記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
起業の準備としてブログやSNSで発信を始めたのですが、文章がどうしても固くなってしまいます。専門用語を並べておかないと、素人っぽく見られて信用されないのではと不安で、つい難しい言葉を盛り込んでしまいます。
でも自分で読み返しても、なんだか取っつきにくい。専門用語に頼った発信は、どう直せばいいのでしょうか?

● 回答
その不安、とてもよくわかります。専門用語を外したら、自分の専門性まで一緒に消えてしまう気がしますよね。けれど、発信が固くなる原因は、たいてい逆のところにあります。専門用語は専門性を証明するどころか、読み手との距離を広げてしまうことのほうが多いのです。本当に必要なのは、難しい言葉を並べる力ではなく、それをお客さんの言葉に直す力です。
専門家ほど、自分が毎日使っている言葉を「みんなも知っている」と思い込みがちです。けれど、あなたの発信を読むのは、その分野の素人です。読み手が知らない言葉でいくら正しいことを書いても、伝わらなければ存在しないのと同じになってしまいます。
専門用語は「わかる人」より「わからない人」を増やす
専門用語を盛り込むと、知識のある人には伝わります。けれど、あなたの本当のお客さんは、その分野に詳しくない人のはずです。詳しい人は、わざわざあなたに頼む必要がありませんから。つまり、専門用語で固めた発信は、頼みたい人ほど置き去りにしてしまうのです。
この「伝わりにくさ」は、世の中の調査にもはっきり表れています。文化庁が2025年9月に公表した令和6年度「国語に関する世論調査」では、カタカナ語の使用を好ましくないと感じる理由として「カタカナ語は分かりにくいから」を挙げた人が64.1%で最も多くなりました。難しい言葉は、書き手が思う以上に、読み手を遠ざけています。
専門用語を一つ使うたびに、わかる人より、わからない人のほうが増えていく。まずはこの事実を、発信を直す出発点にしてみてください。
大切なのは、お客さんの言葉に翻訳する力
では、専門性を捨てればいいのかというと、そうではありません。求められているのは、専門知識を相手の言葉に置き換える「翻訳力」です。拙著『起業神100則』では、お客さんの言葉で話すことの大切さを紹介しています。専門家にしかわからない言葉ではなく、相手が普段使っている言葉で語れる人こそ、本当に信用される専門家なのです。
- 困りごとの言葉に置き換える:
用語そのものではなく、その用語が解決する「相手の困りごと」を言葉にする - たとえ話を一つ添える:
身近なものにたとえて、知らない人でも絵が浮かぶようにする - 一つの発信に伝えたいことを一つだけ:
あれもこれも詰め込まず、その回で伝える要点を一つに絞る
この三つは、知識を薄めることではありません。同じ専門性を、相手が受け取れる形に届け直す作業だと考えてみてください。翻訳できる人は、知識がある人より一段深く理解しています。本当にわかっていなければ、易しい言葉には直せないからです。
読み手の反応が、固さを教えてくれる
自分の発信が固いかどうかは、自分ではなかなか気づけません。書いた本人には、その言葉がいちばん自然に見えるからです。だからこそ、読み手の反応を手がかりにするのがいちばん確かです。反応が薄い投稿には、たいてい専門用語が紛れ込んでいます。
起業18フォーラムにいた賀来さん(仮名・40代前半・男性・システム開発の会社員・妻と小学生の子1人)も、まさにここで止まっていました。データ分析のスキルを活かそうと発信を始めたものの、専門用語で固めた投稿に反応はまったくつきません。最初の数か月は、いいねも問い合わせもゼロが続いたそうです。それでも「わかりやすく書いたら、素人だと思われる」という不安が手放せず、固い発信を続けていました。
変わり始めたのは、起業18フォーラムの会員どうしで、お互いの発信を読み合う場に参加してからでした。自分では伝わっているつもりの投稿が、同じ会員から「この言葉、何を指しているのかわからなかった」と率直に返ってきたのです。読み手の反応として返ってきて初めて、賀来さんは自分の発信の固さを具体的に知ることができました。
そこからの個別相談で、賀来さんは「一つの発信で伝えることを一つに絞る」という一点に取り組みました。専門用語を並べて多くを語るのをやめ、相手の困りごとを一つだけ、相手の言葉で書く。伝えたいことを一つに絞ると、不思議と専門用語を使う場所も自然になくなっていったそうです。
準備を始めて9ヶ月目、賀来さんの発信は別物になっていました。反応ゼロが続いていた頃とは打って変わって、「うちの売上データ、どう見ればいいか相談したい」といった問い合わせが、月に6件ほど届くようになっています。会社に勤めながらの準備ですが、難しい用語を一つも使わない投稿のほうが、かえって専門家として信頼されている。それが賀来さんにとっていちばんの発見でした。
- 専門用語は、わかる人より、わからない人を増やす
- 信用されるのは、難しく語る人より、易しく翻訳できる人
- 固さを教えてくれるのは、自分ではなく読み手の反応
発信が固くなるのは、文章力の問題ではありません。「専門用語を外すと素人に見える」という思い込みが、言葉を難しくさせているだけです。その思い込みを手放せたとき、あなたの発信は、お客さんに届く言葉に変わっていきます。
今日からできる、言い換え語を集める習慣
とはいえ、頭で理解しても、いざ書くと専門用語に戻ってしまうものです。だからこそ、急に直そうとするのではなく、材料を集めるところから始めるのをおすすめします。これから1週間、お客さんになりそうな人から実際に出た質問の言葉を、そのままメモしてみてください。
「それってどういう意味ですか」「つまり何ができるのですか」。そうした素朴な問いの中に、相手が普段使っている言葉が詰まっています。集まった言葉が、あなたの専門用語を翻訳するための辞書になります。発信を直すのは、その辞書ができてからで十分です。
発信が世代を問わず広がっている時代でもあります。総務省情報通信政策研究所の令和6年度調査では、13〜79歳全体でLINEの利用率が91.1%、Instagramが52.6%、X(旧Twitter)が43.3%でした。だからこそ、誰が読んでもわかる言葉で書けるかどうかが、これまで以上に効いてきます。

専門用語を手放すのは、専門性を捨てることではありません。あなたの知識を、相手が受け取れる言葉に翻訳し直すこと。その一手間こそが、固い発信を「頼られる発信」に変えてくれます。
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