香川県豊島で起業したい人が最初に確認すること|芸術祭に頼らない事業設計

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

「やっぱり地方の離島だと起業は不利でしょう」とよく聞かれます。26年見てきた立場から言うと、それは半分しか当たっていません。豊島のような人口約770人の島には、島の外にはない需要と、島の外にはない静けさが両方あります。

瀬戸内海に浮かぶ豊島(てしま・香川県土庄町)は、瀬戸内国際芸術祭の主要会場のひとつとして名前を知られる島です。ただ、芸術祭の会期以外の時間のほうが長く、その時間をどう組み立てるかで、豊島での起業の見え方はまるで変わってきます。

ポイント 豊島で起業する前に知っておきたい地域の実情

芸術祭季節波と島暮らしの定期需要を分けて見る視点

豊島

豊島は香川県土庄町に属する島で、土庄町が公表している離島・地区別人口では、2020年10月1日時点の人口が768人と示されています。土庄町全体の人口は令和6年(2024年)6月時点で11,499人という香川県の発表があり、豊島はそのうち一部分にあたります。過疎化と高齢化が同時に進む離島の典型的な人口構成です。

豊島の名前が広く知られるようになったのは、瀬戸内国際芸術祭(3年ごと開催)の主要会場になってからです。2025年の瀬戸内国際芸術祭は、春・夏・秋の3会期を合わせて総来場者数1,084,128人という規模でした。豊島美術館や豊島横尾館などの常設施設も、芸術祭年でない年にも来訪者があります。

ただ、芸術祭の会期は107日間(2025年実績。過去回も105〜108日間)で、残りの日は島の暮らしのリズムに戻ります。

島で起業を考えるときに一番のポイントになるのが、この「季節波」との距離感です。芸術祭の来訪者だけを当て込むと、会期の外で仕事がなくなります。逆に島の暮らしの定期需要を軸にすると、季節に振り回されずに続けられます。

ポイント 芸術祭客より先に、島の困りごとに手を貸す

拙著『起業神100則』のギブ&ギブを離島で運用する

豊島

拙著『起業神100則』にこんな言葉があります。「ギブ&テイクではなく、ギブ&ギブから始めよ」。相手が自分に何かをくれる前に、まず自分が何を差し出せるかを先に置く。これが起業準備の入口で最も効きます。

豊島で移住起業を考える人が犯しやすい間違いは、島に着いた瞬間から「自分の商売を島の外の観光客に売ろう」とすることです。芸術祭の客層は移り気で、一度きりの購入で終わりやすい客層でもあります。そこに全額を張ると、会期の合間で干上がります。

逆に、島の暮らしの中の困りごと(買い物代行・郵便物の受け取り・農作業の一時的な手伝い・観光客の道案内で疲れる高齢者の代わりに窓口に立つ・空き家の見回り)に先に手を貸すと、地元の紹介が回り始めます。これが島での信用の作られ方です。

  • 島の定期需要の例:
    高齢者宅の買い物代行や本土往復の配送手伝い
  • 島の定期需要の例:
    空き家の見回り・草刈り・郵便物の受け取り
  • 島の定期需要の例:
    芸術祭会期中の受付・案内の短期スタッフとしての橋渡し

島の暮らしの中で「先に役に立った実績」が、後の商売の土台になります。

ポイント 豊島で使える支援制度と相談窓口

香川県移住支援金と土庄町窓口の二本柱で押さえる

豊島

豊島は香川県土庄町の一部で、香川県の東京圏移住支援事業の対象市町にも土庄町が含まれています。まず知っておきたい支援制度を整理します。

一つ目は、香川県の東京圏移住支援金です。東京23区への通勤要件などを満たしたうえで、県の対象事業に該当する形で豊島(土庄町)に移住・就業した場合、2人以上の世帯は100万円、単身世帯は60万円が支給される制度です(香川県くらし安全安心・移住推進課/2025年度)。

18歳未満の子ども1人につき100万円の子育て加算があります(一部市町は30万円)。就業ではなく起業等スタートアップ支援補助金(地域課題解決型)の交付決定を受けたケースも要件を満たします。

二つ目は、土庄町の移住相談窓口です。空き家バンクや住宅取得の補助、島暮らしの見学サポートを扱っています。「まず豊島に1週間だけ住んでみたい」と伝えれば、空き家を見に行く段取りから話が始まります。豊島には土庄町の支所(豊島支所)もあり、実際に暮らす場合の生活サポートに関する窓口として機能しています。

三つ目は、香川県の産業振興部門による創業相談です。特定創業支援等事業を受けた場合、法人設立時の登録免許税の軽減や、日本政策金融公庫の貸付利率引き下げなどの国の支援措置が使えます。土庄町の商工会でも創業に関する相談を受け付けています。

  • 香川県東京圏移住支援金:
    2人以上世帯100万円・単身60万円・18歳未満子育て加算最大100万円(要件は香川県公式サイトで確認)
  • 土庄町移住相談窓口:
    空き家バンク・住宅取得補助・島暮らし見学サポート
  • 土庄町商工会:
    特定創業支援事業に該当すれば登録免許税軽減・日本公庫の利率優遇の対象

補助金・支援金は「何をやるか」が定まった後に効く道具で、方向性が固まる前に窓口へ行っても答えは返ってきません。

ポイント 豊島で動き出すための順番

島に住む前にやること・住みながらやることの順序

豊島

豊島で起業や移住起業を考えている方に、実際の順番として整理します。

  • STEP1:
    自分の得意(都市部で培ったスキル)の中から、島の暮らしの困りごとに重ねられる部分を一つだけ言葉にする
  • STEP2:
    拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』の3つのチェック(一人で始められるか・一人で続けられるか・大きなお金がかからないか)に当てはめる
  • STEP3:
    土庄町商工会に「創業相談の窓口はありますか」と一問だけ電話をかけ、島の産業振興側の情報と自分の切り口を突き合わせる

STEP1で大事なのは、島全体を相手にしないことです。豊島には集落が複数あり、それぞれで暮らしのリズムが違います。まず自分が通える範囲を一つに絞り、その範囲の中で誰の困りごとに手が届くかを言葉にしてください。

「島の観光客に売る」と最初から決めてしまうと、島に住む必要がない事業になり、逆に移住の意味がなくなります。

STEP2の3つのチェックは、離島でも本土でも同じです。ただ離島の場合、「大きなお金がかからないか」は特に厳しく確認してください。物流コストと本土往復の交通費が積み重なるためです。

STEP3で土庄町商工会に電話するときは、「創業相談を申し込めるか」と一問だけかけます。決断のためではなく、島側の情報を得るための行動です。「話を聞いてみます」で十分な入口です。

島に一気に移住する前に、まずは月に何度か豊島に通う関係人口としての期間を挟むと、島の季節波と自分の生活リズムの相性を測れます。

ポイント よくある質問

豊島で始める前に出やすい疑問を先回りで整理

起業前質問集

Q.豊島は人口770人ほどの島ですが、そもそも起業が成り立つ市場はありますか?

島の内側の市場だけで見ると、規模はもちろん大きくありません。ただ、島の外との橋渡しの仕事(島の産物の販売代行・島外への情報発信・移住希望者への案内など)を含めると、市場は島の外にも広がります。島内需要と島外需要の両方に足を置くと、豊島の規模でも事業として成立します。

Q.瀬戸内国際芸術祭に頼らず、豊島で通年で仕事を持つことはできますか?

できます。芸術祭の会期は107日間(2025年実績)で、残りの日を島の暮らしの定期需要でつなぐ設計にすれば、季節波に振り回されずに続きます。むしろ芸術祭は「臨時の受託が乗る期間」として位置づけたほうが、事業としては安定します。

Q.いきなり豊島に移住するのは不安です。どこから始められますか?

まずは関係人口として通うところから始められます。土庄町の移住相談窓口では、島暮らしの見学や空き家の下見の段取りを扱っています。月に何度か豊島に通う期間を数ヶ月挟んでから移住を判断すると、生活のリズムとの相性を測れます。

Q.香川県の移住支援金は、豊島で起業する場合にも使えますか?

要件を満たせば使えます。東京圏から土庄町へ移住し、県が対象とする形で就業または起業した場合、2人以上世帯100万円・単身60万円が支給されます(子育て加算あり)。ただし通勤要件や在住要件、対象事業の指定があるため、香川県くらし安全安心・移住推進課と土庄町の移住相談窓口の両方で最新の要件を確認してください。

支援制度は、事業の方向性が定まった後に効く道具で、方向性を先に決めることが順序です。

ポイント 豊島で動き始める今日の一歩

窓口に問い合わせる前に自分の一点を言葉にする

point

今日できることは、土庄町商工会に「創業相談の窓口はありますか」と一問だけ問い合わせるだけで十分です。地元ならではの補助が見つかることがあります。

豊島で起業を考えるとき、島の規模の小ささは弱点にも強みにもなります。ここまで自分なりに調べて読み進められるあなたなら、島の暮らしの中で自分の一点を見つけて動き始められます。

起業したいけど何から始めればいいですか?
● 質問 起業したいという気持ちはあるのですが、何から始めればいいのかわかりません。最初の1ヶ月でやるべきこと

島の名前を背負って掲げた一枚の看板は、会社の名刺とは違う重みを持つはずです。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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