ケアマネジャーの独立、居宅介護支援の開設と委託で始める手順

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

訪問を終えて事務所に戻ると、机には給付管理とケアプランの束が待っています。「この働き方を、あと何年続けるんだろう」と、パソコンの前で手が止まる夜があります。そんなケアマネジャーの独立には、居宅介護支援事業所を自分で開く道と、介護保険外の研修や相談で経験を生かす道があります。

指定事業所を開く場合は、法人、人員、設備、運営基準を満たして指定を受けてから利用者を担当します。勤めながらできるのは、資格・事業計画・資金・地域連携の準備や、勤務先の許可を得た介護保険外の活動です。

資格はあるのに「人員基準や法人格の壁が怖い」と、独立の一歩手前でためらうケアマネジャーは少なくありません。まず押さえたいのは、あなたが毎日やっている仕事そのものが、独立の土台になっているという事実です。

ポイント ケアマネの経験はそのまま独立の土台になる

現場で培った調整力と家族対応こそ独立を支える強み

ケアマネ

ケアマネジャーの仕事は、要介護の方の生活を丸ごと見て、医療と介護と家族の間に立って調整することです。アセスメント、サービス担当者会議、給付管理、家族の感情の受け止め。これを毎日こなしている人は、独立に必要な力の大半をすでに持っています。

とりわけ大きいのが、板挟みの経験です。事業所の方針と利用者の希望、家族の思いと本人の意思、限られた支給限度の枠と必要なサービス。この間で落としどころを探ってきた時間が、外に出たときに「相談される人」になる下地になります。

現場で消耗するほど向き合ってきた調整の経験こそ、ほかの人には真似のできない強みになります。この視点を持てるかどうかで、独立の入口は大きく変わります。

拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』では、「弱みこそ強みになる」という考え方を紹介しています。人手不足の現場で疲れ切った経験や、在宅で家族の看取りに寄り添った時間は、同じ立場の人にとって何より聞きたい話です。マイナスだと感じてきたことほど、独自の切り口になります。

ポイント 独立には「開設」「委託」「研修」の三つの道がある

事業所開設・委託・研修という三つの現実的な選択肢

ケアマネ

ケアマネジャーの独立というと、居宅介護支援事業所を構えるイメージが先に立ちます。ただ、現実の入口はもう少し幅があります。大きく分けて三つの道があり、必要な資金も、負う責任も、始めるまでの時間もかなり違います。

自分がどこから入るのかを決めると、準備することが一気に具体的になります。

  • 居宅介護支援事業所を開設:
    法人設立と市町村の指定を経て自分の事業所を運営する形
  • 指定事業者の枠内で業務に関わる:
    既存事業所や地域包括支援センターの責任と契約の下での業務と、指定なしの保険給付ケアプランの独自受注不可
  • 研修やセミナーで教える:
    介護保険外で行う実習指導、事業者向け研修、家族向け相談などの情報提供業務

この三つは、どれか一つだけを選ぶものではありません。勤務先の規則、守秘義務、競業避止、個人情報の扱いを確認したうえで、介護保険外の研修や相談、地域との関係づくりから適性を確かめる順番は現実的です。保険給付の仕事と保険外の活動を混同しないことが前提になります。

ポイント 事業所を開くなら「法人格」と「主任ケアマネ」が要る

指定に必要な法人格と主任ケアマネ配置という条件

ケアマネ

三つの道のうち、いちばん準備が重いのが居宅介護支援事業所の開設です。介護保険法は申請者要件の一部を市町村条例に委ねており、所在地の条例や指定申請要領では、株式会社や合同会社、NPO法人などの法人格が求められます。法人の目的記載を含め、指定権者へ事前に確認してください。

管理者は原則として主任介護支援専門員

指定を受けるには、常勤の介護支援専門員を1名以上置き、管理者は原則として常勤の主任介護支援専門員である必要があります。令和9年3月31日までの経過措置は、令和3年3月31日時点で主任介護支援専門員でない者が管理者であった事業所において、その方がその後も引き続き管理者を続けている場合が対象です。新しく開く事業所が一般に使える猶予ではありません。やむを得ない事情などの例外は限定的なので、指定権者へ事前確認してください。

担当できる人数にも基準があります。利用者44人につき1名のケアマネ配置が原則で、ケアプランデータ連携システムを使い事務職員を置く場合は49人につき1名まで緩和されます。独立を考えるなら、主任ケアマネの研修を受けられる要件を満たしているかを、早めに確かめておくと安心です。

ポイント 収入は単価と担当件数で決まる

介護報酬の単価と担当件数から組み立てる収支の設計

ケアマネ

居宅介護支援の収入は、担当する利用者一人ひとりのケアプランに対する介護報酬(居宅介護支援費)が柱です。厚生労働省の2024年度介護報酬改定で、基本の単位数は引き上げられました。金額は単位数に地域区分別の1単位単価を掛け、加算・減算などを反映して計算します。

要介護度によって単価が変わります。改定後の主な単位は次の通りです。

  • 要介護1・2:
    居宅介護支援費(Ⅰ)で1,086単位(改定前は1,076単位)
  • 要介護3・4・5:
    1,411単位(改定前は1,398単位)

要介護1・2の基本部分は1,086単位です。ただし、実際の請求額は地域区分、加算・減算、逓減制などで変わるため、単純に担当件数を掛けるだけでは収支は決まりません。

件数は「45件の壁」を意識して積む

2024年度の改定では、担当件数の数え方も変わりました。居宅介護支援費(Ⅰ)では、単価が下がらない範囲が40件未満から45件未満へ広がり、要支援者は3人で1人と数える扱いになりました。原則は45件目から逓減区分に入ります。ケアプランデータ連携システムを使い、事務職員を配置する場合は50件未満まで区分が広がります。

特定事業所加算などの加算もありますが、それぞれに人員や運営の要件があります。指定後は少ない利用者数から始まることも想定し、指定時点から必要な常勤体制と固定費を維持できる資金計画を作ってください。

担当件数を追いすぎて一人ひとりへの対応が雑になると、地域からの紹介はすぐ止まります。数字だけを見て件数を詰め込むと、かえって収入が先細りになります。

ポイント 開設を急ぐほどつまずく理由と回避策

器を先に用意して件数と信用が追いつかない失敗

ケアマネ

ケアマネジャーの独立で多いつまずきは、事業所の器を先に用意してしまうことです。紹介の当てがないまま物件と介護ソフトをそろえると、固定費だけが毎月出ていきます。この順番の失敗は、決して珍しくありません。

  • 紹介見込みがない事業所開設による固定費の先行
  • 件数を急いで詰め込むことによる対応品質の低下
  • 地域の医療機関や事業所とのつながりを欠いた独立

紹介は、いきなり増えるものではありません。ケアマネジャーの世界は、地域の医療機関や介護事業所との信頼で回っています。そのつながりを早いうちに耕しておかないと、独立しても相談が入ってこないのです。

たとえば、起業18フォーラム会員の皆川さん(仮名・40代後半・女性)は、居宅介護支援と地域包括支援センターで15年のキャリアがありました。独立を思い立って事業所開設を検討したものの、地域へ聞き取ると指定後の紹介見込みは月2件ほどでした。固定費を賄えないと分かり、申請前にいったん立ち止まりました。

流れが変わったのは、起業18フォーラムの勉強会で「指定の前に、資金計画と地域連携を作る」という順番を教わってからです。皆川さんは開設をいったん保留し、勤務先の許可を得て、個人情報や勤務先の資料を使わない介護職向けのミニ研修に絞って動き始めました。

勉強会で他の会員さんの進め方を聞きながら、指定権者に申請時期を確認し、地域の医療・介護関係者へ開設構想を説明しました。14ヶ月かけて研修実績と連携先、指定後の紹介見込みを整理し、事業所開設を具体的に検討できる状態になりました。指定前に利用者を独自に受けず、制度に沿って土台を作ったのです。

ポイント よくある質問

ケアマネジャーの独立準備で確認したい代表的な疑問

起業前質問集

Q.個人のまま居宅介護支援事業所を開けますか?

指定事業を行うには法人格と自治体の指定が必要です。必要な人員、設備、運営基準を指定権者へ確認してから準備してください。

Q.一人ケアマネでも独立できますか?

地域の基準を満たせば可能な場合がありますが、常勤体制、休業時の対応、記録、請求、個人情報管理まで含めた運営体制が必要です。

Q.担当件数を増やせばすぐ黒字になりますか?

介護報酬は地域区分、加算・減算、逓減制などで変わります。指定後に利用者が少ない期間も想定し、固定費を維持できる資金計画を作ってください。

Q.勤めている間に何から始めればよいですか?

勤務先の規則を確認したうえで、自治体の介護保険課や職能団体へ指定基準、主任ケアマネの要件、申請時期を問い合わせることから始めます。

ポイント 今日からできる独立準備の最初の一歩

自治体や職能団体への確認から始める最初の一歩

point

独立は事業所を構える一択ではなく、介護保険外の研修や相談で経験を生かす道もあります。指定事業を行う場合は、利用者を受ける前に法人化と指定手続きを終えることが前提です。

最初の一歩は、大きな決断ではありません。お住まいの自治体の介護保険課か、介護支援専門員の職能団体に、「指定基準」と「勤めているうちにできる準備」を一つだけ問い合わせてみてください。主任ケアマネの研修要件や、地域での委託の受け方など、聞けば具体的な次の課題が見えてきます。

ここまで指定基準や件数の現実に目を向けているあなたは、勢いだけで飛び出す人とは出発点が違います。焦って器から入る必要はありません。

資格という土台の上に、件数と信用を一段ずつ積んでいけば、独立は無謀な賭けにはなりません。今の現場で向き合ってきた時間が、そのまま次のあなたの看板になります。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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