単身赴任から戻った50代、赴任先で作った縁は仕事になりますか?

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

50代半ばで、数年の単身赴任を終えて、自宅のある街に戻ってきました。赴任先では取引先や地元の方にずいぶん世話になり、気心の知れた相手も何人かできました。ただ、帰任した今となっては、車で何時間もかかる遠い土地の付き合いです。

定年を前に、自分の名前で何か始めたい気持ちはあるのですが、こういう遠く離れた縁は、帰任した今からでも仕事につながるものでしょうか?

起業前質問集

● 回答

遠く離れた縁だから使えない、と考える必要はありません。むしろ距離があるからこそ、動かせる余地が残っています。

赴任先で作った縁は、帰任した今からでも最初の受注につながります。鍵になるのは距離ではなく、その縁にもう一度どう声をかけるかという順番のほうです。

「遠い土地の付き合いは、帰任したら年賀状で終わるもの」。そう考えて連絡をやめてしまう方は少なくありません。ですが実際に相談を受けていると、帰任した方の最初の受注は、赴任先で名刺を交わした相手から生まれる例が目立ちます。距離が離れたぶん、相手の記憶には、あなたが「あの土地まで足を運んでくれた人」として残っているからです。

年齢の面でも、ためらう理由は多くありません。日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査によると、開業した人は40歳代が36.9%で最も多く、50歳代は21.8%、60歳以上は6.4%でした。平均年齢は43.9歳と調査開始以来で最も高くなっており、50歳代の割合は3年連続で上昇しています。50代で新しく始める人は、統計の上でも決して少数派ではないのです。

声をかけ直す前に確認する三点

  • 相手:
    赴任先で自分の仕事ぶりを直接見た人
  • 内容:
    手伝えることを一言にまとめた近況
  • 境界:
    就業規則・秘密保持・競業に触れない連絡方法
遠い縁が最初の受注になりやすい理由

拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』の第3章では、告知5ルートという考え方を取り上げています。新しく始めた仕事を最初に知らせる先は、広い世間に向けた宣伝ではなく、すでに縁のある相手への声かけからでよい、という順番の話です。

見ず知らずの人へ売り込むより、一度あなたの仕事ぶりを見た相手に伝えるほうが、話はずっと早く進みます。赴任先で一緒に汗をかいた相手は、まさにこの「すでに縁のある相手」にあたります。名刺の肩書きは変わっても、あなたが現場でどう動く人かは、相手の記憶に残っています。

では、実際に声をかけるとき、何を伝えればよいのか。相手が身構えない伝え方には、ちょっとした準備がいります。

独立して何を手伝えるのかを、相手がひと目で思い出せる一言にまとめておいてください。

赴任先の縁から受注が生まれた例

赴任先の縁がつながり直したのは、芳賀さん(54歳・仮名)が1本の電話をかけた日からでした。食品メーカーで長く品質管理と生産の現場を受け持ち、単身赴任のあいだは地方の協力工場に何度も足を運んだ人です。帰任して半年、遠くの取引先とはもう年賀状のやり取りだけになり、独立を考えても当初はそこで足踏みしていました。

芳賀さんは、起業18フォーラムの勉強会で、ある会員の一歩を耳にしました。昔の取引先へ独立の一報を入れ、何を手伝えるかを一言添えただけで最初の一件を決めた、という話でした。そこで赴任先で世話になった協力工場の担当者1人に、独立して品質管理の相談に乗る仕事を始めたと電話を入れました。後日の勉強会では、その担当者と交わした具体的なやり取りを報告し、それが次の一歩の後押しになりました。

すると担当者から「うちの表示チェックも見てほしい」と名指しの相談が届き、近隣の同業者まで紹介されました。遠い土地への1本の連絡が、名前で呼ばれる関係に育っていったのです。

11ヶ月目には、毎月の相談料が合計18万円ほどに届いていました。始めた頃は月2件だった依頼が月6件に増え、単価は1件3万円ほどで変えていません。依頼の入り口が「どこか頼めるところはないか」から「芳賀さんに見てほしい」に変わったことのほうが、本人には大きかったそうです。

芳賀さんの一年で効いたのは、赴任先で積み上げた信頼が、距離や時間ではそう簡単に消えないという事実でした。眠っていた縁でも、こちらから声をかけ直せば、名前で呼ばれる関係にまで戻ります。

赴任先の縁に声をかけ直す順番

  • 誰に:
    赴任先で仕事ぶりを直接見てもらい、一緒に困りごとを片づけた相手
  • 何を:
    近況と「こういう相談なら乗れます」とまとめた一言
  • どう:
    電話かメールの一本と、返事の後に相手の困りごとを聞く順番

この順番なら、遠く離れていても不自然になりません。相手にとっては、久しぶりの連絡が「あの現場で一緒だった人からの近況」として届きます。

ただし、まだ会社に在籍している間は、就業規則、秘密保持義務、競業避止義務を先に確認してください。勤務先の顧客名簿や非公開の連絡先を私的に使ったり、勤務先と競合する仕事を取引先へ持ちかけたりしてはいけません。現在の取引先へ連絡するなら、勤務先の承認が必要かも含めて確認します。

まずは赴任先で世話になった1人に、帰任した今も連絡を1本入れてみてください。

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遠い土地の縁は、帰任で切れる約束ではありません。あなたが赴任先で残してきた仕事ぶりが、次の受注を呼び戻してくれます。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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