記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
● 質問
地方に住んでいて、車で30分走っても同じ業種で起業した人に会えるような土地ではありません。家族に話しても「やめておけば」と言われるだけで、起業のことを相談できる相手が周りに一人もいない状態です。本やネットで調べるばかりで、これで合っているのか確かめる相手がいません。
こういう環境でも、起業準備は進められるものでしょうか?

● 回答
進められます。むしろ、ここで一度立ち止まって考えてほしいことがあります。「近くに相談できる人がいない」のは土地の問題ではなく、相談相手をご近所だけに探しているからかもしれません。そう視点をずらすと、打てる手はぐっと増えます。
シャッターの増えた商店街を思い浮かべて「ここで何かを始めるのは無謀だろうか」と感じる方は少なくありません。けれど、起業準備で本当に困るのは「土地に人がいないこと」ではなく、「合っているか確かめる相手がいないこと」のほうです。その確かめる相手は、もう物理的な距離に縛られていません。
「相談先がない」は、ほとんどがオフライン限定の思い込み
総務省の令和6年通信利用動向調査(2024年)によると、個人のインターネット利用率は85.6%でした。都道府県別で利用率が80%を超えているのは38都府県にのぼり、すべての都道府県でスマートフォンからの利用率が60%を超えています。起業の相談ができる人が車で30分の範囲にいなくても、画面の向こうには、同じ準備段階の人や経験者が全国にいる時代になっています。
地方にいると「都会の人は交流会や勉強会にすぐ行けてずるい」と感じることがあります。その気持ちはよくわかります。けれど、相談の場がオンラインに移った今、その差はあなたが思うほど大きくありません。むしろ移動時間がかからないぶん、平日の夜でも参加しやすいという面さえあります。
公的な無料相談は、全国どこに住んでいても使える
意外と知られていませんが、国が全国47都道府県に設置している「よろず支援拠点」という無料の経営相談所があります。中小企業基盤整備機構が運営していて、創業・起業の段階から相談に乗ってくれます。何度相談しても無料で、来訪する対面形式だけでなく、電話やメール、テレビ会議システムでも対応しているのが特徴です。
つまり、近所に起業の先輩がいなくても、お住まいの都道府県に「起業前の会社員でも相談していい公的な窓口」が必ず一つはあるということです。地方だから使える支援が少ない、ということはありません。むしろ地方の事情に詳しい相談員が地元に配置されています。
- オンラインの相談仲間:
同じ準備段階の人と進み具合を見せ合える。距離に関係なく続けられる関係 - よろず支援拠点(公的・無料):
全国47都道府県に設置。電話・テレビ会議でも相談でき、地元事情にも明るい - 同業の独立経験者:
オンラインなら、隣町ではなく全国から「同じ仕事で独立した先輩」を探せる
地方在住の立木さんが、月8件まで伸ばすまで
起業18フォーラムの会員さんで、車で30分走っても同業者に会えない土地に住む立木さん(仮名・40代後半・男性・住宅設備の保守点検歴20年・妻と高校生の子1人)がいました。手に職はあるのに「相談できる人が周りにいない」ことがずっと引っかかり、独学で本を読み、地域の困りごと代行を一人で始めたものの、最初の半年は月1件あるかないか。声をかける相手も思いつかず、半ばあきらめかけていたそうです。
転機になったのは、起業18フォーラムで別の会員さんの話を聞いたことでした。その方も地方在住で、オンラインの個別相談を使って、住んでいる場所と関係なく顧客を増やしていたのです。「場所のせいにしていたのは自分だけだったのか」と、他人の進み方が鏡になって、初めて自分の思い込みに気づいたと話してくれました。
そこから立木さんは、フォーラムの勉強会で「お客様が買うのはドリルではなく穴」という考え方を学び、保守点検そのものではなく「設備の不調を放っておくと困る人」へ向けて発信を組み直しました。オンラインの相談仲間に毎月の件数を共有し、「次は何件いけそうか」を一緒に確かめながら進めたそうです。
独学で月1件だった頃から数えて9ヶ月目、依頼が月8件に届きました。現在も会社に勤めながらの活動ですが、リピートの依頼が増え、近所に同業者がいない土地であることが、むしろ「地元で頼める人が他にいない」という強みに変わってきています。場所を言い訳にしていた時間を、相談相手を遠くに探す時間に変えたことが、件数を動かした分かれ目でした。
「やる気が続くか不安」なら、続く範囲から設計する
相談先を見つけても、続けられなければ意味がない。そう心配になる方もいるはずです。ここで一つ、安心してほしいことがあります。準備は、やる気が満タンのときを基準に組まないほうが長続きします。
拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』では、目標もやる気も「継続可能ゾーン」、つまり無理なく続けられる範囲に置くという考え方を紹介しています。気合いの入った日にできる量ではなく、調子が出ない日でもこなせる量を基準にする。そうすれば、一人で気持ちが落ち込みやすい地方住まいでも、ペースが崩れにくくなります。立木さんが件数を仲間と共有していたのも、続く範囲を保つための工夫の一つでした。
- 調子の悪い日を基準にする:
「やる気がある日に2時間」ではなく「疲れた日でも20分」で組む - 進み具合を誰かと共有する:
オンラインの仲間や相談員に件数や近況を見せ、ひとりで抱え込まない - 場所のせいにする前に一度試す:
地方だからできないと決める前に、オンラインの場を1回のぞいてみる
近くに相談できる人がいないと感じる今日できることは、オンラインで相談できる場を2つ調べて、自分に合いそうな方を選ぶこと。たとえば「準備段階の人が集まるオンラインの場」と「お住まいの都道府県のよろず支援拠点」を一つずつ見比べて、話しやすそうな方から一度のぞいてみるところからで十分です。

地方で腰を据えて始めるのも、オンラインで全国を相手にするのも、どちらも立派な選択です。土地に縛られないやり方が現実的になった今、「近くに誰もいない」は、もう準備を止める理由にはなりません。
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