松本市で起業を考えるときに最初に確認する地域資源と支援制度

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

松本市で起業を考えている方から、最近続けて質問をいただくようになりました。首都圏から松本へUターンしたい方、二拠点で仕事を組みたい方、そして地元で会社勤めを続けながら次を探している方まで、動き方の相談内容はさまざまです。

私は起業18フォーラムを運営していて、松本のような地方中規模都市で自分の仕事を組み立てる方の相談にも数多く関わってきました。この記事では、松本市の地域資源と支援制度、そして先に動き始めた方の実例を、順を追って整理していきます。

ポイント 松本市はどんな街で、起業の入口として何が見えるか

松本市の産業と地理から地域の骨格をまず読み解く

松本

人口・産業構造・アクセスをまず押さえる

松本市の住民基本台帳人口は、令和8年7月1日現在で231,178人、世帯数は111,034世帯です(松本市「年齢・男女別人口」)。地方中規模都市で起業を組み立てるときは、まずこの規模感を身体に入れておくと事業設計がぶれにくくなります。市場は限られる一方、顔の見える関係も濃く、口コミが働きます。

交通面では、新宿駅からJR特急あずさで約2時間30分(最速便で2時間29分)、名古屋駅からJR特急しなので約2時間強(最速便で2時間03分、大半の便で2時間05分前後)と、首都圏・中京圏の双方から往復しやすい位置にあります。この立地は二拠点居住・関係人口としての起業の入口を広げる、松本ならではの強みです

観光と地場産業の二層構造を意識する

松本市の産業は、松本城・上高地・美ヶ原などを軸にした観光サービス業と、精密機器・食品加工・農業・伝統工芸など地元通年で稼働する地場産業の二層構造になっています。総務省統計局の令和6年経済センサス‐基礎調査(令和6年、7年経済センサス‐基礎調査 調査の結果)でも、長野県内での松本市の事業所集積は県庁所在地の長野市に次ぐ規模で、多様な業種が同居していることが読み取れます。

ここで気を付けたいのは、観光需要は季節と天候に強く左右される一方で、地場企業向けのサービスは通年で動くという点です。観光と地場のどちらに事業の重心を置くかは、松本での起業設計の初期に必ず問い直すべき論点です。この二層をどう組み合わせるかが、松本で自分の仕事を持続させる中心的な問いになります。

ポイント 松本市で使える起業の支援制度と補助金

松本市と商工会議所の連携で使える制度群を整理

松本

まつもとチャレンジ起業相談室と特定創業支援

松本市は、産業競争力強化法に基づく「創業支援等事業計画」を平成26年10月31日に国から認定され、市と松本商工会議所などが連携して切れ目のない支援を提供しています(松本市公式 創業支援等事業計画ページ)。中心的な窓口の一つが、松本商工会議所の「まつもとチャレンジ起業相談室」です(電話:0263-32-5350)。

ここが実施する「松本地域創業スクール」は、特定創業支援等事業に位置づけられており(令和8年度の開催については松本商工会議所へ直接確認してください)、修了して所定の要件を満たすと、国から以下の4種類の支援を受けることができます。

①会社設立時の登録免許税の軽減(株式会社・合同会社の場合、資本金の0.7%→0.35%に引き下げ)
②創業関連保証枠の特例(信用保証協会の保証枠が拡充)
③日本政策金融公庫による新規開業・スタートアップ支援資金の貸付利率の引き下げ
④小規模事業者持続化補助金〈創業型〉の申請資格(補助上限額最大250万円)

です。創業スクールは制度を使うためだけでなく、松本の地域文脈のなかで自分のビジネスモデルを検討し直す場としても機能します

なお、松本市内には松本商工会議所のほかに、ICT拠点施設「サザンガク」内(松本市大手3丁目3番9号)に開設された「信州スタートアップステーション」もあります。専門家による個別相談やワークショップが行われており、創業前から創業後の相談まで幅広く対応しています(松本市 創業支援ページ)。

新規開業家賃補助と移住相談

松本市には、市内で店舗を賃借して開業する方に対して、家賃の一部を最大2年間補助する「新規開業家賃補助事業」があります。補助率は1年目が対象経費の3分の1以内(月額上限8万円)、2年目が10分の2以内(月額上限6万円)で、窓口は市の産業振興部商工課(電話:0263-34-3110)です(松本市 新規開業家賃補助事業ページ)。なお、開業時の融資にかかる利子を補助する「新規開業支援利子補給事業」は令和7年度末をもって新規申請の受付が終了しています。最新の融資関連支援については、松本市産業振興部商工課に直接確認してください。

ここで大切なのは、支援制度を「まず先に取りに行くもの」として使わないことです。補助金は方向性が固まってから活用する道具で、方向を決めるためのものではありません。

制度を紹介する側の窓口担当者も、何をやりたいかが決まっていない相談には具体的な助言がしにくくなります。順序としては、事業の輪郭を先に描き、その輪郭に合わせて制度を選ぶ流れが現実的です。

あわせて、Uターン・Iターンで松本へ移住を検討する方向けに、松本市移住交流推進室(電話:0263-34-3193)が相談窓口を設けています。東京圏・愛知県・大阪府から松本市へ移住・就業または創業する方を対象に、2人以上の世帯で最大100万円(18歳未満の子ども1人につき100万円加算)、単身世帯で60万円を交付する「UIJターン就業・創業移住支援事業補助金」も用意されています(松本市 UIJターン移住支援ページ)。移住の情報収集は「まつもと暮らし」ポータルサイト(matsumoto.city)からも始められます。

ポイント 松本市で始めやすい起業の入口を設計する

季節と地域の時間軸から入口となる事業を組み立てる

松本

観光繁忙期に偏らない事業設計

松本は観光都市の顔を持つため、観光関連の仕事はゴールデンウィークから紅葉期にかけて需要が集中し、真冬は落ち込みます。ここに全体重を預けると、繁忙期と閑散期の月商の差が大きくなり、生活と再投資の設計が難しくなります。観光を中心軸にしたい方でも、通年で回る地場企業向けサービスやオンライン起点の仕事を並行して持つと、年間の起伏を吸収できます。

地場企業向けの仕事としては、営業代行・広報支援・EC運用支援・採用支援・DX相談など、県外での経験を松本で通年提供できる領域が候補になります。首都圏や中京圏で身につけたスキルは、松本の中小企業にとっては通年で活きる資産です。

二拠点・関係人口という第三の入口

いきなり移住して松本一本で稼ぐ道以外に、首都圏で顧客基盤を残しつつ松本で仕事の一部を組む二拠点モデルも現実的です。特急で行き来しやすい距離感を活かし、松本を制作・執筆・オンライン応対の拠点にしながら、月に数回だけ首都圏の顧客先へ出向く働き方も組めます。

松本市でも、通いから始めて段階的に事業の重心を松本に移していく選択肢が広がっています。地域プロジェクトへの関与や副次的な関わりから入り、時間をかけて拠点を切り替えていく順序を選ぶ方の相談も少なくありません。二拠点や関係人口という選択肢は、完全移住のリスクを段階的に減らす道筋になります

ポイント 会員さんの体験談 松本Uターンから季節平準化まで

Uターン後2年で通年の月商帯を整えた歩みの道筋

松本

松本市内で起業した宗村さん(44歳男性)は、首都圏の大手メーカーで法人営業を14年ほど務めたあと、両親の年齢を考えてUターン移住を決めた方です。当初は松本の観光資源を活かしたいと考え、観光ガイド業と民泊コーディネート業を始めました。

手応えはありました。ゴールデンウィークから秋の繁忙期には、ガイド案内が月30件近く入り、民泊コーディネートも重なって観光繁忙月の月商は30万円台に届きます。ただし12月から3月の閑散期には案件が細り、月商は8万円前後まで落ち込みました。年間で見ると平均は月18万円台ですが、月ごとの振れ幅が大きく、生活資金と再投資の計画が組みにくい状態が続きました。

方向が定まったのは、松本市の移住相談会に見学に行って、季節性の強い地域で先に移住した方の話を聞いた時期でした。「観光だけに乗ると年の後半で体力が尽きる」という言葉が印象に残り、自分の事業設計のどこに歪みがあるのかを整理し始めます。同じ月に参加した起業18フォーラムの勉強会では、季節と地域の時間軸をどう扱うかというテーマが取り上げられていました。

松本

拙著『起業神100則』にある「カイロスには前髪しかない」の一節(機会の質と時間軸の見方)が勉強会で共有された回もあり、宗村さんはそこで繁忙期のカイロスをつかむと同時に、通年で流れるクロノスの時間もどう埋めるかを同じ設計図の上で考える必要があると気づいたそうです。松本のように季節性が強い地域では、通年の帯を先に描いておくことが年間収入の平準化につながります。

そこから宗村さんは、翌月の実践報告会で聞いた他の移住会員の季節平準化事例を参考にしながら、修正の方向を固めました。首都圏時代の法人営業スキルを活かし、松本市内の地場企業向けの営業代行を1社あたり月額8万円で組み、2社と継続契約を結びます(月16万円)。あわせて、松本移住を検討している方向けのオンライン相談を1件6,000円で開始し、繁忙期の観光関連と組み合わせる構造に変えていきました。

Uターンから24ヶ月目、事業構成は観光関連が8万円から12万円、地場企業への営業代行が16万円、オンライン相談が3万円前後という並びに変わり、月商は年間を通じて18万円から22万円の帯に収まるようになりました。観光繁忙期の月商30万円という高い数字を追うのではなく、通年で月20万円前後を安定させる設計に切り替えた点が、松本での事業を長く続けられる形へ変えた要因です

ポイント 動きだす順序を決める

支援制度は事業の方向が決まった後に選び直す

松本

支援制度より先に決める3つの数字

松本市で起業を組み立てるときの動きだしは、支援制度を先に取りに行くのではなく、自分がどの季節にどの顧客層と関わり、通年でどれくらいの月商を目指すのかを頭の中で整理していくところから始めます。特に季節性が強い松本では、繁忙期の売上目標と閑散期の下限、そして年間平均の3つを最初に決めておきます。

この整理は、起業18フォーラムの動画や勉強会で全体像を掴みながら進めると、方向のブレが早い段階で修正できます。輪郭が定まっていれば、あとで支援制度や補助金を選ぶ判断も迷いが少なくなり、松本地域創業スクールの参加タイミングも決めやすくなります。

松本市の地域資源と支援制度は、輪郭が定まった方にとっては非常に強い後押しになります。順序を間違えなければ、地方中規模都市であっても自分の仕事を通年で組むことは十分に可能です。

ポイント よくある質問

松本市で起業準備を始める前の疑問を整理する

起業前質問集

Q.松本市で起業するなら、最初に補助金を調べるべきですか?

補助金は事業の方向が見えてから使う道具です。最初は観光向けなのか地場企業向けなのか、通年でどの顧客に関わるのかを一文にしてから相談窓口へ行くほうが具体的な助言を受けやすくなります。なお、制度は変更・終了することがあるため、市の産業振興部商工課(電話:0263-34-3110)や松本商工会議所で最新情報を確認してから動くことをおすすめします。

Q.首都圏に住んだまま松本と関わる起業準備はできますか?

できます。特急あずさで約2時間30分(最速便)という距離感を活かし、月に数回の現地訪問とオンライン対応を組み合わせる二拠点型から始める方法があります。完全移住の前に関係人口として試すとリスクを抑えられます。松本市移住交流推進室(電話:0263-34-3193)でも通いからの段階的な移行相談に応じています。

Q.観光業だけで始めるのは危険ですか?

観光業自体が悪いわけではありませんが、季節差が大きくなりやすい点には注意が必要です。地場企業向けの通年サービスやオンライン相談を組み合わせると、年間の売上が安定しやすくなります。

Q.最初にどこへ相談すればよいですか?

松本商工会議所の「まつもとチャレンジ起業相談室」、松本市大手3丁目にある「信州スタートアップステーション」、または松本市商工課(電話:0263-34-3110)が主な窓口です。相談前に自分の事業案を一文で書いておくと、次の行動が決まりやすくなります。

ポイント 今日できる一歩を決める

読み終えた今日に確認する最初の行動を決める

point

Uターン先で知り合いも顧客もいないまま起業できる? 地方に戻る人の最初の一歩
● 質問 年内に地方の実家近くにUターンで戻る予定で、戻ってから会社勤めを続けつつ自分の仕事も少しずつ始めたい

今日は、松本商工会議所の「まつもとチャレンジ起業相談室」または「信州スタートアップステーション」の直近の相談枠を確認して、聞き手として訪ねる予約を入れてみる。それだけで、次の一歩の輪郭は前より鮮明になります。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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