えられます。事務・営業の仕事を細かい作業へ分け、AIを使う前後で品質、時間、誤り、責任の所在を比べてください。
- 品質:出力内容の正確さと人による確認範囲
- 時間:下書き・修正・説明に必要な作業時間
- 責任:誤りや機密情報が生じた場合の判断者と説明者
AI代替可能性の3類型で自分の仕事を仕分ける
拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』では、収入の形をフロー(流れ)とストック(続き)に分ける考え方を紹介しています。AI時代には、この分け方を「仕事」にも当てはめると、輪郭がはっきり見えてきます。
自分の日々の業務を、次の3つに仕分けてみてください。
| 類型 | 特徴 | 今後の見立て |
|---|---|---|
| ①定型作業型 | 議事録の下書き、単純集計、一次対応メール | 自動化・支援が広がりやすい。誤りと機密情報の確認が必要 |
| ②AI併用型 | 提案書、資料作成、企画立案 | 時間短縮の余地がある一方、根拠確認と最終責任は残る |
| ③継続判断型 | 法人営業のフォロー、社内調整、常連客の対応 | AIが支援できても、文脈判断・説明・責任を含む運用設計が必要 |
三つは優劣ではなく、同じ仕事の中に混在します。②や③もAIの影響を受け、①にも法令や品質上、人の確認が必要な場合があります。まず1週間の業務を三つに仕分け、時間、誤り、確認者、機密情報の有無を記録してください。どこから試すかを職場と相談しやすくなります。
生駒さんが月次契約に切り替えた14ヶ月
生駒さん(仮名・52歳・都内メーカーの事務/営業アシスタント兼務・独身・都内在住)は、同じ悩みを抱えていました。会社で生成AI導入が発表された頃、夜中に生成AIツールを触ってみたものの、「これじゃ自分は要らないかも」と画面を閉じる日が2ヶ月続きました。
転機は、以前フォローしていた案件について取引先からお礼が届いたことでした。その一言自体をAIが書けないという意味ではありません。案件の経緯を把握し、説明し、問題が起きたときに責任を持って調整した経験が評価されたのだと捉え直しました。
その後、起業18フォーラムの勉強会で他会員(元法人営業)の事例を知り、単発の作業代行として受注するのでなく、月次で伴走する型に組み直しました。最初は1件3,000円の単発依頼から始め、14ヶ月かけて月額1万円の月次契約に切り替え、現在は本業を続けながら3社と続いています。
単発作業だけでなく、月次の確認と調整を契約範囲にしたのが大きな転換でした。ただし、継続契約もAIから隔離された仕事ではありません。AIを使える作業と、人が確認・説明・判断する部分を契約上も分けます。
AI導入の話に不安を感じたとき、まずやっておきたいのは、遠い将来の予測でも高額のAI講座でもありません。自分の中に、AIには代替されにくい「続く関係」の芽が既にどれだけ育っているかを、一度だけ確かめる作業です。
その材料は、日常のなかにあります。日々の業務のなかで、単発の「作業をやり切った」瞬間ではなく、「時間をまたいで判断や改善を重ねた」場面を思い出してみてください。そこから一般化できる判断力、技能、手順が、本人のストック側の資産です。
- 続いた関係:時間をまたいで判断や改善を重ねた相手との経験
- 一般化できる技能:個別案件から切り離した用語・例外処理・品質基準・説明手順
- 持ち出さない情報:顧客名・連絡先・個別案件・勤務先の営業秘密や関係資産
日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査によれば、開業者の97.6%に勤務経験があり、勤務経験者の平均勤務年数は21.1年でした。長い勤務経験から一般化できる業界の用語、例外処理、品質基準、説明責任は、暗黙知を手順へ落とす材料になります。ただし、顧客名、連絡先、個別案件の内容、勤務先の営業秘密や関係資産は持ち出しません。
直近3ヶ月を振り返って、問題解決につながった自分の判断や手順だけを一般化して書き出してください。個人情報を伏せるだけでなく、顧客や案件を特定できる内容、勤務先が管理する情報を含めず、何を判断し、どんな責任を引き受けたかを事業アイデアの材料にします。
不安の正体が「代替される作業」だけではなく「まだ言語化できていない自分の判断力や技能」にもあると分かると、AIのニュースを準備の点検材料として受け止めやすくなります。

今日いきなり退職届を書く必要はありません。AI導入のニュースを読んで気になった夜に、名前を1つ思い出せた。それだけで、あなたの起業準備の第一歩は、もう始まっています。
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