記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
パートで夫の扶養に入りながら働いています。いつか自分の名前で仕事をしてみたい気持ちはあるのですが、起業準備を始めると年収の壁を超えて扶養から外れてしまうのではと不安です。
壁を意識したまま、無理なく準備を始める方法はありますか?

● 回答
子どもを送り出したあとの、午前中のしずかな時間。その一、二時間を「自分のために何か始められないかな」と考える方は、思っているよりずっと多くいらっしゃいます。
先にお答えしておくと、扶養の範囲を守ったまま起業準備を始めることは、十分にできます。むしろ、いきなり大きく稼ごうとしないパート主婦の方こそ、壁の手前でじっくり試せるという利点があります。順番に整理していきます。
「年収の壁」はいくつもある。まず全体像を押さえる
不安の正体は、たいてい「壁が何種類もあって、どれが自分に関係するのか分からない」ことにあります。ここを先に分けておきましょう。社会保険の入り方を左右する106万円の壁、夫の健康保険の扶養に入り続けられるかどうかの130万円の壁、そして自分に所得税がかかり始める所得税の壁。この三つが、よく混ざって語られています。
このうち、扶養内で働く主婦の方がいちばん気にされるのが130万円の壁、つまり夫の健康保険の扶養から外れるかどうかです。ここを守れていれば、保険料の負担がいきなり増える事態は避けられます。
2025年から2026年にかけて、壁は動いている
大事な前提をひとつ。年収の壁の制度は、ここ一、二年で大きく見直しが進んでいます。2025年(令和7年)6月13日に成立した年金制度改正法によって、106万円の壁のうち賃金要件(月8.8万円以上)は、法律の公布から3年以内に撤廃される予定です。ただし、賃金要件がなくなっても週20時間以上という労働時間の要件は残るため、すべての壁が一度に消えるわけではありません。
130万円の壁についても、勤務先が「一時的な収入増だ」と証明すれば、連続2回までは扶養に入り続けられる扱いが整えられました(厚生労働省「年収の壁への対応」)。壁は固定された絶対ラインではなく、年ごとに動いているのです。だからこそ、最新の数字を自分で確かめる習慣が、そのまま準備の第一歩になります。
「準備を始めたら壁を超える」という思い込みを解く
ここからが本題です。起業準備という言葉に、いきなり月10万円、20万円という売上を想像してしまうと、確かに壁が怖くなります。でも、準備段階で起きることは、もっと手前にあります。よくいただく不安に、ひとつずつお答えしていきます。
「始めた瞬間に扶養を外れるのか」という不安への答え
扶養の判定に使うのは、パートの給与だけではなく、自分で得た収入も合わせた金額です。ここは正確に押さえておく必要があります。ただ、準備の最初の数ヶ月は、売上が月に数千円から数万円という規模にとどまることがほとんどです。経費を引いた利益で見れば、なおさら壁までは距離があります。始めの数ヶ月は売上の上限を月3万円までと自分で決めておくと、壁との距離を保ったまま安心して試せます。
「複雑な手続きが要るのか」という不安への答え
月数万円までの規模であれば、大がかりな手続きは必要ありません。拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』では、月5万円までの範囲を「一人で手を動かして回せるサイズ」として紹介しています。この範囲なら、人を雇うことも、大きな設備を持つことも要りません。まずはこのサイズで、お金をもらう感覚に慣れるところからで大丈夫です。
「夫にどう話せばいいか分からない」への答え
これは制度よりも、ご家庭の中でいちばん引っかかる部分かもしれません。説得しようと身構えると、かえって切り出しにくくなります。「扶養の範囲は守るつもりで、月に数千円から試してみたい」と、守るラインを先に伝えると、相手も身構えずに聞けます。お金の話と気持ちの話を、分けて切り出すのがこつです。
壁の手前でできる、無理のない始め方
では、具体的に何から手をつけるか。扶養内のパート主婦の方に私がよくおすすめするのは、ノウハウ系から入る形です。
『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』では、起業の入口を四つに分けて整理しています。手づくり品を売るプロダクト系、技術を提供するスキル系、自分の経験や調べたことを伝えるノウハウ系、場所や機会を貸すスペース系の四つです。このうちノウハウ系は、仕入れも在庫もいらず、ほとんど元手をかけずに始められます。
たとえば、あなたがいま不安に思って調べている「扶養の壁」のことそのものが、同じ立場の主婦の方にとっては知りたい情報です。自分が時間をかけて理解したことを、分かりやすくまとめて伝える。それだけで、ちゃんと役に立つノウハウになります。わざわざ新しく資格を取りに行く必要はありません。いつ・いくら入ったかを月ごとに書き留めておくと、壁との距離が一目で分かり、続けやすくなります。
扶養内パートから準備を始めた、黛さんの歩み
起業18フォーラムにいらした黛さん(仮名・40代・女性・スーパーのパート勤務・小学生のお子さん2人)は、まさに同じ不安を抱えていました。扶養を外れたら家計が苦しくなる。でも、ずっとパートのままでいいのかな。その気持ちを抱えたまま、なかなか動けずにいたそうです。
転機になったのは、ご自身の家計を見直すために年収の壁の仕組みを調べ尽くしたことでした。役所のページや勤務先の説明を読み込んで、自分なりにノートにまとめていたといいます。そのノートを見た近所のママ友から、声をかけられました。「うちも壁のことよく分からなくて。それ、教えてもらえない?」。そのひと言で、調べたことが誰かの役に立つのだと気づいたそうです。
とはいえ、最初は井戸端話でお金をもらえるものなのかと半信半疑でした。黛さんはその迷いを抱えたまま、起業18フォーラムの個別相談に足を運びます。そこで、あなたが調べ尽くした過程そのものが、同じ立場の人への商品になるという考え方に出会いました。
勉強会では、ノウハウ系の絞り込み方を学びました。「壁」全般ではなく、「扶養内パートの主婦が損をしない働き方」へとテーマをしぼり、伝える相手をはっきりさせていったのです。会員仲間に試しに説明する場をもらい、言葉を磨いていきました。
始めて8ヶ月目。黛さんのところには、地域の主婦の方から「あの人に相談すると分かりやすい」と、名指しで質問が届くようになりました。売上の数字を追いかけるより先に、頼られる存在になっていたのです。扶養の範囲はきちんと守ったまま、自分の名前で役に立てている。その手応えが、何よりの自信になったと話してくれました。
壁を「敵」ではなく「ものさし」にする
年収の壁は、超えてはいけない怖い線のように見えます。けれど見方を変えれば、自分がどのくらいの規模で進んでいるかを測る、ちょうどいいものさしでもあります。壁の手前で試せるうちは、失敗しても家計に大きな傷はつきません。それは、扶養という土台があるからこそできる、恵まれた実験の時間です。
制度は毎年のように動いています。だからこそ、いま正確な数字を確かめておくことが、安心して一歩を踏み出す支えになります。
よくある質問

Q.起業準備で得た収入も、扶養の130万円に含まれますか?
はい、含まれます。扶養の判定は、パートの給与と自分で得た収入を合わせた金額で見ます。ただし起業準備の段階では、経費を引いた利益で考えるため、最初の数ヶ月は壁まで距離があるのが普通です。心配な場合は、勤務先か役所の担当窓口で自分のケースを確認しておくと安心です。
Q.106万円の壁が撤廃されると、私にも関係しますか?
2025年に成立した年金制度改正法で、106万円の賃金要件は法律の公布から3年以内に撤廃される予定です。撤廃後は、勤務先の条件によっては週20時間以上働くと社会保険の対象になります。自分が対象になるかは勤務先によって変わるため、勤務先の担当部署に確認するのが確実です。
Q.資格を取ってから始めたほうがいいですか?
月数万円までの規模であれば、資格は必須ではありません。自分が経験したことや調べたことを伝えるノウハウ系なら、特別な資格がなくても始められます。まずは身近な人の役に立つところから試し、必要を感じたら学びを足していく順番で十分間に合います。

今日できることは、勤務先の社会保険の担当部署か、お住まいの役所の窓口に、「パート収入に自分で得た収入を足すと、扶養の判定はどうなりますか」と1問だけ確認しておくことです。自分のケースに当てはめた答えをひとつ持っておくだけで、漠然とした不安はぐっと小さくなります。

扶養の範囲を守りたいという慎重さは、家計を大切にしているからこそ生まれるものです。一度で全部を決めようとせず、確かめながら少しずつ景色を共有していけば大丈夫です。
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