記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
● 質問
夫の転勤で引っ越すたびに、私はパートを一から探し直してきました。今回も新しい土地で就活を始めることになったのですが、次の転勤でまたリセットされるのが目に見えていて、正直、疲れてしまいました。「どこに住んでも続けられる自分の仕事」を持ちたいと思っています。
まだ勤め先が決まっていないこの空白の期間に、何から手をつければよいのでしょうか?

● 回答
「場所に縛られない仕事」を持ちたい気持ちはある。けれど、何をどの順番で組み立てればよいかが、まだ霧の中。今のあなたは、そんな場所に立っているのかもしれません。
順序を先に整理します。やることは「相手・商品・届け方・仕組み」の4つの問いを、順に埋めていくことだけで、勤め先が決まる前のこの空白の期間は、そのための最良の準備期間になります。転勤族の妻の起業準備は、パートを探す時間軸とは別のレールに乗せていきましょう。今日は、同じように転勤族の妻として3か所目の引越を経験した白石さん(仮名)が歩いた道と重ねながら、進める順序を整理していきます。
この記事でお伝えする順序
- ①誰の悩みを解決するかを決める:
転勤族の妻として自分が熟知している相手を、まず1人だけ思い浮かべる - ②自分の中の「経験の棚」を1つ選ぶ:
これまでの職務経歴のなかで、場所を選ばずに使えるスキルを1つだけ取り出す - ③離れた場所から届けるやり方に置き換える:
対面前提を外し、オンラインで完結する届け方に置き換えて設計する - ④自分が動かない仕組みを8割まで広げる:
拙著の「80%ルール」に沿って、テンプレートと自動配信の側に載せていく
場所に縛られない仕事を組み立てる4つの問い
「場所に縛られない仕事」といっても、いきなり完成形は見えてこないものです。まずは、上に挙げた4つの問いを、順に自分の紙のうえで答えてみるところから入っていきます。順序を守ることが、迷いを減らす最短の道です。
問1. 誰の悩みを解決するか
最初の問いは、商品より前に「相手」から選ぶ、という約束事です。あなたが「隣で話を聞きたくなる人」を、まず1人だけ思い浮かべます。転勤族の妻という立場は、同じ立場の相手の家計・引越・単身赴任の不安を、生活者の言葉で理解できるという強みを持っています。
白石さんの場合、思い浮かべたのは前任地で家計の相談に乗っていた同じ幼稚園の保護者、3人だけでした。数を広げる前に、この3人が「引越したあとも相談したい相手」になっているかどうかを、まず確かめるところから始めています。
問2. 自分は何を提供できるか
次に、自分の経験の棚から「場所を選ばずに使えるスキル」を1つだけ取り出します。全部並べると迷いますから、あえて1つに絞るのが約束事です。元銀行員なら家計の棚卸し・住宅ローン既契約の返済シミュレーション・家計簿の型作りといった、生活者の家計まわりが第一候補になります。
白石さんは信用金庫時代に住宅ローン相談窓口を担当していました。「引越しに合わせて住宅ローン既契約の返済計画の整理や家計の棚卸しが必要になる家庭」を、自分の中で最初の相手として置いています。「銀行員全般」ではなく、「引越しを起点にした家計の棚卸し」まで絞ったことが、後の設計の芯になっていました。
問3. どうやって離れた場所から届けるか
次は届け方です。転勤族の妻の起業準備で最も大切なのが、この「離れた場所から届ける」設計です。国土交通省のテレワーク人口実態調査では、雇用型テレワーカーの割合が2割台で推移しており、仕事の一部をオンラインで進める前提は社会の中に定着してきています。家計相談のような対人サービスも、在宅型でメニュー化しやすい環境が整ってきています。
白石さんは、Zoomと家計簿共有アプリ、月に1度のフォローLINEの3点で、対面ゼロで完結する形に置き換えました。前任地の相手と、次の任地の相手が同じ届け方で受けられる形にしておくことで、引越をまたいでも仕事が途切れない設計になります。これは、対面を残したまま「近所のお客様だけ」に頼る形では、作りにくい構造でした。
問4. 何を”仕組み”として残すか
最後の問いは、自分が動かなくても回る部分を、どこまで広げるかです。拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』では、自分が動かない仕組みを8割、自分が動く仕事を2割以下に置く「80%ルール」を紹介しています。転勤族の妻にとって、このルールは特別に重要です。引越の準備や片付けで数週間動けない時期にも、仕事の側は動き続ける、という設計になるからです。
白石さんの場合、家計簿テンプレートの共有、月次の振り返りチェックリストの自動配信、動画で見返せる家計の学び直し講座。この3つを仕組みの側に寄せています。相談本体(2割)は白石さんがオンラインで直接行い、それ以外の8割は自動配信のなかで回っています。
転勤族の準備を後押しする追い風
ここで、いま転勤族の妻の起業準備を後押ししている、公的な数字を3つ確認しておきます。数字は、あなたが「私だけが取り残されているのでは」という気持ちを、事実で少し柔らかくしてくれます。
ひとつめは、総務省が公表している住民基本台帳人口移動報告です。同報告では、毎月の都道府県間移動者数が公表されており、2026年5月だけでも17万人を超える人が都道府県をまたいで移動しています。前年同月比では減少している月でも、転勤や異動にともなって家族が引越しに直面する場面は、一定規模で続いています。
ふたつめは、国土交通省の令和7年度テレワーク人口実態調査です。同調査では、雇用型テレワーカーの割合が2割台で推移しており、在宅で働く・相談する前提が社会の中に残っています。転勤族の妻がオンライン中心の仕事を持つときに、社会の側のインフラが追いついている状況が生まれています。
みっつめは、オンライン会議やクラウド型の家計管理、動画講座といった道具が身近になったことです。テレワークが一定割合で定着している以上、相談される側だけでなく、相談する側もオンラインを前提にしやすい時代に入っています。
数字を読み解くための3つの視点
- 移動者数の水準:
引越が発生する家族の絶対数は、コロナ禍後も一定規模で続いている - 在宅ワークの普及:
対人サービスも在宅型でメニュー化しやすい環境が整い始めている - 受け手側の変化:
オンラインで相談する側も、世代を問わず慣れが進んでいる
白石さん(仮名・38歳)の19ヶ月
ここからは、実際に転勤族の妻として場所に縛られない仕事を作った白石さん(仮名・38歳・元銀行員)の運び方を、時系列でお伝えします。ご本人の許可を得て、地域と細部をぼかしてお伝えしています。
白石さんは30代前半に結婚し、夫の転勤で今の任地が3か所目でした。信用金庫時代は住宅ローン相談窓口を担当していましたが、結婚を機に離職し、引越すたびに近隣のパート求人からゼロで探し直す生活が続いていました。2か所目の離職期間で履歴書の空白が広がるにつれて、応募しても書類選考で止まる回数が増えていきました。
腹決めができたのは、前任地で家計相談に乗っていた同じ幼稚園のAさん(仮名)から、引越しの半月後にLINEで「引越しの片付けが落ち着いたら、家計をまた見てもらえませんか」と連絡が入った日でした。会って話す前提でしか続かないと思っていた関係が、「オンラインでも構いません」という一言で、次の任地でも続く仕事になり得ると分かった瞬間です。
白石さんはそこから、月に1度・30分・Zoomの家計相談を、単価6千円で月8件だけ受ける形を試しました。月商は約4.8万円でした。ただ、この時点では初回のみで完結する相談が中心で、続いていく設計にはなっていませんでした。
方向が変わったのは、起業18フォーラムのオンライン勉強会に参加を始めた月でした。勉強会で聞いた他の転勤族会員の事例で、「対面前提のメニューを、場所に依存しない形にリメイクした」運び方に触れたのがきっかけです。
白石さんは自分のメニューを、月次の家計チェック・年1回の総合見直し・家計簿の型作り講座、の3層に組み替えました。単価は継続で1万2千円まで上げ、リピート契約に切り替えていきます。
拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』の「80%ルール」を勉強会で学んだのも、この時期でした。白石さんは家計簿テンプレート・月次振り返りチェックリスト・動画で見返せる家計の学び直し講座を仕組みの側に寄せ、対面での相談本体を2割まで縮めていきます。引越の片付けで自分が動けない週にも、テンプレートと配信は動き続ける形になりました。
19ヶ月目には、月14件(うちリピート6件・リピート率約43%)で月商16.8万円になっていました。件数は初回だけを積んでいた頃と比べて劇的な伸びはありません。ただ、内訳が入れ替わっています。初回のみで終わる相談ではなく、月に1度戻ってくる相手が6人になっていました。夫の次の転勤が話に上っても、白石さん本人のなかで「仕事はどこに住んでも続く」という感覚が、初めて根を張った時期です。
白石さんの19ヶ月を支えたもの
今日から動かせる小さな一歩
ここまでの話を、勤め先が決まる前のこのタイミングにいるあなたに合わせて縮めます。最初にやるのは、新しいメニューを作ることではなく、これまでに自分が話を聞いてきた相手のうち「引越したあとも相談したい人」が何人いるかを、この1週間だけ観察・記録してみることです。
名前と、どんな相談だったかを、思いつく順に手帳にメモするだけで十分です。会う頻度や、話した深さは、この段階では気にしないでください。「またこの人に相談してくれそうか」の目で、この1週間の身の回りを観察してみてください。それだけで、自分の商品が「初回で終わる形」か「続いていく形」かの見立ては、ぐっと立ちやすくなります。

大きな決断は要りません。次の転居先が決まる前のこの数週間を、「同じ相手と続く仕事」の設計に少しだけ充ててみてください。それが、転勤族の妻としてどこに住んでも続けられる仕事を持つための、確かな入口になります。
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