隠岐の島町で起業するには|島で食べていく仕事を移住前に組み立てる手順

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「やっぱり都会のほうが起業に有利でしょう」とよく聞かれます。長く、勤め先を持ちながら独立する方を見てきた立場から言うと、それは半分しか当たっていません。島で先に埋まるのは、人口の多い土地で激しく取り合う仕事ではなく、その島の暮らしに毎月必要なのに誰もやっていない仕事のほうです。残り半分の現実から先にお話しします。

隠岐の島町は、島根県の隠岐諸島のうち島後と呼ばれる最大の島にあります。隠岐諸島は四つの有人島でできていて、西ノ島町・海士町・知夫村の三つが島前、島後にあたるのが隠岐の島町です。同じ「隠岐」でも、島が違えば船の便も産業も別物になります。ここで扱うのは島後、つまり西郷港のある隠岐の島町です。

隠岐

人口は、総務省の2020年国勢調査で1万3,433人でした。5年前と比べて8.0%減っています。この規模の島で毎月お金が回っている場所はどこか、という目で見ておきましょう。島の経済は大きく三つに分かれます。

一つは漁業です。隠岐周辺は対馬暖流が流れる日本海でも有数の好漁場で、イカ釣りや定置網などが中心です。近年は漁獲量の減少が課題になっています。二つ目は放牧を生かした畜産で、急な地形を牧野にして全国へ子牛を送り出しています。三つ目が観光です。その柱が隠岐ユネスコ世界ジオパークで、隠岐は2013年に世界ジオパークネットワークの認定を受けました。

ただし観光は季節で波が大きく、夏に集中して冬に細ります。島で仕事を作るとき、この波をどう平らにするかが最初の関門になります。移住を考える方の年代も40代から60代まで幅広く、どの世代でも「島で何年か暮らせる収入が立つか」が共通の不安になります。

ポイント 移住前の一年で「島の仕事」を三つの質問で選ぶ

島で続けられる仕事を選ぶ三つの問いを整理

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拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』では、起業ネタを選ぶときの三つのチェックを紹介しています。一人で始められるか、一人で続けられるか、大きなお金がかからないか。この三つを満たすものから手をつけると、一年目に転びにくくなります。島で食べていく仕事を選ぶときも、この物差しがそのまま効きます。

島の仕事は、移住してから探すのでは遅いことが多いです。まだ勤めを続けているうちに、通いながら島の暮らしを観察し、足りていない仕事を見つけておく。これが移住前の一年でやることです。順番にすると、島を知るリサーチ、ためしに引き受ける検証、続けられる形に整える定着の三段階になります。

同じ島後の仕事でも、向く人と続け方が変わります。下の表で、よく相談される三つの方向を並べてみます。

仕事の方向 島で必要とされる場面 続けやすさの目安
暮らしの定期需要を支える仕事 高齢の世帯の困りごと、事業者の事務や広報の手伝い 毎月の依頼が積み上がり波が小さい
島の産物を島外へ届ける仕事 水産物や畜産物の販路づくり、見せ方の工夫 島外の顧客がつくと季節に左右されにくい
観光の流れに乗る仕事 ジオパークのガイド、体験の案内、宿の運営支援 夏に厚く冬に細る波が前提になる

ポイント 支援制度は、方向が決まってから道具にする

島後で使える創業支援と移住の制度を整理します

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隠岐の島町は、内閣府が定める特定有人国境離島地域にあたります。そのため、雇用増につながる創業や事業拡大を後押しする隠岐の島町雇用機会拡充事業補助金が設けられています。こうした制度は、何で食べていくかが見えてから使う道具です。方向が定まらないうちに窓口を訪ねても、相手も具体的な答えを返しようがありません。

あわせて、町は開業を支える地域商業等支援事業の補助金も用意していて、空き家活用や飲食店向けの枠があります。東京23区から島根県へ移る方には、わくわく島根生活支援事業の移住支援金(世帯100万円・単身60万円)という制度もあります。金額や条件は年度で変わるため、使うと決めた段階で町の最新の公表を必ず確認してください。

方向が決まってから確認したい島後の制度
  • 雇用機会拡充事業補助金:
    特定有人国境離島地域として、雇用増につながる創業や事業拡大を後押しする町の制度です。
  • 地域商業等支援事業の補助金:
    開業を支える枠で、空き家活用や飲食店向けの区分があります。
  • わくわく島根生活支援事業の移住支援金:
    東京23区からの移住で、世帯100万円・単身60万円が対象になります(年度で変動)。

ポイント 島の暮らしの定期需要を束ねるという選び方

観光の季節の波を定期需要で平らにする道筋

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島後で長く続いている方を見ていると、観光の繁忙期だけに賭けていないことに気づきます。夏の人出を当てにする仕事に、島の暮らしから毎月生まれる定期の依頼を組み合わせて、一年を通して平らにしているのです。高齢の世帯の細かな手伝い、島の事業者の事務や広報、産物を島外へ届ける作業。どれも派手ではありませんが、毎月必要とされ続けます。

ここで一つ、島で起こりやすい進み方をお伝えします。たとえば、本土で食品メーカーの営業をしていた40代の方が、隠岐の島町に通ううちに島で仕事を作ろうと考えたとします。最初に思いつくのは、夏の観光客に向けた体験の案内でした。ところが島の夏は短く、4ヶ月もすると依頼がぱたりと止まります。観光の波に振り回されて、これでは暮らしが立たないと感じる方は少なくありません。

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こうした方が流れを変えられるのは、たいてい、観光の一度きりの売上を追うのをやめたときです。島の暮らしの中で毎月生まれる需要を先に押さえる。その発想に切り替えて、自分が島で引き受けられる仕事を一つずつ書き分けていく方が多いのです。

そこから先は、夏の体験案内を残しつつ、島の事業者の広報や事務の手伝いを定期で引き受ける形に整えていきます。1年が過ぎる頃には、季節に関係なく毎月声がかかるようになります。移住して3年目に入る頃には、「あの件はあの人に」と名指しで頼まれることが増えていきます。これが島後で長く続く方の道筋です。

金額の伸びよりも、島の人から名前で呼ばれて仕事が回ってくるようになったことのほうが、続ける手応えとして大きい。島で食べていく方の多くが、この「名前で頼まれる状態」を一つの区切りにしています。

大事なのは、こうした観察と整理を一人で抱え込まないことです。島の中だけで考えていると、観光に偏った発想から抜けにくい。起業18フォーラムの勉強会のような島外の視点が集まる場に一度持ち出して、見せ方や届け方を相談しながら整えていくと、定期の需要を束ねる形に近づきます。

ポイント 本土と島後を結ぶ船と、通いながら準備する道

船で通いながら一年かけて島後を確かめる道

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隠岐の島町へは、本土から隠岐汽船のフェリーと高速船で渡ります。島根県の七類港からフェリーで西郷港まで、おおむね2時間半ほど。鳥取県の境港からは高速船で1時間ほどです。いきなり移住するのではなく、この船を使って通いながら一年かけて島を知る進め方を、まず選択肢に入れてください。関係人口として通ううちに、島で足りていない仕事が見えてきます。

通って準備する期間は、勤めを続けたまま進められます。船で渡れる距離だからこそ、本土の仕事を手放さずに島後の暮らしを確かめられる。移住の決断を先に迫られるのではなく、仕事の見通しが立ってから移り住む順番にできるのが、島後で起業を考えるときの現実的な道筋です。お試し移住や、期間を区切った滞在から始める方も増えています。

ポイント 島で食べていく一歩目は「足りていない仕事」を聞くこと

島後で起業へ踏み出す最初の一歩を具体に示す

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隠岐の島町で起業を考えるなら、順番が大切です。まず起業18フォーラムの動画やセミナーで、何で食べていくか、自分に合う事業は何かを整理します。方向が見えてきてから、町の補助金や移住相談の窓口を道具として使う。この順番にすると、制度を生かしきれます。

そのうえで、今日できることは、隠岐の島町の産業振興課か商工会の創業相談の窓口に「島で足りていない仕事は何ですか」と電話で聞いてみることだけで十分です。地元ならではの困りごとや、まだ誰も手をつけていない需要が見つかることがあります。島の人が困っている場面こそ、あなたが島で食べていく仕事の入口になります。

島後の暮らしを一年かけて確かめる進め方は、勤めを続けながらでも始められます。その始め時について整理した次の記事も参考になります。

勤めながらの起業準備、始め時はいつ? 踏み出す手順を解説
● 質問 いつか自分で何か始めたい気持ちはあるのですが、まだ会社の仕事が忙しく、本格的に動くなら辞めてからのほ

会社の名刺は退職すれば手元から消えますが、自分で掲げた屋号は、島を離れても手元に残ります。最初の一歩は、町の窓口に「島で足りていない仕事は何か」を聞きにいくことです。

ポイント よくある質問

隠岐の島町での起業によくある疑問にお答えします

起業前質問集

隠岐の島町は市場が小さいですが、それでも起業して食べていけますか?

島の中だけで多くの客を取り合おうとすると、たしかに苦しくなります。発想を変えて、島の暮らしに毎月必要なのに誰もやっていない仕事を一つ押さえると、人口が少ないぶん競争相手も少なく、定期の依頼が積み上がります。あわせて産物を島外へ届ける仕事を持てば、島の人口だけに売上が縛られなくなります。

移住してから仕事を探すのと、移住前に準備するのは、どちらがいいですか?

移住前に準備するほうが転びにくいです。隠岐汽船で通える距離なので、勤めを続けたまま島後に通い、足りていない仕事を見つけてから移り住む順番にできます。仕事の見通しが立つ前に移住すると、観光の波だけに頼ることになりがちです。

島後で起業するとき、どんな仕事が向いていますか?

島の暮らしの定期需要を支える仕事が、波が小さく続けやすいです。高齢の世帯の手伝いや、島の事業者の事務・広報の代行などが当てはまります。観光の案内だけに頼ると夏と冬の差が大きくなるため、定期の仕事と組み合わせて一年を平らにするのがおすすめです。

隠岐の島町に使える創業の支援制度はありますか?

隠岐の島町は特定有人国境離島地域にあたり、創業や事業拡大を後押しする雇用機会拡充事業補助金があります。開業を支える地域商業等支援事業の補助金や、東京23区からの移住支援金(世帯100万円・単身60万円)も用意されています。条件は年度で変わるため、町の最新の公表を確認してください。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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